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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第四章]恐ろしいもの、作り上げたのは
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事件後



 《FK075 バイター》が引き起こした事件から、4日が経った。


 戦闘後すぐさま始まった救助活動も、増援として来た別の部隊へと受け渡し、基地へ帰って二日が経ったともいう。


 基地へ帰ってきた時点で、《FK075》が出した被害は想像を超えるものである事に間違いはない。


 レドニカ第四基地と、そこに駐屯していたオルレアン連合軍第五騎士団を始めとする部隊は文字通り全滅。メニヘテルの駐屯部隊も半数を失う結果となった。ここまでの被害だと、再編もままならないかもしれない。

 街の被害も相当のものであるのは言うまでもない。事件から4日経ったが、死亡者行方不明者は増える一方だ。既に万を超え、さらに二千を超えるかもしれない等と報道されている。


 フォントノア騎士団は結果的にとはいえ新人団員二名を失った。いつかの襲撃と比べれば少ないかもしれないが、将来有望なパイロットを失ったのは痛手の何者でもない。



 実質的な成果も、なかった。


 《FK075 バイター》がHALによって回収、封印されたからである。


 オルレアン技術研究所を初めとする研究機関が苦情やら文句やらイチャモンやら言ったものの、


『あれはコントロール出来る物ではありません。同じものを造り、この前以上の被害が発生してもいいと言うのなら私は止めません。貴方達研究者が自ら造りあげた化け物に滅ぼされるのを私は傍観していましょう』


 そのHALの一言で鎮まる。



 それと、HAL―――つまりはフレームウェポン運用母艦 《ウォースパイト》の今後についても説明しないといけない。


 HALは自らの艦、《ウォースパイト》を技研等に解析させないと宣言した。僕ことチハヤユウキと共に行動するが、連合軍としては行動しないとも。ただ、有事の際は協力は惜しまないという、ずいぶんと都合のいい要求をしたのである。


 わざわざオルレアン連合軍の偉い人(多分、中将とかそれ以上の階級の方)が来てまでHALを味方につけようとしたが、ここまで都合のいい事を要求すれば怒るのも時間の問題だった。


 とにかく、いろいろ話はあったのだけれど最終的には、


『では、ランツフート帝国とやらに向かいますか。チハヤユウキ、ありがとうございました』


「あぁ、うん。元気で」


 我ながらあっさり言ってしまったものである。まあこんな対応出来たのだって、最終手段はこうしますとHALの仕込み(説明)があったからなのだが。


「待って! 待ってくれ! いや、待ってください! その条件でいいのでこちらに居座って下さい! 帝国だけには行かないで! お願いしますから!」


 浮上を開始した《ウォースパイト》を止めようとして、結果的にHALの要求を呑んだのであった。


 まあ、こんな原理不明で浮く戦艦なんぞ喉から手が出るほど欲しいものだが、それ以上に敵国に渡したくないのは当然だった。それが判っていての要求であり、有事の際は協力が得られるのだから要求が呑まれるのは必然だったかもしれない。

 あの時の中将様の情けない顔は当分忘れられないだろう、うん。




 そんなこんながありまして、その日から四日後。



 宿舎のロビー一つを使ったヒュリア・バラミールさんとブリジット・アルドンスさんの出棺前日。明日には遺族の元へ遺体が飛行機で送られる。


「まだ居たんだ、カルメさん」


 マグカップ四つを載せたお盆を手に、僕はヒュリアさんの棺でうつ伏せているカルメさんに話しかけた。


「………………」


 返事は無い。

 ここまでへこんでる、もしくは落ち込んでいる人に対してどう接するべきか、なんて悩むのだけれど。


 さてどうするべきか、なんて思った先だった。


「……どうしたの?」


 少し上擦った声で尋ねられた。

 その問いには、すぐに答えられる。ここに来た理由なのだし、答えられない訳がない。


「戦闘前の約束を果たしに、ね」


 戦闘前の約束―――帰ったらココアを淹れましょう。そういう約束だ。



 棺の中には当然のようにその人の遺体が、と言いたいがそうも言えない。入っていないとも言えない。


 実のところ、《FK075 バイター》との戦闘であのプラズマキャノンで撃たれたからか、二人の遺体はほとんど残ってなかった。ほとんど、なので一部は奇跡的に残っていたのだけれど。あくまでもその身体の一部と思われるモノである。


 ブリジットさんは足の一部のみ。ヒュリアさんは右手のみ、とここでは話しておこう。詳細は言えないし、言うのはかなり抵抗がある。それなりにえげつない物を見てきた、聞けば信じられないような事をした僕ですらそう言いたくなる状態のものだった。



「戦闘前の、約束……」


 思い出したかのようにカルメさんは言う。


「そっ。形はどうであれ、帰ってきたからね」


 この言葉に、カルメさんはガバッと顔を上げる。目は少しばかり充血していて、さっきまで泣いていたようだった。


「ヒュリアは……! 死んだのよ! そんな約束なんて……!」


 その言葉は最もだ。言わんとしていることもわかる。

 彼女が生きていなければ、意味がないのだ。


 でも。


「これは、僕なりの心の整理。何もしないより、約束は果たしたとしたいんだ」


 そう言って、マグカップ一つを差し出す。でもカルメさんはなかなか受け取ろうとしない。


「約束を果たせないのは、ずっと心残りになるからさ。――――少し付き合ってくれよ。君もその一員なんだから」


 その言葉に彼女はやっとマグカップを受けとる。


「―――じゃあ、なんで四つなの?」


 素朴な疑問を聞かれた。確かにあの時は三人での通信だったのだから、一つ余分である。


「ブリジットさんの分。仲間外れは良くないだろ? はい二人とも(・・・・)、ココアだよ」


 そう言ってマグカップ二つを棺の上に置く。


 載せていた物が無くなったお盆を近くのテーブルに置き、自分の分のココアを口につける。

 しばらく僕が飲む音がよく聞こえるほどに静かで、他には何も聞こえない時間が過ぎていく。


 カルメさんは俯いたまま、ココアに口をつけようとしない。


「貴方は、泣かないんですか」


 しばらく飲んでいると、カルメさんから掠れた声で尋ねられた。短い付き合いだったとはいえ、それなりに親しくしてたのである。アルペジオやエリザさんといった面々は涙を流していたが、僕は表情変えることなく後ろでそれを見ているだけだった。泣かない方がおかしい。


「生憎、親しい人が死んでも、悲しくても辛くても、縫うような怪我を負っても泣く暇のない生活を一年近くしたもので。それっきり、悲しいと思えても泣くほど、なんて気分にはね」


 頭を掻きながら答える。驚くほどあっさり、ああ死んだのかと受け入れてしまうのである。


「貴女はまともだよ。僕が、イカれてる」


「………………」


「でもまあ、悲しいのは変わらないし、帰ったらココア飲もうもいう約束が果たせないのも辛い。―――だからこうしに来たんだ」


 ココアを飲みに、ここにいる。それ以上の、それ以下の理由もない。


「冷めるから、早めにね」


 正面、献花台の花を見ながら促す。沢山の花が積まれたそれは、いかに死んだ人達が期待され、親しくなり、思われていたかを示しているようだ。


 きっとこれから彼女らの昔話を聞いたりする機会があるかもしれない。その時、きっともっと話しておけばよかったと後悔するのだろう。


「……はい」


 やっと、カルメさんはココアに口をつけた。三口ほど飲んで彼女は、


「……少し、しょっぱいわ」


 味の感想を言った。


「塩少し入れてるからね。まだもう一杯もあるし、そっちはそこまでしょっぱくないかもね」


「もう一杯?」


「お二人の分。まさかこのまま置いておく訳にもいかないしね」


 そう言って、僕は棺の上に置いたマグカップを手に取り、ヒュリアさんの分のココアをカルメさんに差し出した。




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