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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 第一章
12/126

わらびもち


「いたぞ、大蝙蝠(ジャイアント・バット)五体」

「ようやくっスか。いっぱいいるっスね」

「狙いどおりだ」


 迷宮の天井から逆さにぶら下がる五つの影。雑に干した洗濯物のような姿で身を寄せ合っている。

「カナタさん大丈夫っスか? じっさい見ると思ってたよりやべーっス。お腹すかせた犬みたいなのがばさばさ飛んでくるんスよ」

「多少攻撃は食らうだろう。治癒薬(ポーション)もあるから焦らなくていい。魔弾(マジック・ミサイル)で確実に始末していってくれ」

「やばそうだったら早めに言ってくださいよ」


 これまでで最も多い五体同時。

 大蝙蝠はすばやく不規則に飛び回るので回避が難しい。だが蟻ほど危険な攻撃手段は持たない。ニンジャの練習相手にはもってこいだ。


 俺は前衛として敵中に突入する。

 蝙蝠の群れは数の有利を感じ取ったのか攻撃的に仕掛けてくる。

 アーウィアの方に飛んでいかないよう立ち回る。部屋の中央で俺一人、四方八方を敵に包囲される。アーウィアも上質な防具と治癒薬を持っているが接敵させるわけにはいかない。あわあわしてる間にタコ殴りされている姿しか想像できないからだ。

 襲いかかる蝙蝠たちを躱す。何体かは追いつかない。手で打ち払う。アーウィアが魔弾を放って一体を吹き飛ばす。

 一匹肩口に取り付かれた。爪を立ててしがみつき、噛み付いてくる。顎の力は強いが牙は鎖帷子(チェイン)に阻まれている。隙をみて他の蝙蝠も一斉に飛びかかってきた。


「大丈夫だ、問題ない!」

 ヘッポコが慌てだす前にそう伝える。さすが『商店』で一番いい装備だ。

「うっス!『マジック・ミサイル』ぁッ!」

 振り落とされた蝙蝠を魔弾が射抜く。





「大丈夫っス? むっちゃ蝙蝠にたかられてましたけど。めっちゃ血ぃ出てますよ?」

 メニューを開いてみるとHPはさほど減っていない。防具に救われた。

「ああ、問題ない。迷宮を出るとしよう。とりあえず巻物(スクロール)は持っておいたほうがいい」

 掃討を終え、俺の持っている最後の1本をアーウィアに渡し地上を目指す。宝箱もあるが無視だ。

 敵に出会うこともなく迷宮を脱し、無事に第二回迷宮探索は終了した。



「カナタさん、回復しときましょう。どうせカネなら唸るほど持ってるス。この買い出しで補充しましょう」

「そうだな」

 かすり傷程度だが一応はダメージだ。万全を期すために治癒薬を使っておこう。こんなところで死んでいる暇はない。


 懐から小瓶を取り出した。中でかすかにとろみのある赤い薬液が揺れる。蝋封された栓を抜き、駅前の薬局で栄養ドリンクを飲むおっさんのように、腰に手を当てて一気に流し込んだ。身体に心地よい熱が宿る。蝙蝠の爪による掻き傷が塞がり、こわばっていた筋肉が緩む。意識していなかった部分にもダメージはあったようだ。


「アーウィア、お前も飲むといい」

「え、わたし無傷っスけど」

「いいから」

 アーウィアは怪訝(けげん)な顔でズタ袋から治療薬を取り出して栓を抜き、腰に手を当てて一気に飲む。


「どうだ?」

「……ひっどい味っスね。腐った落ち葉みたいな味がするっス……。もしかして、これを伝えたかっただけっスか?」

 眉間と口元にシワを寄せてアーウィアがうめく。不幸な老婆が自身の生涯を嘆くような、深みのある表情だ。

「もちろん」

「……味もひでぇっスけど、このニンジャもひでぇっス……。何なんスかこの状況は」


 まずいジュースを見つけた男子中学生のノリである。1本で2,000Gp。あまり無駄遣いはできないが、面白かったのでよしとする。



「残すはあと一周だ。それで今日の迷宮探索は終わりとする」

「うッス。日が暮れる前には『冒険者の酒場』に戻れそうっスね。そこまでいそがなくてもよさそうっス」

 西の空に傾いてゆく日を読みつつアーウィアが言う。

「いや、このあと第二層に降りて調査をする。あまりゆっくりもしていられん。落ち着くのはそれからだ」

「マジっすか」





 商店でアイテム欄を満たし、小僧に今日はこれで最後の買い出しだと伝えた。

 またしても丘の途中で体力を使い果たしたアーウィアの手を引いて登る。


「休憩を兼ねて作戦の確認をしておこう」

「うっス、お願いします」

「第一層では前回と同じように『大十字路』を通って第二層への階段に向かう」


 石畳のない場所へ移動し、地面に田の字を書いて説明をする。一層の簡略図だ。下辺の真ん中から中央の交差を右に折れ突き当たりまでなぞる。


「敵との遭遇は少ないと思われるが、もしこの時点で巻物の消費が激しい場合は中止する」

「うっス。安全第一っスからね」


「次は第二層の構造についてだ。二層は多数の小部屋とそれらをつなぐ短い通路で構成されている。長い通路や広間のような場所はない」


 地面に小石をならべ、その間を適当に線で結んでみせる。こっちは第二層を表す図だ。


「うっス。ここまでは理解したっス」

「俺も実際の様子は知らない。まずは階段近くで一戦する。帰り道の部屋に敵が湧くと面倒だ。二、三部屋程度を往復して様子を見よう。巻物を5本以上残して階段まで戻るつもりで行動する。説明は以上だ」

「うっス、行けます。最後の一仕事といきましょう」


 蟻の巣をいじって遊ぶ馬鹿兄妹のような格好で作戦会議を終え、俺たちは第二層を目指して出発した。





 第二層まで巻物を消費することなくたどり着いた。

 階段を降りた先は小部屋、敵はいない。上と同じ石組みの壁床天井。


「お出迎えがなくてよかったっス。まずはここを『階段部屋』と名付けましょう」

「いい案だ」


 迷宮内では目印となるものが少ない。なにか置いてもしばらく離れると消えてしまう。道を記憶するために、主要な場所に名前を付ける冒険者は多い。第一層の『大十字路』もそれだ。地図があったとしても、退却時に確認しながら走れるとは限らない。


 階段部屋に降りた正面と右手の壁に通路がある。先は折れ曲がって見通せない。

「右手に沿って進んでいく。退却時はあわてず左手沿いにもどるぞ」

「うっス」



 通路に入って一本道を二度曲がり、次の小部屋に出た。ここにも敵はいない。正面の壁に通路が続いている。

 さらに進むとニンジャの探知スキルに反応があった。曲がり角の先にある小部屋だ。

 アーウィアを下がらせ偵察する。

 いた、蝕粘液(グレイ・ウーズ)だ。濁った粘液の塊が三つ。


 戻ってアーウィアに状況を伝える。第二層での初戦闘を前に司教の鼻息は荒い。

「新顔だ、慎重にいく。お前もうかつに近寄るな」

「うっス。聞いた感じ癖が強そうな相手っス。あぶなそうだったら尻尾巻いて逃げるっスよ」

「ああ、いくぞ」



 奇襲をかけた俺たちに、粘液どもは即座に反応して動き出す。どこに感覚器官があるのか知らないが大したものだ。

 床に落としたわらび餅みたいな勢いでこちらに転がってくる。横っ飛びで逃げる俺を追い、床にグリップして軌道修正、弧を描いて向かってくる。はやい!


「ぬぉぉッ!『マジック・ミサイル』ぅ!」

 先頭のわらび餅が魔弾に貫かれて爆散。飛び散る体液。跳躍して後退。撒き散らされた汚濁がじりじりと音を立て石床を侵す。第一層の蟻より強い酸。


「おらぁッ!『マジック・ミサイル』!」

 弾み、変形して触腕を伸ばす。敵がどこを見ているか、どう動くか読めない。投網のように身体を広げながら飛びかかってくる。


「勝利ッ!『マジック・ミサァイル』ッ!」

 敵もさることながら、遠慮なく魔弾で蝕粘液(グレイ・ウーズ)を爆発させる仲間の司教も脅威だった。


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