最終話
杼割ちゃんたちと別れ自宅に戻る。びしょぬれのままでは家にも入れないと誰もいないのをいいことに全ての服を脱ぐ。途中で誰が来てもいいようにタオルを腰に巻いて自分の部屋に向かう。
「お帰り。津久見夏彦君」
部屋の中には見知らぬ男がいた、いや女かもしれない。とにかく中性的な誰かが僕の部屋にいた。
整った顔に着物。つい今しがた消えた神を彷彿とさせる見た目の誰か。わかるのはあいつじゃない。
「うんうん、わかるよ君の警戒はごもっともだ。その警戒心は大事にしないとね」
戸惑っている僕に対して誰かはそのまま続ける。
「しかし無防備だ、セキュリティの話じゃないよ。ここの家はしっかりしてるその辺の空き巣には問題ない。言っているのは今の君だ私が強盗ならもう君は死んでいる。せっかく彼女もできたんだ大事にしないとね」
こいつ杼割ちゃんのことも知っている?
「うん知ってる知ってる。琴浦杼割のことだろう?」
本当に誰だ? 学校の関係者?
「違うよ。学校の関係者じゃない」
僕の心の声に返事をする。
心が読まれている? 本当に誰なんだこいつ。
「正解を言うと神様だね。さっきのやつみたいな急ごしらえと一緒にしないでくれよ? 私こそが本当の神様だから」
頭がおかしいわけじゃないんだよな。現にこうして色々知っているんだ。これが先輩が危惧していた心を読むってことか?
「うん正解。さらに言うと今この現状を作っているのは私だ。この世界と創作を混ぜ合わせたのは私だよ」
突然何をとは言わない。薄々思ってはいたんだ人の仕業じゃないんだってこれは人間の限界を超えている。でもそれがわかっていても流石に一気には飲み込めない。それでも……。
「何をいってるんだ……」
と言わざるを得ない。
「訊かなくてもいいじゃないか。わかっているなら」
さも当然のようにこちらの心を読む。
「追いつかないのも当然だとは思うよ。みんながみんなそうだったからね」
「みんな?」
僕以外にも会っている? 杼割ちゃん? いや先輩か?
「両方外れてるよ。でも一つだけ言うと君だけが特別じゃないって言いたいんだ。でも私に会えただけ君は特別だ」
「特別?」
ただただ鸚鵡のように告げられた言葉を繰り返す。
「そうだよ。君は他の人間と違う。特別な人間だ」
「それはない……です」
僕なんかより先輩の方がよほど特別ですごい人だ。今日のことも先輩がいなければどうにもならなく濁流に飲み込まれて死んでいたんだから。
「渡橋鵲は普通だよ。数十億の人間の中に当然のようにいるいたって平凡な人間だ」
「だとしたら僕は非凡なんだろうな。平凡よりもはるかに下だ」
「卑下するな。平凡より下の人間も平凡と同じくらいあふれかえっている。私が言っているのは上の話だ。平凡よりも上の天才」
「はじめて言われましたよ」
僕は優柔不断な平凡なんだから。どうあっても先輩より上はあり得ない。
「その優柔不断は勘違いだ。君は優柔不断じゃない。大事な分岐点で君は理想通りの答えを導き出せる。それを私は評価している」
「買いかぶりもほどほどにしてくださいよ」
「あの河原で琴浦杼割に声をかけた時
演劇部に入部した時
琴浦杼割を助ける時
あの偽物の神と対峙した時
川に飛び込んだ時
その大事な局面で君は迷ったかい?どっちにしようなんて迷ったかい?私が見た限り大事な場面の時は君は迷っていない。その積み重ねが君だけではなく琴浦杼割を助けたんじゃないか?」
言われればその通りだ。それでも優柔不断は変わらない。あれは選択肢がないからだ。
「そう思うならそれでいい。私は君を評価した。だから明かした。今の世界のこと私の正体全てを。さて」
と神様は立ち上がる。
「私はそろそろ帰るよ」
「一つだけ訊いても?」
「なんだい?」
訊かなくても要件はわかっているはずなのにこちらに合わせてあえて訪ねてくれる。
「なんでこんな世界にしたんですか?」
「簡単だよ神らしいと言えばそうだし人間らしいと言えばそうなってしまうが簡単なことだよ。飽きていたから」
とそれこそ平凡な答えを口にした。誰もが思ったことのあること。何も起きないことへのいら立ち。それを神も思っていた。
「人間ドラマはいつも同じで派手なのはせいぜい戦争でそれすらもいつも同じに見える。だから驚きとハプニングにささやかな予定調和を組み込んだ創作を混ぜ込んだ」
その言葉は僕に驚きを与えるのに十分すぎた。そんな中学生の妄想のような奇天烈なことを平然とやってのけた。
「がんばりなよ。主人公。君の物語はまだ始まったばかりだよ」
神はそう言い残して消えていった。




