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戦利品


 俺たち一同は雁首を揃えて箱を覗き込む。

 錯乱したニンジャが『石つぶて』を食らいながらこじ開けた宝箱だ。


「……何だこれ」

「わからんス。未鑑定アイテムっスね」


 宝箱の中に入っていたのは、ぼんやりとした何かだった。目を凝らして見ようとするが焦点が合わない。オートフォーカスの狂った映像を見せられているみたいで軽くイラッとする。かろうじて剣のような形をしていることだけは見て取れた。


「迷宮で拾えるアイテムはみんなこんな感じだぜ。このままじゃ『商店』で売ることもできねぇ」

「店に持ち込めば鑑定を受けられるぞ。手間賃が高いので儲けはほとんど出ないがね」

 ヒゲとお嬢の貧乏前衛コンビが剣的な謎アイテムを弄りながら言う。


「何だ、本当にガラクタじゃないか」

 得をするのは、ぼったくりの『商店』ばかりである。本当に世界の仕組みとは、おかしなものだ。


「店でなくとも鑑定スキル持ちなら判別できますね。慣れた冒険者であれば、そういった知り合いが一人くらいはいたりするものですよ」

「商人以外だと『司教』なんかは鑑定ができるわね。わたしたちには司教の知り合いなんていないけど」


「そうだな、俺も司教の心当たりはない」

「いや、わたし司教っス。大司教っス」

「アーウィア、お前の知人に司教はいないか?」

「だから司教っスから」

「同じ司教なんだから一人くらい知らないか、司教の奴」

「それ以上言ったらアゴ割るっスよ」


 アーウィアの名前もおぼえているか怪しいルーはともかく、他の奴らも『そういえば』みたいな顔をしていた。おかげで大司教様がすっかりヘソを曲げている。



「とにかく鑑定してみるっス。失敗しても知らんスから」

「お前ら、成功したら拍手しろ」

 片割れのニンジャが罠解除で失敗したばかりなので少々心配だ。危険はないという話ではあるが。かわいい姪っ子のピアノ発表会を見守っている気分だ。


 アーウィアは剣のような何かを手に取る。顔を近づけて目を細めたり見開いたり、においを嗅いだりしている。固唾をのんで見守っていると、しばらくして顔を上げた。獰猛な笑みだ。


「おっし、鑑定成功っス!」

 霧が晴れるようにアイテムが本来の形を取り戻す。

「でかしたアーウィア、さすが大司教だ」

 貧乏人連中もここぞとばかり盛大に手を叩く。


 謎アイテムは本来の姿を取り戻す。

 それはもう、見るからに価値のなさそうなポンコツ剣(ショート・ソード)だった。



「こいつは、その、あれだな……」

 剣を手に取ったヘグンが首をかしげる。重心がおかしいようだ。


「ふむ、実に、うむ、あれだな……」

 剣を受け取ったユートが柄越しに刃先を観察する。歪んでいるらしい。


「やはり、ガラクタだったか……」

 いっそ清々しいほど、なまくらな剣であった。

「ふぅ、いい仕事したっス。その変なのは欲しい奴にくれてやるっス。いらなきゃ捨てていきましょう」

「ああ、そうだな」

 初鑑定の記念とするにはあまりにもお粗末な品だ。未練はない。


「捨てるくらいなら、もらっておきましょう!? そうしましょう!?」

「そうだな、せっかくこうして手に入れたのだ! もったいないではないか!」

「ああ、仕方ねぇな! 本当に仕方ねぇ。兄さんたちが苦労してくれたんだ」

「ええ、ええ、まったくです。まだ『商店』は開いてますよね?」


 売ったところで二束三文だろうに。どれだけ貧しさに追い詰められているんだ。

 貧乏四人組(カルテット)はポンコツソードをほくほく顔で受け取った。


「カナタさん、かわいそうな連中ス」

「何を言う。皆、幸せそうじゃないか」

「ああはなりたくねーっス。カネは心を豊かにするっス」

「……変なフラグを立てるなよ?」




 無駄な寄り道をしてしまった。今度こそ余計なことはしないと決意して迷宮を抜ける。

 第一層に敵はなく、俺たちは難なく地上へと到着した。



「やはり、見事に残業じゃないか」

 日は地平の向こうに隠れ、辺りはすっかり夕闇に包まれている。こういう積み重ねが劣悪な労働環境を築いてしまうのだ。はやくおうちへかえろう。

 俺たちは影法師の一団となって薄暮の丘を下った。



 ユートとルーは戦利品の剣を売りに『商店』へ行くという。宿代の足しにするらしい。

 二人と別れ、俺たちは一足先に『冒険者の酒場』へと向かう。何となく飲み会の幹事をやっているような気分だ。『女の子たちは後からくるからー』みたいな。『先にお店入ってましょー』みたいな。合コンである。



 『冒険者の酒場』でくつろいでいると女子たちが戻ってきた。笑顔で一枚の銀貨を見せる。あの剣にしては値が付いた方だ。


「てめぇら宴の時間ス! お嬢とはまだ一緒に酒を飲んでねぇっスな!」

 当方の女子代表はこんな感じである。女子か山賊かと聞かれるとやや山賊寄りの女子だろう。山ガールだ。


「祝いの席だ、アーウィアに付き合ってやってくれユート」

 いつぞやは高い酒を一気飲みしていたお嬢だ。下戸ではあるまい。不用意に酒を勧めるとアルハラだとか言われて大変なことになったりする昨今だ、少々気を使う。

「うむ、私も嫌いではない。頂戴しよう」

 話のわかる奴だ。萌え声美形で酒付き合いがいいとか、さぞかしオジ様受けがよかろう。




「大司教アーウィアと諸君らの健闘に、乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 六人で杯を掲げる。

 超過勤務の詫びも兼ね、奮発して高い(やつ)だ。一杯余分に持ってきた女給が自分で飲みながら戻っていく。当然、あれも俺たちの払いであろう。


「いい探索だったな。期待以上の成果と言っていいだろう」

 消耗品の買い出しを削り、ひたすら敵を狩り続けた。それも昨日より二つ下の階層でだ。これ以上は望めないであろう。

「わたしとしてはちょっと物足りんス。まぁ最後に一仕事できたからよしとしましょう」

 最後の最後でやらかしたボンクラニンジャと違って実に優秀である。


 やいのやいのと互いの健闘を称えつつ酒を飲んでいると、何でもない感じでヘグンが言った。

「で、兄さん。明日はどうするんだ?」


 そういえば流されるようにパーティーを組み、その足で迷宮探索に向かった。彼らの扱いに関しては何の取り決めも交わしていない。残業以前の問題ではないか。

 さいわい明日も協力を得られそうな雰囲気ではある。ここはきちんと話を付けておいた方がいいだろう。



「ヘグン。あと三日、俺たちの探索に付き合ってもらえるか?」

 女神様のお仕事ぶりが順調なら、七日目にはアップデートがくるだろう。それまでにできることを済ませて当日を迎えたい。



 ヘグンたちは互いにキョトンとした顔で目を見合わせる。


「いいぜ? 兄さんたちには世話になった」

 義理と人情の男ヘグンである。

「我々だけで探索をしても宝箱は開けられませんからね」

 毒の件がすっかりトラウマになっているボダイ。

「迷宮へ行ける。私はそれだけで十分だよ」

 お前はもう迷宮に住め。無理か。

「でも宿代が払えなくなるわよ? どうするの?」

 うん、そうね。


「馬小屋で寝ればいいっス。人間は馬小屋でじゅうぶんスよ」

 アーウィアが不思議なことを言い出した。

「そういうわけにもいかんだろう。馬房が足りん。藁も足りん。あれが少ないと寒い」

「馬をどかせばいいっス。暗くなってから逃がせば誰も気付かんス」

 おそらく罪状は馬泥棒であろう。あとたぶん藁も馬臭くなっている。

「そこまでして馬小屋で寝たくないぞ。みんなの宿代は俺たちが出そう」


 しごく当たり前の結論である。

 アーウィアが馬に寄り過ぎだ。


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