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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
ニューゲーム編 その3
109/126


 司教の振るう戦棍が骸骨戦士スケルトン・ウォリアーを打ち砕く。

 襲い来る二体目に円盾を叩きつけ、隙だらけの胴体に横殴りの一撃。粉々になった骨片が弾け飛ぶ。


「おらぁーッ! 死にたいヤツから前に出てこいやぁーッ!!」


 骸骨どもを相手に、戦棍で円盾をばんばん叩いて威嚇する。

 迷宮第二層を吹き荒れる、ちっちゃい暴風と化したアーウィアである。




「カナタさん、見てください。司教の力がもどったっスよ!」

「ん、ああ……よかったなアーウィア」


 名前:アーウィア、職業:司教。

 ちょっと心配になってメニュー画面を確認したが、ちゃんと司教だ。


「うっス、これでまた迷宮で戦えるっス!」


 満足そうに無邪気な笑顔を見せるアーウィアだ。本人がそう言っているならいいのだが。いまいち納得のいかない俺である。


「――ニコ。前はもうちょっとこう、司教っぽい感じではなかったか?」

「……先生、前からこうでした。何も変わってません」

「ふむ、そうか……」

「……アー姐さんは武器で戦った方が強いので」


 念のために連れてきたおかっぱも言っている。やはりこんな感じだったか。

 いや、盾強打(シールド・バッシュ)まで使いこなしているように見えるが。司教を休業している間に変な癖でも付いたのだろうか。心配だ。丸洗いしたら元に戻るだろうか。


「カナタさん、ここじゃ手応えがねーっス。第六層にでも行きましょう」

「ああ、ちょっと待ってくれ。宝箱が出た」

「……ここは私が。お任せください」


 おかっぱニンジャが宝箱に手をかけた。こいつも罠解除の経験を積んだことだ。いいところを見せたいのだろう。自信満々に鼻の穴を膨らませている。宝箱を開ける前に鼻の穴を閉じたらどうだろうか。




 第二層に続き、第六層でも宝を拾って地上へと帰還する。

 手に入れたのは変哲のない短剣と、修正値の付いた革鎧だった。ハズレだ。新人たちの装備品にはちょうどいいが、そういうのは市場が狭い。地産地消である。


「いやぁ、いい仕事したっス! 今日もきっと酒がうまいっスな!」

 アーウィアは戦棍を肩に担いで陽気に歩く。草野球帰りのおっさんみたいだ。


「――ふむ、アイテムの鑑定も問題ないようだ」

「……さすがアー姐さん、鮮やかな手並みです。先生もお見事でした」


 おかっぱの言葉に、曖昧に頷いておく。第六層の戦闘を手刀で乗り切ったニンジャである。久々すぎて愛刀ムラサマを持ってくるのを忘れたのだ。手入れのために取り出して床下に置きっぱにしてしまったらしい。運動靴を忘れて裸足で走ってる人みたいな状況である。家で洗ってくるつもりだったのだ。


 忘れん坊の話は置いといて、ひとまずアーウィアだ。

 鑑定ができるからといって司教だと決まったわけではない。メニュー画面を信じるなら司教のはずだが、武闘派の商人という疑いもある。司教か商人かと問われると、どちらかといえば暴れん坊だ。アイテムの鑑定ができるだけの暴れん坊だと言われると反論のしようがない。あまりにも的確である。


「ついでにお祈りを済ませておくっス。ちょっと待っててください」


 暴れん坊アーウィアがぽてぽてと駆けていく。

 地下へと続く階段の手前に、粗末な祠が設えてある。迷宮産の宝箱を流用した、犬小屋のような祠だ。白磁の兎像が祀られたラビッツ・フット教団の祭壇である。

 司教の娘は祠の前で跪き、しばし黙祷。最後に兎を軽く撫で、立ち上がった。


「アーウィア、帰っても酒は我慢しろよ。今日はユートの家で集まりがある」

「うっスー、ちゃんとおぼえてるっスよー」


 お祈りを終えたアーウィアが元気にとことこ戻ってくる。

 いい表情だ。悩みなど何もないと言わんばかりの顔をしている。この状態を取り戻すために苦労してきたのだから文句はないのだが、ここまでさっぱりした顔をされると若干心外である。ままならないものだ。



 三匹のヘッポコ虫は迷宮前広場を抜け、街に向かって歩き出す。そろそろ他のパーティーも探索を終える頃だ。ひと足お先に失礼しよう。


「……先生、アー姐さん。馬がいます」

「おや、いっぱい走ってるっスな。お嬢のお帰りっスかね」


 丘を下る俺たちの視界に、西方からやってくる騎馬の一団が映った。先頭を走る何名かは武装している。装備品からして、ユートのお付きの衛兵たちだろう。その後に続く集団は非武装だ。民間人の方々だろうか。


「ふむ、瘴気蜥蜴(バジリスク)に追われているようだな」

 弓があれば衛兵たちでも倒せるだろうに。面倒だから逃げ切るつもりだろうか。


「仕方ねーっスな、助けてやりますか」

「気を付けろ二人とも。毒の息を食らうんじゃないぞ」

「うっス、行くぞニコ!」

「……はっ!」


 二体の小娘が得物を振り回しながら走っていく。ぱっと見だと小鬼の群れと大差ない後ろ姿である。迷宮探索を終えたばかりだというのに元気なことだ。



「うらぁーッ! 『魔弾』(マジック・ミサイル)ァーッ!」

 青白い軌跡を描き、アーウィアの放った魔弾が瘴気蜥蜴を直撃。

「……ちょっと待ってください」

 おかっぱは腰の鞄をごそごそ漁っている。手裏剣ポーチである。やはり、俺のように『アイテム欄』が使えないと咄嗟の襲撃には不向きか。いや、これはアーウィアが先走ったせいだな。


 いまいち頼りないが、遠間で戦うぶんには危険もなかろう。蜥蜴は二人に任せておいて、オズローの西門に駆け込んでいく騎馬集団を眺める。

 衛兵たちとユート、残りは見た感じ商人だろうか。予定にない来客だ。




 ほどなくして瘴気蜥蜴は倒された。

 騒ぎを聞きつけた冒険者だの交易所の職員だのが、蜥蜴に群がって解体を始める。ここは蛮族世界、道に落ちている物は拾ったやつの物である。餅投げのレギュレーションとだいたい同じだ。後始末は彼らに任せて、我々はお客の相手をするとしよう。


「久しぶりね! 蛙を買いに来たわ!」

「声がでけーっス。なんでこの娘っ子まで付いてきたんスか」


 やはり騎馬集団の後ろ半分は商人たちだった。しかも全員、高級品である馬に乗っている。その先頭にいたのが、ゼペルで泊まった宿の娘だ。


「売り物の蛙を見たの! いい出来だけど二体だけってのは意地悪よね! うちは『五匹蛙亭』なんだから、もう三体欲しいわ!」

「だからうるせーっス。あれは焼くのが難しいから数が出せねーんスよ」


 商人のうち何名かは、間近まで行って蜥蜴の解体を観察している。きっとカネに変える算段だろう。それが商人というものだ。オロフみたいなのは例外である。


「先に使いを出したんだけど、でっかい蜥蜴に襲われたって逃げ帰ってきたの! 強そうな人たちがオズローに行くって言うから付いてきたわ! まさか本当に襲われるとは思ってなかったけどね!」

「わかったから声をおさえるっス。耳がおかしくなりそうっス」


 そんな話をしている間に、領主様の一団は我ら暇人どもをスルーして屋敷に戻っていった。こんなところで立ち話をしている暇などないのだろう。


「ふむ、次の定期便で出荷予定の蛙像がある。カネを払うなら売ってもいいが、ちゃんと持って帰れるのか?」

「もちろんよ! 途中にあった村まで馬車を持ってきてるから!」

「うん? 馬車が通れるような道ではあるまい」

「なに言ってるのよ! 道を切り開いて馬車くらい通れるようにしたわ!」


 すさまじい執念だ。あの蛙の一体何がこの娘をこうも狂わせるのだろう。

 ともかく、こんなところで大声を浴びせられるのは勘弁だ。ひとまずガルギモッサの酒場にでも連れて行こう。




「こんなに馬を連れてこられては馬小屋が足りんではないか」

「しょうがねーっス、大部屋にでも泊まらせるっスか?」

 馬をか。寝床に関して人馬の境があやふやな娘である。


「そうもいかんだろう。女将に怒られるぞ」

「だったらお手上げっスな。わたしらにできることは何もねーっス」


 なぜかぞろぞろ付いてくる商人たちのせいで宿の女将が大忙しだ。馬小屋に入れるどころか通りに溢れた馬のせいで渋滞がおきている。


「なんだか騒々し――馬だわっ!?」

 長屋からエルフまでやってきた。野次馬だ。馬ばかり増える。


「ニコ、使いを頼む。ユートのところで馬を受け入れるよう伝えに行ってくれ」

「……はっ!」

 いい返事だ。使いっぱしりのスペシャリストみたいなおかっぱである。

 あそこは衛兵たちの兵舎もあるし馬屋もある。ちょっと駐車させてもらおう。


「ねえ、それなら馬に乗って行きましょうよ。こんなにいるんだし、ちょうどいいじゃない。ねえ、わたし馬に乗りたいの」

 エルフが余計なことを言い出した。放っておこう。


 馬を道の脇に寄せたり何だりしていると、西門の方からオロフが駆けてくる姿が見えた。こいつも野次馬か。いや、商人仲間の知り合いでも探しに来たのかもしれない。


「あらオロフ! 無事だったのね、蜥蜴に食べられたかと思ってたわ!」

 声のでかい娘が、駆け寄ってくる商人に手を振った。


「親方! どうしてこちらへ!? 宿の方はいいのですか!?」

「蛙を買いに来たのよ! 宿は任せてきたわ!」


 大声で怒鳴り合っている二人である。いや、オロフの方は遠いから大声を出しているだけだろう。


「だからうるせーっス。馬が驚くから声を小さくしろっス」


 アーウィアは邪魔な馬をぐいぐい押している。交通誘導である。


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