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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第四章]恐ろしいもの、作り上げたのは
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相談事



「ふんふんふーん」


 鼻歌を歌いながら、廊下を歩く。

 特にいいことがあった訳ではないのだけれど、鼻歌を歌うと気分が良くなるわけで。


 今日の訓練も程よく終わり、午後だけの待機するだけの業務も終わり、平和な日だ。《コーアズィ》は、ここしばらくはこの基地担当範囲外しか起きておらず、退屈でもあるのだが。


 後は部屋に戻って、コーヒーでも飲みつつ、本でも読もうかしらんと思っていたら。


「少しいいかしら?」


 ―――と呼び止められた。


 振り返ると、そこに赤みが茶髪のボブカットで、つり目の美少女が立っていた。


「うん? えっと、カルメ・カランカさんだったよね?」


 ヒュリア・バラミールさんと同じく、新しくフォンノア騎士団に配属された新人だった。

 確か国籍はストラスール国籍主体のフォンノア騎士団では珍しく、オルレアン連合第五位国、バセロック国の人だったと思う。

 噂では、バセロック主体の騎士団の採用枠に溢れただのと聞いているが、真実は知らないし、知る理由もない。


 しかし、この騎士団美女美少女ばっかりだなぁ、と思ってしまう。偏差値高いよ。


 さりげなく聞いた噂だが、騎士団所属リンクスパイロットの選考要素に容姿も含まれているとかあったっけ。

 その噂、意外にもそうかもしれない。


「そうよ。一つ、相談があるんだけど、いいかしら?」


「いいけど、僕でいいの? アルペジオ殿下やエリザさんとか副団長のマリオンさんとかがよくない?」


「別にいいわ。というかなんで話しかけヅライ人達しか上げないの? ―――むしろ貴方の方がいいのよ。ストラスール国籍の人じゃなくて異世界人なんでしょ?」


 なるほど、仲間外れな人で話を聞きたいわけか。


「貴方の部屋にお邪魔しても? ペアの人は大丈夫?」


「僕の部屋で相談か。四人部屋を一人で使ってるから問題ないよ。―――コーヒー二人分だなー」


 実質一人部屋。なかなか気が楽でいいですよ。


 そう言いつつリビングを通り抜けて、


「チハヤ! コーヒー入れなさい!」


「ごめんよ、メイドさん達に私たちの仕事取るなって怒られててよー」


 僕の部屋へ。



「汚いとこだけどようこそ」


 そう言って椅子を用意して、夜間にペットボトルの水を入れて沸かす。


 ドリッパーなりポットなりカルダモンなりカップなりを用意して、コーヒーを入れて、テーブルにカップを置く。

 こういう馴れたことはとても手際よく進んでいく。


 僕の部屋は言うほど汚くはなくて、それなりには片付けられている。

 一番目を引くものと言えば。


「机のそれ、新聞……かしら? それにノートもかなりの量ね」


 カルメさんの言うとおり、机には大量の新聞とノートの山である。


「読み書きの練習でね。フロムクェル語のない世界の住民だから、この世界だとリテラシーあんまりないのよ、僕」


 だからマリオン副団長やらゴーティエさんやらにお願いして読み書き教わってたのだけれど。他にもアルペジオから本を借りたり。

 新聞やノートは定期便でいくつか調達してもらったりしてる。


 《プライング》のコンソールに表示される文字に関してはしばらくフランス語で表示してたりしてなんとか文字を読んでた。今はフロムクェル語表示だけど。


 そんなことよりも。


「それで、何の話? 相談?」


 椅子に腰をかけながら訊ねる。


「リンクスで勝つ秘訣。今日の訓練で、リンクス三機を相手にしてもほぼ同等の戦力である貴方だからこそ聞きたいの」


 ちょっと予想外だった。秘訣、といっても大したことはしてないのである。

 基本的に、自分自身はまずは生き残る。そこから自分が有利なまま相手をどうするかである。狡いかもしれないが、自分達がしているのは戦争であり、殺しあいだ。自分が死んだら意味がないのである。


「機体性能からして《パッチワーク(マーチャーE2改)》よりも《プライング》が上なんだぞ? それにAIによるサポートもある。機体性能に助けられて、勝ってるだけの人にそれを聞いても意味―――」


「あります。だってチハヤさん、数の不利を覆しているじゃ無いですか。聞いてますよ、リンクスに乗ってから一ヶ月程度で《マーチャーE2》五機相手に単機で勝利したとか、単機で帝国のエース、フリーダ・ゲストヴィッツ専用機 《ナースホルン》を撃破したとか」


「そうだけども……」


「簡単には行かないですよ、性能が段違いでも。貴方にはそれだけの力と考える頭がある。その知識から智恵を教えて欲しいのです」


 そうハッキリと言ってきた。

 要するに、戦い方指南してくれ、と。


「あまりいい話にはならないよ?」


「構いません」


 即答だった。


「まず、正面から戦わない」


「……え?」


「常に背後や、側面から奇襲する。出来ればコクピット―――パイロットを初手で潰せればいい。それでソイツは殺しに来ないから」


「ちょっと……」


「次に立ち回り。相手を常に正面に捉えること。見えていれば次の手が見えるはず。見えるなら対応出来ることが多いからね」


「そうですが……」


「多数を相手にするなら、囲まれないこと。囲んで棒で叩くとはよくいうけど、これほどまで有効な戦術はない」


「それは訓練生時代に習いました」


「当然か。―――次に重要なのは、自分が不利なら逃げること。逃げて、自分が有利な位置に立つなりそのまま撤退したりする」


「敵前逃亡では……」


「死んだら元も子もないよ。生きていれば次のチャンスがあるだろう。それに、パイロットってのは育成期間が長いもので、一人前になるのに多大な時間とコストがかけられる。僕の世界じゃ戦闘機を駈るパイロットの育成コストが、戦闘機の調達費用とそう変わらないんだから、リンクスだって一緒だろう。死んで何もかもぱぁにするより、生き延びて次に生かす方が賢明だと思う」


 パイロットを潰していく理由に、これも無くはない。

 そもそも僕は、殺しに来た相手は殺さないと怖くて仕方ない。


「そもそも簡単には敵前逃亡は疑われないでしょう」


「そうですが……。私が聞きたいのは、正面から、一対一で勝つ方法です」


 正面から、と強調されては困るのだけれど。


「正面ねぇ……。そこからはもう、立ち回りだとか相手の動きから狙いを読んで、一手二手先読むとしか。―――とにかく強襲、奇襲、不意討ちしかしてないし、僕」


 相手の土俵で戦わない人だし、と呟く。


「そう……」


「力になれなかったようでごめんよ」


「いえ、大丈夫です。―――そうなると、副団長にアドバイスを貰うしかないか……」


 カルメさん少し、残念そうだった。期待はずれだったようだ。


「とりあえずそうだろうね。あの人が実力的にトップだよ。僕からはあと一つ言えることあるけど」


「それは何?」


 食いついて来た。よっぽど悩んでるのだろうか? ここ二週間見てるが、そういった素振りは無かったし。


「生き残れ。たったそれだけだよ」


「…………」


「重要だぞ? 死んだらそこでおしまい。残された人達には、虚しさが残るだけ。それだけはさせるな」


「説得力、ありますね」


「そりゃ、残された側だからね」


 生き残った側だから。


 カルメさんがコーヒーを飲むのを待って、僕は気になった事を訊ねる。


「そんなに強くなりたいの? エースとか英雄願望とか、高貴なる者の務めとかは止めとくべきだと思うけど。そういうのって死んで、あとを困らせるだけらしいし」


 いい例が第一次世界大戦だ。クリスマスには終わるだろうとか考えてたら総力戦、塹壕戦などで長引きました。またなって言った跡取り息子がヘルメットだけで帰ってきました、とか。


 それが原因で貴族制度がズタズタになったらしく、貴族そのものが衰退したとは神父の談。


「違います。負けたくない、大差で勝ち越したい相手がいるだけです」


 その言葉にムッとするが、正直に答えてくれた。


「誰? その人は」


「同期のヒュリア・バラミール。訓練生時代の模擬戦で、九勝五敗一引き分け。その勝利のほとんどが辛勝で、勝った気がしないの」


 ヒュリアさんとは同期―――しかも同じ訓練所の出身だったのか。

 言われてみれば意外とカルメさんとヒュリアさんはよく一緒にいるのを目にする。今日の訓練でもチーム組んでたし。ただの友人関係と思っていたがライバル関係でもあったのか。

 そうは見えなかったなぁ、と思っている僕を尻目に、カルメさんは思いの丈をポツポツと言っていく。


「リンクスへの適性は私の方が上なのに。彼女はパイロットとしての適性は低いのに。慢心せずに挑んでどうして勝つのが難しいのかが分からない」


 どうして勝つのが難しいのか、か。

 そんなのは分からない。実力が近いか、それとも別の要因か。


「リンクスへの適性は、あくまで一つの要素……なんだろうね」


 リンクスへの適性は男性よりも女性なら誰しも高いが、かといって特別ってわけでもない。


 知っている限りだが、副団長のマリオンさんのリンクス適性は、実はそこまで特別高くない。むしろ騎士団に所属するパイロットとしては低い方の人だ。

 それでもエースとしているのは、きっと弛まぬ努力と今までの経験だろうと、推測する。


「それに、僕の性別に関しては知ってるよね?」


 現在、技研によって機密事項なんだけど。


「まあ……、その……。―――はい」 


「―――本音は?」


「本当は女性ではないかと疑ってます」


「わかってたよ、その答え。―――まあ、そういった事情で僕も低いわけだけど、それでも多数相手にしても戦える人なのは、機体の性能というファクターがあるわけで。リンクスへの適性だけじゃ、意味がないってことだろうね」


 ヒュリアさんが、カルメさんに勝ちかねない理由は、適性以外の何か。


 それこそ戦い方の差だろう。機体の扱い方、戦術面か。

 基本的には実力と運の差で決まるらしいし。


 気持ちは関係ない。相手を殺すのに気持ちなど不要なのは、あの十一ヶ月で充分思い知らされている。


「上でふんぞり返ってると、足元を掬われるぞ、と」


「それを回避したいんですよ……」


 コーヒーを飲みきり、椅子か立ち上がる。


「お話、ありがとうございました。コーヒー美味しかったわ」


「うん。力になれなくて申し訳ないよ」


 カルメさんを見送って、使った器具を洗い、椅子に腰をかける。


「この騎士団した理由が、ヒュリアさんにあるのかね……?」


 そう呟きつつ、新聞を一つ手に取った。



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