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第四話

 翌日。部員になったこともあり体育館に向かう。

 先に言っててと言われ一人先にステージに上がると先輩がもう来ていた。


「ああ言った手前来てくれなかったらどうしようかと思っていたよ」


「来ない方が良かったですか?」


「まさか、君が来てくれなかったら助っ人を探しに行かなきゃならないところだ。その時間を演劇に割けるんだから助かってるよ」


 人を見かけで判断しちゃいけないと教わってきたけどこの人は見かけどおりかもしれない。怖くて狡んだ。この人の言葉が演劇以外で本当かなんてわかりやしない。


「そう睨むな。邪魔するのは一部だけでそれ以外は干渉はしないから」


「その一部が何なのかわからないとこっちとしては安心なんてできませんけどね」


「安心させないためにも私は何も言わないことにしよう」


 本当にいい性格してる。意地悪いというか汚いというか。どうあがいてもどうしようもない。


「まあ早速安心できる演劇のお話でもしようか?」


「そうですか」


「君はまず少し基礎体力をつけよう。当日までほとんど時間もないけれどやらないよりはましだ。まずそこで杼割が来るまで腹筋だ」


 早速嫌がらせなんじゃないか? 何回って決められた方がよほどましだ。気力と体力を削って何をさせたいんだ?


「これは別に嫌がらせってだけじゃない。意外と大声を出して動くって言うのは君が思う以上に大変だから」


 僕自身にもそれは身に覚えがあるから『だけ』って部分には突っ込まないでおこう。

 確かに昨日はあの後外に出るのがだるかった。二人が平気ってことはそれなりに筋トレとかしているんだろうな。


「ちなみに杼割は私の命令で後三十分は帰ってこない」


「やっぱり嫌がらせじゃないか!」


 杼割ちゃんが来たのは本当に三十分経ってからで来た頃には僕はもうへとへとだった。


「大丈夫? 今日はもう帰る?」


「大丈夫。これくらいまだいける」


 杼割ちゃんに合わないまま腹筋だけして帰るとかそれだけはごめんだ。


「じゃあ立ったらどうだい?練習始めるよ」


 この悪魔め。絶対嫌がらせには負けてやらない。


「鵲ちゃんやめてあげてよ。鵲ちゃんの気のせいだって」


「まあ嫌がらせ半分演劇の練習半分ってことで」


 その後も事あるごとに何かをさせられた。一回噛む毎に腹筋十回。ミスをするたび腹筋十回。と事あるごとに腹筋させられた。

 昨日より早めに終わったとはいえ部活が終わるころには腹筋が筋肉痛になっていた。


「駄目もう死ぬ動けない」


「ならここで寝ていればいい」


「駄目だよそんなの風邪ひくし怒られるよ」


「まあ私は先に帰るよ」


 そう言ってさっさと帰って行った。


「大丈夫?」


「大丈夫……でもちょっと休みたい」


 くそあの釣り目め。いつかぎゃふんと言わせてやる。


「わかった、私も一緒にいるよ」


「いいよ、帰り遅くなるとおじさんとおばさんも心配するだろ?」


 とくにおじさんはうちの娘が不良になったとか叫びそうだ。


「大丈夫連絡はもう入れたから問題はないよ」


「手際がいいね」


「だから一緒に帰ろう」


 先輩ありがとうございます。今回のは杼割ちゃんと一緒に帰るために必要な儀式だったと信じておきます。それでももうごめんだけど……。


「その調子だと今日はお休みだね」


「大丈夫。もう少ししたら動けるくらいには回復するし」


「無理しちゃ駄目だよ。休む時は休まないと」


 俺への気遣いが疲れた体によく染みる。なんかそれだけでもう元気になった気がする。あくまで気になっただけだけで体は動かない。


「でも大丈夫。練習しないと本番失敗しそうだし」


「保育園で見せるんだからそこまで気張らなくてもいいんだよ?」


「やるところは関係ないよ」


 どこでやるかなんか気にしない。誰がやるかだ。どこでやろうと杼割ちゃんの劇は成功させないと。


「そうだよね。どんなところでも完璧にしないと失礼だ」


「そうだよ」


 モチベーションは違うけど成功させたいのは一緒だ。そのためには体力つけないとな。もう少し楽な方法はないんだろうか。あっても教えてはくれないだろうけど。


「でも無理は駄目だよ?」


「杼割ちゃんもね」


 数十分の休憩をしてからようやく学校を出た。


「ここまで計算づくなのか?」


「どうだろうね」


 否定しないあたり杼割ちゃんにもあの人の本心はわからないらしい。

 驚くことにそろそろ動けるそんなタイミングで下校のチャイムがなり結局は帰る時間が昨日と同じになった。

 ルールを守りながらの嫌がらせとか、される側としては文句も言いづらいしごき方だ言うことなすこと理に反していないから反抗しづらい。


「なんで僕にだけこんな嫌がらせするんだか」


「大変だね」


「杼割ちゃんは知ってるんじゃないの?」


 昨日もわかったような口ぶりだし先輩とそれなりに付き合いも長いみたいだしなにかしってるんじゃないのか?


「うん。鵲ちゃんがどうしたいのかは知ってるんだけどね」


「だったら教えてよ。意味もわからずに嫌がらせされるなんてやってられないよ」


 せめてなんで嫌がらせをされているかがわかればそれをどうにかすればいいわけだし。


「いやあ、流石にそれはね。ほら自意識過剰みたいになっちゃうじゃない?」


 僕はそれが自意識過剰なのかすらわからない状態だから判断のしようすらないんだけどな。

 とりあえず杼割ちゃんについてってことなのか?


「そんなわけないしさ。でもそれを自分で言うのもちょっとへこむし」


「全く話が見えないね」


「だから私からなんとか言ってみるよ」


「そうしてもらえると助かるかな。少しは息が抜けるしさ」


 筋肉痛が酷いままようやく家に着いた。

 今日はもう休もう。風呂に入って飯食ってそのまま布団に飛び込もう。


「じゃあね」


 別れのあいさつを済ませ予定通りに自室に入る。癖になってしまったようでつい窓を覗いてしまう。河原に杼割ちゃんがいた。

 杼割ちゃんがいる。それなら行かないと。

 と若干ストーカー気味な反応をして家を出る。

 しかしどうしてだろう? 疲れているのかどうも本能に忠実になってしまう気がする、今なら思わず杼割ちゃんに告白してしまいそうだ。

 それだけは気をつけないと、ようやく少し動けたからと言って先走りすぎちゃいけない、久しぶりに動いたんだいそれで急ぎすぎてこけてしまうそうなったら本末転倒もいいところだ。


「こんばんは」


 通り道になぜか先輩が立っていた。


「なんでいるんですか?」


「いや、自宅でくつろいでいてふと思ったんだ」


「何をですか?僕への扱い方についてですか?」


 まあそんなわけないだろうけど。邪魔するって宣言されているくらいだし。


「そうだよ」


「へえそうですか。なら杼割ちゃんと同じように扱ってくれるとうれしいですけど」


「私は考えたんだよ」


 僕の申し受けを無視したまま話をはじめられた。


「このままじゃ君は来なくなるのかもしれない」


 杼割ちゃんがいる限りそれはないんだけど。


「君が演劇を好きになってくれればいつまでもいてくれるだろうけど。残念ながら君が好きなのは杼割だ」


「な」


「いまさら図星だったか。なんて白々しい言葉は言わないけどね」


 ばればれだったと。そんな行動とってたかな? 一日でばれたなんて本人にはばればれじゃないか。


「そうなると。杼割がいなくなると君はいなくなってしまうわけだ」


「そうですね。今のところはそうです」


 隠す意味なんてもうない。もうばれているのに隠すのは滑稽じゃないか。


「そうなると私としてはとても困るんだ」


「僕らの卒業より先輩の卒業の方が先じゃないですか?」


 杼割ちゃんの卒業は僕の卒業だし何を心配しているんだ?


「そうだよ。君らの卒業より私の方が先だ。でもそれより早く杼割はいなくなる」


「は?」


 いなくなる? 転校? いやそんな話聞いていない。おじさんも転勤するような仕事でもないじゃあなんで?


「そうなると困るんだ。私の居場所がなくなる。好きな演劇ができなくなってしまう」


「いやそんなのはどうでもいい。杼割ちゃんがいなくなる?」


「ああ」


「なら僕の邪魔なんかしてる場合ですか? 杼割ちゃんをひきとめるのが先じゃないですか!」


「残念ながら無理だ。そしてそれが私が君を邪魔する理由だ」


 もう考えは追いつかない。演劇部の部員を減らさないために僕をひきとめているくせに杼割ちゃんがいなくなるのはひきとめない。さらに杼割ちゃんをひきとめる僕の邪魔をする。

 なんてあべこべで矛盾しているんだ。


「意味がわかりません」


「そうか。これでも説明した方だ」


「そうですか」


「じゃあ私は帰るよ」


 そう告げて混乱している僕をよそに僕に背向け歩きだす。

 気がつくと杼割ちゃんも河原から消えていた。

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