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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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アブレヒト攻略戦⑱




 轟音と、爆発と。


 それと同時に友軍の早期警戒管制機(AWACS)から提供されているレーダーから委員会の第〇九中隊の反応が丸々と消えて―――委員会の共通回線が一気に慌ただしくなるのは自明の理だった。


『なにが起きた?! 報告!!』


『て、敵大型兵器の砲撃です! 第〇九中隊の反応が消失!』


『都市一区画分を吹き飛ばしたのか……! 各隊後退! 建物の影に隠れろ!』


『建物ごと吹き飛ばしてるんだぞ! 盾にすらならない!』


『少しでも生き残る手立てだ馬鹿! やらなきゃ全滅だぞ!』


 攻撃の出所と、その結果を知っての混乱と―――退避という有効だろう対処の指示と実行が、レーダーに反応として現れる。


 通信で誰かが言うように砲撃の一射のみで一区画に展開していた一個中隊が位置関係なく全滅しているのだ。


 物陰に隠れた所で直撃してしまえば焼石に水だろう。


 それでも生き残るべく執るべき対応として動く。


「―――ミグラントのリンクスが二機。それもストレイドが撃破された状況に加えて、これか」


 その状況を《マティアス・ランツフート》の甲板に立った《ラフフォイヤ》の暗いコクピットの中でプラムはメインモニターに映る黒煙や通信、レーダーから把握して淡々と呟く。


 前線から一個中隊規模が消えた今、空いた穴に敵部隊が流れ込んでくるのは自明の理だ。


 埋め合わせをしようにも後方に控えていた戦力はともかく、他の補充も各戦線に引っ張られてもう余裕がない。


 後方からの増援もいないわけではないが、都市の外である以上はすぐに来るわけでもない


 この状況をどうするかは指揮官の手腕に掛かっているだろう。


『《マティアス》よりソユーズHQへ。当艦で待機中の一個中隊を前に出します。この間に再編成可能な部隊の割り当てを』


『助かる。―――再編成が完了した部隊は?』


『臨時第三三と三四小隊ぐらいしか……』


『リンクス二個小隊でどうにかなるか!』


 そんな混乱からの回復の最中。


『私は、ジルヴェスター・ランツフート。今の砲撃は見せしめであり、貴様らが辿る未来である』


 ノイズ混じりの音声がコクピットに流れた。


 それは国際チャンネルによる通信であることを表しており、


『我が最新兵器、《オルカ》の粒子装甲と各種防御兵装に敵う兵器など一つもない。―――貴様らはただひたすらに蹂躙され、消されるのみである。今、投降すれば寛大な措置を約束しよう』


 その通信に、委員会側の通信が静まり返った。


 まさかの人物からの投降の呼び掛けに泡を食らったのだろうか。


『通信はどこからだ?』


『こちらジュピターワン。通信の発信源は未確認大型兵器からです』


 すぐに発信元が特定された。


 プラムは重要人物が最前線に出ていることに後方に居ろとさえ思うが―――自分が言えたことではないなと肩をすくめる。


 ヴィルヘルムを見習えと言うと自分もか、となってしまうのでどうしても自分が指摘する立場ではないかもしれない。


 そんな自分の戯言はさておき―――彼の話は嘘だろうなとプラムは睨む。


 これまでの戦闘といい―――亡霊部隊の存在といい。


 寛大な措置なぞ建前なのは間違いない。


 なのに、どうしてか。


『ど、どうする?』


『止めとけ! あんなの嘘に決まってる!』


『でも、たった一射で一個中隊が吹き飛んるだぜ? それに敵正規部隊も健在だし……』


 状況は不利と見える要素が揃っているからか、委員会内の共通回線に弱気な通信が流れ出していた。


『各位、奴の話は聞くな!』


 ソユーズHQ―――クリームヒルトの制止の声が入る。


 聞くな、というだけでは効果はないだろう。


 士気が落ちかけているのだ。


 鼓舞する必要がある。


 なら自分がやるべきことは。


「こちら、ラインハルト自治推進委員会暫定代表、プラム・バラミール」


 意を決して、通信を国際チャンネルに切り換えて―――割り込んだ。


 《ラフフォイヤ》を《マティアス・ランツフート》の舳先に立たせながら、


「委員会、及び講和派勢力に告げる。ジルヴェスター皇太子の勧告を聞き入れるか否かについては個々の判断に委ねる」


『おい! いくらなんでもその宣言は―――!』


「この戦いは、委員会の発足が無ければ起こりえなかった戦闘であることを考えれば全責任は私にあり、この結果がどう転ぼうとも私の責任である。その選択をこの戦場にいる多くの者が選ぶというのであれば、民意として受け入れよう」


 ヴィルヘルムが自身が持つ権利を使って代表に据えた以上、その立場を以って宣言する。


 委員会はあくまでも合議制であり―――権力者のパワーゲームも無ければ個人の独裁もない。


 あくまで―――自分(プラム)は暫定で指定された代表でしかない。


 委員会の基本方針は、選挙で選ばれた人員で行われる。


 ―――なら、この場合の決断は個々が決めるべきだとして、制止は出来ない。


 だから、


「―――亡霊部隊の様に帝国本土の圧政の下、戦争の尖兵として活かされる未来を選びたいというのが民意であれば、私は受け入れよう」


 立場と言葉を以って、事実と起こりえる事象を提示して扇動する。


『………!』


『―――っ』


『―――亡霊部隊』


 亡霊部隊の一言に人々の息を吞む様子が通信越しに伝わってきたのをプラムは感じた。


 かの実験部隊の内容は既に委員会に属するもの全てに開示されている。


 帝国に滅ぼされた国の捕虜の、成れ果て。


 リンクスに乗せられている彼らがどうなっているかも、当然周知されている。


 そうなる可能性を知れば―――投降する事を躊躇うだろう。


 あとは。


「何を理由に委員会に属する道を選んだのか、思い出して欲しい。―――それは出身によって違うだろう。一人一人で違うだろう。少なくとも、戦争で使い潰される未来を選ぶために委員会に入ったわけではないだろう」


 各々の始発点が何かを問いかける。


 委員会に属する多くの者が何を理由に戦うのかは大方決まっている。


 帝国に攻められ、奪われ、滅ぼされて―――属領にされるだけ。


 一部を除き復興は自分達だけで行うしかなく、されど進まず。


 放置かと思えば軍と警察の監視の下で帝国の意に従う治政となる。


 それならばいっそ、自分達の国を取り戻す算段を付けよう―――それが、大多数の意思で。


「現状を変えると決意して、ここまで来たはずだ。死んでいった仲間たちは―――ドルトに居たヴィルヘルム殿下たちはそれを信じて、我々と戦ってくれだはずだ」


 その為の活動だった。


 その妨害に抗う為の戦いだった。


「―――それを無駄だったと。徒労にする結末を、俺は選択したくない。君達はどうだ?」


 人の中に燻るものを焚き付けるだけの言葉で。


 これから多くの人命が失う理由になる通信に、プラムは扇動だなと思う。


 革命家(泥酔者)らしい演説ではあるか。


 同じことを思ったのか―――


『扇動だな、プラム・バラミール』


 意外な人物―――ジルヴェスターから国際チャンネルで話しかけられた。


 帝国における現皇太子。


 いかな経緯だとしても次期皇帝を約束されている男からの通信に、プラムは動じず頷く。


「焚き付けることを煽動というなれば、そうだろうな」


『勝てば官軍だが、勝ち目のない状況では無駄死にさせるだけだぞ? 扇動家』 


「生憎、未来はわからんものでな。―――勝ち目がない訳でもない」


 データリンクで共有された《オルカ》だろう兵器の情報を流し読みしつつ答える。


 ストレイドの《アルテミシア》が装備するレールガンの砲弾が不可知の防御フィールドを突破しているのだから―――無敵ではない。


 つまり抜け目はあり、勝ち筋がある。


 全体的な状況は不利でも友軍は敵の攻勢に持ち堪えていて、負けたわけではない。


 まだ、勝敗がわからないなら、それは諦める理由にはならない。


『見る目がないな、貴様も反動勢力も』


「見る目はあるだろうさ。―――彼らはここまで来ている事がその証明だ。それに―――」


『それに?』


「この戦いの結果問わず、俺にはこの責任を取る義務がある」


 はっきりと口にする。


 いつか―――委員会を立ち上げた時から決めていたことを、プラムは口にする。


「帝国の今後を決める長い活動の結果として、どちらも沢山の血が流れるだろう。勝とうが負けようが、その責任は戦闘という状況に落とし込んだ長にある。後の選挙で代表に当選し激務を担うか、そうならず落とされるか。捕まって断罪されるか―――」


 おおよそ考えられる長としての結末はそれだろう。


 これら以外にもあるだろうが―――プラムにはそれぐらいしか思いつかない。


「それが俺の責任だ。―――ラインハルト自治推進委員会を発足させた当人が背負う責任だ」


 自分に訪れるだろう結末に対して身構えていることをはっきりと口にする。


「―――主戦派貴族の傀儡に等しいあなたにも、この戦いの責任を背負う覚悟はあるだろう?」


『―――減らず愚痴を! 抵抗を決めた連中諸共叩き潰してくれる!』


 返ってきたジルヴェスターの返答と切られる通信に―――どうも煽ったらしいことに気付く。


 かといって彼にその事自体に興味はない。


 一番気にしているのは―――自分の発言で友軍にいい効果が出れば、ということだけ。


 その結果は果たして、


『―――お、俺は!』


 誰かの―――相応に年を取ったような、低く霞んだ男の声が通信に入った。


『王に見捨てられた自分の故郷を、それでもと戦って守れず失って。子も妻も殺された一兵士だ。―――どうしようもなくなって、生きる方法がなくなって野盗に身を落としたろくでなしだ』


 その声と話に、ロベルトかと小さく呟く。


 確か委員会の新兵訓練課程の教官をやっているはずの人物だが―――どうやら前線に出たらしい。


 野盗に困ってるというよくある話で捕まえた、どこかの荒野で捕まえた野盗の内の一人が、彼だった。


 帝国領土内で出没する野盗の多くは彼と同じような経歴の持ち主でもあり―――


『―――そんなろくでなしの俺が持つ戦う技術と、過去が必要だと言ってくれた奴がいるんだ。それが未来を変えるんだって、言い張る奴がいるんだ』


 彼のように、軍属として戦闘経験のあるケースがほとんどで。


 実戦経験の少ない委員会では希少だからと、よく味方に引き入れていた。


 そして、故郷を失うという経歴は―――独立したい地域出身者を考えさせるにいい立場でもある。


 自分の戦いの終着点は、どのようなものがいいかを考えさせれたのだから。


『俺は! 俺のような道を間違える奴をこれ以上増やしたくなくて、そんなのが蔓延る未来じゃなくするためにここにいる!』


 故郷も妻子も失った男が見出した、自分がやるべき事。


 そのロベルトの叫びに焚きつけられたのか、


『―――そうだよ。俺達の間違いを、ここで正すんだ』


『わたしは先祖が出来なかった事をやるんだ!』


『あの兵器で生まれ故郷を失いたくないしな!』


『俺らの未来に、こんな戦いは要らないんだ!』


 自らを鼓舞する通信が、委員会の共通回線を引っ切り無しに駆け巡る。


 それは小さな火が大きくなって―――炎が燃え広がるように次々と。


 そうして、


『こちら第〇一二中隊! 次の指示を求む!』


『こちら〇七中隊! 反撃に移る!』


『こちら〇二三! 援護を求む!』


 部隊が動き出す。


 レーダーの反応が、それを保証する。


「―――頼んだぞ、みんな」


 そう告げて、通信を切り換えて状況の確認と、《オルカ》に対抗する作戦はと聞こうとした矢先、


『プラム・バラミール。すぐに《マティアス》から離れてください。次の標的はこの艦だ』


 通信チャンネルを切り換える前に、TF《マティアス・ランツフート》艦長のジャクソンの声が通信に流れた。


「―――何故そう言い切れる?」


『ミグラントから提供された映像を見ての予測です。《オルカ》の不可知の防御フィールドが持つ能力には限界があります。―――対抗手段に成り得る当艦の主砲は無視できまい』


 《アルテミシア》のレールガンは粒子装甲なる防御フィールドを突破して装甲に突き刺さっているのは周知の通りだ。


 砲弾に一定の質量と速度があればあるいは―――というのがジャクソンの見立てらしい。


 現状、それが可能なのはTFであり旧式とはいえ三〇〇ミリ以上の口径を有する主砲を持つ《マティアス・ランツフート》ぐらいしかないと相手が予想しているとしての対応だった。


 ―――委員会(こちら)側に《オルカ》に使われている兵装が何なのかという情報があれば別かもしれないが。


「だから先に護衛の一個中隊を艦から離させたな?」


『味方を生存させるには速さが命ですので。さあ、お早く』


「わかった。―――あなた達は?」


『艦内要員の多くは艦後方へ退避中です。我々も続きますが―――この艦からの指揮はもう出来ません。以降はソユーズHQと《ウォースパイト》からとなりました』


 ブリッジ要員も退避するつもりらしい上に、自分の演説とジルヴェスターとの対話の間に色々と動いていたようだった。


「手際がいいな」


『私個人、部隊として逃げることには一家言ありますからね。それでは』


「ああ、無事でな」


 そう言って、プラムは《ラフフォイヤ》を右へと跳躍させる。


 通常のリンクスとは違った、獣の後ろ足のような脚から生み出される人口筋肉のみの瞬発力は他の追随を許さない。


 一瞬で時速八〇〇キロメートルまで加速し―――落下を始める。


 防弾布をはためかせながら両肩に移動したブースターユニットが火を噴いて着地時の衝撃を緩和し、《マティアス・ランツフート》から離れるべく地面を蹴る。


 二度、三度と地面を蹴り、一キロほど西進した時だった。


 周囲が照らされたと思った次の瞬間に轟音が鳴り響き、やや遅れて衝撃波が機体を後ろから押し上げる。


「―――っ!」


 咄嗟に右へブーストして衝撃波が来た方角から隠れるように建物の影に飛び込んで右の巨椀―――そのマニピュレーターの指先に装着された爪を地面に刺して機体の固定として、伏せる。


 吹き荒ぶ衝撃波は一瞬。


 立ち込める土埃の向こう―――《マティアス・ランツフート》がいる方角には、一つの大きなキノコ雲が立ち上がっていた。


 かの乗員は無事だろうか、と心配して、


『―――ゴホッゴホッ……! こちらジャクソン。僕らは無事だけど、《マティアス・ランツフート》はもう戦えそうにないね』


 どこか気落ちしたような―――どこか呑気な空気が漂うジャクソンの声が通信に流れる、


 心配は杞憂だったらしい事に安堵しつつ避難をと急かし、聞きたい人物へと今度こそ通信を繋げる。


「こちらプラム。―――かの兵器への対抗手段は?」


『こちらソユーズHQ。言いたい事はあるが、それは作戦後だな』


 クリームヒルトのどこか我慢していそうな声が返ってきたことに、プラムはやはり悪いことをしたかなと思い返す。


 必要だったからと開き直るつもりでもあるが―――その是非は作戦後に問うつもりのようだ。


 事態は―――一刻を争うのだから。


『役者は揃った。―――《オルカ》撃破に向けた説明を、始めるぞ』




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