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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
ニューゲーム編 その3
107/126

無法者


「わたしは悪くねーっス! そこの兄ちゃんと変な爺さんのせいっス! コイツらがいらんことしたのが悪りーんス!」

「むぅ、司教殿を変な爺さん呼ばわりするのはやめるのだ。いらんことをしたとはいえ、相手は司教殿だぞ」

「知らねーっス! っていうか、お嬢も悪りーんス! お嬢がいらんことしたせいで、わたしらが苦労するはめになったんス!」

「むぅ、そう言われてもな……。それとカナタ、机から降りろ」


 アーウィアが元気になった。喜びのあまり、うっかり円卓に飛び乗ってしまったニンジャである。



「心配するなユート。ちゃんとアーウィアには考えがある」

 アーウィア成分の高いアーウィアの肩をばんばん叩きながら宣言してやる。うちのアーウィアは優秀なのだ。少々手違いはあったようだが、収拾を前倒しすればいいだけである。


「いや、わたしに振られても困るっス……」


 アーウィアの顔を見る。目付きの悪い小娘だ。ちょっと鼻が赤い。身体が冷えたのだろう。だから外套を羽織っておけと言ったのだ。風邪などひかないといいが。


「ふむ、幕引きまで見えているのではなかったのか?」

「なんか考えてた気はするっス。でも無理っスな。ちょっと事情が変わったんで、どうにもならんス」


 いい加減なやつだ。散らかすだけ散らかして知らん顔である。いや、それでこそアーウィアというべきか。


「どうするのだカナタ。知らんでは済まんのだぞ」

 いらんことをした代官に、可愛らしい声で叱られてしまった。


「――とりあえず、どうにかなりそうな箇所から手を付けていくしかあるまい」




 ユートの家に関係各位を呼び集め、事態の収拾に向けた活動を開始する。

 いらんことをする奴らだけで悩んでいても仕方ない。こういうときのために、ご近所付き合いを大切にしているのだ。せいぜい頼らせてもらうとしよう。


「ボダイはヨーナスの治療に向かってくれ。オロフ、場所はどこだ?」

「はあ、今は静養のため僧院に身を寄せていますが……」

「わかりました、行ってまいります!」


 理由も聞かされず呼ばれたボダイは、何も知らぬまま部屋を出る。変にゴネられるよりマシだが、それでいいのだろうか。悪いニンジャに騙されないといいが。


「出回ったオズロー貨は後回しだ。どうせ街の中でぐるぐる回っているだけのカネだ。準備ができてから一気に手を付けよう」

「むぅ、私としてはそっちが本題なのだが」

「お嬢は黙って見とけっス。こういうのはニンジャに任せとけばいいんスよ」


 俺はお前に任せたつもりだったのだが。

 使いに出していた鼻高斥候が戻ってきた。うちのおかっぱニンジャと伝令を分担させたが、やはりこの男の方が仕事が早い。有能である。


「ヘンリク、次の仕事を頼みたい。ステランは仕上がったか?」

「ふん、だいぶ盗賊(シーフ)らしい動きにはなってきたな」

「よし、新人どもを迷宮送りにしよう。小鬼(ゴブリン)狩りは休業だ。パーティー分けに手間取るようなら仕切ってやってくれ」


 あのステラン坊主は、英雄ヘグンを称える歌に感化されて戦士を目指した。多感なお年頃である。身近に熟練の斥候職を置いておけば、影響されてこっちに転ぶだろうという目算だ。たちの悪いサークル勧誘みたいな手口である。素質もあることだし、本人にとっても悪い話ではなかろう。


「そろそろ若い連中が北門に集まるころだ。行ってくるぜ」

「頼んだ。うちの聖騎士も連れて行ってくれ。酒場にいるはずだ」

「む、私か?」

「お嬢じゃねーっス」


 うちの聖騎士が一人だと思わぬことだ。ニンジャだって二人いる。もう用済みだがアーウィアだって二人いたのだ。いや、どちらも半人前だったから実質は一人分か。アーウィア保存の法則である。宇宙に存在するアーウィアの総量は常に一定なのだ。


「そろそろ新人たちも競い合わせた方がいい。皆で仲良く小鬼を狩っているだけでは限界がある。見習い期間は終わりだ」

「てめーらの食い扶持はてめーらで稼げって話っスな」


 あいつらにも稼ぎ頭になってもらおう。この街の経済が実態以上に大きくなってしまったのだ。バブルである。こうなっては実態の方をどうにかして合わせるしかあるまい。買い込みすぎたもやしを無理して食っている人みたいな状態だ。かつての俺である。冷凍保存できると知ったのは後のことだ。


「冒険者の方はこれでいい。他に動かせるのは商人くらいか」

「おい、ディッジ坊! こっち来いっス」


 他人に後始末をさせておいて横柄な小娘だ。悪びれることを知らない。見習いたいものである。


「オロフ、お前も手伝え。ラヴァルド商会で扱えそうな品に目星をつけろ。鑑定はできるか?」

「はぁ、普段扱っている品でしたら値付けはできますが……」

「そっちの鑑定ではない。ディッジ、お前は得意だろう。仕込んでやれ」

「いやぁ、店に黙って勝手はできねぇですよ旦那」


 ふむ、確かにそのとおりだ。技術や知識というのはタダではない。身内でもない奴においそれと教えてやるわけにもいかんだろう。


「だったらオロフの身柄をウォルターク商店に預ける。小間使いとして便利に使ってやれ」

「ゴザールさん?」

「カナタだ」

「わたしは宿と酒場しか知りませんが……」

「お前も商人だろう。自分が使い込んだカネくらい自分で何とかしろ」


 もはやこの商人も関係者だ。それに思ったよりポンコツ。口を封じるのも簡単だろう。いずれオズロー鳥の真実を知るがいい。


「迷宮前で待機させよう。連れて行けディッジ、鑑定料金はギルドにツケておけ」

「はぁ、いいんですかねぇ……」

「ちょっと待ってください。それに『迷宮』とは?」

「ごちゃごちゃうるせーっスな。行けばわかるっス。ほれ走れ」




 ひとまず手は打った。当面の間は結果待ちということになる。

 今のオズロー貨は発行しすぎた有価証券である。何とかギルドの業績を上げ、買い戻していかねばならない。


「それで、ユート。こちらの事情はこちらで片付ける。お前の方はどうなんだ」

「む、何のことだ?」


 我々が忙しくしていた中で、平然と茶などすすっていたお貴族様である。いつの間に用意されていたのか、俺の前にもカップが置かれていた。武骨な湯呑みのような形状のカップだ。気が利くではないか。


「すっとぼけんなっス! わたしの『司教』をどうするか聞いてんスよ!」

 アーウィアはユートに負けず劣らず偉そうな格好で椅子に腰掛け、茶をすすっている。


「儂らの思い違いとはいえ、代官殿が下された裁定での。覆すとなればご威光が曇るでな」

 気配が薄いので忘れていたが、ライアザール司教もいた。こいつも茶をすすっている。


「何だ、問題でもあるのか? どうせユートが考えなしに決めたことだ。俺たちが黙っていればいいではないか」

 俺だけ立っているのも不自然なので、椅子に座って茶をすする。妙に面子の濃い雀荘みたいな光景だ。どう考えてもイカサマが行われている。どいつもこいつも手癖が悪そうだ。


「そうもいかんのだ。代官としての仕事は記録されている。軽々に裁定を覆すことなど出来ん。小細工などもっての外なのだ」

「そんなもん、お嬢が泥被ればいいだけっス」

 情け容赦のないことにかけては、右に出るものがいないアーウィアの台詞だ。俺のアーウィア・ゲージが音をたてて回復していくようである。


「むぅ……今はそれが出来ぬ事情があるのだ」

 ユートは眉を寄せて苦悩の表情を作る。アンニュイなイケメンみたいな面持ちだ。パウラ嬢とかが好きそうである。


 さて、面倒なことになってきた。こんなむぅむぅ星人の言うことなど放っておければいいのだが、そうもいかん。ここはかつての『修練場』であり、転職を司っていた曰く付きの場所だ。俺もアーウィアを司教に戻そうと努力したのだが叶わなかった。きっと、妙な強制力が働いているのだろう。


「事情とか知らんス。おい爺さん、お前もなんか言ってやれっス」

「これアーウィア、お口が悪いぞ」

「だって、ずりーっスよ! わたしらなんも悪いことしてねーっス!」


 まったくだ。俺たちがやったことなど、他所様の庭にきのこを生やしたくらいである。可愛いものだ。


「むぅ、仕方ない。事情を話そう。けして他言するのではないぞ」

「うるせーッ! こうなったら力比べで勝負するっス! かかってこいお嬢!」


 アーウィアはカップを置いて立ち上がり、両手を構えて腰を落とす。まさに問答無用。ニンジャはしみじみと茶をすする。

 やはりアーウィアはこうでないといけない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく拝読させていただいております。 簡潔に書かせていただきます。 アーウィアの扱いや性格、ルビの付け方等多数。 [一言] この話を読み、モヤシが冷凍できる事を知り、驚いたので感想を…
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