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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
剣と魔法編 第一章
122/126

痕跡


 窪地を這い出し、そこら辺の岩に登った上。

 寒々しい荒野を見渡しつつ、アーウィアを肩車している俺である。


「どうだアーウィア。ラリッサっぽい奴はいるか」

「うーん……いねーっスね。トカゲは何匹か見えるっスけど」


 高所に設置された捜索用アーウィアからの回答は芳しくない。やはりラリッサ女史はこの近辺にいないようだ。


「むぅ、それならやはり蜥蜴に食われたのではないか?」

「――滅多なことを言うなユート」

「蜥蜴しかいないのだろう? ならば、きっと腹の中なのだ」


 女史を捜索するため、手隙の連中にも声をかけている。

 ラリッサ女史の痕跡は、地面に横たえられていた瘴気蜥蜴(バジリスク)の死骸のみだ。彼女の背嚢(バックパック)は残されていなかった。おそらく自分の意志でどこかへ移動したのだろう。


「もしかしたら、一人で薬草採取に向かったのかもしれんな」

「そういや、そんな話してたっスね。ふつう声くらいかけて行くと思うっスけど」

「どうだろう。あの女も耳が長いからな」

「そっスな。耳が長いヤツにそんな期待するだけ無駄っス」


 眼下の窪地では、もう一匹の耳が長い奴がふらふらと沼の周囲を散歩している。その側で、数名の衛兵が逆さにした槍で沼を突いて回っていた。

 この寒空の下、沼に入ったとは思わんが念の為だ。万が一ということもある。


「それで、カナタ。我らはどうするのだ。当てもなく探し回ったところで時を無駄にするだけだぞ」


 お綺麗な顔が、腕など組んで他人事みたいに言う。暇そうにしていたのでユートも捜索隊に加えてやった。今は人手がいるのだ、遊ばせておくわけにはいかん。


 ニコはキャンプ地の見張りを命じておいた。あのおかっぱも探知スキル持ちだが、本隊の守りを手薄にするのもよろしくない。ルーは留守番だ。これ以上、耳の長い迷子を増やしても仕方ない。適当に遊ばせておこう。


「こんな荒れ地だ。この沼でないとすれば、薬草が生えるような場所も限られているだろう」

「ふむん。そうなると、水っけのありそうな場所っスか」


 搭載式アーウィアが周囲の地形を走査する。

 しばらくふむふむと解析した後、南東の方角を指差した。


「あっちが怪しいっスな。丘の間が藪になってるみたいっス。水の通り道になってるかもしれんスね」

「よし、ひとまず向かってみるか」

「うっス」


 慎重に岩から降り、のしのしとニンジャは歩き出した。




 我々の目指した先は、左右を丘に挟まれた草地であった。

 麦畑を思わせる枯れ草色が眼前に広がっている。アーウィアの見立ては間違っていなかったようだ。


「二人とも、いつまでそうしているのだ。遊んでいる場合ではないだろう」

「お嬢がなんも言わんからっス。わたしらは悪くねーっスよ」

「そうだぞユート。俺たちを諌めるのもお前の役目だ。しっかりしろ」


 目的地までアーウィアを肩車したままやってきた俺である。

 わかりやすくツッコミ待ちをしていたのにユートが何も言わないせいで、やめ時を見失ったのだ。瘴気蜥蜴も襲ってこなかったので、延々ここまで歩き通しだ。


「そんなことは知らんのだ。それより見るべきものがあるだろう?」


 ユートは靴の底で地面を擦る。ガムを踏んだ人の真似ではない。

 枯れた草薮に、なかば埋もれるように敷き詰められているのは、四角く切り出された石だ。


「ふむ……これは石畳、か?」

「そんな感じっスね」


 しゃがみ込んだニンジャの背から司教が這い下りる。ようやく腰が伸ばせるというものだ。それはそうとして、よく注意して見ると他にも不自然なものがある。


「あちらには石積みをされた跡があるな」

「ふむん。むかし家でも建ってたんスかね?」


 緩やかな谷間となったこの場所は、やはり水が流れ込むらしい。少しだけ土が肥えているようだ。そして、その地にはかつて人の手が入った痕跡があった。


「――興味深い発見だが、今はその時ではないな。ラリッサを探そう」

「そっスね。その辺の藪にいるかもしれんス」

「薬草の根を採るのだと言っていた。穴掘りに夢中になっているかもしれん」

「うっス。犬みてーなヤツっスな」


 枯れ藪は腰ほどの高さだ。ラリッサ女史がしゃがみ込んでいれば、すっぽりと隠れてしまうだろう。俺たちは手分けをして女史の捜索を始めることにした。


「おーい、ハーフエルフ! いねーっスかぁー!」

「むぅ、草の種がくっ付いて鬱陶しいのだ……」


 藪に入れば草の種が付く。俺の黒装束はまだマシだが、アーウィアは凄いことになるだろう。また総出で種を取ってやらねばならん。

 俺のムラサマで草を刈ってしまいたくなるが、ラリ女が隠れていたら大変なことになるのでやめておいた。領主やら衛兵を連れてきているのだ。血に塗れたポン刀を手に、『そんな奴いたっけ?』で押し通すのは難しいだろう。




「で、ユートまでいなくなったわけだが」

「うっス」


 たかだかテニスコートほどの草薮を捜索しただけで、第二の行方不明者を出してしまった我々である。呪われているのだろうかと思ったが、実際アーウィアは例の護符に呪われている。軽い冗談のつもりが不謹慎な発言になるパターンだ。


「知らない間に他所へ行ったりはしていないよな」

「見てないっスね。そんなことしてりゃ気が付くっス」


 アーウィアはぐるりと首を巡らせる。足元こそ枯れ草に覆われているが、見通しの悪い地形ではない。普通に歩いている人間を見失うことはないだろう。


「四つ這いで藪に隠れたまま、もの凄い速さで走っていったのかもしれん」

「カナタさん、いまは面白いこと考えてる場合じゃねーっスよ」


 ふむ。だとすると、可能性が高いのは一つである。


「――どこかに深い穴でもありそうだな」

「そうなるっスね。もしかしたら古い井戸とかかもしれんス」

「薬草採取に夢中で、もの凄い穴を掘って出られなくなった可能性もある」

「だーかーらー、そういうのは後にするっス!」


 草の種まみれの小娘に怒られてしまった。

 自然薯と呼ばれる天然の山芋を採取するには、ときに背丈ほどの深い穴を掘らねばならんそうだ。その穴に落ちて怪我をする例などを耳にしたことがある。そういうのかもしれんではないか。


「とにかく、ユートを探そう。最後にあいつがいたのはどの辺りだろう」

「たぶん、あっちの方っスかね」

「よし、慎重に行くぞ。これ以上遭難者が出たら、パーティーは壊滅だ」


 迷宮探索であれば、地下深くに潜るのは得意といえよう。しかし、そこらの穴ボコに落ちるぶんには一般人と変わらぬのだ。下手な魔物以上に脅威である。



 足元を警戒しつつ、藪を漕いで進む。

 しかし、探知スキルにも反応がないのはどうしたことか。周囲の環境がよろしくないのかとも思ったが、もしかしたら状況は想像より悪いのかもしれない。


「ここら辺だと思うんスけど。枯れ草が邪魔くさいっスな。わたしの火散弾(ファイア・スキャッタ)で焼き払ってもいいっスか?」

「やめておこう。ここは貴重な薬草の群生地かもしれん。来年から生えてこなくなったら困る」

「そういやそうでしたね」


 穴を警戒しながら、一歩ずつ藪を進んでいく。

 探知スキルの反応にも気を配らねばならん。風に揺れる枯れ草のざわめきに翻弄されぬよう、意識を研ぎ澄ませる。


『……むぅ……むぅ……』


「――うるさいぞアーウィア。静かにしてくれ」

「なんスか。わたしなんも言ってねーっスよ」


 変な声がするので苦情を入れたところ、種まみれの小娘に抗議されてしまった。よく考えれば、こんな非常時に悪ふざけをする娘ではない。勝手な思い込みでクレームなど入れるべきではなかった。悪いニンジャである。


「そうか、すまん。きっと風の音だ。気を付ける」

「うっス。はやくお嬢とハーフエルフを探しましょう。心細くて泣いてるかもしれんス」


 そう言ってアーウィアは、鼻息荒く草むらを進んでいく。

 やはり心根の優しい子だ。帰ったらご褒美を与えてやろう。久しぶりに酒場で高い酒でも頼もうか。


『……むぅ……むぅぅ……』


 やはり変な声がする。

 まるで地の底から響いてくるような、得体のしれない声だ。


「カナタさん! そこにでけー穴ボコがあるっス! 見つけたっスよ!」

「――待て、慌てるなアーウィア。ゆっくり近付くぞ」



 藪をかき分けて向かった先に、その穴はあった。

 座布団ほどの大きさだろうか。大地を四角く切り取ったように、地下深くへと縦穴が続いている。ここが事故現場であろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アーウィアとカナタのコンビがめちゃくちゃ大好きです!!
[一言] またこの小説を読めるなんて夢のようだよ
[良い点] 種まみれの小娘とかいうセクシーワード
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