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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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アブレヒト攻略戦㉒




 心臓が早鐘のように打ち始めたのがわかった。


 見るもの全てがゆっくりと色彩を失い、白黒になっていくのがわかった。


 音が遠くなっていくのが、わかった。


 聞いていた話―――リンクスに乗ってその精神負荷の脳への負荷の代償とその最後のいくつかと一致しているなと、《ラヴィーネ》の色褪せたコクピットの中でジェラールはどこか心あらずの姿勢で思いに耽る。


 ああ、これが自分の―――これまでリンクスに乗ってきた男達の最後なのかと理解するのも、時間の問題だった。 


 それが今、来たからこそ―――せめて、《オルカ》と呼ばれる大型兵器の防御膜の突破の足掛かり役を担う事を選んだ。


 そのために飛び出して、破壊目標たるプライマル・アーマー整波装置まであと四〇〇メートルまでに近づいている。


 モニターには人の形を模した超大型兵器―――《オルカ》からの迎撃の火線が映っており、その多くが自分へと向けられている。


 しかし、本来聞こえているはずの警報音が聞こえない。


 もうなにも聞こえないのは、もう自分がそういう状態なのだと。


 手遅れになってしまったのだと、現実を突き付けられた気分だ。


 でも不思議な事に、それでよかったという二律背反があって、その事に安堵を覚えている。


 警報音が聞こえていたら焦っているだろうし、プラムからの通信で自分の覚悟が揺らいでしまいそうだから。


 最後の仕事だと、フットペダルを強く踏む。


 聞こえない警報に頼らず、モニターに映る《オルカ》各所にある機銃のマズルフラッシュと曳光弾を見て、《ラヴィーネ》は損傷したその機械仕掛けの身体で乱数機動を試みる。


 右肩サブアームに保持した盾は正面に掲げるのみで、無闇やたらと動かすことはない。


 そのどれもが上手くいくようで―――敵から砲弾はどれもが近くを擦過するだけだ。


 視線の先ではプライマル・アーマーなる防御機構によって防がれる砲弾の炸裂が続くが、その数が増えてきている。


 自分が近づいた事により迎撃優先度が変更されて―――ミサイルや砲弾の迎撃が疎かになりつつあるのだろう。


 その事にジェラールは笑みを浮かべる。


 今、自分は大勢の役に立てているのだと。


 プラムの足手まといにならないどころか、大勢の勝利の。


 各々が夢見たものにより近づく一歩を、自分が担っているのだと嬉しくなる。


 ―――自分がもう見れないから。


 ―――海の向こうを見に行くという、プラムの夢と目標は達成できないけれど。


 それは多くの同志が道半ばで斃れている夢で―――なんとしてもプラムに叶えて欲しい夢でもある。


 だから、自分が一番危険な役目を担う。


 クオン解放戦線を壊滅させ、クオン公国跡まで辿り着いた彼ならきっと届いてみせるだろうから―――ここで死なせるわけにはいかない。


 そんな役目は、時間が無くなった自分こそ相応しい。


 やる事は一つ。


 単純で、透明だ。


 そう表現するには―――鉄と火炎と硝煙に塗れた中だけど。


 敵からの激しい迎撃は更に苛烈さを増す。


 被弾しているかどうかさえわからない。


 目標のループ状の整波装置まであと二〇〇メートルなのに。


 サブモニターの一枚に映されている機体の状況はほとんどが赤で、黄色の警告は残りわずかだ。


 これで飛んでいるのが不思議なくらいだ。


 それでも、と進む先で―――一つ白煙が生まれた。


 《オルカ》から《ラヴィーネ》を隠すように。


 途端にFCSが敵機の認識を解除してエラーを吐き出す。


 視覚的にも電波的にも遮断するジャミングスモッグ―――事前の打ち合わせで聞かされていた友軍の支援だ。


 一時的に捕捉を逃れられる妨害は敵味方を区別しない。


 この隙だ、と思いフットペダルを踏んで―――加速しなかった。


 何故、という疑問に機体が落下を始めたということが計器の数値の変動を以って知って―――ジェラールはそんなと愕然とする。


 目標の整波装置が上に離れて行くのを絶望視するジェラールの目に、《オルカ》の姿が映った。


 各部の近接兵装システムの砲口が自分に向けられたのを見た。



 ここまで来たのに。


 あと少しなのに。


 ここで終わりなのか。


 何も役に立てず終わるのか。



 ごめん、という呟いた声さえ聞こえない諦観の中―――今度は高度計が上昇を示す数値の増加を見せた。


 何が、と振り向くと尖鋭的な装甲を淡いピンク色で染めたリンクスが自機の足を大槍の峰部分に乗せていた。


 《シリエジオ》だ。


 どうやら落下し始めた《ラヴィーネ》の援護に《オルカ》の弾幕の中を飛び抜けてきたらしい。


 通信は聞こえない。


 それでも行動は示している。


 まだ終わってないと。


 ブーストと同時に大槍を振り上げて―――《ラヴィーネ》を打ち上げる。


 速度計は―――《ラヴィーネ》が今まで出したことのない四桁までに到達する。


 それほどの速度ならば―――二〇〇メートルなど閃光のように一瞬だ。


 ―――ありがとう、と。


 その言葉が出ているか、通信に流れているかわからないけれどジェラールはそう告げて―――前を見据える。


 右の操縦桿を押して―――《ラヴィーネ》の一〇五ミリ砲を持った右腕が持ち上がる。


 整波装置は―――既に目の前であり、衝突する方が早い。


 《ラヴィーネ》は一度ループ状の整波装置にぶつかり、右肩の盾を保持するサブアームで組み付き落下を防ぐ。


 ―――ここまで来てしまえば、FCSは必要ない。


 滑腔砲の砲口を製波装置に押し付け、引き金を絞った。


 接射で打ち込まれた一〇五ミリの砲弾は整波装置の外殻を貫き、内部の回路を粉砕してみせた。


 しかし射撃の反動は―――酷使され大破も同然の《ラヴィーネ》に耐えられるものではなかった。


 腕を捥がれ、反動で仰け反った《ラヴィーネ》は今度こそ落下を始める。


 砂嵐が酷くなったモニター越しに、《オルカ》各部の砲塔が自分を捉えたのを把握する。


 まるで自分がやったことを咎めるかのように。


 勝った、と思って―――彼は最後に周りを見渡す。


 目当ての相手はすぐに見つかった。


 クロークを纏った、右腕は不自然なほど大きく脚は四足動物の後ろ脚のように関節が多いリンクス―――《ラフフォイヤ》。


 その乗り手であるプラム・バラミールの視線と合わせるように―――かの機体は自分を見ている。



 ―――叶えてくれよ。



 届いたかどうかわからない言葉が―――最後だった。


 モニターが割れて、コクピットが火花を散らす。


 遅れて飛び込んできた()()()が自分の視界を黒く染め上げる。




 そして、ジェラールは青い海を見た。


 北の暗い青を見た。




 ―――




「―――!」


 《ラヴィーネ》が《オルカ》のプライマル・アーマー整波装置に一〇五ミリ砲を接射して。


 たった一発の反動に耐えられず、その腕を捥がれ落下して―――《オルカ》の近接兵装システムに撃ち抜かれて爆散するその光景をプラムは見た。


 一人の友人―――それも付き合いの長い人物の最後と、別れがそれだった。


 わかっていたはずだった。


 男がリンクスに乗れば、その多くがどうなるかなど。


 ジェラールは誰よりも長く乗れたが―――それは自分を除いてだ。


 結局、自分が残された。


 多くの同志を扇動して、死なせてきた自分が生き続けている。


 何度も突き付けられた現実に―――プラムは思わず、右の拳でコンソールを叩く。


 そんな最後は自分が相応しいだろうにと一人呻いて、すぐに首を横に振る。


 ―――まだ戦闘は終わっていない。


 彼の結果を知って、その次をやらなければならないのだから。


『―――状況は?!』


『プライマル・アーマーの大きな減衰を確認した! だが、まだ生きている!』


 状況を尋ねようとして―――聞く前にクリームヒルトとレアの通信が彼の耳に入る。


 見上げれば、空中で炸裂する砲弾は今や整波装置とほぼ同じ位置で炸裂を繰り返している。


 そのまま整波装置が損傷してくれれば良いのだが、そう簡単にはいくまい。


 ジェラールのその結果はプライマル・アーマーの無力化に至ってはない。


 しかし、大きく進んでいる。


 彼の犠牲が無駄にはなっていないことを意味している。


 ―――否、今からの行動のその成果が、それを証明する。


「―――プリスキン!」


 ポロト皇国から雇われた傭兵のTACネームを呼び、《ラフフォイヤ》を《オルカ》に向けて飛び出させる。


 一か所損壊するだけで大幅な戦果を出したのだ。


 整波装置を損傷させればプライマル・アーマーの無力化が狙えるというのは可能性ではなく、事実になったのだから。


『わかっている』


 言葉通りの意味だろう―――プラムの呼号に抑揚の無い声が応じた。


 遅れて、モニターに急上昇する淡いピンク色のリンクス《シリエジオ》が映る。


 かの機体はブースターを全開にして、平たい大槍を両手にしていた。


 かの装備が鎖鋸の様に回転する刃で対象を切り裂く装備だと聞かされているので、彼はおそらくループ状の整波装置の上側に向かうのだろうと見て―――プラムはそのまま下側の整波装置へと向かう。


 警告音に合わせて急加速と切り返し、跳躍を繰り返して地面を駆ける。


 支援のジャミングスモッグが時折散布されては、捕捉できない煙の中を飛び抜けて距離を詰める。


 必要な機動を必要なタイミングで使用して―――リング状の整波装置が頭上までに迫る。


 ブースターを噴かして跳躍。


 《ラフフォイヤ》の獣の足のような関節構造の脚は、基本的なリンクスの人間を模したそれよりも人工筋肉が多く使用されている。


 その恩恵として素の瞬発力は他のリンクスよりも優れていて、ブースターユニットの推力も加えれば尚更だ。


 迎撃の掃射の多くを置いてけぼりにし、いくつかの砲弾はクローク―――瞬硬式繊維装甲が受け止める。


 整波装置に肉薄して―――右の巨腕を突き出す。


 指先に装着された特殊合金製の爪が外殻を貫き、内部に侵入する。


 そこにある何かを握り、機体を持ち上げて整波装置に張り付く。


 貫いたそこに左手をかけて右腕を引き抜き、内部の配線を引き千切る。


 もう一度とその上にまた右腕を突き刺して、今度は左手を離して腰部に回す。


 そこに懸架していたリンクス用の手持ち式手榴弾―――今では使用されていない旧式のそれを手にし、各種ロックを解除。


 数秒で爆発するように予めセットされている手榴弾を最初に開けた孔に押し込んで、整波装置を蹴って離れる。


 自由落下を始めて―――すぐに爆発した。


 爆炎はすぐに晴れて、その結果をプラムに教える。


 整波装置に風穴を開けており、確かに損傷を与えていた。


 あとは速やかに離脱するだけだが―――デイビット(プリスキン)は? と上空へ視線を向ける。


 機体は見えなかったが―――リング状のそれが斬り取れたその光景が広がっていた。




 ―――




 ―――存外に難しいものだ、と乱数機動を繰り返しながら上昇していく《シリエジオ》のコクピットの中でデイビットは唸る。


 隠れる場所のない空中は左右に機体を振る以外にも、前後方向のみならず加減速も含めないと《オルカ》の近接兵装システムの偏差射撃の毒牙に掛かりかねない。


 しかもリング状整波装置の上側に向かうのに上昇し続けなければならないのだから、減速も一工夫必要で、左右ならまだしも上方向は一歩間違えれば砲弾の驟雨に晒される。


 ―――これをチハヤ(シオン)は幾度も繰り返してきたと思うと、その苦労は察するに余る。


 それでいてよく捌いたなと引きつつも、デイビットは《シリエジオ》を踊らせ続ける。


 上昇しつつ左、右とクイックブースト。


 速度を一瞬だけ上げて、後ろへ一度下がって左へ急加速。


 クイックブーストによる右旋回しつつの急上昇を四回と左旋回急上昇を二回。


 それで―――二つあるリングの左上側に到達する。


 大槍型単分子カッター―――クサビマルを起動。


 セラミック製の微細な刃が高速回転を開始して金切り声を上げる。


 左下から切り上げる構えでブースターを全開にして突貫する。


 装置の大掛かりさに対して薄いリングに刃を当てて、火花を散らして進む。


 リンクスの全高よりも短い整波装置の幅をあっさりと飛び抜けてクサビマルを振り抜り抜き、機体も得物も切り返す。 

 

 削るという切断は、すぐに果たして見せた。


 ダメ押しと言わんばかりに後ろへクイックブーストして―――振り向くと同時に急降下。


 切り取った整波装置の残骸を文字通り蹴落として、脱落させる。


 プラムの方は、と下を見下ろして―――すぐにリングに空いた穴を見つけた。


 そして、離れて行くプラズマの奔流も。


 向こうは向こうで成功したらしい。


 これで、プライマル・アーマーが無力化されればと思い、急降下を始めて―――視界の端で閃光が走ったのを見た。


 その閃光は東から真っ直ぐ伸びて―――《オルカ》の後ろでリング状の整波装置と接続している部分へと突き刺さったのを見た。


 予定されていた《フィカス》の一五五ミリ口径電磁炸薬複合式投射砲の狙撃だ。




 ―――




 その時が来るまで待ち続けるのみ。


 狙撃手とはそういう存在だと、自身を狙撃手へと育成した憎たらしいティリエール教信者の教官に言われたことを思い出して、フレデリカは狙撃姿勢に移行させた《フィカス》のコクピットの中でその通りですわねと呟く。


 《ラヴィーネ》の特攻と、《シリエジオ》と《ラフフォイヤ》によるリング状整波装置の破壊は唐突に通達、速やかに実行された。


 そうすればプライマル・アーマーは無力化されるだろうと作戦本部は予測しているものの、念には念をというのが世の常だ。

 

 《オルカ》の後部にある整波装置との接続基部。


 ここを損壊させればより確実だろうというのがレアの推測であり、ここも攻撃する必要が生じた。


 少数で、かつ想定される装甲厚とわずかに展開されているかもしれないプライマル・アーマーを突破できる威力を持つ火器を装備しているのは―――この作戦においては《フィカス》が装備した一五五ミリ電磁炸薬複合式投射砲 《オリオンⅡ》ぐらいしかない。


 そうとなれば自分に白羽の矢が立つのは自明の理といえよう。


 アブレヒトの北東区からの砲撃を陽動として、護衛の《サザンカ》と共に建物の影に隠れながら都市内を大きく迂回し、《オルカ》から二五〇〇メートル離れた南東区の市街地に移動。


 適当な―――倒れたビルの瓦礫の山の影から頭部と観測用レドーム、《オリオンⅡ》を覗かせて、待つこと五分。



 そうして、時が来た。



『来たわよ』


 装甲を赤く染め上げた尖鋭的なリンクス《サザンカ》―――その操縦者であるカルメの報告。


 その言葉通りに―――サブモニターに表示されている《オルカ》を囲う、斜めにかつ正面で交差する二つのリングの内、左側の上と下で変化が訪れた。


 下では爆発が二回と細やかな光景が。


 上では整波装置が切り取られるというデタラメな光景が映っている。


 カルメの言葉にフレデリカは息を長く吐くことで応じる。


 肺の中の空気を出して―――少しでもブレを抑えるために。


 リンクスである以上、武器を保持懸架するのは機械仕掛けの腕でありそんなことは必要ないのだが、癖はそう簡単には抜けないしその方が落ち着くからこそ行う。


 オリオンⅡ内部のコンデンサは既に十分に充電しているどころか、プライマル・アーマーの状態がどうなっているかがわからないことに不安を覚えて過充電状態にしてある。


 正確には安全の為に本来の充電容量よりも少ない容量を限界値としているだけであって、その設定を解除したのだが。


 電圧の上限リミッターも解除済みで、砲身の寿命を延ばす名目で設けられた砲身内での加速度のリミッターももちろん解除済み。


 砲身から内部の電装品の耐久力を越える最大出力が出せる状態だ。


 静止目標とはいえ外せば終わりの、一発限りの大技。


 照準はレドームからの観測情報と《サザンカ》からの観測データから合わせられていて、既に目標に合わせられている。


 あとは光学センサが捉えた映像から風向きとその強さを読み―――右の操縦桿を僅かに傾ける。


 秒速四〇〇〇メートルを超えるだろう超電磁投射砲(レールガン)にどれだけ影響を及ぼせるかわからないが。


 これは感だと自分に言い聞かせて、微調整に少しだけ照準を左に再度調整。


 照準のレティクルは―――整波装置の基部中央から僅かに右にズレた場所に合わせられた。



 トリガ。



 ここと決めて絞った引き金の信号が、機体内部を駆け巡る。


 右腕を介してオリオンⅡの撃針を叩き、雷管が爆ぜた。


 燃焼した炸薬が一五五ミリの砲弾を押して―――砲身内部でコンデンサから解放された大電流が電子機器を加熱させながらも砲弾を莫大なローレンツ力をもって加速させる。


 リンクスほどの全長に達する砲身でさえ短すぎる加速距離でも、充分な速度を得るには十分だった。


 砲口から発砲炎とアーク光と共に飛び出た砲弾は―――次の瞬間には《オルカ》の背後、リング状の整波装置基部に到達していた。


 砲弾はそのまま直撃し、その運動エネルギーを以って浸徹。


 衝撃波で装甲もろともユニットを僅かに膨らませて、貫通してみせた。


『……着弾確認!』


 射撃後の警告で喧しいコクピットの中を、カルメの喜色に満ちた報告が飛び込む。


 続いて、《オルカ》本体各所で爆発が起き始めた。


 その多くは装甲を焦がすだけに留まるだろうが―――それはプライマル・アーマーが消失したことを意味している。


 これで当初の目標は達成だ。


「……もう、やりたくないですわ」


 大きく息を吸い込んで吐き出しながらフレデリカは呻く。


 たった一発だけだが、その一発を撃つのに使った気がかりや緊張、心労の方が彼女には堪えるのである。


 ともかく、すぐに《フィカス》を射撃姿勢から回復させて物陰に隠れさせて。


 警報が鳴りやまない機体の状況を確認するべくサブモニターを見て、


「ま、まずいですわ!」


 吐き出ているエラーを見てフレデリカは青ざめる。


 大電流を流して秒速四〇〇〇メートルを大幅に超える加速をさせた無茶の代償として、砲身内部の破損とそのものの無視できない歪み。


 電装系に関してもいくつかのキャパシタが文字通り吹っ飛んだらしく、オリオンⅡの射撃系と照準系が赤い表示を出している。


 極めつけは蓄電を担っているコンデンサで、こちらは爆ぜたようだ。


 総じて、コクピットを喧しくしていたのは火災警報であり、オリオンⅡの全損を意味している。


 リミッター解除の代償だ。


 このまま放置すれば爆発するのは目に見えているのですぐにオリオンⅡを強制排除(パージ)


 投げ捨てて、


「こちらラプア。レールガンを破損。これ以上の狙撃は不可能です。下がりますわ」


『こちらジュピターワン、了解しました。アップリケと共に後退を』


 報告して、ハルからの応答を聞いてすぐに後退を始める。


 遅れて―――自分の背後で爆発が起きた。


 《オルカ》からの狙撃地点への砲撃だろう。

 

 何秒か退避が遅れていたらと思うと―――ぞっとした。


 ともかく、《オルカ》やそれを取り巻く《ツィーゲンメルカ》から発見されない為に建物を遮蔽にして距離を取り続ける。


 大通りに出て左折―――北へ向かう。


 次の交差点で赤いリンクスがプラズマの奔流を撒き散らしながら飛び出して来た。


『ラプア……は、無事そうね』


 カルメの《サザンカ》だ。


「ええ。作戦が終わったらデザートを所望しますわ」


『相変わらずで安心したわ。このまま後退したいけど……』


 言い淀んだカルメの様子におや? とフレデリカは首を傾げる。


 《オルカ》のプライマル・アーマーは完全に無力化しており、あとは煮るなり焼くなりすれば巨大兵器本体も無力化できるはずである。


 聞こえてくる砲声が一層激しいが―――武装は強力でも物量で押せば、あるいは。


 どうされましたのと聞くと、ややあってカルメは答えた。


『いわゆる、本気モードって奴が向こうにもあって、って話よ。―――あなたにもまだ働いて貰わないと』


 どうやら前線で狙撃手をして欲しいらしい。


 その事にフレデリカは何も言わず、代わりにというように表嫌そうな表情を見せた。


 通信が相手の顔を見れないもので良かったと、内心で思った。



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