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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第四章]恐ろしいもの、作り上げたのは
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訓練、3対1



「アルペジオ、いい動きしますね」


 尖鋭的なリンクス―――《XFK039/N53》、《プライング》を駆り、廃墟の空を飛びながらチハヤはアルペジオに無線で呼びかける。ここしばらくは、特例で無線で話し合いながら交戦している。理由としては新人の気を楽にさせる為の措置だ。


『こっちはひぃひぃ言いながら懸命に飛ばしてるのよ! そっちと一緒にしないで!』


 試作機、《マーチャーE2改》―――アルペジオ機の背後に付き、両手のライフルとアサルトライフルを向けて発砲。


 左へクイックブーストして回避された。


 そのまま《マーチャー》は反転してこちらにライフルを向ける。


『照準警報』


 《プライング》のAI、《ヒビキ》の警告を聞きつつ右へ回避。


 左に引っ張られる感覚と、景色が一瞬で左へ流れる。



「《プライング》だってじゃじゃ馬ですよっ、と」


『乗りこなしてよく言うわっ!』



 二機のリンクスが上を取りつつ、取られつつ。


 撃っては避けられ、撃たれては避けてを空中で繰り返す。


 建物の屋上や屋根を蹴り飛ばし、一気に接近しては離れたりを続けていく。



『後ろ取った!』


「《ヒビキ》! 後ろをお願い!」


『了解です。チハヤ』


 《プライング》を反転させ、アルペジオの操る《マーチャー》を正面に見据える。


 ブーストで下がりつつ、建物を蹴っての回避機動とクイックブーストによる回避と牽制射撃。


 相手は右へ左へ、肩のブースターも用いて機体を振りつつペイント弾を避ける。


 ブースト全開にして、バックから前に出る。


 反転して、ライフルを向ける。


 発砲。


 《マーチャー》は左へ反転しつつ、シールドを構えてペイント弾を防ぐ。


 そのまま建物に隠れて、《プライング》の射線を切った。


「―――ヒュリアさんとカルメさんも加わらないと、隊長機落とされますよ?」


 無線で呼びかけ、視界の片隅にあるレーダーを見て、二機の反応を追う。


『わかってます……!』


『コイツ言うこと聞きすぎるの、と。ブースターが言うこと聞かない…の…!』


 モニターに映ったのは、こちらにライフルを向ける《マーチャーE2改》の二機が映っていた。


 発砲。


 上にクイックブーストして回避し、両手のライフルで反撃。


 どちらもクイックブーストで避けるが、それだけで姿勢が崩れかけた。

 それでもなんとか体勢を空中で立て直し、離れようとする《プライング》を追いかける。


 《プライング》は正面の建物に足をかけ、真上に、反転しつつクイックブースト。

 右に回り込みつつ、ライフルを撃ち込む。


 ヒュリア機は左腕のシールドを構えて、クイックブーストで回避機動。

 

 カルメ機はヒュリアと同様にシールドを正面に向けて、こちらに突っ込んできた。

 左肩のハードポイントに取り付けられた、両刃のブレードを引き抜き、一閃。


 ブーストで下がって回避し、左手のアサルトライフルをフルオートでばらまく。


 とっさにカルメ機はクイックブーストで避けようとするが、距離が近すぎた。


 青いインクが《マーチャーE2改》をマーブル模様に変え、


『カルメ機、撃破判定だ』


 団長からの無線が響き、カルメは力なく地面へ降りていく。


「次。ヒュリア機をやるわ」


 チハヤはそう宣言して、《プライング》を加速させ、ヒュリア機へと接近を図る。


 ヒュリアの《マーチャー》は後退しつつシールドを正面に構えて、ライフルで牽制射撃をしてきた。


 右右左右上下と連続でクイックブーストして、更に接近。


 両手のライフルの照準をヒュリア機に向け、


『貰いっ!』


 建物の影から、アルペジオ機がブレードを持って飛び出してきた。


『接近警報』


「……間に合いませんね」


 ライフルはヒュリア機に向いていて、アルペジオ機に向けようにもその頃にはブレードが当たっているだろう。


 そのままヒュリア機へ発砲してもシールドで阻まれ、一機も撃破判定へと送れないのは間違いない。


『やっとブレードで仕留めれる!』


「―――と、思うでしょう?」


 《プライング》の右背のサブアームが展開され、クロー部がアルペジオの《マーチャー》のブレードを持つ右腕を掴み上げた。


『はぁ?!』


「油断大敵。戦術的勝利は私ね」


 そう言って、右手のライフルをアルペジオ機に撃ち込むのと、ヒュリア機がライフルをこっちへ撃つのが同時だった。






「《プライング》の洗浄は面倒だなぁ、やっぱ」


 デッキブラシを肩に乗せて、左手に持ったホースから水を《プライング》の装甲に掛けながら呟く。


 実機訓練を終えて、僕らは基地へ帰投。格納庫前でインク剥がしをしていた。


 《マーチャー》とかは仰向けに寝転がせるのになぁ……、等と思いながら、隣の《マーチャーE2改》―――マーブル模様になったアルペジオ機とカルメ機を見て、《プライング》を見る。


 僕は今、両膝を着いた、正座のような駐機姿勢の《プライング》の胴部に立って、ペイント弾のインクを剥がす洗浄作業中である。


 《プライング》は前後に長い胴体や人とは少し違う骨格の影響で、伏せる、寝転がる等の人間や通常リンクスが出来る姿勢が出来ない。

 まあ、その分ジェネレーターを2基にしたり機体の剛性や強度を上げたり、ブースターの出力をカチ上げたり出来ているのかもしれないが。


 ともかく、寝転がせることが出来ないので、正座姿勢にして腰に命綱を着けて機体に上がったり、移動式の階段や作業用クレーンを持ってきて洗浄箇所まで移動してブラシで擦るわけである。


「チハヤちゃーん。ちょっといいかい?」


 ブラシで擦っていたら、移動式の階段から一人の美女に呼びかけられた。


 金髪のショートカットの軍人然とした人で、試作機 《マーチャーE2改》のテスト兼先任パイロットのパトリシアさんである。


「なんですか?」


 手を止めることなく訊ねる。


「《マーチャーE2改》を三機相手にどうだった?」


「ライフル二丁とブレードのみ、ブースターにはリミッターつきの《プライング》で3対1は厳しいですよ。こんなレギュレーションで参考になるんです?」


 ちなみに、《プライング》は実体剣を用いた近接格闘戦は大の苦手だったりする。


 理由はブースターの出力が強すぎてあっという間に接近と離脱をしてしまうのと、機体重量が普通のリンクスよりも重く、フレームの骨格が人間とズレていること。


 そして何より、AIヒビキを介してリンクス《プライング》を操作していることが原因で、《links》システムの読み込みに僅かな遅延が発生していること。反応速度がものをいう格闘戦ではこの遅延が致命的で、通常のリンクスに対してレスポンスに劣っているのである。


 だからこそ、ブースターの出力を馬鹿見たいに跳ね上げているのだろうけど。


「ある程度同一条件でどうだったって話だよ。―――聞いてるぞ、君の戦い方。斬首戦術にUAVでの索敵。滑空砲でアウトレンジからの狙撃と、最大推力による徹底した一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェイ)。下手したら《マーチャー》が何もせずに落とされるって」


 悪評にも聞こえる内容だった。


「それじゃあ《マーチャーE2改》の性能評価出来ないからね」


「まあ、そうですよね。―――ブースター増設で動きが複雑になった、と思います。緩急自在な、トリッキーさが出ているとも」


 《マーチャーE2改》―――《E2型》に《プライング》と同じジェネレーター(※九五〇〇kw)と両肩、背中に2基、腰部、ふくらはぎにと《プライング》と同じブースター装着させた事で《E2型》よりもブースト時の機動性がはね上がっている。 

 代わりに、背部が少し突き出たり、肩部や各所の装甲が《プライング》と同じになってしまい継ぎ接ぎ感が拭えない。

 ここから僕は《マーチャーE2改》を《パッチワーク》と呼んでたりするのだけれど。


 ブースターにはリミッターが設けられており、その理由は《プライング》そのままの性能だと《マーチャー》のフレームの寿命が縮むのと急制動に耐えきれないらしく、その対応らしかった。

 他にも、《E2型》の各所に設けられたハードポイント(特に肩と腰の)が使えなくなったりとベース機の利点が幾つかなくなってもいる。


 そして、《Links》システムを二重化した事だ。

 説明によれば、読み込みの為の頭に着ける端末の脳波読み込みを従来の一括読み込みではなく、駆動系とブースター系に別けて読み込むことでパイロットへの不可を減らす試みが施されているのである。

 分かりやすくいうなら、容器を水で一杯にするのに、一つの蛇口より二つの蛇口から水を出した方が早いだろうと説明された。


 蛇足だが、この分割とブースター系の制御に《プライング》のデータと僕の戦闘データが反映されているらしい。


 ただ、まだ試作機でシステム面が未成熟―――特にブースター制御周り―――なので、騎士団でテストしつつ更新して、またテストの繰り返しである。


「相手していて、見ていて思ったのは、ブースターの出力がまだ強すぎると思う。制御が追い付いていないんじゃないかな? アルペジオはともかく、ヒュリアさんとカルメさんが時々飛ばされかけてた」


 年季の差かもしれないけど、と付け足す。


「機体特性が違うから、新人に乗ってもらった方が操縦に癖が無くていいと思ったけどなぁ……」


「でも、キレがいい。とっさの動きが早い。いざというときの回避も強い」


 フルスペックの《プライング》相手でも三機なら勝てる可能性はあるかもしれない。


「生存能力も上がったんじゃないかな? 生き残る事は大事だし」


「ふむ……。貴重な話をありがとう。―――今度、私とサシでやらないかい?」


 メモを書きながら、パトリシアさんが誘ってきた。


「フルスペックで普段の装備の《プライング》で?」


 右手はライフル、左手はブレード付き突撃型ライフル、右背はUAV、左背は滑空砲の。


「位置を常に知られ、滑空砲で狙撃されて、それを凌いでも時速千キロ以上で強襲、離脱を繰り返すリンクス相手に戦えと。どう勝とうか考え物だな」


「勝つ気だよこの人……」


 何回か話してるけど、この人戦闘狂の気があると僕は思う。

 訓練でペイント弾による模擬戦だと話を聞くと、実に楽しそうな顔で喜色にまみれた声で喋るのだ。


「それで、ちょっと質問があります」


「なんだ? 私の作戦か? 言わんぞ」


「違う。―――新人とかアルペジオとかエリザさんとか機種転換訓練してますけど、簡単に操作出来る物なんです? もっと時間かかるものだとばっかり」


 まだ配属されて二週間程度の新人と、乗り換えることになったアルペジオとエリザさんの腕は短期間で数機の《マーチャーE2改》だけで《プライング》と渡り合えるようになったからだ。

 僕の世界では、戦闘機の機種転換訓練はかなり長くやると聞いていたからくる疑問でもある。


「それは《Links》システムの恩恵だよ。自分の身体のように動かせれる《Links》だからこそ簡単にいくのさ。《マーチャー》自体が操縦しやすい機体というのもある」


「複雑な操作の大半が頭とシステムのやりくりで完結しているから、と」


「そうだ。操縦桿なんて、装備の選択とか火器の使用程度の操作用だぞ。ペダルもあるが、そんなんブースト制御の補助程度だしな」


 そうなのか。ほとんど思考制御だと思っていたが、結構な割合でアナログ操作もあるらしかった。


 気がつくと、ブラシを擦る手が止まっていて、


「また後で話しましょう。洗浄しないと」


 そう断って、《プライング》の洗浄を再開した。


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