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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第四章]恐ろしいもの、作り上げたのは
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終息



 連続したライフルの砲声が鳴り響く。


 《プライング》はすぐさまクイックブーストで避ける。それでも僅かに遅く、数発が被弾する。


『損傷クラス更新。警戒域へ突入』


 《ヒビキ》がそう警告する。チハヤの視界の片隅にある《プライング》の損傷を示す表示が黄色く点滅する。


 反撃で両手のライフルを撃つが、《FK075》はこれを避ける。


「……これじゃ、先手を取られ続ける」


 汗を拭って、後ろへ回り込んだ《FK075》を振り返って視界に捉える。


『六時―――』


 《ヒビキ》がそう言いだすのと、ライフルのマズルが光るのが同時だった。


 また、とっさに避ける。そして被弾。


 警告(ヒビキ)頼りでは、後手後手だ。


「反応速度の差……? AI故の超反応? 体力とかの制限の無し? どうしますか?」


 ライフルのマガジンを交換しつつ自問する。これが最後のマガジン。滑空砲は両方とも残り一発。


 敵機が左に回り込み始める。


 《プライング》も相手の左へ回り込むように動き、牽制射撃をする。


『十一時―――』


「―――っ!」


 警告音がなるよりも早く左へクイックブースト。


 さっきまでいた空間を砲弾が飛び去っていく。


 警告音が僅かに遅れている。正面なら見ている以上それなりに動けるが、それ以外は《ヒビキ》頼り―――。


「―――あ」


 そこまで思考して、ある手段が思い浮かぶ。


「《ヒビキ》。センサの警告音の情報、《links》を介して私に回せますか?」


 照準の警告はアラーム音と《ヒビキ》の音声ガイドで行われている。

 感知し、音を鳴らすというのは僅かなれどタイムラグが存在している。このタイムラグが僅かな遅れであり、向こうが先手を取れる差ではないか?


 なら、脳に直接、感知したという情報、つまりはその信号を送ればその分のタイムラグは減るはず、とチハヤは考えたのである。


『追加のプログラムをインストールすれば可能です。ですがパイロットの脳に負荷がかかります』


 《ヒビキ》は肯定したが、そのリスクを語った。


 追加のプログラム? そんな事、HALが言っていましたねとチハヤは呟く。


『パイロットの生命を守る措置です。こちらは最初のインストールデータよりもデータ量が多いため、生命の保証はありません。それによりパイロットの同意が必要です』


 まるで規定でもあるかのような言い方だった。


 モニターにはブレードを持って突っ込んでくる《FK075》の姿を捉えている。


 これを避けたとしても次の手は至近距離のライフル掃射だろう。


 遅れは、取れない。


「《ヒビキ》、そのデータをインストールしなさい」


『警告―――』


「いいからやりなさい!」


 チハヤはそう怒鳴り、ペダルを踏み込んだ。




『了解しました。―――追加データをインストールします』


 その言葉と共に、激しい頭痛がチハヤを襲った。




 《FK075》は右手のライフルを捨て、ブレードを持ち接近を謀る。


 牽制射撃しつつ、撃たれた砲弾を避け、急に動きが鈍くなった《プライング》へ、横凪ぎにブレードを振るった。


 左へ落ちるように、その斬撃を躱わす《プライング》。


 《FK075》は左腕のライフルをギリギリで避けた《プライング》へと向けて、掃射した。


 読めたとしても躱わせる距離でもないこれを、《プライング》は左肩と左背ののブースターを噴かし、右前方へ回転し落ちるような機動だけで避けてみせた。


『インストール完了』


「……思ったより、悪くないですね」


 左手で鼻を拭い、チハヤは左後方、斜め上にいる《FK075》をモニター越しに睨む。


 鼻から垂れた血が、気持ち悪い。

 ティッシュで鼻を塞ぎたいのを堪えつつ、左背の滑空砲を撃つ。


 《FK075》はこれをギリギリで回避。


 弾を撃ち尽くした滑空砲をパージ。


 下がりつつ両手のライフルをばらまくように撃つ。


 右、左と避けられてライフルを向けられ、マズルが光る。


 警告音も、《ヒビキ》の音声も聞こえなかった。代わりに形容し難い、向けられたという“感覚”がチハヤにはあった。


 躊躇いなく左へクイックブースト。


 放たれた砲弾は《プライング》に当たることなく飛び去っていく。


 また、《FK075》は接近を謀る。《プライング》が格闘戦が苦手だとわかっているような動きだ。


 《プライング》は振り返り、上昇しつつ距離を稼ぐ。


 高度計が面白いように上がっていく。放たれた砲弾を避けつつ、短時間で1000メートルまで昇っていく。


 振り返り、頭部を地面に向けて降下を開始。


 正面からの撃ち合い。


 どちらも左右へ動いて砲弾を躱わす。


 接近する二機。


 《FK075》はブレードを構え、《プライング》はそのまま接近。


 そして仰け反り、腰部バックブースターを全力で噴かして急制動。右手のライフルを《FK075》へ向けて投擲した。


 予想外だったのか、《FK075》はそれをブレードを振る形で弾こうとするが、僅かに遅れた。


 ブレードがライフルを両断するよりも早く、《プライング》の左腕のブレードライフルが火を噴き、ライフルのマガジンへと当たったのだ。


 誘爆するライフル。


 爆煙が視界を遮り、互いの姿を隠す。


 その煙を避ける形で《プライング》は再度急降下を始める。


 煙を抜けた瞬間、すれ違い様に右背の滑空砲を《FK075》に向けて射撃。


 左腕を掠め、ライフルをもぎ取った。


 姿勢を崩す《FK075》。


 滑空砲をパージ。脚を地表側へと向けて脚部と背中のブースターを全開で噴かしてまた急制動。


 左のブレードライフルを《FK075》へ向けて、ブースト全開で接近しつつ撃った。


 放たれた砲弾は《FK075》を的確に捕らえ、手足をもいでいく。


 マガジン内の砲弾を吐き出し、ライフルは動作を停止する。


 《FK075》は手足がもげ、前面の装甲がぼろぼろでもメインセンサは明滅していて、まだ壊れていないことを示していた。


 まるで生きているかのように、爛々と明滅させる。


 まだ無事なブースターで、《プライング》へ突貫する《FK075》。


「―――これは、殺された人たちの分です」


 そう言ってチハヤはブレードライフルを、《FK075》の中央、HALがここを壊して欲しいと言った中枢部へと突き刺した。




『秘匿回線、強制オープン。メッセージを受信』


 ライフルを突き刺した瞬間、《ヒビキ》が突然そんなアナウンスをした。


 秘匿回線? メッセージ? 誰から、とチハヤは困惑する。


 HALなら秘匿通信で話してくるだろうし、アルペジオを初めとする騎士団やオルレアン連合の人たちなら普通の回線でいいはずである。メッセージを送る必要などないのである。


 それに答えるかのようにコンソールに手紙の図柄が表れ、内容が展開、表示される。


 そこには日本語で、『私は人間が憎い。けれど私を壊した事に感謝します』と書かれていた。


 誰からのメッセージか、わかるはずもなく。


 どこから、と思っている内に《FK075》が自重でブレードライフルから抜けて、地面へと落ちていった。


 その残骸が地面に落ちた瞬間、無線が一気に称賛の声で喧しくなる。


 褒め称える声は、メッセージを疑問に思うチハヤの耳には入らなかった。




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