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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 第一章
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もちつき


「「防具、よし! 治癒薬(ポーション)、よし! 巻物(スクロール)、よし!」」

 俺とアーウィアはお互いの装備を点検する。

「「ご安全に」」

 二人で礼。


「これより第二回突入作戦を開始する。本作戦の目標は第一層『大十字路』を右折した先、第二層へ続く階段までの経路確認だ」

「うッス!」

「極力戦闘は避ける。階段を目視で確認後すみやかに帰還。離脱ポイントで安全を確保した後、残存兵力をもって周辺の雑魚狩りを行う」

「うッス!」

「要するに、先に階段だけ見に行って、入口付近に戻ってからレベル上げだ。いくぞ」

「うッス!」


 『商店』で巻物(スクロール)の補充を済ませ、息を切らせて丘を駆けのぼり、準備を整えさせられた辺りで、アーウィアは余計なことを考えるのをやめた。

 それでいい。今の俺たちにはレベル上げ以外のことを考えている暇などない。

 前回と同じ、ベルトに巻物を挟んだ鉄砲玉スタイルで血走った目の司教を連れ、迷宮を進む。




 道中で二体の大蝙蝠(ジャイアント・バット)を撃ち落とし、俺たちは下層への階段までたどり着いた。


「ここを降りれば第二層っスか」

「ああ、そうだ。新米冒険者でもここまでは簡単にこれる」

 通路の突き当りに階段はあった。駅地下入口のような構えで冒険者たちを下層へと誘う。心なしか闇が深くなっているような気がした。


「もちろん敵も強くなるんスよね。ぶっちゃけどんな感じなんスか?」

「やや強いが魔弾(マジック・ミサイル)なら一発だろう。今の戦い方でも通用するはずだ」

「へっ、そんなもんスか」

 ヘッポコ司教が負けフラグを立ててイキがっている。戦闘を経験して一端の冒険者になったつもりなのだろう。


「敵が弱いわけじゃない、魔弾が強いんだ。巻物のない俺たちは弱い」

「まぁ、そっスけど。ちょっとくらい偉そうなことを言ってもバチは当たらんス」

 お前の場合、当たりそうなんだよ。


 駆け出し冒険者のパーティーにとって魔弾は切り札となる魔法の一つだ。『冒険者の酒場』で交わされる会話でもよく耳にした。『お前は魔術師か? 魔弾は使えるか?』だの『強敵相手に魔弾を使い切って何とか生きて帰れた』だのと。

 他の魔法にも使用回数をとられるので、駆け出しが一日の探索で使える魔弾はせいぜい一発二発。魔弾の巻物スクロール・オブ・マジックミサイルを使うにしても、8個しかないアイテム欄のことを考えると、お守りがわりに1本というのが普通だ。


 武器さえ持たずに巻物でアイテム欄を埋め尽くし、激しく飛び回るニンジャの後ろから湯水の如く撃ちまくるという真似をしているから俺たちは戦えている。まともなパーティーからすれば気の触れたような話だろう。笑い話の類だ。


「……ねえ、カナタさん」

「どうした?」

 アーウィアは帰りの電車賃にまで手を付ける賭博師(ギャンブラー)のような目で俺を呼んだ。よくないことを考えている顔だ。

「行っちゃいます? 第二層。巻物も余裕ありますし」

「……ときどき、自分から死地に飛び込んでいく生き物っているよな」

「失礼スね。でも、話を聞く限り、わたしらでも大丈夫なんスよね? せっかちさんなカナタさんらしくないじゃないスか」

 誰がせっかちさんか。失礼な短命生物だ。


「よく聞けアーウィア。一度決めた作戦を理由なく変更するのは危険な行為なんだ。そういう変化が重なって最後には大きな歪みになる。一つひとつの判断は正しくとも、合わされば食い違うこともある。わずかな差がいつか大きな問題に化けるんだ。少しずつレンガを積み間違えた塔が最後には崩れるようなことも起こる」

「うッス。わかりやすいお話っス」

 アーウィアはふんふんとうなずく。


「そうやってウチの会社が参加したプロジェクトも炎上した。その場の思いつきで行動する駄目な大人が多すぎたんだ。後で帳尻を合わせようとしても全体像が複雑怪奇になりすぎて、もはや工数の予測もつかん。仕様変更が多すぎて手元にある仕様書がいつのものかもわからん。納期を一ヶ月過ぎてもそんな状態だった」

「あー、ちょいちょいわからんス」

 アーウィアは小首をかしげる。


「俺は変更するなと言っているわけじゃない。問題を先送りするような場当たり的な対応をするなと言っているんだ。化石みたいな規格をいつまでも使い続けるな。『動いてるからそのまま使って』じゃない。その変な機械を捨てれば三行で書けるんだよ。あと退職予定の人間がいらん火種をプロジェクトに残すな。下請けの気持ちも考えろ」

「愚痴ってるのはわかるっス。わたしが悪かったんで戻ってきてくださいカナタさん」

 アーウィアの懇願(こんがん)によって、俺はニンジャとしての意識を取り戻した。


「では、予定通り迷宮入口まで戻る。いつでも魔弾が撃てるようにしておけ」

「切り替えはやいっスね」

「今回は階段の確認だけが目的ではない。第二層探索を行う際に安全に地上まで戻るための調査だ。一度通った道だからといって気を抜くなよ」

「うッス。なんか置いてけぼりにされたみたいで納得いかねーっスけど」

 不満顔のアーウィアを引き連れて俺は帰路を歩み始めた。




 敵と遭遇することなく俺たちは迷宮入口の手前まで戻ってきた。

 結果として、戦闘は往路での大蝙蝠二体だけであった。


「歩いた距離の割に敵は少なかったスね。正直、拍子抜けっス」

「やはり大十字路には敵が少ないようだな。『冒険者の酒場』で聞いた話から予想はしていたが」

「知ってたんスか? ニンジャは何でも知ってるっスね」


 正確には、俺が聞いたのは地図作成(マッピング)に関する愚痴だ。どこのパーティーでも地図作成の話題になると、第一層は鬼教官みたいな扱いをされる。何もないくせに地図ばかり書かされたと。

 迷宮の敵は人気(ひとけ)のない場所で勝手に湧くと言われる。大十字路ほどの幅と長さがあれば、往復しているだけでも次々と湧いて出そうなものだ。

 それなのに、新米冒険者は地図を書き、大十字路を外れて何もない迷路を探索する。そちらへ行かないと狩る敵がいないのだろう。

 そんなことを滔々(とうとう)とアーウィアに語る。


「というわけで、逆に大十字路の方は敵が少ないと予想した」

「まぁ、理屈としてはわからんでもないス」

「もしかしたらチュートリアルを用意していないレトロゲーなりの、地図作成を学ばせる工夫かもな。敵の出現率を偏らせて行動を誘導しているんだ」

「ちょっと意味がわからんス。っていうか、レベル上げしましょうよ。気合い入れてきた割に、ここまで雑魚二匹しか倒してないっス」

 しまった、またコイツと長々話し込むところだった。妙にテンポよく相槌を返してくるから無駄に会話が弾む。餅つきの相方みたいな奴だ。


「お前といると時間がいくらあっても足りんな」

「え、口説いてんスか?」

「こっちは命が懸かってるんだ。できれば今日中にレベルを上げて明日からもっと効率よく稼ぎたい」

「え、命がけで口説いてんスか?」

 だから、そういうところだ。


 女神様の手によるアップデートで、どこまで厳しく調整されるか見当がつかない。

 こんなところで餅をついている暇などないのだ。


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