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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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Fall out⑫




『ダメだ! ストレイドと通信が出来ない!』


 《ウォースパイト》の艦橋にて、ノブユキの報告が返ってきた。


 ストレイド―――シオンの《アルテミシア》の再起動とその現象は混乱を引き起こしていた。


 識別信号は途絶したままで、熱源反応だけが頼り。


 通信は繋がらない。


 戦闘は遠くから観測した友軍機の映像でかの機体が健在であるのは判明したものの、彼自身の状態は不明だ。


 レーダーに表示される《アルテミシア》の反応と思われる熱源反応は、今まで見た事のないような高速移動を繰り返している。


 動かし方から見れば無事だろうが―――その戦闘は自身を囲う《ナハトノイン》のリンクスの殲滅に動いているようで、作戦目的を見失っているようも見えるのだから。


『了解です。ファットマンはミグラントの管制に集中してください』


『了解した! 全く、間食を口にする時間をくれ!』


 これ以上の情報は得ようがないとして、あっさりとHALが引いたのを聞いて、


「……無事、ならいいけど……」


 フィオナは不安げに呟く。


 一度機能停止したとはいえ、再起動したのは安堵した。


 怪我が無ければいいが、懸念する事がないわけではない。


 なにせ、彼が駆る《アルテミシア》は―――乗り手の脳にプログラムを書き込む特殊なリンクスだ。


『あれだけ動かすならシオンは無事だと思いたいですが……』


 HALも同じことを思っているのか言い籠る。


 機体の再起動という現象は、前例がある。


 いつか、オルレアン連合から脱走してその追撃部隊との交戦の果てに《プライング》は一度撃墜されている。


 そこからかの機体は再起動し―――一時意識不明の重体を負いながらも、結果としてチハヤ(シオン)は生還はした。


 チハヤとしての記憶を失うという代償を払って。


 それ故に機体の再起動という事象は―――二人にとっていい知らせではない。


 ―――また、私の事を忘れていないだろうかとフィオナの頭に不安がよぎる。


 キリヤ要塞の攻略作戦での劣勢を覆すべく、追加のシステム書き込みで一部の記憶の喪失と人格の変化を引き起こしてしまっている。


 再起動で、何が起きているかなんて―――考えたくもない。


『一先ず、当艦は前進しましょう』


「……大丈夫なの、それ?」


 個人が募る不安で沈黙しても、戦況は動き続ける。


 HALの大胆な決定にフィオナは理由を尋ねた。


 ミグラントの、飾りの長といえどそれなりに勉強はしている自負はある。


 《ウォースパイト》という軍艦は前線で戦うようには出来ていないし、《オルカ》の武装の一部は脅威だろう。


 どれほど戦況が好転しようが、後方で控えているのがいい艦種であるのは間違いないのだがそれを真っ向から否定する動きは良いとは思えなかった。 


 彼女からの問い掛けにHALは、根拠を述べ始める。


『《オルカ》の被弾率と損傷が拡大し、兵装が減っています』


 その指摘と同時に艦橋のモニターに二枚の画像が表示される。


 距離からして―――フレデリカが乗る狙撃機の《フィカス》からと思えし画像で、左は各兵装が稼動している様子が映っているが、右は装甲は焼けていくつかの火砲から煙が上がっている。


 HALの言う通り、ミサイルや砲撃の迎撃が間に合わず被弾が蓄積し戦闘能力を減らしつつある。


 そしてそれは現在進行形で進んでいる。


 《オルカ》に隠し玉が無ければ、そのうち武装の多くを機能停止して戦闘能力を失うだろう。


『そして―――あの兵器は単騎で突出している。……援護役の味方がいない兵器は決まって長くはないものです』


 その事に、例外はない。


 新機軸の兵器だとしても、新技術を投入した兵器といえど。


 数に限りがあるものはどうしようもなく、装甲も耐えられる限界はあるのだから。


『それに』


「それに?」


『《アルテミシア》は一度機能停止しています。そう長く戦えるとは思えませんし、戦闘終了後にここまで飛んで帰って来れるとも思えません。それなりに疲れも出るでしょうし、彼の帰艦に備えなくては』


 追加の思惑に、フィオナはそうねと頷く。


 HALの言う通り、《アルテミシア》は損傷している。


 防御力も怪しく、安定性を欠いている状態で戦闘するのは、乗り手であるシオンにとって疲れるだろうことは想像がつく。


 ならば―――《ウォースパイト》を前進して《アルテミシア》の帰艦に備えるべきだろう。


 その提案にフィオナは了承、艦の前進を通達したところで―――通信が入る。


 通信相手は―――《アクィラ・カスタム》を駆るクラウス・ウィングフィールド・ブシュシュテルから。


『こちらフリントロックリーダー! ストレイドから激しい怪音が鳴り響いている! 大丈夫なのかあれは?』




 ――――――




 警報を聞いてチハヤはフットペダルを踏み込み―――《アルテミシア》は旋回しつつのクイックブーストを二回吐き出して《ツィーゲンメルカ》の射撃を回避しつつ右へと回り込む。


 相手の視線を揺さぶる機動からすぐに敵機に向かってのクイックブーストと、左脚の脚撃を叩き込んで怯ませ、至近距離でのライフル二丁の射撃を叩き込む。


 回避不可の攻撃を胴体に受けた《ツィーゲンメルカ》は装甲にいくつもの弾痕を作って落下していく。


「―――三、っと」


 撃破した数を口にして、チハヤは一度機体を急降下させる。


 すぐに乱数機動を実行して―――残り四機となった《ツィーゲンメルカ》からの砲撃を躱していく。


 地表まで降下して、次に仕留める敵機を選択して―――すぐに道なりに加速。


 高速で十字路を右、左と交互に曲がって飛び抜けていき―――敵機の真下で跳ねるように急上昇。


 真上からの攻撃を小刻みなブーストで躱して、左腕のアサルトライフルを構える。


 下から上に通過すると同時に銃身下に取り付けられたブレードを振り上げ、敵機の左腕を切断。


 敵機の上を取ると同時に仰け反って宙返りしつつ頭上へライフルを向けて―――逆さまの姿勢でこちらを仰ぎ見る《ツィーゲンメルカ》を見る。


 トリガ。


 右手の八五ミリ口径のライフルがフルオートで発砲。


 至近距離で放たれた驟雨を、敵機は浴びた。


 砲口から吐き出された徹甲弾は上面装甲と非装甲部を撃ち抜いて―――コクピットの中身までも破壊していく。


 リンクスとして重要な区画を破壊された《ツィーゲンメルカ》は小躍りして、前のめりになって重力に引かれて墜落していく。


 一回転の宙返りを決めて、次に聞こえた照準警報に合わせてジグザクに上昇しながら後退。


 追いかけて来ている一機を一瞥してブースターを一度止める。


 推力の喪失と、重力に引かれるだけの落下。


 身体を捻り、機体そのものの挙動で姿勢を変えて右脚を後ろに回す。


 そして回転を加えながらの蹴りを繰り出した。


 急加速と急制動の高速戦闘から速度域の異なる機動に、敵機は意表を突かれ対応が遅れた。


 追加ブースターで重い脚部はそれだけで十分に破壊力を発揮し―――ツインアイタイプの頭部を文字通り潰してみせた。


 《アルテミシア》はそのまま蹴って小さく上昇。


 両手の得物を撃ち下ろし、胴体へトドメを刺す。


「これで五、と」


 あとは二機だ、と思考を口にして次の敵機を探す。


 一機は正面四〇〇メートルほど離れた位置に、主翼や安定翼を付けた飛行ユニット装備の《ツィーゲンメルカ》が距離を詰めに来ていた


 左腕にはガトリング砲と盾を合わせた武装を装備しているのが特徴だろうか。


 もう一機の―――翼状ユニットと脚部追加ブースターユニット装備の先ほどから交戦して生き延びているエース機は左方向。


 五〇〇メートルほど離れた所から距離を詰めに来ている。


 どちらも速度的に《アルテミシア》に近いのですぐに交戦距離に入るだろう。


 ―――先に飛行ユニット装備機を狙いましょうか。


 そう考えた所で―――一つの機影がスクリーンに移った。


 機体下部は白いものの、その背面側は淡い水色を主体とした迷彩を施した戦闘機のようなそれはチハヤが狙おうとした《ツィーゲンメルカ》へと突貫し、その近くで形を崩した。


 前進翼は基部から反転して後退翼に変化して、エンジンブロックは機体下部へと回転。


 さらに根本から反転し、折り畳んでいた足首から先のない下脚部を展開する。


 機首の上半分が持ち上がるように動いて、そのまま後ろにスライド。


 そうして残った部分は前へと折れ曲がるように動いてプレートメイルの兜に似た頭部が現れ、腕のない人間の上半身のようになる。


 それと同時に機首側部のカナード翼が折り畳まれ、その基部ごと横方向へ開き、内部に格納されていた五指のマニピュレーターを持つ腕部を展開する。


 機首の下半分が分離して―――右腕がそれを掴み取った。


 そうして戦闘機は―――歪なシルエットを有する人型へと変形を完了し、手にしたランス状の得物を《ツィーゲンメルカ》へと突き出す。


 動きからして―――味方だろうか。


 それはそれとして、帝国にも戦闘機から人型へ変形するリンクスがいたようだ。


「あの機体は―――クラウスの《アクィラ》ね」


 それを見てか、シオンが反応を示す。


「可変型のリンクス? 味方?」


「説明は後にするしちょっと違うけど、味方よ。頼もしい味方」


「なら。あの機体は任せて私達は―――」


 確認したい事を速やかに知って―――耳に飛び込んできた警報に合わせて左へ振り向きつつ、下がるようにクイックブースト。


「彼女の相手ね」


 翼状ユニット装備の《ツィーゲンメルカ》―――先ほどから交戦している生き残りだろう敵機からの射撃を躱して、左手に握る得物で反撃する。


 放たれた射撃を《ツィーゲンメルカ》はクイックブーストとロール機動で回避して、距離を詰めて―――右手に持った実体剣を振るった。


 《アルテミシア》は一撃目は後ろへブーストして避け、二撃目と三撃目を両手の銃剣で捌く。


 右手のライフルを横薙ぎに振るい、敵機を下がらせて左手のアサルトライフルを至近距離でフルオート射撃。


 この射撃を―――敵機は仰け反って降下しつつその射線から逃れて、左手に持ったアサルトライフルで反撃を行う。


 これもチハヤは左へクイックブーストで回避して、今度は両方のライフルを小刻みに連射していく。


 断続的な射撃を、敵機はクイックブーストを含む乱数機動で躱していく。


「―――やっぱり、この乗り手はより良く避ける」


 敵機の右へ回り込むように移動しながら射撃を加えつつ相手の動きを讃える。


 ライフル二丁の弾幕を機体の機動性だけで回避しきるのは難しい。


 それをやって見せれるのは乗り手に相応の実力がある証左だ。


 チハヤの感嘆にシオンが聞いてないのと前置きを置いて言う。


「実力主義の部隊に属してるのだから当然かも。それと私対策の訓練でも積んだか」


「私って、あなた対策?」


「そうじゃない? じゃなきゃ私の相手として立ちはだからないと思うけど?」


「一応、聞くけど市街地戦は嫌よね?」


 確認するようなチハヤの問い掛けにシオンは何を聞いているのか、当然よと頷く。


「もちろん。《アルテミシア》の加速力を考えれば当然でしょ?」


 戦うなら開けた場所か、空がいいという答えにチハヤはそうよねと頷く。


 シオン対策の訓練を積んでいる。


 ―――ならば。


「じゃあ―――」


「じゃあ?」


「こっちの戦い方はどうかしら?」


 一通り弾をばら撒いて―――弾切れになったのを確認してからチハヤは《アルテミシア》を東へ反転させる。


 自身を追わせる後退の動きに、《ツィーゲンメルカ》はすぐに追いかける。


 そのままブースターを噴かして―――降下。


 敵機からの射撃を乱数機動で躱しつつ―――両手の得物の弾倉を交換する。


 再装填を確認して、数々に並ぶビルの屋上が近づいたのを見て急制動を掛けて、前にクイックブースト。


 高さで言えば数々立ち並ぶビルの高さを三段階に分けたとして、その中間。


 高いビルに囲まれたビルの屋上の角を右へと蹴って速度はそのままに移動のベクトルを捻じ曲げる。


 左、後ろ、右とビルの壁面を蹴って繰り出される急機動に、敵機との距離が開いていく。


 周囲は高高さの異なるビルで囲われた狭いビル群の只中。


 下手にクイックブーストで加速すれば建物に衝突しかねないような空間だ。


 そんな環境で、二の足を踏まないのは難しいだろう。


 実際、敵機の動きは鈍くなっており―――この環境下での戦闘は想定していないかのようだ。


 ここでなら仕留めれるかと、チハヤは後ろへのクイックブーストからの左への急加速でビルの影に入り、一度敵機から姿を隠す。


 そのまま進行方向へ振り向いて加速し、反対側から飛び出して敵機をすぐに捕捉し直す。


 レティクルが《ツィーゲンメルカ》を捉えて―――トリガ。


 数発ずつの射撃は―――流石に回避された。


 すぐに距離を詰めに来るのを見て、チハヤすぐに《アルテミシア》を反転させる。


 一度ブースターを最大出力で噴かして距離を離して―――振り返りざまにライフルを発砲。


 後退しながらの射撃は乱数機動を以って避けられるし、反撃の射撃も当然セットだ。


 《アルテミシア》も乱数機動で躱し、応射を繰り返す。


 ビルで囲われたその場所を道路に沿って、またはビルを蹴って移動方向を捻じ曲げ。


 建物を遮蔽にして回り込んで、その影で上昇と下降を織り交ぜて。


 追撃戦、同航戦、交差を射撃をしながら戦闘を繰り広げる。


 三度目の交差を敵機から離れるようにクイックブーストで行い、一際高く見える高層ビルへ進路を執る。


 警報を聞いてチハヤはフットペダルを踏み込み、右、左、ロール機動と回避機動を繰り出す。


 「流石に適応してきますか」


 モニターに表示された背後の映像を一瞥して、ここまでのやり取りを振り返る。


 一度は動きが鈍ったものの―――相手は順応したのかその動きは市街地戦に入る前に近くなっている。


 そう簡単にはやらせて貰えないらしい。


 ふむ、と悩むチハヤの視線には―――ジェネレーターの冷却異常のアラートが入っている。


 残された時間もそう多くはない以上、交戦を長引かせる訳にもいかない。


「どうする?」


 それをわかっているからか、他に手はあるのかとシオンが口を挟む。


 無い訳では、ない。


 意表を突ける手は。


「こうする!」


 それをチハヤは躊躇いなく実行した。


 高層ビルの前で急制動。


 振り返って敵機に両手のライフルの射撃を浴びせて、その場で小刻みに乱数機動で応射を凌ぐ。


 更にはブースターを小刻みに、そして不規則に噴かせてゆっくりと高度を落とす。


 傍目に見ればブースターに異常が起きたかのような光景だ。


 簡単には引っ掛からないだろうが―――こっちは損傷機だ。


 無茶な機動の皺寄せが出たと思わせれる状況であり、引っ掛かる目は、ある。


 チハヤの目論見通り―――《ツィーゲンメルカ》の背部のプラズマ光が強く瞬き、増速。


 実体剣を振るおうと、構えるのを見て引っ掛かったとチハヤはほくそ笑む。


 距離五〇メートルで―――フットペダルを踏み込んだ。


 ブースターの出力全開の急上昇。


 まさかのフェイントに敵機は対応出来ず―――振るったブレードは宙を切った。


 しかし、何が起きたのか理解、予測は出来たようで―――すぐに追撃を開始する。


 ビルの壁面を登りながら、双方共に自らの得物を発砲し、各々の回避機動で躱していく。


 双方の速度ならば―――二〇〇メートルほどの高層ビルを登りきるのに時間は掛からない。


 《アルテミシア》は高層ビルを飛び越えて―――今度は地面に向かって加速する。


 一拍遅れて《ツィーゲンメルカ》も《アルテミシア》と同じように落下機動で追いかけており―――その左手のアサルトライフルを持ち上げる。


 コクピットに照準警報が鳴り響くのに合わせて乱数機動で背後からの射撃を躱していく。


 高度はぐんぐん下がっていき―――


 地表まで残り一〇〇メートルで脚を地面に向ける。


 逆噴射で急制動を掛けて―――そのまま()()()()()()()()()()()


 ビルのガラス面にぶつかる、躊躇いのない回避機動。


 背中からの衝撃とモニターに映る舞うガラス片を見て―――一機の影が目の前を降下していくのを見届ける。


 ―――やはり、ビルに向かってクイックブーストすると思っていなかったようだ。


 ぶつかれば速度が死ぬから。


 動きを止めることになりかねないから。


 だから機動力が活かせる開けた空間での戦闘を好む。


 ―――そんな相手の認識の裏を掻く一手を、チハヤは打った。


「これでトドメと参りましょう」


 そう言ってチハヤは両手の得物を脚の懸架ユニットに装着し、カノープスを手に取る。


 補助腕の接続はすぐに完了し、射撃可能を伝える。


 ビルに埋め込まれる形となった《アルテミシア》をクイックブーストで剥して―――空中で急制動したのかこちらを見上げて上昇を再開する《ツィーゲンメルカ》へと照準を手動で合わせる。


 時間はない。


 引き金を引いて―――カノープスの砲口がアーク光と火炎を生み出した。





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