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第七話

 劇が終わり二週間ほぼ毎日演劇部に顔を出した。先輩からの嫌がらせも無くなり平平凡凡に部活動を行った。そして明日から待ちに待った夏休みが始まる。


「あれはなんだったんだろう」


 帰りのSHRも終わり後は夏休みだと万歳ををしようと思っていたのに突然お呼びがかかった。

 それはまあ部活には顔を出さないといけないとわかっていたから顔は出すつもりだった。

 だがSHRも後は先生のお小言をいただいて終わりというタイミングでメールが届いた。


『今日は何が何でも全員集合』


 そんな強制召集がかけられた。


「なんだろうね」


「杼割ちゃんも知らないの?」


「うん」


 それは珍しい。あの先輩は僕には隠し事しかしないけど杼割ちゃんには隠し事しないかと思っていた。


「夏休みの部活予定について。とか?」


「それだったら何が何でもとは言わないんじゃないかな? メールでこの日は休み。だけでいいし」


「それもそうだね」


 後は何かあるか?無理矢理でも集めて話さなきゃならないこと。なんで僕に嫌がらせをしていたか?それなら僕だけを呼ぶか。杼割ちゃんは呼ばないよな。


「ようやく来たな」


「なんですか一体」


 ステージ上ではすでに先輩が待機していた。

 この前はクールなキャラを作ってるなんてふざけたことを言っていたが今の表情を見る限りクールさは微塵もない。キャラの話で言うなら無邪気な子供と言ったところだ。


「血沸き肉躍る酒池肉林の夏休みだ」


「もう先輩はそうなってますね」


 なんか異常にテンションが高い。夏休みでテンションが上がるなんてそんなものじゃ足りないくらいだ。


「二人ともテンションが低いな。夏休みより学校で勉強していたいタイプか?」


「いえ、そんなことはないですけど。先輩のテンションについていけずになんか覚めてきただけです」


 僕の言葉に杼割ちゃんも頷く。


「まあ私も浮かれすぎだとは思っているからな」


「なら戻してください」


「そうか。なら普通に」


 一呼吸を置いてすぐに元に戻る。

 どっちが演技なんだろうか?


「二人ともいつ暇だ?」


「部活なら声かけられたら来ますよ?」


「うん。とくに予定ないから私も大丈夫」


 予定ないのか遊びに誘ってみようかな?


「なら明後日は大丈夫だな?」


 僕と杼割ちゃんは頷く。


「じゃあ海に行くぞ」


「え?」


「なんでですか?」


「夏だからだ」


 なんの解答にもなっていない。


「海は嫌か? かなづちなら確かに危険もあるから多少考えるぞ?」


「いやそうじゃないですけど」


 本当に今日はわけがわからない。夏休みが嬉しいのはわかるけど先輩のは何かが違う気がする。


「ならなぜだ?」


「だから急すぎますって。いきなり明後日って」


「そうだよ。準備もあるんだし」


「だから明日を空けておいたんだが」


「それでも急すぎます。どうしたんですか本当に」


「最後の夏休みだからな」


 そう言われたらもうどうしようもない。先輩にとって最後の夏休みそれでいつも以上に騒ぎたいってことか。


「わかりました。行きますよ」


「しょうがないね」


「ちなみにこれが今月の予定表だ」


「うわあ」


 渡された予定表は思わずそう言いたくなってしまうような内容だった。

 海に行って山に行ってプールに行って花火をやって勉強会をしてと思いつく限りの遊びを羅列しただけのような内容で休む間もなく遊ぶ内容だった。


「これマジですか?」


「マジだな。だから予定を訊いたんだ」


 おかしい人だとは思っていたけど。ここまでか……、いくら僕たちが高校生とはいえこれはあまりにもハードすぎるだろ休む期間がほぼない。十日間で休みが一日とか倒れるんじゃないか?


「早速明日だが」


「明日ってこの予定表だと休みですよ?」


 休みのない夏休みの最初の休みに何の予定を付け加えようと言うのか。


「買い物だよ」


「何か必要なんですか?」


「お前は全裸で海を泳ぐのか?」


「水着くらい着ますけど」


 ヌーディストビーチなんて日本にないわけだし。


「その買い物だ」


「そうだね。私も新しいの欲しいし」


 杼割ちゃんの水着、なんて魅惑的な言葉だろうか。

 普段からストッキングを着用して極力肌を露出させない杼割ちゃんが肌をさらけ出す最高の装備。

 そうか海に行くということはその装備を着る唯一といってもいい場所だ。そうかそんな魅惑のアイテムを買いに行くのならそれは休んでいる場合じゃないな!


「じゃあ二人で行って来い」


「鵲ちゃん。いくらなんでもそれは流石に恥ずかしいよ」


 まあそうだよね。そういうのは恋人同士だけが楽しめるイベントだ。ただの幼馴染なんて気恥ずかしいだけだ。


「別々に行ってもいいが結局は買う場所は一つだけだぞ」


「それはそうだけど」


 大型のデパートが一個だけ。その中に娯楽施設も入っていてそこ以外は小さな商店街があるだけで確かに買う日が重なれば大抵出会ってしまう。


「ちょっとこい杼割」


 そう言われて杼割ちゃんは先輩に何かを耳打ちをされる。何を話しているのか気になるにはなるが耳を澄ましてもバスケ部の声のせいで聞こえない。

 先輩が耳を話すと、杼割ちゃんの顔が赤くなる。


「それはそうだけどね……んー」


 何を耳打ちされたんだろうか。


「じゃあ決まりだな夏彦。明日十時買い物だ。買うものは杼割に言っておくからお前は荷物持ちだ」


「はあ」


 何やらこっちの都合はオールスルーで買い物に行くことが決まったらしい。いやもちろん僕に拒否しようなんて気は一切ない。なにしろこれは俗にデートと呼ばれるものなのだ。





 一夜明けて日の出とともに目を覚ます。睡眠時間三時間、いつもの半分の睡眠時間だけど目は十分に冴えているわくわくして眠れなかった。


 まだまだ集合の時間には早すぎるな。


 そう思いながら歯を磨き顔を洗い着替えを済ませる。それでも当然時間が余る。途中起きてきた両親に「具合が悪いの?」と心配されてしまった。

 再び自室に戻ってきた。何か暇をつぶせるものを探しても何も見つからず仕方なしに散歩に出かけることにした。

 目的を決めていないからいつも通りのコースを歩こう。たまには川でも見ながら。


 橋の真ん中あたりで川を眺める。

 無駄に広い川だ歩いては渡れないか。確か真ん中が深いんだっけ? 大人の胸くらいまでって聞いたことあるし今なら行けなくもないのか。

 まあ橋があるから濡れてまで無理に渡る必要なんてないけど。


「夏彦君?」


 突然声をかけられた。


「杼割ちゃん?」


 なぜか杼割ちゃんが目の前に現れた。


「早いね。どうしたの?」


「杼割ちゃんこそ」


「早くに目が覚めて時間もあるから散歩かな」


 同じか。きっと理由は違うけど。


「夏彦君は?」


「僕も一緒だよ。早くに目が覚めて散歩」


「それで川を見に来たの?」


「そんなところ」


 早起きをしてみるものだな。三文得した。いや三文以上得した。


「せっかくだしもう行く?」


「そうしようか。でも開いてる?」


「痛むものもないから先に買って何か食べようか」


「そうしようか」


 予定よりかなり早いけど。その分長く居られるならそれがいい。


「もういける?」


「いけるよ。何か持ってくる物があるなら待ってるけど」


「私も大丈夫」


 二人揃ってデパートに向かう。


「それで他には何を買って来いって言われたの?」


「そんな大したものないよ。紙コップとかの食器類かな」


「それを買い忘れたのか」


 あの人は普段何を使って食ってるんだ?


 買い物を終えついにここの前にやってきた水着ショップ。床と天井以外はすべて水着、そのほとんどが女性用。男性用の水着は申し訳程度に端に追いやられている。


「じゃあ僕のはさっと買って店の前で待ってるよ」


 チキンだと笑えばいい慣れてもいないこの空気に耐えられるわけがない。

 女の人しかいないこの空間で僕一人だけが浮いている気がするその状況で自分のだけでも買える自分をほめてやりたい。もう今すぐに逃げ出したい。


「えっと、夏彦君?」


「な、なに?」


「えっと……やっぱりなんでもないです……」


「そう。じゃあ待ってるよ」


 早々に無難な水着を買い店の前で待機。


 それにしても。


 と落ち着くために関係ない方向に頭を動かす。

 なんで先輩は急に僕と買い物に行けなんて言い出したのか、まあ本当に買い忘れて僕らの買い物のついでに頼んだだけなのか?

 急すぎる僕に対するいやがらせか? いやそういうのはやめるとそう言っていた。やっぱり何かがあるんだ。


「お待たせ」


「早いね」


 女子の買い物は長いと聞いたことあるし一時間くらい待つのを覚悟していたのに。


「一目見て気にいったのがあったから」


「へえ」


 どんなのだろう。見てみたいけどそれは明日の楽しみにしておこうかな。


「どうしようか。もう買い物終わったね」


「そうだね」


 もう少し楽しみたかったけど。ここらで終わりか。


「何か食べて帰ろうか」


 気のきいたことも言えないのが我ながらどうしようもない。


 ファミレスで適当に食べしばらく話してから帰路に着いた。

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