タコ怪獣の話
こうも暑いと頭が溶けそうだ。
俺は海にいる。別に泳ぎに来た訳じゃない。バイトをしに来ているんだ。
俺は天使見習いのシュガー。今は人間界で研修中だ。研修の内容は簡単。人間を幸せにすること。ポイントを集めれば天使にランクアップ出来るということだ。ポイントを稼ぐ近道は人間がやりたがらないことをやること。という訳で俺は今、炎天下の中で焼きそばを焼いているのであった。
「うわ。天使が焼きそば焼いてるよ。マジウケる。」
水着のリア充達が俺の頭の上のわっかを指差して笑っていやがる。俺の姿は人間そっくりだが頭の上で天使のわっかが浮いているのだ。
その時海から轟音と共にでかいタコが現れた。
海岸線から200キロメートル沖に現れたタコ怪獣はゆっくりと岸に向かって歩いている。あと2時間で上陸するという予測だ。
海岸は軍の前線基地となっている。大佐はシュガーに言った。
「おい。天使。例の天使砲を早く出せ。」
シュガーは天使のわっかを覗きこみながら答えた。
「この前使ったばかりだからなあ。許可がでるかどうか。」
「いいから出せ。」
はいはい。とわっかの中に手を突っ込みしばらく沈黙したあとシュガは言った。
「手続きに2時間かかるってよ。」
軍は天使砲までの時間を稼がなければいけない。上陸された場合海岸線の都市は蹂躙されてしまう。
戦闘機と軍艦によってタコ怪獣へ攻撃が行われたが全く効き目が無い。そこでワイヤーを使ってタコ怪獣を転倒させる作戦が立てられた。
戦闘機がタコ怪獣の周りを飛んで注意をそらせる。タコ怪獣は小さなハエを嫌うように足を振り回した。戦闘機はひらりひらりとその足を避けて徐々にタコ怪獣のバランスを崩す。そしてぐらりとしたところで2隻の戦艦が猛スピードで海上を突進。戦艦にはワイヤーが取り付けられている。海底のワイヤーがタコの足を捉えた。タコは完全にバランスを崩し転倒。作戦は成功した。
海岸のシュガーと大佐はそれを見ながら話している。
「さすがだなあ。俺が撃たなくても勝てるんじゃないのか。」
「我々には足止めが限界だ。被害が出るまでに早く仕留めてしまいたい。」
「あのタコ食えるのかな。」
言っている間にタコ怪獣は立ち上がりつつある。
「おいおい。時間稼げるのか。」
「繰り返すまでだ。」
そのあとタコ怪獣は8回転倒した。
戦闘機2機を犠牲にしながらも、軍は時間を稼ぎきったのだ。
俺は天使のわっかに手を再び突っ込んだ。脳内に直接声が届く。
「出力は1パーセントまで、発射回数は1回。この射撃により死傷者が出た場合大幅な減点となりますのでお気をつけ下さい。」
はいはい。分かってるよ。
俺はわっかから手を引き抜いた。手に握っているのは小さな球。これを放り投げると変形し俺の2倍くらいの大きさのカノンになる。これが天使砲だ。
俺は無線で最終確認をした。
「本当に誰も残ってねえだろうな。」
『避難は完了した。早く倒せ。』
だったらさっさと撃っちまおう。
俺はトリガーに指をかけた。
神様エネルギーが充填されて1パーセントに達する。
「発射。」
空間が歪みビームが発射された。反動で後ろにあるビル群のガラスが全部割れて雲は吹き飛ばされる。ビームは海を割りながら直進しタコ怪獣を消し飛ばした。
次の瞬間俺は舞い上がった砂に飲み込まれた。
俺が掘り起こされたのはしばらく経ってからだった。
「死ぬかと思った。」
すると空から何かが降ってきて頭に直撃した。これが集めると天使になれる天使コイン。
こんな感じで俺は天使見習いとして暮らしているのだ。