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短剣と地図


 経験値が正しく分配制であるなら、俺たちは六人パーティーに比べて三倍の経験値を得られているはずだ。

 手数の差はあるが、そこは『商店』での散財による高火力で補っている。買い出しにかかる時間のロスと継戦能力増加の恩恵は痛し痒し。往復のタイムを縮め、時間いっぱい再突入を繰り返すことでなんとかするしかない。


「というわけで、実際のところアーウィアの体力が鍵だ。どんな感じだ?」

「どういうわけかは知らんスけど、いい感じっスよ。『アイテム倉庫』の生活でなまってた身体が復活したっス。昨日みたいに無様な真似はもう晒さんス」

 レベルアップで足腰が鍛えられたのかもしれない。アーウィアはえっほえっほと坂道を駆ける。お調子に乗ってるからそのうちバテるなこれは。



「うっス、到着っス。どうしますカナタさん? また第一層で試し切りっスか?」

 新兵を卒業したアーウィアは先の計画を考える余裕も出てきた。いよいよ話が早くて大助かりである。


「いや、ここからは第二層アタックに入る。相手と数に合わせて攻撃と回避重視を切り替える。実戦で慣れていくことにしよう」

 本番でないとわからないこともあるだろう。納品したシステムが何故か客先では動かず大騒ぎした経験も一度や二度ではない。

「うっス、あ、「武器よし」追加っスね!」

「お、偉いじゃないかアーウィア」


「「武器、よし! 防具、よし! 治癒薬(ポーション)、よし! 巻物(スクロール)、よし!」」

 新たな点検項目を加え。

「「ご安全に」」

 二人で礼をする。


 この手のチェックは抜けがあるとトラップに化ける。取説の『電源コードが抜けていませんか?』みたいな項目も重要なのだ。たまにマジで抜けてたりする。




 武器を手に、ニンジャは迷宮を行く。

 短剣(ダガー)の切れ味は鋭い。骸骨戦士スケルトン・ウォリアーどもを剣と魔弾で薙ぎ払っていく。さすがに一刀一殺とはいかないが、下手に回避を重視するより一気に頭数を減らしてしまった方が安全だ。

 一方で蝕粘液(グレイ・ウーズ)は俺の天敵だった。動きが早いうえに予備動作が読めない。どうしても対応が後手になる。おまけに酸の体液を撒き散らすので近寄りたくない。コイツはアーウィアの魔弾で処理してもらうことにした。




 天高く日は昇り、真昼を少し過ぎた頃。

 その後も突入と補給を繰り返し、順調に五回の迷宮探索を終えた。アーウィアがオーバーヒートし始めたので、冷却がてらのんびり歩いて買い出しに向かう。


「いやいや、順調じゃないっスか。さすがニンジャお強い」

「はは、何をおっしゃる司教殿。まだまだ貴殿には敵わんさ」

 今日の探索が軌道に乗るまでは雑談禁止というルールを採用していたのだが、ものすごく周回が早かった。いかにアーウィアとくっちゃべってる時間が長いかという話だ。久しぶりの茶番にも熱が入る。


「第二層でもじゅうぶんやっていけるっスね。この調子なら明日もレベルアップが期待できる感じっス」

「確かにな。だが、そうなると次の問題が出てくる」

「なんスか? 強くなりすぎて『魔王』とか呼ばれちゃうのが心配っスか?」

 気のはやいヘッポコ魔王が何か言っている。


「これ以上先は魔弾(マジック・ミサイル)では火力不足になってくる。巻物頼りの戦法は通用しない」

「むぅ、もっと強い巻物ないんスか?」

「少なくとも『商店』で買える中にはないな」

 そう都合よくバランス・ブレイカーは存在しないようだ。カネで解決できる問題ではなかった。


「んー、わたしもそのうち強い魔法をおぼえるとは思うっスけど。でも、それだとただの二人パーティーっスねぇ」

「俺が装備を固めて主力になるのが現実的だ。持てるアイテムも減る。治癒薬を多めに持って敵と正面から戦うことになるが、効率は落ちるな」

「そうなると、レベルアップしても第二層でいまのやり方を続けるっス?」

「かもしれん。そこで一つ提案がある」



 新戦術『地図作成(マッピング)』の提案である。そんな大上段に構えて言うほどのことではないな。


「第二層の周回をスムーズにするために地図を用意しておこう。巡回コースが構築できれば敵を探すのもラクになるだろうし。アイテム欄が一つ減ってしまうが、そろそろアーウィアも自前で魔弾が使えるようになるだろう」

「今回は光明(ライト)みたいなハズレ魔法引いたっスけどね。いいんじゃないっスか? わたしに期待した作戦ってのも気に入ったっス」

「ああ、大司教アーウィアの才能に命運を託した。もし結果を出せなかったら俺の責任だ。命をもって償おう」

「変なプレッシャーかけんなっス」




 『商店』で地図作成用のアイテムを買い求めた。数枚の羊皮紙と木炭などが入った小さなカバンをアーウィアに装備させる。

 本当なら巻物を多く持たせたいのだが、俺が地図を持つとまとめ買いの調整が面倒なので諦める。万が一のことを考えると治癒薬を手放すわけにもいかない。不足した攻撃の手数は、俺の短剣で補うしかないだろう。巻物は5本単位で購入する形に落ち着いた。


「わたし『地図作成(マッピング)』なんてやったことねえっスけど……」

「探索ペースを落として練習しながら周回しよう」

 何だかんだスペックの高い小娘なので、すぐに習得するだろう。




 アーウィアの背中を押しながら、迷宮入口までの坂道をえっほえっほと登る。


「ひとまず方針としては戦闘よりも地図作成を優先しよう。まずは敵の少ない道を選んで行動範囲を広げる」

「うっス」

「地図を間違えると帰還が困難になるだろう。部屋の中で方向を見失うのも危険だ。原則として地図作成は部屋の入口で行う」

「うっス」

「時間配分は任せる。問題があったらすぐに言ってくれ。何か質問は?」

「ねっス」




 準備を整えて第一層へ。練習がてら歩数を数えて距離を測ったりしつつ大十字路を進む。巨大蟻(ヒュージ・アント)が二体いたので短剣だけで始末。手間はかかるが無傷で倒せる。魔弾を浪費するよりは賢いだろう。階段を降りた先は本命の第二層だ。


「まずは階段部屋っスね。とりあえず紙の真ん中から書いてくっス」

「ああ、任せる」

 地図作成に関してはアーウィアに一任する。他人の仕事に横からいちいち口を突っ込むのはよろしくない。その場その場で適当な指示を出されても、最後に責任を負うのは本人だ。無責任にあれこれ言っていると職場で嫌われ者になる恐れがある。


「まっぷっぷー、のすっすっすー」

 アーウィアが変な歌をうたいながら木炭で羊皮紙に書き込んでいく。これもきっと必要な稼働音なので放っておく。頻繁に手元と周囲と見比べている姿がハムスターか何かみたいだ。


「うっス、いいっスよ。進行方向はこっちの道でいいっスか?」

「はやいな。よしそっちへ進もう、先行する」


 敵のいない道を選び進んでいく。巻物を温存しつつ、あるときは倒し、あるときは引き返しながら地図を埋めていく。カタツムリが這い回ったような、ぐねぐねと曲がったルートだが、相当な距離になってきた。


「カナタさん。わたしの地図が確かなら前に通った部屋へ繋がりそうっス。敵のいる部屋を一つ掃除する必要がありますけど。行ってみていいスか?」

「ああ、ついでに階段部屋の方へ向かおう。いちど補給にもどる」

「うっス」



 彼女の言ったとおり、敵を倒して抜けた先はすでに通った場所のようだ。アーウィアは地図を見て満足げにうむうむ言っている。地図係(マッパー)としての適性が尋常じゃないなコイツ。


 なんだろう、ヘッポコだったアーウィアがもの凄く頼もしい。

 これが娘の成長を見守る父親の気分なのだろうか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 段々と戦闘面でも探索面でもパーティが強くなっていく。 探索ゲー序盤の醍醐味ですね。 二人の掛け合いも楽しい。
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