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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
ニューゲーム編 その3
104/126

闘う者たち


 アーウィアが次なる策を仕掛けて数日。

 我らがオズローの日常に、ちょっとした変化が生まれていた。


「お二人さんですねー、お代に銀貨二枚ちょうだいしまーす」

「おぅ姉ちゃん、オズロー貨は使えるよな?」

「はいなー、もちろん使えますよー。オズロー貨二枚いただきましたー」


 飯屋の看板娘が客から受け取ったのは、例の1Gp硬貨。

 銀貨に代わって、冒険者ギルドの発行したギルドポイント、通称『オズロー貨』が市場を占めることとなったのだ。



 俺とアーウィアも、オズロー貨で代金を支払い昼メシを食う。今日の献立は、屑肉だの根菜だの魚だのをごった煮にしたシチュー的な何かだ。食材の余りを片付けるためのメニューだと睨んでいる。俺もよく使っていた手だ。そうでもしないと軸だけ残ったブロッコリーとかが片付かんのだ。


「まさか、こうも上手くいくとはな。やるではないかアーウィア」

「この街でいちばん貨幣を使うのは冒険者ですから。そこを押さえてしまえば、こんなものですよ」

 ニンジャの称賛を受け、はにかんだような笑顔を見せるゴロツキの娘である。


 宿で寝泊まりし、外食ばかりしている冒険者たちだ。日々の暮らしに現金が不可欠である。現物支給や物々交換で賄っているカタギの方々とは事情が違うのだ。


 ギルドポイントはその名のとおり、ギルドからの報酬として発行される。

 取り扱い店舗は毎度のごとく、宿と飯屋から始めた。支払いをポイント精算にすると、ちょっとしたサービスがあるとの触れ込みである。簡単な朝メシが付いたり、大盛りが無料になったりするのだ。


「ウォルターク商店の方も話題になっている。思い切りのよさが目を引いたな」

「商品を売って儲けを出そうとは考えてないですからね。あれは撒き餌です」

「特に新人どもは色めきだっている。連中もいい加減、初心者セットから卒業したいのだろう」

「はい、ちょうどいい機会なんで利用させてもらいました」


 あの店に目玉商品として並んだのは、俺たちが迷宮で拾ってきた装備品の数々だ。ポイント精算だと驚異の五割引き。なんと半額で買えてしまう。うちは司教が休業中なので、商店に鑑定料を払うと手元にはいくらも残らない。狙いはあくまで、ギルドポイントの普及推進である。

 結果、冒険者どもは、こぞって謎の硬貨を使うようになった。



「アーウィア、この後はどうする。布団でも買いに行くか? そろそろ毛布一枚では厳しくなってきた」

「すみません、カナタさん。ちょっと用事が残ってるので……」

「そうか……では、布団の件は女将に頼んでおくか」


 飯屋の看板娘に見送られ、俺たちは長屋へと戻る。

 アーウィアはこのところ働いてばかりだ。ちょっと心配である。大盛りのメシもぺろっと食うし鼻も湿っているので健康だとは思うのだが。



 今のところ、オズローに大きな混乱はない。

 ギルド依頼で使われる任務達成の革札が功を奏したのだろう。ギルドによって価値を担保された引換券という意味では実績がある。ギルド関係者ばかりでなく、取り扱い店舗はどんどん拡大中だ。


 なにせ、俺たちは銀貨の流通を減らしている。ギルドに入ってきた銀貨は、オズロー貨になって出ていくのだ。冒険者を利用した強引な普及作戦である。


 そうやって銀貨の置き換えを確認しつつ、作戦は次の段階に移行する。入ってきた銀貨に対し、少しずつオズロー貨の放出を水増ししていくのだ。

 その結果、この街の経済は徐々にインフレしている。つかの間の好景気である。




「アーウィア、何か手伝えることはあるか?」

「ええと、それじゃオズロー貨を五十枚ほどお願いします」

「うむ、任せろ」


 オズロー貨の発行元はニンジャの懐である。所持金から9Gpを掴んでは取り出す作業の繰り返しだ。まさか自分の懐に無限両替え機能が搭載されていたとは。

 欲張って一度に多く取ろうとしても駄目だ。10Gpを取り出そうとすると、どうやっても銅貨一枚になってしまう。我が懐ながら、ままならないものである。


「それにしても、よくGpの存在に気付いたな」

「カナタさんとおカネを山分けすると、たまに変なのが混じってるのを思い出したんです」


 長屋の前で木箱に腰掛け、ガチョウの相手をする。アーウィアが作業をしているので、邪魔をしないよう見張っているのだ。これくらいしか役に立たない俺である。


「ふむ、それだけでわかるものか?」

「後から計算したら辻褄が合ったんです。あれは『銅貨のひとつ下のおカネ』なんだなって」

「――簡単に言うが、帳簿をつけているわけでもなかろう。よく思い出せたな」


 以前から性能自体はいいと知っていたが、この娘の頭はどうなっているのだろう。俺など、夏休み明けに自分の席を忘れているような子だったのだが。必要ない情報はガンガン忘れていくタイプである。


「カナタさんの『アイテム欄』のこともありますし、ちょっと考えたら気付きますよ。たまに『じーぴー』って言ってましたし」


 司教の力を失ったアーウィア。彼女は床に伏せている間、ずっとそうやって考えていたのか。てっきり食っちゃ寝しているだけかと思っていたが。


「しかし、この1Gp硬貨は何なのだろうか。誰も知らんカネなど存在する意味がないではないか」

「それはわかりません。もしかしたら、どこか別の場所で使われてるのかもしれませんけど。そうだとしても、よっぽど遠くでしょう。見たことない金属なんで。鍛冶場のドワーフたちにも聞いてみましたけど、わからないそうですよ」

「そんなことまでしていたのか……」


 俺と会話をしつつ、アーウィアはもの凄い勢いで地面に並べた小石を動かしている。算盤のようなものらしい。何やらとんでもない計算量のようだが、よく片手間にニンジャの相手が出来るものだ。


「正体はわかりませんけど、便利に使わせてもらいましょう。これでもう、あの商人にはオズローの……けいざい、ですか。オズローの経済に手出しできませんよ。この街は、わたしたちの狩り場です」


 喋りながら、ゴロツキは凄まじいスピードで羊皮紙にペンを走らせる。帳簿のようなものを書き付けているらしい。下敷きに使われているのは円盾である。


「本当に大丈夫なのか? だいぶ大事になってきているが」

「ちゃんと幕引きまで見えてますよ。安心してください」

「――いざとなったら夜逃げするから、早めに言うんだぞ?」


 このオズロー貨は貨幣ではない。ギルドの配布する無料券の類だ。たまたま皆して銀貨の代わりに使っているだけである。

 そういうことにしておかないと、俺たちの首が飛ぶ。勝手に貨幣など発行しては、領主様から討伐部隊が出されるに違いない。すでに結構ぎりぎりな線を攻めている。首を刎ねるのは得意だが、刎ねられるのはちょっと苦手なのだ。


「まずは、あの商人を追い込みましょう。後のことは任せてください。おカネがあれば、どうとでもなります」

 そう言って、蕾がほころぶような笑顔を向けてくるゴロツキである。


 若干の不安はあるが、これもアーウィアが元の芸風を取り戻すためだ。とりあえず、いつでも夜逃げできるように準備だけは整えておくか。



 ボンクラニンジャとガチョウに見守られ、アーウィアの仕事が一段落ついたころ。重い足音を響かせながら近付いてくる、長身の人影があった。


「……アー姐さん、お客を案内してきました」


 竹馬に乗ったニコである。その後に続くのは、見知った顔の荷運び人たちと小さな白ナマズが一体だ。余所者が大挙して現れたせいでガチョウが騒ぎ出した。はて、窯元のノームがうちに何の用だろう。


「ほれ、長屋の。頼まれとった品を持ってきたぞ」

「どうも姐さん、旦那と日向ぼっこですかい?」


 馬鹿でかい荷物が届いた。アーウィア一人分ほどもある木箱だ。

 もしかして買い替えたのだろうか。こっちのアーウィアも調子はおかしいが、まだ動くのだ。それに愛着もある。できれば修理して使いたいのだが。


「どうも。完成したのは一体だけですか?」

「焼き加減が難しくての。他は割れてしもうた。それに釉薬(うわぐすり)が――これ、もっと気を付けて置かんか。割れたら困るでの」

「「「へい、ほー!」」」


 話し込むゴロツキと白ナマズの横で、荷運び人の手によって木箱の蓋がめきめきと剥がされる。詰め込まれた藁の中から、新たなアーウィアが――いや、違う。


「これは、蛙……か?」


 オズロー焼の、でかい蛙像だ。光沢のある、まっ白な姿で陽気に踊っている。

 これが新しいアーウィアでないことを祈るばかりだ。たとえ芸風が戻ったとしても、このビジュアルでは癖が強すぎる。


「なんだか騒がし――あぶない! 二人とも逃げてーっ!」

 ガチョウの様子を見に来たルーが拳を握り、果敢にも蛙に向かって走り出す。


「やめろルー、その蛙はいい蛙なんだ!」


 止めに入ったニンジャに目もくれず、耳の長いやつは必殺の右ストレートを放つ。回避はできない。俺が避けると蛙が無防備になる。きっとこれは大切な物だ。


「……先生っ!」

「カナタさん!」


「くらえー、ふあーっ!」


 哀れニンジャはエルフパンチの餌食となった。

 体感的に、2ダメージくらいだろうか。


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