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LOS  作者: 猪熊 狐狗狸
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プロローグ

 Full Dive in Technology、略号はFDIT。VRの上位互換ともいえるこの技術は、既存の頭部装着型VR機器による視覚、聴覚、味覚、嗅覚はもちろんのこと、仮想現実で受ける首から下の刺激をあたかも現実の肉体で感じるかのようなリアルな刺激として体感することができる。

 そう、貴方は屋内から一歩も出ることなく、空を飛び、海を渡り、山を越える体験をすることができる。鳥よりも高く空を飛び雲の上から地上を睥睨し、氷雪纏う高山の吹雪に凍え、澄み切った南海を色鮮やかな魚と泳ぎ、見渡す限り乾ききった礫砂漠で暑さに喘ぐことだってできる。

 何より、この世ならざる仮想世界に入り込むことで、現実世界ではあり得ない未知の体験を全身で味わうことができる。

 だが、その素晴らしい技術は誰もが気軽に享受できるものではない。

 FDITが如何程にお手軽でないか?

 簡潔にまとめるならば、「仮想現実にその身を投ずる時、現実世界の貴方の肉体は朽ちるかもしれない」という、賭けをしなければならないということ。

 『首から下』を仮想現実に投射する、正確には、『脳から下』で送受される電気信号を電脳世界とやり取りするため、人体上に専用のデバイスを構築する必要がある。人口脊椎は延髄に接続され、脊椎の間を取りなし、電気信号を外部に入出力させる。埋め込む手術は、いうまでもなくハイリスクハイコスト。

 とはいえ、医療技術の進歩とは大したもので、余程のハズレを引かなければ施術は失敗しないし、拒絶反応の確率もそう高くはない。万一、賭けに負けてしまったとしても、現代の義体は優れており、意識を読み取って本来の体の代わりを務めあげてくれるため、まったく動けず寝たきりという最悪の事態は避けられるだろう。車椅子など比べるべくもない機能性を持ち、ものによっては軽度な運動ぐらいなら出来るかもしれない。それだって無料ではないが。

 とにもかくにも、飛び出しそうな費用に目を瞑り、多面賽子を転がしある一面が上に来ない程度の確率に勝ち、四季が2度巡るほど医療関係者と顔を突き合わせながらおとなしく過ごせたのなら、晴れて貴方は、新世界への切符を手に入れる。

 ようこそ、素晴らしい仮想現実の世界へ。


 世知辛い現実世界よ、さようなら


———とは、なかなかいかないものだけれど。

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