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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一章]ハロー、異世界
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正常 or 狂い




 慣性でコンクリートの上を滑りながら、《プライング》は三機の《マーチャーE2》の前で停止した。チハヤはライフルの残弾をコンソールで確認するがまだリロードしなくて良さそうだと判断する。


三機の《マーチャー》が並んでいるがどれも装備が違っていて、細長いシールドを左手に、アサルトライフルは右手に持ち、左腰部にはサーベル型の実体ブレード装備というオーソドックスな構成のアルペジオ機。


『だんちょー。殿下とコックと合流したよー』


 一〇五ミリ口径の狙撃砲を持ち、両肩に小型のシールドと左膝に中型のシールドを増設し、右脚にはアウトリガーが増やされた狙撃仕様の《マーチャーE2》―――メイ・トリスタン機。


『チハヤユウキ。無理してませんこと?』


「貴女は……こうして話すのは初めて、だよね?」


『ええ、エリザ・ルクレールですわ。あなたの手がけた食事が美味で毎日の楽しみですの』


 メイ機と同じように肩にシールドを付けたエリザ機は八九ミリ口径の水平二連のショットガンを持っていた。マガジンも二つついており、二種類の弾頭を交互にかそれとも選択で撃てる散弾銃なのだろうか。あとは目立つ武装としては左腕にマウントした六〇ミリ口径機関砲とアルペジオ機と同型の実体剣を装備している。


「確か、最近来た新兵だっけ?」


 チハヤは確か二週間ほど前だったかなと思う。キッチンからの遠目だったが、十代中頃の銀髪ロングの少女だったはずである。


『エリートを付けて欲しいですわ。それに、貴方よりもリンクスに長けてます』


「そんな事言ってると死ぬよ? 元軍人の知り合い曰く、傲慢で高飛車な奴は戦場で真っ先に死ぬんだとか」


 ありとあらゆる作品で見られる死ぬパターンでもあるとチハヤは指摘する。


『チハヤー、不吉なこと言わないのー』


『そうだぞコック。でも一理ある忠告でもあるな』


 その会話にメイとベルナデットが口を挟んだ。


『敵機撤退を開始したようだ。追撃出来る機はすぐに追撃してくれ。深追いはするなよ。――チハヤは下がってくれ。予備部品そんなにないから機体を損傷させたくない』


 その言葉にチハヤは納得して、


「わかりました。どこに向かえばいいので?」


『そこから後方の管制塔の横に私たちがいるから、こっちに来い。アルペジオ、コックと来いよ』


『了解。チハヤこっちよ』


 先行するアルペジオ機に、チハヤは後を追った。




 それは突然だった。


 あと少しで団長達と合流できるところだった。


 コクピットに響くアラームと、


『接近警報。三時』


 ヒビキの声に、チハヤは思わずバックブースターを全開で噴かした。


 アルペジオのマーチャーは前へと飛び込んで“それ”を回避。


 二機の間に、一機のリンクスが巨大なハルバードを叩きつけながら割り込んできた。


 全体的に丸くずんむりとした機体で、大きい。マーチャーより頭一つ大きいだろう。頭部のスリットからモノアイカメラが二つ覗いており、どこか愛嬌がある。

 まあ、兵器たるリンクスにそんな表現は戯言に過ぎないだろうが。


 その敵機は《プライング》に視線を飛ばし、ハルバードを持ち上げた。そして、ブースターの奔流が噴き出して急接近する。


 《プライング》は更に下がって距離を取り、急上昇。さらに前に出て反転しながら敵機の直上を通過。右手のライフルを敵の背中に発砲する。


「……うそでしょ」


 放たれた砲弾はほとんどが装甲に傷を入れるだけで弾かれていた。

 高威力らしい八五ミリの砲弾が、である。


『効くかぁ!』


 外部出力音声で聞き覚えのない女性の声が響いた。敵機のパイロットだろうか?


 敵リンクスは振り返り、ハルバードの切っ先を《プライング》へと向けて、


『我が名はフリーダ・ゲストヴィッツ! そこの四つ目―――』


 チハヤはそんな口上を聞き流して、左腕のアサルトライフルを発砲する。放たれたHE弾は敵リンクスへ当たり、メタルジェットをもって穴を穿つはず……だった。


『対象、装甲防御力は通常フレームウェポンの比ではないようです』


 ヒビキの無情な分析の通り、装甲にはよく見ないとわからないほど小さく溶融した―――正確には浸食したと思える痕しか残っていなかった。両手のライフルを短連射しながら呟く。


「どんな装甲ですか」


『超高密度、高硬度の複合装甲と推定。現在の《プライング》の搭載武装では―――』


『貴様! 戦場のルールを―――』


 敵リンクスがこちらに指を指しながら抗議の声を上げる。そんな声を無視して更に連射。


「……なんだかソフトエアガンで的撃ってる気分になってきました」


『現在使用中の火器では決定打になりえません』


「ほかに装備は……無いでしょうね」


 チハヤがそう言った瞬間に、視界の片隅に一つのウインドウが現れる。現在搭載している武器の一覧のようだ。右腕と左腕のアサルトライフル。それと―――。


『いい加減しろ貴様! 戦場の掟を知らないのか!』


 今も撃たれてるリンクスが、怒鳴り声を上げた。それに続いてアルペジオから通信が入る。


『……チハヤ? 貴方、決闘の申し出が出てるのだけど?』


「決闘?」


 時代遅れな単語が聞こえたチハヤは、アルペジオに聞き返す。


「戦争なのに?」


 ディス、イズ、ウォー。


『そうよ。騎士同士の一騎討ちのようなものよ。これ出されると、決着がつくまでどちらも手出ししてはいけないの。この世界の戦争のルール、と覚えて起きなさい。この間に向こうは撤退をするつもりね』


 アルペジオが簡潔に説明する。


『しかもフリーダ・ゲストヴィッツって……。じゃああの機体は《ナースホルン》ってこと?』


 両手のアサルトライフルの弾が切れしたのでリロードしつつチハヤは更に訊ねる。


「知り合いですか?」


『敵に知り合いがいるわけないじゃない。帝国の有名貴族の娘でで、リンクスのエースパイロット。重装型リンクス《ナースホルン》を専用機として戦う女よ。銃器が一切効かないリンクスって聞いてたけど、あそこまでなんて』


「……そう」


 大まかな説明を訊いたチハヤは、左スティックのボタンを押し、


「人を殺すのに、殺しあっているのに、この場で言葉を交わす事に意味なんてない」


『なっ―――』


『ちょっとチハヤ?!』


「そんなルールなんて、最悪負けた側が生き延びる可能性を孕んだだけの欠陥でしかない。逃がせばまた殺しに来るのでしょう?」


 そして、それでは何も守れない。失うだけ。

 チハヤはそう言いきり、右手のライフルを発砲した。




《プライング》は基地の広場へと踊り出た。それを《ナースホルン》があとを追う。


 チハヤは自ら操るリンクスの特性をある程度理解した上で、戦場をここに選んでいた。


 《プライング》はブースター用の高出力フェーズジェネレーターと大容量コンデンサ、大出力のアークジェット・プラズマ推進機―――ブースターに頼った高機動力が強みの機体だ。

 全身の各所に付けられたブースターは、爆発的で瞬間的な推力を平気で叩き出す。噴射してすぐさま逆噴射も可能とする《links》システムに支えられた反応速度と追従性。

 けれど、その推力は閉所で戦うには過剰すぎる。

 周りをよく見てなければ建物に突っ込みかねない、もしくは建物を倒壊しかねないほどだ。


 そのことを踏まえた上で、多少開けた広場を戦場に選んだのだ。


 《プライング》はブースターを噴かして反転し、《ナースホルン》へと銃撃を加える。効果は無いに等しいが、それでも相手の気を引くだけの効果はある。


『このアマ! 飛道具なんぞ使ってんじゃねぇ!』


 フリーダからの抗議をチハヤは聞き流し、残弾を確認する。

 右のライフルが一〇。左は二〇。


 《ナースホルン》を正面に捕らえ、後ろへとブースターを噴かした。相手が追い付けそうな速度で。


 《ナースホルン》はハルバードを大上段で構えてこちらへ最大出力で突撃を開始する。


 二機の距離はすぐに縮まり、


『接近警報』


 ヒビキの警告とともに右のライフルを敵リンクスへ投げ、左のライフルの照準をそれに合わせる。


 発砲。


 放たれた弾はライフルに命中―――マガジンに残された弾薬にHE弾が当たり、誘爆した。


『そんな小手先がこの《ナースホルン》に効くとでも?』


 それほど大きくない爆煙の中から《ナースホルン》が飛び出す。


「思いませんね。狙いは別」


 外部スピーカーに乗せるわけでもなく呟いて、右腕の機構を可動させる。装甲が動いて、柄状の部品を前にせり出しながら位置を再度固定する。


 本来は多大な電力を必要とする武器のエネルギーバンカー兼補助腕のそれは、今は別の格納武器に接続されていた。


 縦に降り下ろされたハルバードを右へのクイックブーストで回避。すぐさま左へのブーストで急制動を掛けて踏み留まる。


 右腕のそれを作動。柄状のそれから、オレンジ色のプラズマで出来た刀身が生成され、右から左へ振られた。


 《ナースホルン》は左腕を斬られながらも避け、距離を取る。


『が―――な―――何しやがった……!』


 痛そうな声が響く。プラズマの刀身はすでに消えており、発振器が覗いているだけで何が起きたのかわからないようだった。


 チハヤはこの装備なら敵の装甲を斬れると判断し、左のライフルを撃ちながら距離を詰める。


『残弾なし』


「パージしましょう」


 空になったライフルを投げ捨て、今度は左腕格納のプラズマブレードを展開。


 《ナースホルン》は右腕だけでハルバードを操り、突きを繰り出す。


 今度は左へ回避。左腕のブレードを右から左へ振る。


 今度は右腕を切り落とした。


 なす術を無くした《ナースホルン》に、《プライング》は再度突撃。両腕のブレードを展開した瞬間だった。


『プラズマブレードに深刻な障害が発生。パージします』


 ヒビキがそう言ったと同時に両腕のプラズマブレードの発振器が強制的にパージされた。


 パージされた柄状の発振器は黒煙を上げ始めており、もう使えない事を示していた。


『………こちらはもう丸腰。そちらももうタネは無し、か。この勝負―――』


 これを見ていたフリーダはそう切り出したが、チハヤは《プライング》を再度突撃させた。


 ブースターと併用した右膝の蹴りを《ナースホルン》の胸部へと叩き込み、転倒させる。


『ま、待て! こちらの話をき―――』


「聞きたくありません。相手に情なんて持つ理由なんか無いのだから」


 チハヤは外部スピーカーに出しながら、敵リンクスを左脚で踏みつけながら相手に言い聞かせる。


「逃がせばまた殺しにくる。殺さないとまた失う。殺さないと―――」


『照準警報、九時方向』


 ヒビキの警告に《プライング》はとっさに後ろへ下がる。


 正面を曳光弾が横切り、飛んできた方角を見る。


 ライフルを構えた敵リンクスが一機、こちらへ突撃してきていた。


 下がりつつ、右へ左へクイックブーストで回避しつつ物陰に隠れた。


『チハヤ大丈夫?!』


「大丈夫。相手は?」


 アルペジオの通信にチハヤは短く答える。


『この勝負預けるぞ、四つ目』


 フリーダのその声と共にブースト音が響き、小さくなっていった。


『……丁度味方に助けられて撤退してるわ。追撃は決闘だったから無し』


 そう、と言ってチハヤは通信を切ってコンソールを叩いた。


「何逃がしてるですか私の馬鹿っ!」



ここから完全ネタバレメタ空間、つまり、あとがき……!


などとはっちゃけたいのですが程々にしまして……


ここまで『平行異世界ストレイド』読んで頂きありがとうございます。


今回の戦闘パート、なにかBGMでも聴きながら読むと少し面白いかもしれますん(※誤字ならず)


私は、とあるゲームの主人公をテーマにしたような曲が最適だと思います。


どの曲か、と言われたら処刑用BGMの一つとだけと答えましょう。


もしくは処刑人処刑用か。



質問あれば受け付けます。


主に機動兵器 《リンクス》周りの設定なら……。


活動報告辺りで答える形になりますが……。



それではこれからもよろしくお願いします。

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