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7.「さよならの、まち。真っ白い素敵なお話よ」
図書館の扉を開けると十歳に満たない男の子が泣いていた。
どうしたの、と声をかけると「学校で友達がいじめるんだ」と言って更に大きく泣いた。
私は胸の位置まであるおさげ髪を揺らして、とびきりの笑顔を作った。
「辛かったら、いつでもここにおいで」
本は好きかと聞くと、小さく頷いた。私
は向日葵色のリボンを揺らしながら、一冊の本を男の子に差し出した。
真っ白な表紙は、少しだけ黄ばんでいた。
「これはね、お姉さんが一番好きな本なの」
よかったら、読んでみて。そう言えば男の子はごしごしと涙を拭いて受け取ってくれた。
「さよならの……?」
そうか、これはうっかりしていた。
これだけ小さな子には、まだこの漢字は読めないんだ。
私はちょっとだけ懐かしくなって、笑ってしまった。
「さよならの、まち。真っ白い素敵なお話よ」
――――その声は、あの人みたいに少し掠れていた。
END
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