第十一話
キャンプ場に着くと準備はできていた。改めてみるとよく運びきれたとほめてあげたい。テントにバーベキューのセット、椅子にテーブル、食器類今日生活するほぼすべてを僕が持たされた。
「夏彦は座っていろ」
「いいんですか?」
「重いもの全部持たせちゃったからね。料理くらいは私たちが」
「ありがとう」
杼割ちゃんの手料理が食べられるなら来る道の苦労も報われるな。
「帰りも荷物持ちだからな」
こうやって眺めるのもいいものだな。
とオヤジ臭いく思ってしまう。
エプロンはないが料理している姿っていいな。刃物を持っているのに何かいたずらしたくなる。
「夏彦」
「はい」
見すぎただろうか? エロい目はしてないと思うけどほほえましく眺めていただけだし。
「悪いけど炭に火頼む」
「はい」
これはしょうがないだろうな。二人ともできないだろうし、いや先輩は難なく火をつけそうだ。
あれ? 火ってどうやってつけるんだっけ? 炭の置き方とかあったよな。確か風が通りやすくだっけ?
と四苦八苦しながらもようやく点火。
「ぎりぎり及第点か」
「すみませんね。手こずってしまって」
「でもありがとうね」
「次はもうちょっと頑張るよ」
ようやく食べる準備が整った。
「一通りキャンプっぽい食材をそろえてみた」
「それはいいですけど多すぎないですか?」
豚鶏牛肉、海や川の魚介類、キノコ、野菜、麺類、フルーツ、デザート。メジャーな食材の博覧会だ。とても三人で食べる量とは思えない。
「今日と明日の二日分だ」
「それにしてもこれはね」
と杼割ちゃんは食材だけでもうおなかいっぱいという感じだ。
「何も全て食べなくてもいいさ。好きなものだけ食えばいい」
「余ったら?」
「捨てはしない」
「全部食べるんですか?」
「そりゃあな」
腐らないだろうか? 食も細そうだし大丈夫なのか?
「とりあえず食べますか」
いただきます。と三人で挨拶をして各々好きな食材に手を伸ばす。
僕は肉に手を伸ばす杼割ちゃんは遠慮なのか本当に好きなのか野菜から先輩は魚に手を伸ばす。
焼き始めるとやける匂いに食欲が刺激される。ついつい色々な食材に手が伸びる。気が付くと杼割ちゃんが焼く係になっていた。
「野菜も食べないと駄目だよ」
「ありがとう」
これまたつい肉にばかり手が伸びてしまう。
「杼割。私にも何か適当にくれ」
「はい」
こうしていると誰が先輩かわからない。
「本当にこの人人気なの?」
「人気だよ。学校が始まったら鵲ちゃん見てみるといいよ」
「へえ」
学年が違うから校内であったことないな三年の教室には近づく必要もないしな。学校が始まったら行ってみようその時は杼割ちゃんと一緒に。
「怖い顔してるよ」
「本当に?」
どうしても顔に出ちゃうな。注意しないと秘密なんて作れないじゃないか。
「本当。何考えてたの?」
「三年の教室って怖いイメージがあって」
「それはわかるかな。他の学年って雰囲気違うよね」
「なんなんだろうね。あれって」
「イメージが膨れ上がりすぎるんだろうな」
と先輩が話に入ってくる。
「先輩もそう感じてたんですか?」
意外だ。物おじなんてしない人だと思っていた。
「いや全く。たった一二年先に生まれただけなのに何を偉そうにと思っていた」
イメージ通りだった。
「だから二人とも来てみるといい。自分と大して違わない連中だけだ」
そう言えるのはすごいな。先輩ってだけで委縮してしまうのに。変わらないか。
「違うのは一年に比べて化粧が濃いことだな」
本当にすごいな。尊敬しかけていた気持があっという間に霧散した。
食事も終わり。片付けも終わると早くも何もすることがなくなってしまった。
三人そろって椅子に座る。
本当に座るだけここ一月あまりほぼ毎日顔を合わせていたせいで会話が何も見つからない。
話題になりそうなネタは寧ろ話せない。本人の目の前でどうすれば付き合えるかなんて話せないし。どうしたら神様は杼割ちゃんを諦めるかなんて話もここでは無理。
「意外な弊害だな」
「そうかもね」
二人ともわかっているのだこの沈黙は一緒にいすぎたからだと、しかしそのままでも空気がどんどん重くなってしまう。
話さなくてもいい関係なんてそんなのはこの場じゃあり得ない。
自宅なら問題ないだろう。漫画……は今消えているけど、テレビがある。
無言でも間を持たせることができる。でも今はレジャー中だ楽しくわいわいがやがやが必要な場でこの沈黙周りの笑い声が恨めしい。
「トランプとか誰か持ってきてない?」
「一人暮らしだからな」
「私も持ってない」
「僕もない」
こういうときは誰かしらが持ってきてくれているから自分で準備した経験がない。帰りにでも買っていこうテーブルゲーム一式。
これは手詰まりか? コンティニューしないとだめ? キャンプの前に戻って何か買ってこないと駄目か?
「よしこういうときの定番はなんだ?」
「定番ですか?」
定番、何だろう? 意識したことはなかったな。昨日のテレビの話とか漫画やゲームか?
「恋バナとか?」
杼割ちゃんからとんでもない爆弾が投下された。
「いいな。それでいこう」
「でもそれって寝る前とかの話題じゃないですか?」
「そうなんだよね。それに男子のいる前でする話題じゃないし」
それは杼割ちゃんに同意異性の前でする話題じゃない。ましてや今誰が好き? なんて聞かれてもあなたですなんて言えるわけもない。
「それなら。誰が好きかは聞かないで理想の男子。でいこう」
「僕は女子ですよね」
「何を言っている。夏彦も理想の男子だ」
「僕に理想の男子はいませんよ」
「何も付き合いたい男子ってことじゃない。自分のなりたい男子像ってことだ」
「なるほど」
それなら確かにないことはない。話の流れが恋愛のせいで勘違いしてしまった。先輩のことだから勘違いするように話した。だろうけど。
「女子としては男子の前でそんな話をするのは恥ずかしい。だからまず夏彦からだな」
ならなぜこの話題を選んだのかと問いただしたいが杼割ちゃんもいるからここは素直に従う。
「目指すところは強くて優しい男ってところですかね」
「ボディービルダーのような筋肉美を見せつけながら看護師のように献身的か」
「気持ち悪い!」
チョイスに悪意がありすぎてどうしようもない。そんな看護師の病院行きたくないな。注射とか腕を突き抜けそうだ。
「でもそういうことだろ?」
「そこまでじゃないですよ。大事なものを守れるようになりたいってだけです」
「いいね。そういうの」
思ったより杼割ちゃんが乗ってきた。
「ボディービルダー看護師だったらどうしようかと思ったけど」
「それはもう忘れたいよ」
「なかなかの理想だと思うぞ。心も筋肉も強くありたい。そういうことだろ?」
「まあそうです」
身体と筋肉って似てるはずなのになんでこう想像すると全然違う気がするんだろう。かたや細めのマッチョでかたや筋骨隆々。なんでだろうな。
「杼割は?」
「私なんだ。そうだな」
と少し考え始める。一体だれを想像しているんだろう、もしくはどんな人を想像しているんだろう僕だったらいいな。
「夏彦君と被っちゃうけど気は優しくて力持ちな人かな」
「ボディービルダー看護師か」
「そうなるかな」
「いやならないって」
この二人にはなぜかボディービルダー看護師という謎の単語がヒットしたらしい。
「やっぱりそういう人の方が安心できるから」
「杼割は安心を求めるのか」
「求めるよ。危険な状況とかになっていたら助けてくれるって思えるのはやっぱりいいよね」
そう言って僕の方に瞬間視線をくれた気がする。
「なんか恥ずかしいねこういうの。ささ次は鵲ちゃんの番」
「私の理想か。寡黙で温かく金を持っている奴だな」
「へえ」
意外に普通だった。先輩だったらそれくらい見つけられそうだ。
「たとえるならATMだな」
「台無しだ!」
綺麗に終われそうな会話を見事にぶち壊した。
「そうだよせめて人であろうよ」
「そう言われてもな。人で表せと言われても寡黙ならきっと無機物だし温かいならそれは機械だ。それで金を持っているならそれはATMだろ?」
「そうだけど! 違うでしょもっとボディービルダー看護師みたいなのあったんじゃないんですか!?」
「ほらあんまり騒ぐから周りの人が見てるぞ?」
「ぐっ……」
こうして恋バナは終わった。酷い終わりざまだった。
もういい加減に寝る準備に入ろう。と先輩に言われ寝る準備をしているときふと気づいてしまった。
「僕もここで寝るの?」
僕はてっきり外で寝ると思っていた。夏だし寝袋に入っていれば寒くない。と思っていた。だが先輩と杼割ちゃんは何も気にすることなく僕の寝袋もテントの中に敷いた。
「嫌か?」
「嫌じゃないですけど」
テントの中で寝れるならそっちの方がいい。
「でも男女一緒にこの狭い中ですよ?」
「私は別に気にしない」
「私も大丈夫だよ」
あれ?僕がおかしいのか?
「夏彦は何もしない。そう思っているのだが?」
「夏彦君だからね。信頼してるし」
そう言われたら何もできないな、信頼って絆は全く頑丈なものだ。
「それで夏彦は真ん中でいいな」
「それはどうしてでしょうか?」
「悶々として眠れない夏彦を楽しみたい」
「外で寝ます」
こうして僕一人外で寝ることになった。
なれない野宿はなかなか眠れない寝袋が小さいのかこれが普通なのか狭くて身動きが取りづらい。寝袋をなぞる芝の音が耳について眠れない。
「はあ……」
寝袋から出て椅子に座る。
辺りを見てもほとんど眠っているらしく静かなものだ。空を見上げると家から見る物とは違う星空だった。
「夏の大三角ってどれだっけ」
「天の川を挟んでるのがアルタイルとベガそれでもう一つ綺麗な三角形になる星がデネブ」
「起きてたの?」
「寝袋になれなくて」
「わかるよ」
僕もだ。
と言い再び空を眺める。
「夏の大三角の星をなぞれば他の星座もわかるよ」
「えっとわし座とはくちょう座とこと座だっけか」
「そうだよこと座。私の苗字と一緒」
「琴浦だしね」
「だから私なんだ」
とぼそっと聞こえにくいように杼割ちゃんは呟いた。
「え? それって」
「知ってる?」
僕の言葉を聞かなかったように続ける。
「ベガが織姫星でアルタイルはね。夏彦星って言うんだって」
「僕の名前だね」
「うん」
どういうつもりで言ったんだろう、それを僕に言ってどうしてほしかったんだろう。僕にはわからなかった。




