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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
ニューゲーム編 その3
103/126

すれ違い


「最近、うちのアーウィアが何を考えているのかわからないんだ……」


 俺はため息とともに、小悪魔(インプ)の群れを手裏剣で迎え撃つ。蝙蝠の羽を持つ猿のような異形が二体、血を噴きながら迷宮の床で息絶えた。炎の魔法を使おうとしていた奴だ。先手必勝である。


「そういう年頃なんだろ。うちのルーだって何考えてるかわからねぇよ」


 ヘグンの斬撃がもう一体を断ち割った。隙を見て飛びかかってきた別の一体が、盾強打(シールド・バッシュ)で叩き落される。剣の追撃を食らってとどめを刺された。


「それとは話が違うでしょう。ルーの方は年頃がどうという問題ではありません。アーウィア殿は、何か深い考えがあるようです」


 ボダイの振るった鎚矛(メイス)の一撃を受け、手負いとなった小悪魔が羽をばたつかせ暴れまわる。


「ああ。今日もこうして迷宮に行けと言い出すし。しかも自分は別の用事があるらしい。いったい何をしているのやら……」


 愛刀ムラサマを抜き、袈裟懸けの一閃。最後の一体を切り捨てる。

 久々の迷宮だというのに、気分が乗らない。こうして男三人、口をついて出るのは愚痴ばかりである。



「宝は――ねぇか」

「いざ拾いに来ると出ないものですね……。そう感じるだけでしょうか」

「ふむ、耳長さんチームは第三層だ。このままでは大差がつくな」

「あっちは敵が多いからなァ」


 第六層の床には、敵の骸が転がるのみだ。アーウィアに言われて朝から潜っているが、まだ三つしか宝箱は出ていない。不漁である。潮の流れが悪いのだろうか。


「しっかし、あのルーがパーティーの(リーダー)とはなぁ。不安でならねェよ」

 ヘグンのやつも探索に身が入っていない。どこか上の空だ。


「前に新人どもを率いているときは別人のようだったぞ。ああ見えて意外としっかりしている」

「ルーは時々で違いますから、安心はできませんが……」


 耳長さんチームのメンバーは、ルーとニコにパウラ嬢だ。回復や探索などの役割も考慮した結果、ちょうど男女で分かれる形となった。パウラ嬢も初歩の回復魔法をおぼえたし、いざとなればルーの大魔法で切り抜けられる。ニコも罠解除の経験を積むのにいい機会だろう。悪くない組み合わせだ。


「さてと、そろそろ昼時だな。いちど食事に戻るとしよう」

「おぅ、あっちの様子も気になるしな」


 地上を目指し、保護者チームは昇降機(エレベータ)へと向かう。アイテム欄に収めた未鑑定品が土産だ。これで司教がいれば、言うことがないのだが。




 両チームとも無事に、午後の探索を終えた。

 酒場に集まった一同は未鑑定アイテムを長屋に預け、思い思いに散っていく。長屋にアーウィアの姿はなかった。用事が長引いているのだろう。

 そんな中、遅くまで居残っているのはニンジャと見習い聖騎士の二人である。


「そうなのよ。自分の隣に、誰も座ってない椅子が置いてある感じっていうか」

「そうそう」

「顔を合わせても、『あぁ、元気でやってる?』みたいな会話しかなくって」

「わかるわかる」


 会社帰りのOLみたいな感じで安酒を飲む、俺とパウラ嬢だ。

 お互いの相棒について愚痴っていたら意気投合して、ついつい長っ尻になってしまった。一向に話が途切れることはない。まさか、この娘との共感トークがこんなにも盛り上がるとは。やはりお互い、理解者に飢えているのだ。


「頼りないなぁ、なんて思ってるくらいが一番良かったのよ。いざ彼が一人で歩きだしたら、その背中を見てるだけの自分に気付くの」

「本当それ」


 酒気の混じったパウラ嬢の言葉に、ひたすら同意を繰り返す。まるで俺の心を言い当てるかのようなフレーズがばんばん飛び出してくるのだ。ミュージシャンとかになれば大成するであろう。ぜひライブにも行ってみたいものだ。乾いた大地に慈雨が染み渡るような気分である。


「今ごろ、どうしてるのかしら……。彼も、少しくらいはこんな気持ちだったりしないかなぁ……」


 パウラ嬢は頬杖をつき、酒くさい息をほうと吐き出す。目元が赤くなっているのは麦酒(エール)のせいだけではあるまい。何と答えていいものかわからず、黙って酒杯を傾けるニンジャである。きっと、彼女が求めているのは、俺の口から語られる言葉などではないのだ。



「――さて、と。久しぶりにいい気晴らしができたわ。わたしも宿に引き上げるとしましょうか」

 パウラ嬢は酒を一息に飲み干し、席を立とうとする。


「なんだ、もうお開きか? 俺はもう少しくらい構わんが」


 思わず引き止めるようなことを言ってしまう。帰っても一人になるだけだ。きっとメイクを落とす気力も湧かないだろう。おしゃれな雑貨屋で買ったサボテンだけが話し相手だ。寂しくて泣いてしまうかもしれない。

 パウラ嬢はどこか呆れるような微笑みを浮かべ、俺の後ろに視線を投げる。


「――お迎えよ」


 いつから、そこにいたのだろうか。よく知った気配に気付いて振り返る。

 酒場の隅っこで、ゴロツキの娘が片手を胸元まで上げ、こちらに向けてにぎにぎさせてみせた。




「お疲れさまです、カナタさん。迷宮探索はうまくいったみたいですね」

「いや、俺たちの成果は今ひとつだ。アーウィアも遅くまで大変だったな」


 飲み代を支払い、裏口から酒場を出る。

 律儀にカネを出そうとしたパウラ嬢だ。ギルドの交際費で落とすからと言い張って無理やり財布を引っ込めさせた。ずっと俺たちの話に聞き耳を立てていた女給が『いいことを聞いた』みたいな顔をしている。未熟者め、こんなもの経費で落ちるわけがなかろう。うちの経理は厳しいのだ。



「第六層のアイテムはそれほど多くなくていいです。大丈夫ですよ」

「ならいいのだが。いったい何に使うんだ?」


 ルーのところに寄って光明(ライト)の魔法を使ってもらい、出てきた光球を持ち帰る。隣近所で味噌を借りる感覚である。そこらにコンビニなど存在しない時代は日常的な光景だったと聞く。気軽に味噌を借りられる間柄のエルフが住んでいて大助かりだ。


「アレは――うん、そうですね。順を追って説明します」

「ああ、そうしてくれ」


 何だか賢そうなことを言うアーウィアだ。ニンジャとしては、もっと無駄な打ち返しの多い軽妙なトークを期待しているのだが。



 戸口を開けて魔法の光球を放り込み、履物を脱いで板間に上がる。足元がひやりと冷たい。吹き込んだ隙間風に、ゴロツキがぶるりと肩を震わせた。そろそろ暖房のことなども考えねばなるまい。


「カナタさんもご存知のとおり、最初の手はうまくいきました」

「ふむ、きのこのヤツだな」


 アーウィアは渡してやった毛布を膝にかける。まだ寒そうだ。俺の毛布も貸してやろう。あいにく味噌は切らしているが毛布くらいなら都合できる。


「となれば、次の手でいよいよ市場に出回っている銀貨を押さえます」

「ふむ――すまん、よく聞いていなかった」


 アーウィアに毛布を被せながら首をひねる。余計なことを考えていたせいで、肝心な部分を聞き逃してしまったようだ。


「ですから、きのこを使った作戦は成功しました」

「ああ、そこまでは聞いていた」

「なので、次は銀貨です」


 やはり、よくわからない。

 夜な夜なきのこを連れて僧院へ行き、棒で叩きながら散歩をしていた俺たちである。撒き散らした胞子によって、きのこがにょきにょき生えた。地味な嫌がらせである。そこからどうして銀貨の話になるのだ。


「すまんアーウィア。もうちょっと噛み砕いて説明してくれ」

「ええと……」

「最初からだ。そもそもこれは、どういう話なんだ?」


 少々腰を据えて話を聞く必要がありそうだ。俺が思っていたより事態は深刻である。アーウィアの考えが理解できないなどと愚痴っていられる段階ではない。


「敵はラヴァルド商会の商人です。彼らが脅威なのは、貨幣を動かす力を持っているからに他なりません」


 アーウィアは床板を剥がして頭を突っ込んだ。もぞもぞと引っ張り出したのは、彼女が財布として使っている革袋だ。ニンジャの見ている前で、その中身が板間にぶち撒けられる。色とりどりの硬貨(コイン)だ。


「――カナタさん、これは何ですか?」

「ふむ……」


 アーウィアが指差したのは、くすんだ色の小さな硬貨。

 強いて言うなら銀色だが、銀貨ではない。刻まれた模様といい重量といい、どことなく安っぽさを感じさせる代物だ。


「1Gp、だな」


 俺が知る限り、もっとも価値の低い硬貨だ。

 そして、なぜかオズローでは使う者のいない硬貨である。


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