囮、包囲
《プライング》の右腕のライフルが、マガジン内最後の弾を吐き出し、動作を停止した。
自動的にマガジンを排出し、脇下に格納されたクリップのようなサブアームが展開。後腰部にマウントされた予備のマガジンを掴み、ライフルへと差し込む。
この間に左腕のブレードつきアサルトライフルと右背部サブアームに接続した155ミリ滑空砲を《バイター》に向けて発砲する。
『リロード完了。腰部、右腕の残りマガジンは1です』
《ヒビキ》が口頭で残弾を教えてくれた。
これで右のライフルはマガジン二つ分。左も同じく。背中の滑空砲は右が4発で左が5発のみ。
「ありがとうございます、ヒビキ」
礼を言いつつ、いざという時に使う分の弾は残りそうと思いながらもチハヤは視界の片隅に映った強過ぎるECMで役立たずなレーダーと地図を見る。
現在位置はスタジアムの二百メートルほど手前。
《バイター》は前方三百メートルの位置。残り五百といったところ。
陽動部隊ことラファール小隊は20分前後の戦闘で、かなりの消耗を強いられた。
現在戦闘続行可能なのは《プライング》と《マーチャーE2改》―――アルペジオ機とエリザ機、パトリシア機とカルメ機の合計五機。もう二機の《E2改》は損傷が激しくなり後退している。
と、言っても残りの五機も少なかれど被弾していて、全くの無傷ではなかった。
「―――こちらラファール00。ポイントD通過。もう少しでスタジアムです。準備はよろしくて?」
『ジェネット分隊、配置よし』
『こちらマスタング分隊。いつでもいいぞ』
『リバー分隊。こちらも問題ありません』
マリオン副団長、ベルナデット団長、リバー03の順で準備出来ている旨の返事が返ってきた。
なら、あとは《バイター》をスタジアムに誘き寄せるだけである。
「了解。ではこのまま行きます」
そう言って《プライング》を振り返らせて、ブースターを噴かす。
背を向けて距離を取るその姿に、《バイター》は撃っていた三連ガトリング砲を降ろし、すぐさま追撃をかける。
ミサイルポットが開いて五発のミサイルが放たれた。
『ミサイル警報』
《ヒビキ》の警告でとっさに反転。両手のライフルをばらまきながら下がり続ける。
三、四と落として、五発目が襲いかかってくる。
バックブースターが瞬間的に噴出して、一瞬の距離を放す。
ミサイルは《プライング》に当たる事はなくアスファルトへと着弾した。
爆発の衝撃と破片が機体を傷つける。
『脚部、損傷クラスは軽微。戦闘続行可能』
『大丈夫!?』
アルペジオから心配の声。
「かすり傷。見た目ボロボロだけれど、大丈夫」
落ち着いたチハヤの返事に、彼女は良かったと声を漏らす。
『流石にこれ以上援護厳しいわ。アイツ、動きが鋭くなってきてるし、アームの武装だけ向けて撃ってくるから迂闊に飛び出せれない』
パトリシアのその言葉の通り、《バイター》の動きは鋭くなる一方だ。ブースターの性能もあるだろうが、小回りも効いてすぐ避けられる。
最初の連携は上手くいったものの、数回もすれば向こうが対応してくるのである。《プライング》を狙う、と思わせてフェイントで誰かに飛びかかるなど有機的だ。
「なんとかもたせますよ」
そう言って、チハヤは機体を空に飛ばして、見下ろす形でライフルをばらまく。
その動きに《バイター》も続く。
クローが展開され、その刃は僅かに振動を始める。
後ろへクイックブースト。
クローは何も掴まず、空を切り裂いた。
次は《マリオネッタ》の左腕滑空砲と、背中に生えたアームが保持する散弾砲が向けられる。
発砲。
右へ倒れるようにクイックブーストして、側転しつつ高度を落とす。
左腕のブレードライフルを《バイター》に向けて単連射。
放たれた砲弾は敵機のコアを目掛けていたが、しかしシールドを持ったアームがそれを防いだ。
《プライング》はまた振り返り、スタジアムへと降下する。
スタジアムはテレビで見るようなそれと似ていて、中央に天然芝か人口芝かはわからないがグラウンド中央には何らかのスポーツが出来るだけのスペースと、陸上競技用のトラックがあった。その周りには試合を観戦する人の為の座席がぐるりと並んでいる。ブリーフィングでの話ではオルレアン連合側の大会の開催地としても有名な所らしい。
この付近は高いビルが建ち並び、リンクスが隠れるにはうってつけでもあった。《プライング》の位置ではわからないが、たくさんのリンクスが建物の影に隠れているのだろう。
これから砲弾の弾痕だらけになるのですよねー、等と思っていると、
『照準警報』
《ヒビキ》の警告が耳に入った。
とっさに左へ回避。
右上にいる《バイター》を見つつスタンドに着地。
座席を撥ね飛ばしながら滑り、グラウンドへブースターを噴かしつつ跳躍。
先ほどまで《プライング》がいた場所を、滑空砲の砲弾が二発穴を穿った。
グラウンドに着地。
「……人口芝なんだ」
撒き散らされたそれを一瞬だけ見て、正面を見て、
「―――きゃっ!」
視界いっぱいに広がったクローに驚きつつ、右前方にクイックブーストで潜り込む。
くるりと回りつつ背部の短砲身滑空砲を二発、翼部ユニットに撃ち込む。
翼部ユニットは内部で弾薬に引火し、内側から爆ぜるように自壊した。
《バイター》の《マリオネッタ》が左腕の滑空砲を横凪ぎに振った。
「―――っ!」
これは予想外で、《プライング》の脇腹へと当たり、機体は文字通り殴り飛ばされた。
チハヤは視界に姿勢制御のジャイロを投影させて、ブースターのみで姿勢を正す。
《プライング》は脚から着地し、人口芝を撒き散らしながらも後退。
目の前では《バイター》がひん曲がった滑空砲を捨て、ガトリング砲を構えた所だった。
秒間七〇発ものの速度をもって放たれた砲弾はもはや雨のようだ。
《プライング》はブースターのみで跳躍して、それを回避。
両手のライフルを前に突き出して、左のライフルをガトリング砲に、右のライフルはアームが保持する武器の一つを撃った。
誘爆する銃砲。
手離して離れる《バイター》の《マリオネッタ》の頭部に左の短砲身滑空砲を撃ち込み、それを消し飛ばす。
メインカメラを潰された《バイター》は仰け反り、《プライング》はその隙をついて振り返り、ブースター全開で飛び抜ける。
「今っ!」
無線に合図を送った。
そして。
『各機構え!』
ベルナデット団長の号令が無線を駆け抜け、スタジアムの屋根に着地した《マーチャーE2型》や《D1型》、高いビルの屋上に大口径の滑空砲を構えたリンクスやミサイルポットを構えた機体が《バイター》へと照準を合わせる。
《プライング》がスタジアムで交戦している間にマスタング、ジェネット、リバーの三分隊の各機が付近の射撃ポイントに着いたのだ。
強すぎるECMでレーダーを狂わせ、姿を消していた全ての機体がここに集まっていた。
『撃ぇぇぇええ!!』
ベルナデット団長のその号令と共に、ライフルが、マシンガンが、ショットガンが、ガトリング砲が、滑空砲が、ミサイルランチャーがこれでもかと放たれた。
合計にして約七〇機のリンクスの全力射撃。
《バイター》は爆煙に飲み込まれ、すぐに見えなくなった。




