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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
ニューゲーム編 エピローグ
114/126

魔法の使い手


 馬鹿騒ぎの夜が明けた翌日。

 寒さに震えて目を覚まし、ニンジャはむくりと身を起こした。

 薄汚れた酒場の床だ。そこら中に大勢の酔っ払いどもが横たわっている。

 迷宮での激しい戦闘後を思わせる、死屍累々の様相であった。


 昨夜の酒宴が盛り上がりすぎたのだ。関係ない奴にも酒を振る舞って馬鹿騒ぎした結果、雑魚寝で夜を過ごした一同だ。まさに絵に書いたような馬鹿どもである。


 酔い潰れたボダイがテーブルに突っ伏し、ヘグンが椅子ごとひっくり返り、ニコが水瓶に頭を突っ込んで溺れかけた辺りまでは記憶がある。どうやら俺も、潰れるまで飲み続けていたらしい。若気の至りである。



「起きたっスか、カナタさん。そんなとこで寝たら風邪ひくっスよ」

「うむ、寝るならちゃんと寝床へ行くのだ」


 眉根を揉みつつ、声の方へ向き直る。

 大口を開けて欠伸をしているアーウィアと、昨夜と同じ姿で酒盃を傾けているユートだ。まさか夜通し酒を飲んでいたのだろうか。体育会系な奴らだ。

 それにしても、ご領主様は何をやっているんだ。うちの子と仲良くしてくれるのはいいが、外泊などして大丈夫なのだろうか。


「――おはよう、二人とも。昨夜は少々羽目を外しすぎたようだ」

「しっかりするっスよ。ほら、これでも飲んで目を覚ますっス」

「ああ、すまんな……」


 アーウィアの差し出してきた木彫りのカップを受け取る。なみなみと注がれた麦酒だ。この期に及んで飲めというのか。どこまでも体育会系な対応だ。


 カップを置き、うつ伏せで倒れている女給をまたいで水瓶へ向かう。足元がふらつき少し踏んでしまったが構うまい。顔を洗って活を入れ、女給をまたいで戻る。


「まだ頭が重いな。ボダイがいたら解毒の魔法を使ってもらうか……」

「ふむん、そういえば見当たらねーっス。どこ行ったんスかね?」


 骸のように寝転がっている連中を見回すが、特徴的な禿頭(とくとう)は見当たらない。あの真面目な男のことだ。きっと早起きして何かやっているのだろう。


「ボダイなら昨夜、ルーがどこかへ運んでいったのだ。それ以来見ておらんな」

「そのエルフはどこにいるっス?」

「戻ってきたのは見かけたぞ。たぶん、その辺にいるのだ」


 骸どもの中から耳が長いやつを探す。

 いた、階段の下だ。手を泥で汚したエルフがすやすやと眠っている。

 だいたいの事情は察した。おそらく、ボダイをどこかに植えてきたのだろう。


 すでに日も高く昇っている時刻のようだ。メシを食う気にもならず、店主に湯をもらい椅子に腰掛けてすする。そうしている間に、酔っ払いたちが一人、また一人と蘇ってきた。緩慢に身を起こし、這い上がるような動きで椅子に腰掛け、頭を抱えてぐったりとしている。邪悪な雰囲気だ。食屍鬼(グール)の群れみたいな感じである。




 魔物の巣窟みたいになっている酒場の入り口に、小ざっぱりした身なりの男が姿を見せた。オロフだ。骸と食屍鬼が半々の血生臭い戦場に丸腰で乗り込んでくる。


「どうも。これはひどい有様ですね……」


 酔っ払いをまたぎながらこちらに向かってきた。昼間から酒を飲んでいるご領主様に気付き、なんか変な顔で会釈とかしている。こんな悪所にいるのだ、お忍びであることは察したのだろう。空気の読める男である。


「ああ、見てのとおりだ」

「今日はこいつら使い物にならねーっス」

「はぁ……昨夜から冒険者が少ないので変だとは思ってましたよ」


 この男は、うちのギルドへ出向という扱いになった。ギルドの事務仕事と、ラヴァルド商会との連絡役に使っている。勤務外では酒場や飯屋に出向いて、オズロー鳥の調理法を研究しているそうだ。


 こいつが開店資金を使い込んだことは速攻でバレ、声のでかい娘からもの凄い声で叱責を受けていた。場所はこの酒場だったのだが、長屋まで娘の声が響いてきたほどだ。驚いたガチョウが卵を産まなくなって大家さんからは苦情が出た。頭を下げたのは俺だ。


「それはそうと、報告したいことが。よろしいですかね?」

「ああ、聞こう」

「うっス、手短に言えっス」


 こいつにも散々、うちの代表はボダイだと言っているのだが、直接俺に話を持ってくる。建前というものを理解しない連中である。そんなことだからギルドの代表が一日中、足がいっぱいある虫を眺めて過ごすはめになるのだ。閑職もいいところである。


「ゴザールの森で小鬼狩りをしていたパーティーに被害が出ました。銀の馬屋亭に担ぎ込まれてきたのですが、何やら様子がおかしいようで――」


「――ゴザールの森?」

 お綺麗な顔の領主様が首をひねる。


「北の森っスよ。新人どもがそう呼び始めたんス」

「むぅ、知らぬ間に私の領地に妙な名が付いているのだ……」


 オズロー北の丘陵地帯と森の境目には、小鬼よけのカカシがいっぱい立っている。邪神ゴザールの眷属とされる藁人形たちだ。その辺の話が色々と混ざってしまったのだろう。


「とにかく宿へ行ってみるか。その冒険者たちに話を聞いてみよう」

「うっス。行くぞお嬢!」




「おはよう! ずいぶん遅かったわね! 冒険者って皆こうなのかしら!」

「……朝っぱらからうるせーっス。迷惑だから声をちいさくするっス……」


 宿屋へ出向いた我々に、でかい声が浴びせられた。ラヴァルド商会の娘だ。商談のために来ているとオロフから聞いていたが、ここで会うとは予想外だ。考えてみれば、まだオズローにラヴァルド商会の拠点は存在しない。寝泊まりするならここだろう。


「アンタたち、そのお嬢さんは貴賓室(ロイヤル・スイート)のお客だからね! 失礼なことすんじゃないよ!」


 炊事場から宿の女将が大声で怒鳴りつけてくる。この娘といい、宿など切り盛りしていると声がでかくなるのだろうか。


「女将、うちの連中がここに担ぎ込まれたと聞いたのだが」

「大部屋だよ、さっさと引き取っとくれ!」



 人気(ひとけ)のない大部屋へと移動した俺たちの眼前。

 三人の冒険者が筵の上に寝かされていた。首には熟練の証、銀章の冒険者証がかかっている。


「――こいつらが犠牲者か」

「ひでぇもんスね。まるで、まだ苦しんでるみたいな顔っス」


 痛ましい姿だ。俺とアーウィアは跪き、彼らのために祈りを捧げる。


「いや……俺ら生きてっからよ……」

「……痺れて動けんだけだ……」

「変な雰囲気出さないでもらえる……?」


 犠牲者一同から苦情が出た。



 小鬼狩りに出ていた冒険者パーティーである。

 何でも、街道の護衛任務を受けたメンバーが二名抜け、街に残った連中で小鬼狩りをしていたらしい。


「小鬼どもを追い込んで一網打尽ってときに、妙な小鬼が出てきたんだ。光がぱっと突き抜けたと思ったら、ぶっ飛ばされて身体に力が入らなくなった」

「離れてた仲間の斥候が無事だったから、小鬼を追い払ってくれたの」

「少し火傷が残ったが、怪我自体はそれほどでもない。ただ、食屍鬼の麻痺毒を食らったみたいに手足が動かせん」


 証言をまとめると、そんな感じである。俺は食屍鬼の毒を食らったことがないので何とも言えん。例えとしては不適切だ。知らない芸能人に似てるの似てないのという話をされている感じである。生返事しかできん。


「小鬼たちが魔法を使うようになったか。いや、魔法を使う小鬼が出てきたと言うべきか……」

 お互い冬支度で忙しい時期だというのに。向上心の高い小鬼たちである。




 酒場に転がっている連中から、回復魔法を使える者が呼び集められた。ヘグンにニコ、服を泥で汚したボダイの姿もある。


「どこ行ってたんスか坊主。探したっスよ」

「――よくおぼえていないのですが、目覚めたら酒場の裏手に埋められていたのです。何があったのでしょうか……」

「俺が見つけて掘り起こしてきたンだ。道端にボダイの首が転がってるからたまげたぜ」

「……ずいぶん深く埋められてました。もしや魔物の仕業でしょうか」


 エルフの仕業である。似たようなものだ。そのエルフは冒険者たちの証言を聞いて、首をくねくねしながら唇を指でつむつむしている。


「たぶん雷矢弾(ライトニング・ボルト)の魔法だわ。めずらしい魔法を使うわねえ。冒険者の中だと使う人はいないんじゃないかしら?」

「何故なのだ? 敵を纏めて身動きできなくさせるなど、強力な魔法ではないか」


 お綺麗な顔のやつは柱にもたれて腕を組んでいる。こいつも回復魔法が使えるのだから少しくらい手伝う素振りを見せてもいいものだが。


「そうなんだけど、壁に当たると跳ね返ってくるの。迷宮じゃあぶなくて使えないわ」

 剣を振るうこと以外ではさっぱりな聖騎士様に比べ、魔術師としては案外まともなルーである。


「――ほほう、そんな魔法だったんスか」


 食堂から勝手に持ってきた椅子に腰掛け、何やら革表紙の書物をめくっているアーウィアである。


「アーウィア、その本は何だ?」

「呪文書っス」


 はて、今までそんなものを持っていただろうか?


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