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第八話

 午前中には海に着きたいという先輩の要望で集合時間は朝の八時。待たせるのも悪いと三十分前に待ち合わせ場所の駅に着いた。


「流石に早かったか」


 正直待たせるは悪いとそこまで思ってはいない、早く着いたのは待ち切れなかったからだ。二人ともそれなりに早く着くだろうし一分でも長く杼割ちゃんと一緒にいたい。

 夏休みとはいえ平日で普段より人は少ないがそれなりに人は多い。

 時間を間違えたな。

 普段電車に乗らないがこれは俗に通勤ラッシュの時間じゃなかろうか?

 そんな中にそれなりの荷物持って浮かれている学生は社会人から見てどう思うんだろうやっぱり鬱陶しいか?

 せっかく学生の分席に余裕があるなとか仕事面倒くさいな。なんて思っている場所に今日海楽しみだね。なんて浮かれてこられたら怒り爆発だろうな。時間遅らせようかな。


「おはよう。早いね」


「杼割ちゃんこそ早いね」


 夏真っ盛りそんな恰好だった。明るい色、それなりの露出これぞ健全なエロス。これ以上先は野暮じゃなかろうか。水着姿は楽しみだけど。


「今日も暑くなりそうだね」


「そうだね。今からこの暑さだし」


 朝だというのに立っているだけで汗がにじみ出てくる。今日の最高気温何度って言ってたっけか?


「今日は三十二度までいくって」


「うわあ」


 三十二度か。海から出たくなくなりそうだ。


「だからこそ海に向かうんだ」


「そうですよね」


「おはよう鵲ちゃん」


「突然の登場をスルーか」


 事あるごとに背後に立たれていれば流石になれる。


「ちなみに私は夏彦が来た時にはもういたぞ」


「マジですか!?」


 それは知らなかった一応きょろきょろみたのにいなかったぞ?


「とりあえず電車に乗るか」


 タイミング良かったのか席には座れないが荷物が邪魔になるような混雑ではなかった。

 電車を乗り換えその後バスに乗ってようやく海にたどり着いた。

 青い海、白い砂浜とはいかないがそれなりに綺麗で人もいない。

 夏休み二日目だからとかそんな理由じゃない、普段みんなが海と言ったら行く場所ではない。そこから少し離れた場所で周りが林に囲まれているため周りには何もない。


「どうだ。ここなら十分だろう?」


「そうだね」


 そしてここで一つ大きな問題が発生した。


「私たちはどこで着替えるの?」


 何もないということは比喩でも何でもない。木以外何にもないのだ。コンビニも商店街もない。当然海の家なんかもない。


「何を言う。海と言ったら服の下に水着は着てくるだろ?」


「帰りはどうするんですか?」


「…………」


 考えてなかったのか。


「と、言うのは冗談だ」


 とビニールシートを取り出して木につるす。


「これでいいだろう。厚めのビニールシートだから相当近づかないとシルエットすら出ないぞ」


 流石に準備は万端か。


「がっかりしているところすまないが」


「してません」


「お前の分はないぞ」


「大丈夫ですよタオル一枚で十分です」


 僕の着替えも終わり準備してきた道具の準備を開始する。

 ビーチパラソル、ビーチチェア、ビーチボール。ビーチと名のついたものを全部買ってきたような荷物だらけだ。

 そのせいでここだけを切り取ったらプライベートビーチでバカンスみたいに見える、実際はそこそこの海水浴場なのだが。


「夏彦」


「はい。なんです?」


 準備しておけ。と言われたものは準備が終わり、暇を持て余していたところを呼ばれた。


「私たちの着替えが終わった」


「はあ」


 着替えが終わったら出てきたらいいのに。


「さあご注目」


 言われるがままそちらに目を向ける。

 ばさっという音と同時に二人の姿が現れる。視線は杼割ちゃんの方にだけ向いてしまう。

 白い眩しい体をオレンジ色の明るい水着で少しだけ隠し見られるのが恥ずかしいのか体を隠そうと腕を前にやったため自然と胸を強調する形になってしまっている。


「可愛い」


 自然とそう口が動いた。はっと思ってももう遅く杼割ちゃんの耳にはしっかり届いたようで顔を真っ赤にしたままうつむいてしまう。

 そしてごにょごにょと何か言っているのだけが聞こえる。


「ありがとう。だってさ」


 先輩の代弁を受けなんだかこちらも恥ずかしくなってしまう。


「ラブラブしてるのは結構だが私には何もないのか?」


「似合ってますね」


「杼割の時よりも適当だな」


 正直先輩は先輩で魅力的だ。白い水着にパレオを巻いていてスレンダーな先輩が着ると可愛いではなくカッコいいになっている。


「とりあえず夏彦」


「はい?」


「定番として日焼け止めを塗ってくれ」


 日焼け止めを塗る。

 都市伝説ではなかったのか。ぬるぬるとした液体を女体に塗る。

 そんな淫靡な儀式が現実に起こるなんてそんなはずはない、あれは選ばれた男のみが許されるもの僕なんかがやっていいものじゃない。


「杼割にな」


「鵲ちゃん!!」


「そう恥ずかしがるな」


「恥ずかしいよ!」


「やっぱり無理だ」


「当たり前だよ」


「夏彦があそこで死んでいる」


「夏彦君!」


「はっ!」


 僕は一体何を?


「まさか想像だけで倒れられるとは思わなかった」


「え?なにかされましたか?」


「夏彦」


 何やら慈愛に満ちた表情で先輩に語りかけられる。


「そこまで耐性がなかったのか?」


「憐れまれた!」


 慈愛じゃなかったらしい。


「じゃあ夏彦も復活したし夏の海を堪能しようじゃないか」


 復活って僕別に死にかけてもいないけど。

 ビーチバレーなどをしながら昼まで遊び気がついたら準備されていたバーベキューを楽しみスイカ割りなどをして楽しんだ。

 後は帰るだけになった時。


「夏彦」


「なんですか?こっちはもうすぐ終わりますよ」


 パラソルなどを片付けながら返事をする。


「夏彦は神様を信じるかい?」


「なんですかいきなり」


 いきなり宗教の勧誘のような文句を振られて片づけの手を止める。


「信じてるか?」


 真剣な目でもう一度問いかけられる。


「まあ人によっては必要ですから」


「そうか」


 一瞬だけ落胆の表情を浮かべた。


「ですけど僕は信じませんよ。他人の心のよりどころ否定する気はないですけど」


 先輩は目を見開いてこちらを見た。


「お前は神を信じないのか」


「ええ、そりゃあ」


 神様なんて虚像はあり得ない。そんなのは大多数が知っている、誰かに見られていることを意識して清く生きろ。そんなメッセージだ。


「そうか。ならいい」


 なんだったんだ? 久しぶりに置いて行かれた感じだ。

 僕がわからないこの感じは本当に久しぶりだてっきり勧誘なのかと思っていたが。神様を否定したのに嬉しそうだ意味がわからない。


「そっちが終わったら手伝え」


「はい」


 片付けも滞りなく終わり電車に乗る。杼割ちゃんは疲れたらしくすぐに眠りに着いたしかも僕に寄りかかって。

 なんでだろうな。ただこっちの方に寄りかかったら寝やすいってだけなのになんだか受け入れられた気がする、嫌われてないなって思える。

 そりゃあこうやって海に一緒に来るくらいだから嫌われてるわけはないけど嬉しいな。


「鼻の下が面白いぞ」


「面白いってなんですか?」


 普通に伸びてると言ってもらいたい。


「ざるいるか?」


「どじょうすくいみたいってことか」


 そんな表情なのか気をつけよう。そんな顔なら確かに面白いが正解な気がする。不本意だけど。


「楽しめましたか?」


「ん? ああ、楽しかっただろうよ」


「他人事みたいですね」


「楽しかったよ私もな」


 やっぱりどこか他人事だ。先輩のための送別会って感じのはずなのにな。


「夏彦はどうだった?」


「楽しかったですよ」


「そりゃあ人気の少ない浜辺で美女二人を侍らせていたのだし当然か」


「ええ。もう我が儘なお嬢様に使える執事気分でした」


「嫌味を返すとは成長したな」


「そりゃあやられっぱなしもいやですから」


「そうか」


 となぜか先輩まで僕に寄りかかってくる。


「私も寝る。着いたら起こしてくれ」


 ちょっと、と言う間もなく寝息が聞こえてきた。

 これは先輩の仕返しなのかもしれない。この人も負けず嫌いだしな。

 と両肩に温かさを感じたまま考えた。

 そしてそのまま降りる駅を通り過ぎた。もちろん寝過して。


「なぜお前まで寝ているんだ!」


「いや流石に僕も我慢できずうとうとと」


 平謝りのまま戻りの電車を待っていた。


「流石に夏彦君だけを責めるのはやめようよ」


 と杼割ちゃんも仲裁に入ってくれる。


「これじゃあ任せられないかもな」


 とため息を吐きながらも先輩の怒りは収まった。

 ようやく最寄りの駅に着いた。


「お前のせいで日が完全に沈んだぞ」


「ごめんなさい」


「もういいじゃない。ね?」


「罰として荷物はお前が持て」


 と荷物を僕に預けられる。


「わかりましたよ。杼割ちゃんごめん。先に帰ってて」


「いくぞ」


 言われるがまま荷物を全部持ち先輩の後ろを歩く、先輩はいつもの軽口をたたくことなく黙々と歩く。

 まだ怒ってるのか。

 と僕も何も話しかけずについて行く。

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