天使と悪魔の出会い
最近、焼き肉が流行っている。
一人で、友達で、家族で、恋人で、とにかく肉を焼きまくる。
俺は見習い天使のシュガー。人間を幸せにするために人間界に舞い降りたウルトラキュートな天使の卵。俺は今、人間を幸せにするために焼き肉チェーン店「エンジェルミートクラブ」を経営している。超低価格で最上級の肉を提供する俺の店に負けじと各焼き肉店は凌ぎを削りあい、まさに世は焼き肉戦国時代となっていた。しかし、そんなハッピーな世の中に水を差す奴がいる。
『今日のニュースです。また牧場から牛が脱走しました。何者かが柵を壊し牛を逃がしている模様です。逃げた牛は忽然と姿を消し、行方が分かりません。今回で29件目となる事件ですが、コメンテーターの肉丸さんは…』
俺はテレビを消した。この牛泥棒は俺の直営牧場にも被害を及ぼしている。早く捕まえなければ。
俺は各地の牧場を監視することにした。全方位をモニターに囲まれた部屋で3日間の不眠不休の監視の末、俺は遂に犯人を見つけ出した。フードを被っているので顔はよく分からないが小柄で子供のようだ。
俺は頭の上で浮いている天使のわっかを掴み手を突っ込んでドアを取り出した。このドアを使えば天使的な力によってどこでも好きな場所に移動できる。これでとっとと犯人を捕まえやる。俺はドアを開けて中に入った。
扉の先は山奥の牧場だった。虫の声が途端に聞こえ始める。シュガーは不快そうに顔をしかめるとわっかからタブレットを取り出した。このタブレットには天使特有の不思議な力によって犯人の位置が表示されている。それを見ると犯人は人間離れした速度でその場から離れているようだ。しかも、その後ろには牛の群れを引き連れている。
これは人間の仕業ではない。天使の邪魔をする者。それはただ一つ、悪魔だ。シュガーはにやりと笑った。人間を傷つける訳にはいかないが、悪魔であれば話は別だ。四肢を引き裂いて焼き肉にしてやろう。シュガーは天使の輪からローバーミニを召喚すると爆走し始めた。天使バリアに覆われたローバーミニは木を薙ぎ倒しながら悪魔を追跡し、その影を捉えた。
「おいおい。雑魚悪魔。よくもやってくれたなぁ。」
シュガーは悪魔に銃を向ける。悪魔はフードをとった。出て来たのは華奢で可憐な女の子。しかしシュガーは見た目に騙されるほど愚かではない。頭に生えている角と腰から生えている尻尾は悪魔であるなによりの証拠だ。
シュガーは一発撃った。弾丸は脳天へ飛ぶが悪魔は頭をそらして避ける。
「初めまして、鬼畜天使。私はあなたを倒さなければなりません。かけがえのない命の為に。」
悪魔は高速でシュガーに接近すると爪を振り回した。シュガーは後ろに飛び下がり二発撃つ。避ける位置を予測して放たれた二発目は必中の筈だった。しかし、
「もー(ぐああ!)」
弾丸は牛の体に防がれた。牛は血を流し崩れ落ちる。
「ああ。牛さん。」
悪魔は牛に駆け寄った。
「もー(今の貴女では奴には勝てません。ソルト様。リー老師の元へ向かうのです。そこで修行を積めばやがて貴女が勝てる時が来る筈。)」
「喋っちゃだめ。今止血するから。」
「もー(私はここまでです。これからは戦わなければ人間達と、そしてあの天使と!)」
牛は力尽きた。
ソルトと呼ばれたこの悪魔はショックの余りその場を動けない。シュガーはすかさず撃った。しかし、他の牛が肉壁となり防がれてしまう。その間に悪魔は動物達に連れていかれた。
シュガーは何頭か撃ち殺したが弾をリロードしようとした時、脳内に直接声が届いた。発砲を停止するように命令が出たのだ。シュガーは舌打ちするとローバーミニに乗り込み、去って行ったのであった。