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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 第一章
13/126

骨と酒


「すみません、ちょっとはしゃぎすぎたっス」

 敵を片付けたのはいいが、小部屋はどこも蝕粘液(グレイ・ウーズ)の体液でベトベトだ。

「いちおう勝てる相手だったな。だが、これ以上の数だと今の俺たちには危険だ。やはり第一層より明らかに手強い」

「これまでが順調すぎたっスね。ちょっと初心にもどりましょう。っと、カナタさん宝箱っス」


 宝箱に仕掛けられた罠は、迷宮深くへ行くにつれて解除の難易度と凶悪さは増す。レベル1のニンジャが第二層で挑んでよい代物ではない。

「どうせ巻物(スクロール)一本分にもならないガラクタだ。いつか罠解除は必要になるが当面は無視する」

「うっス。いちど階段部屋へもどりますか」

「そうだな。もう一方の道へ行ってみよう」



 アーウィアに巻物を補充して引き返す。警戒は怠らない。

 迷宮の魔物(モンスター)は神出鬼没だ。ついさっき通り抜けた部屋に湧いていても不思議ではない。しばらくは行きつ戻りつしながら敵の湧く距離を確認する。

 少なくとも今回は大丈夫だった。二部屋戻って階段部屋で一息つく。


「やっぱ道を気にしながら探索するのってストレスっスね。今んとこ一本道でしたけど、頭がムズムズするっス」

「ふつうは斥候や魔法職が地図係(マッパー)を担当してパーティーの負担を減らすからな」


 先ほどの戦闘でアーウィアが暴走気味だったのも、それが原因だろう。一度に二つのことができない小娘である。俺たちはアイテム欄に余裕がないから、もうしばらく地図は我慢だ。


「さあ、次は逆向きだ。正面の道から左手沿いに進む。退却時は右手沿いだ」

「うっス。もう一踏ん張りして引き上げましょう。第一層のがなんぼか落ち着けるっス」




 階段部屋からまっすぐの道を抜けた先。この小部屋は四方の壁にそれぞれ通路がある。

「よし、左に進む」


 方針どおりに左沿いに探索していくと、覗いた先の小部屋に敵の影があった。いそいで頭を引っ込める。

 気配を殺してもう一度、静かに覗き込む。骸骨戦士スケルトン・ウォリアーが六体。まるで探索中に喧嘩をした冒険者パーティーのようによそよそしく佇んでいる。


(数が多い。危険だ、下がるぞ)

(やべーっス! いっかい立て直しましょう。階段部屋まで退却っス)


 十字部屋から右手進行で階段部屋へ取って返す。初日の終わりに全滅では目も当てられない。そもそもレベル1のヘッポコ二人組がのこのこやって来るような場所でもないのだ。




「さっきのは探知スキルにも引っかからなかった。運がよかったな」

「神様が生きろと言ってるっス」

「だったらもう少しラクに倒せる敵を用意して欲しいものだ」

「そういうとこ気が利かんス」

「まったくだ」


 白ひげの神様は精いっぱい優遇したつもりでこの有様だ。いくらニンジャとはいえ無敵ではない。おまけに女神様の方はさらに追い込みをかけてくる。俺を仕留めにきているとしか思えない布陣だ。おかげでこんな強行軍である。


「当初の予定どおり、ここを中心に部屋を往復しよう。蝕粘液(グレイ・ウーズ)がいた部屋の方へ行く」

「うっス。いちど通った道だと心も軽いっス」





 その後、わらび餅の間まで行くと粘液の残骸は消えていた。階段部屋に引き返し、念のため骸骨パーティーをちら見して戻る。これで魔物(モンスター)が湧くか気をもんでいたところ、三度訪れたわらびの間で敵を発見した。


骸骨戦士スケルトン・ウォリアーが四体だ。無理せず様子見のつもりでいく。これで駄目なら第一層に戻ろう」

「うっス。しょっぱなに一発かませばこっちの流れっス。もし落とせなかったら退却もありっス」

「そうだな。そのつもりでいくか」


 アーウィアの言うとおり、奇襲が成功すれば流れは掴める。

 俺たちは先手を取って骸骨に仕掛けた。



 鉄錆の塊みたいなボロの剣や粗末な棍棒を振り回し、身のこなしは軽やか、力はそこそこ。腐って部品のちぎれた革鎧など身につけているものは様々だ。

 思い思いに大ぶりの攻撃を仕掛けてくる。知性を感じさせない散発的な攻撃。たまに他のやつと行動が噛み合って連携攻撃のようになる。避けた先で二体目が振り下ろす棍棒を頭に食らいそうになり、咄嗟(とっさ)に手で受ける。数が増えると危険度は加速度的に増すだろう。


「いける、倒すぞ!」

 魔弾の初撃で一体をばらばらに打ち砕いた後はこちらのペースだった。

 棍棒を避け剣をしゃがんでかわし、掴みかかる無手の腕骨を払う。



 部屋を骨まみれに散らかして、俺たちは勝利を収めた。

「よし、じゅうぶんだ。ずらかるぞ!」

「へい親分!」

 よくわからないテンションでヘッポコパーティーはそそくさと第二層を後にした。





「ひとまずは無事といったところか」

「うっス。我らが心の故郷、懐かしの第一層大十字路っス。ちょっとした大冒険でしたね」

「ああ、そっスね」

「真似すんな。まだ巻物に余裕あるっスね、もう一狩りいくっスか?」

「そうだな、出口を目指しつつ敵を探そう」

 治癒薬を飲んで腕のダメージを癒やす。第一層の敵が相手なら、下手に温存するよりここで使ってしまった方が安全だ。



 最後の(しめ)に二体の巨大蟻を狩って本日の迷宮は終了。

 こうして俺たちは探索初日を生き延びた。





 長く短い迷宮探索を終え、ニンジャと司教は丘を下る。

 空はかすかに赤らんで、一日の終りを告げる。

 冒険者は巣に帰る時間だ。迷宮探索は次の日までお預けである。

 しばし心を休めよう。

 ニンジャは一時休業だ。



 『冒険者の酒場』では虚ろな目の『アイテム倉庫』連中に出迎えられた。もちろん『おつかれ!』などと気さくに声をかけてくれるわけではなく、ちらりと目を向けられただけだ。彼らは今日も同じ席に根を下ろし、日がな一日ただぼんやりと過ごしていたのだろう。昨日までの俺たちと同じように。

 一仕事してきた俺とアーウィアであるが『アイテム倉庫』のときの習慣でいつもの席へと向かう。


「飲んでいいスか?」

「ちょっと待て。いちど資金を山分けする。財布を出してくれ」

「飲みながらでいいスか? ちょっと一杯取ってくるっスから」

「だめ、おすわり、おさいふ」


 所持金は俺たちの生命線だ。赤字狩りをしている以上、カネは出ていく一方である。アーウィアの個人所有分と分配して今後の計画を見直す必要があった。

 ぐぬぐぬしながらアーウィアは腰の革袋を寄越してくる。俺も懐から革袋を出して一纏めに。メニューから所持金の山分けを選択して財布を返す。


「うは、これで半分っスか。わたしらちょっとした小金持ちっス」

 財布をのぞきこんだアーウィアがわなわな震えている。

「二人で80万Gpくらいだな」

「わたしの田舎じゃ余裕で蔵が建つっス。ありがとうございます、家族が喜びます」

「建てるな。軍資金だと言ってるだろうが。まぁ余裕はあるな。約束だ、今日は好きなだけ飲め」


 おあずけ中だった忠犬アーウィアが小躍りしながら席を立つ。

「おっしゃぁ! おーい、そこのお姉ちゃん酒持ってくるっス! いちばん高い(やつ)! ほら、そっちの姉ちゃんも、こっちきてテーブルの世話するっス」


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