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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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アブレヒト攻略戦⑰




 《ストラトスフィア》からのレーダー情報から、二つの反応がほぼ同時に消えたのをフィオナは見た。


「―――え?」


 思わず、声が漏れる。


 消えた反応は、無視出来ないものだからだ。


『―――レグルス、及びストレイドの反応、ロスト』


 同じようにレーダーの情報を見るノブユキの声も割れている。


 二人も撃破されたという結果は見ていた者に衝撃を与えるには十分であり、特に―――東にいたその反応の消失はもっともあり得ないことだった。


 これまでの戦闘で、いかな状況でも切り抜けてきた人物と機体の撃破を意味するその光景は予想外でしかない。


 まさかの光景にフィオナは固まるも、レーダーは常に更新を繰り返す。


 該当する反応は消えたまま。


 《アルテミシア》を撃破したらしきナハトノインの部隊は、西から来た大型兵器と共に東へ前進を開始しており、すぐに戦闘に加わるだろう。


 それを通信で通達しなければならない二人が硬直しているからか、


『ジュピターワンより各位。敵大型兵器が前線に到達します』


 代わりにとHALの合成音声が状況を通達し、いくつかの情報がモニターの表示される。


 それは情報のない大型兵器の姿を捉えた画像で―――《アルテミシア》の戦闘記録だ。


 どうも戦闘中に得た情報をデータリンクにアップロードしていたらしい。


『ストレイドからのデータリンクにアップロードされた情報を部隊内、及び委員会にも共有します』


 少ないものの、情報が何一つないよりは。


 確かな情報共有の開始は、ノブユキを動かすには十分だったらしい。


『―――エグザイル小隊各位、ジュピターワンからのデータリンクは確認しておけ! それとストレイドとレグルスの救助に行ける奴はいるか?!』


 すぐに然るべき対応と救助の要請が飛び出す。


『レグルスに関しては―――委員会の部隊とナハトノイン? の一小隊が救助に動いて下さっているそうです』


『は? ナハトノインが?』


『正確には、イザベル・ゴルドベルクが率いる小隊です。どうも、イザベルなる人物がレグルスを自分以外に負けて死ぬのは許さないとか、なんとか』


 イザベルと名乗る人物が掲げるものはわからないものの、ライバル意識が拗れているのか。


 どうもかの人物は敵味方の立場を越えて救助に動いたらしい。


 通信の向こうで理解不能な行動にノブユキは呻き声を上げるが―――二人の会話はフィオナの耳に入っていない。

 

 彼女にとっての最優先は―――他の誰でもないシオン(チハヤ)なのだから。


「チ―――ストレイド……? 応答を―――」


『フィオナ。落ち着いて聞いて下さい。《アルテミシア》は撃破された模様です』


 震えた声で通信を試みる彼女に対してHALが現実を突きつけた。


『―――ですが、コクピットは構造上ジェネレーターの背後にあります。―――敵部隊の動きからしてやるべき必要な追撃はしていないと推測できます。現状、シオンの生存の可能性はあるかと』


 合成音声故の抑揚の無さがその無情さを際立たせるものの、その言葉の羅列は間違いなく彼の身を案じるものであり、フィオナの動揺を和らげようとする言動でもある。


 撃破されたものの死んではないはず、という推測でもフィオナの動揺と思考停止は和らぐものではなく、その思考は固まったままだ。


 取り乱して泣き喚かないのは―――その現実が浮世離れしていると思っているからで、


『ですが、反応消失地点は敵前線の向こうです。救助は厳しい。……コクピットをやられたフリをしていればよいのですが』


 HALの発言を聞いてはいても、その合成音声が遠く聞こえる。


 遠くともその意味は、彼女は理解は出来ている。


 一個人の救助など後回しにされても仕方ない側面はあるし、そう判断されても致し方ない敵陣地のど真ん中に墜落している。


 HALが指摘したように機体正面側のジェネレーターが破壊されただけで、コクピットが無事ならば撃破されたフリでやり過ごす他ないだろう。


 ―――シオン(チハヤ)がそれを実行していればいいのだが。


 そうしていれば、きっと生きている。


 フィオナはそう思い込んで―――なんとか息を吸い込む。


 迎えにいくにしても―――戦闘を自分達が望む方向に終わらせなければいけないのだから。


「―――他の、状況を」


 それで立ち直ったとは言い難いものの―――大丈夫なのかと言いたげなエアリスとサイカの視線に目を見るだけで応じて、ミグラントの長としての仕事に戻る。


 手元のモニターを操作して―――シオンが辛うじて収集し、データリンクに流した件の大型兵器の画像と映像を見る。



 それは付近の建物が小さく見えるほどに大きい―――全高は一〇〇メートルは超えているだろう巨大なそれは、人の形には倣っているように見えた。


 巨人と表現するには歪な形でもあり、人型とはとても言い難い。


 まず目に入るのは―――その巨大な機体を囲うように正面で交叉するように付けられた二つのリング状のパーツだ。


 その巨影を囲うだけにそれなりの大きさがあるものの、それ自体は機体のサイズに対して細いという特徴を見せている。


 脚は二本ではあるものの全体を見ても下脚部は細長く、空中で浮遊する為のバランス取りしか考えていないのか先端は人間の足のようなソールユニットはない。


 対して大腿部は前後に長く、脚の部位としては下脚部に比べて縦が短いように見えた。


 腰部もまた大腿部と同じように前後方向に突き出ていて。股関節を隠すように装甲化されている。


 後腰部には大型の球状のユニットが取り付けられているのが見える。


 腹部から上半身に掛けては前傾姿勢のような形状で後部は左右に大きく張り出している。


 その張り出した部位の右側には太く長大な砲身が装着されており、左には各種センサーとレーダーの複合ユニットなのかレドームが回り、レンズがいくつも付けられた円盤が正面に向けられていた。


 人間でいう所の頭は後ろよりの位置にあって、六角形のコンテナのようなものが取り付けられている。


 腕部は関節構造は人間のそれに順守はしているものの、肩側面には二連装砲。


 側面にはミサイルハッチや対空機銃が備えられている。


 マニピュレーターは機体のサイズ故か四本の指状のクローアームとなっており、その中心には大口径の砲口が三つ 見えた。


 胸部には一機の人型兵器が下半身を埋めた状態で組み込まれていてその周囲を四基の砲塔が囲うように配置されている。


 四基は重厚な基部を有していて、左右に何らかの火砲を装備している。


 その中央にはリンクスやマリオネッタと大差ないサイズの、白く煌びやかな機体が鎮座していた。


 湾曲した装甲はエンブレーミングが施されていて、どこかの物語に出てくるような甲冑騎士に見える。


 右手には騎乗槍に似た武装を持っていて、左手には光学センサらしきレンズが覗く円盤状の盾を保持していた。



『これが件の《オルカ》なる兵器でしょうか?』


 HALも同じ画像を見ていたのか、疑問を口にする。


 疑問なのは《オルカ》なる兵器の存在は聞いていても、その情報が何一つないからだ。


 あるのは、エルネスティーネ少将救出作戦で遭遇した砲撃の弾速と口径と―――使われた砲弾の威力だけ。


「HALはどう見てる?」


 兵器には詳しい―――特に、リンクスの操縦システムたる《linksシステム》で動く兵器が存在した世界の出身である人物が何か知っていないかと尋ねると、HALはデータベースと照合している最中ですので画像からの分析になると断ってから 


『―――背部から伸びる砲身はエルネスティーネ少将救出作戦での砲撃に使われたと思わしき口径に近い、と見ています』


「砲撃、って基本後方からやるものでしょう? 前線に出る必要あるの?」


『あの兵器はそれだけが役目ではないのかもしれません』


 映像を閲覧してください、とHALに促されてフィオナはコンソールを操作して転送されてきた映像を再生する。



 映像はシオン―――《アルテミシア》の頭部光学センサのものだろう、周辺の鮮明な風景が一瞬で霞んでは元に戻りを繰り返し、爆炎が見えては映像が小さく揺れる。


 かの巨大な兵器へ超電磁投射砲を撃つも、その砲弾はループ状のユニット程の距離で波紋のようなものを発生させて外殻に突き刺さって()()()


 ほぼ同時に放ったらしい分裂ミサイル―――六発の子弾は逆にループ状のユニットの前で、なにかにぶつかったかのように自爆した。



『ループ状のユニットに何らかの機能が搭載されており、機体を保護していると推測しています。《アルテミシア》のレールガンでさえ装甲の防御力で防げるほどに減衰させる能力からして、相応の防御性能はあるようです』

 

 HALの分析と同時に、砲弾が撃ち込まれたタイミングを細かに切り取った画像が手元のモニターに表示される。


 確かに、カノープスの威力は大抵のリンクスを穿つほどに高威力だが、映像では装甲を貫徹しないほどにまで減衰されている。


 それに加えて、何もない空間でのミサイルの爆発。


 弾頭が何かにぶつかったような変形を見せてからの自爆なので何かがあるのは間違いないだろう。


『当艦のデータベース上ではマイクロ波による防御兵装と類似している、と分析しますが……。実際のところどういう仕組み、プロセスによるものかはわかりませんね』


「委員会から何か情報が出て来てくれればいいけれど……」


 結局は情報待ちだ。


 ただ、情報はもとより委員会から次の指示も来るだろうと踏んで―――フィオナは隣に控えるHALのセントリーロボットへと振り向く。


「HAL。―――残るエグザイル小隊の状況は?」


『プリスキン、アップリケ、ラプアの三人は健在ですが、各地に散っています』


「すぐに後退、集合させても大丈夫そう? ―――きっと、敵大型兵器との戦闘に駆り出されると思うから」


『そうなると見て、先に後退させています』


 フィオナの動揺に指示が出せないと見ていたのか、既にその指示を出していたらしい。


 事実、該当の反応は補給地点まで後退している。


 自分が指揮困難になると見て独断でやったらしい。


 事態も事態なのでその独断は間違いではない。


 シオンに対する人質という側面を有するミグラントのリーダーにして《ウォースパイト》の艦長という飾りではあっても、据えられた役割である以上は自分なりに果たすつもりでもあったが―――どうも、すぐ復帰するとは思われてなかったらしい。


 実際、復帰しきれているかと言われたら否定しきれないが。


 小言を言いたいのを抑えて、その代わりに「流石」という称賛の言葉を口にして、


「ソユーズHQからは?」


 指示を出してくる場所からの命令を確認する。


 そろそろ指示が来てもおかしくないと思うが、


『ストレイドからの情報は既に共有済みですが、まだ何も』


 まだ情報の整理をしているのか、あるいは今置かれた状況に手一杯なのかまだ指示は来ていないらしい。


 思ってたよりも味方側の動きが鈍いことにフィオナは焦りを覚える。


「早く手を打たないと手遅れになるわよ……!」


 思った言葉を口にした矢先に―――レーダーマップの一角が豹変した。


 南部寄りの前線で―――交戦していた委員会の部隊の反応が突如として消失したからだ。


『委員会に属する第〇九中隊の反応が消失』


「な―――!」


 突然の消失と―――艦橋から見える、遠くのアブレヒトの城壁の内側。


 その―――やや左側で一際大きな爆発が見えた。


 《ストラトスフィア》のレーダー情報と一致する方角だ。


 エグザイル小隊がいる場所では無いのが唯一の救いかもしれないが―――二〇キロ近く離れた場所から見える爆発なぞ、ただ事ではない。


 幸運なのは残存するエグザイル小隊がいる場所ではないことぐらいか。


「なに、今の!」


『規模から推測ですが、敵大型兵器に搭載された大口径砲による砲撃と推測』


 それはつまり、ドルトにあった作戦当初の統合指揮所を跡形もなく吹き飛ばした砲撃が街の中に向けられたということだ。


 その結果は既にレーダーが示している。


 まるで、見せしめだ。


 歯を食いしばるフィオナに答えるように通信が入る。


『私は、ジルヴェスター・ランツフート。今の砲撃は見せしめであり、貴様らが辿る未来である』


 雑音混じりな国際チャンネルで、艦橋のスピーカーから低い男の声が流れた。




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