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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
407/440

対《リンドヴルム》①




 日もまだ登らぬ、黎明の空の下。


 薄い雪化粧が施された荒野の只中。


 背部のブースターユニットから低空を莫大な噴煙を帯びて飛行する白く尖鋭的で異形のリンクス―――《アルテミシア・フロイライン》の進む先には、誘導灯で煌めく飛行場が見えていた。


 そして、その狭苦しいコクピットの中。


 長い白銀の髪の女性―――正確には男なのだが―――シオンはモニターに映った光景を見て、通話のボタンを押し込む。


「―――こちらストレイド! 《リンドヴルム》が離陸してる!」


 エンジンから噴射炎を吐き出して滑走路から浮いた巨影と記憶をすり合わせて、それだと通信に叫ぶ。


 その姿をシステムが照合を開始し―――入力された情報と比較するように対象の画僧が表示されて、《リンドヴルム》と補足が入る。


『は? 本当?』


 素っ頓狂な声が通信に入る。


『―――こちらジョスト。それは本当?』


 TACネーム《ジョスト》―――《アルメリア》を駆るナツメが言い直した。


 まだ彼女を初めとする、緊急展開ブースター装備したヴォル技術試験隊やレアが率いるアーベント大隊はまだ後方で、航空基地の姿を見えていないからこその反応だ。


「嘘は言わないわよ。事実、もう飛んでる……!」


『こちらリプス! 彼女の発言を保証する。《リンドヴルム》は既に離陸。上昇に移っている……!』


 リプス―――可変戦闘機型マリオネッタの《アクィラ・カスタム》に乗るクラウスも同じ光景を見たようで、シオンの情報を補強した。


『向こうの予定だと発進はまだのはずだし、あなたがレーダーに映ってたとしても発進が間に合わないはず……』


『情報が漏れていたと見るべきだろう』


 通信に一人、女性が加わった。


『作戦開始前までに内通者を炙り出せなかった委員会の失態だ』


「その状態で決戦に挑まないといけないのは辛いものよね、ナイトメア」


『多少は、と言いたいがこれだと致命的だな。―――しかし、まだ状況は最悪じゃない。向こうも、まだ詰めが甘い』


 そう? とナツメが尋ねるとナイトメア―――レアがそうだと頷く。


『こっちの情報が洩れているにしては、ストレイドが視認できるタイミングでの離陸だ。―――こっちの速度を見誤っていそうだ』


 不運だが、それでも最悪ではないとレアは言う。


 言われてみれば、とシオンは通信に乗せることなく呟く。


 彼女の指摘通り、こちらは離陸してすぐを捉えている。


 もしも事前に強襲の情報を掴んでいれば既に基地にを去っているほうが賢明だろう。


 そうでないならば、その情報が直前になって掴んだものだと見れる。


 あるいは、追加ブースターを装備した《アルテミシア》や《アクィラ》の速度を見誤った。


 そのどちらにせよ、情報を得てからの初動が遅れているのは間違いない。


『あるいは罠?』


『その可能性はあるが―――リプス、ストレイド。基地の様子は?』


 レアに促されて、シオンは《ヒビキ》に指示して誘導灯のみで照らされる航空基地を拡大する。


 広大な飛行場には何機ものの航空艦(エアシップ)が並んでおり、離陸の為にタンキングしている。


 あとは格納庫から巨大な人影や何らかの火砲を積載した戦闘車がいくつも忙しそうに飛び出してきており、スクランブルをかけられてすぐという有様だった。


 地上にいるその数は―――


『駆逐級、巡洋級を確認。合わせて十六隻です。リンクス、マリオネッタ多数確認。対空戦闘車多数確認ん』


「十六隻の航空艦を視認。それと、リンクスとかマリオネッタとか。対空兵器もうじゃうじゃ出て来てる」


『ストレイドの言う通りだ。十六隻―――今の短期間で再編成されているという情報通り、第三艦隊の現在の所属数と同じだな』


『情報通りの数に、今スクランブルで出てくる、か』


 シオンとクラウスからの情報に、レアはふむと唸る。


『こっちの情報は漏れているのは間違いないが、伝達が遅れたのだろうな。恐らくは、先に艦隊に連絡が行って、次に基地の防衛部隊といったところか』


 運がいい、とレアは言う。


『確かに、情報が漏れててもこっちが間に合ってるなら―――運がいいわね』


『そうだジョスト。―――少し面倒だが、プランDで行こう』


 プランD―――敵艦隊の発進していた場合、《アルテミシア》単機で《リンドヴルム》を追撃。


 フリントロック隊の《アクィラ》が航空基地へ先行し、離陸途中の航空艦を無力化して滑走路を塞ぎ、敵艦隊を足止めした所を各個撃破していくという派生プランだ。


「了解。―――ストレイド、《リンドヴルム》の追撃を行う」


 シオンはその判断に応じて―――フットペダルを踏みつけて操縦桿を左へと倒す。


 《アルテミシア》は僅かに左へ進路を修正し―――装甲車に翼をつけ、二枚重ねたような全翼機とも言える《リンドヴルム》を追い掛ける軌道に入り、増速する。


『ナイトメアよりストレイドへ。―――各種対空兵器には留意するよう。帝国の航空艦の中では一番大きい分、搭載しているその数も多い』


「忠告どうも」


『こちらリプス。フリントロック隊も滑走路を潰し次第そちらへ合流する。―――無理はするなよ』


「ゆっくりでいいわよ? その前に終わらせるから」


『―――微塵も油断も傲りも感じないな』


 クラウスの苦笑を聞いて、それじゃあと通信を切る。


 モニターに表示されている巨影との距離を示す数値が減少していくのを確認して、コンソールに表示されたタイマーに視線を飛ばす。


 残り三秒―――そしてそのカウンターが零を表示して警告音がコクピットに鳴り響く。


『オーバードブースター、使用限界です』


 《ヒビキ》の報告に合わせるように、《アルテミシア》の背部に接続された追加ブースターのノズルが吐き出す噴射炎が断続的に噴出と停止を繰り返し出す。


 文字通り―――燃料切れだ。


強制排除(パージ)します』


 その報告と同時にオーバードブースターと《アルテミシア》の接続が外され、ブースターユニットが計算された角度で広がるように、置き去りにされる為かのように大きく減速しながら散らばっていく。


 それを尻目に―――シオンはフットペダルを踏み込んで操縦桿を押し込む。


 《アルテミシア》の後腰部のブースターユニットやリアスカートバインダーと脚部の追加ブースターのノズルがプラズマ化した推進剤を吐き出して、失った推力による減速を抑えに掛かる。


 それでも時速二〇〇〇キロメートルから緩やかに減速していき―――一六〇〇キロメートル毎時で安定する。


 緩やかに増速していく《リンドヴルム》を追い掛けるには十分な速度でもあった。


「《ヒビキ》。システムを戦闘モードに」


『了解です』


 シオンの指示に《アルテミシア》のモニターが僅かに切り替わる。


 二基のフェーズジェネレーターの出力が巡行用のそれから戦闘用の高出力モードに切り替わり、火器管制システム(FCS)が立ち上がってレティクルがモニターに表示される。


 そのレティクルの左右には搭載している武装とその残弾数が表示され、左右に分かれる。

 

『カノープスに給電開始―――射撃可能です』


 両腕に持つ二門の一〇五ミリのレールガンも使用可能となった。


 あとはこれを撃ち込むだけだが、


「―――まだ、少し遠いか」


 《リンドヴルム》との距離はまだ一〇キロはある。 


 その気になればカノープスの砲弾は届くだろうが、相手はどちらかと言えば遠ざかる方向に進んでいる。


 その状況下で、航空機の類とはいえ相応に頑丈なはずのエンジンに当たった所で、一〇五ミリの高速徹甲弾がどれだけ有効かを、シオンは把握していない以上―――今は距離を詰めるのが得策だろうと推測する。


 《リンドヴルム》さえ無力化できれば、この後に始まる城塞都市《アブレヒト》攻略において戦力の一角を崩すと同義なのだから。


 急ぐ状況ではあるものの―――今は待ちだとシオンは自分に言い聞かせる。


 それもゆっくりと近づきつつあるのでこちらの射程に入るのは時間の問題なのだが。


『照準警報。十一時です』


 その思考をかき乱したいかのように、《ヒビキ》の警告とアラートがコクピットに鳴り出す。


 種類は―――ミサイル照準用の赤外線レーザーの検知だ。


 それにやや遅れて―――《リンドヴルム》の機上からいくつもの噴煙が飛び上がり、その先端を接近しつつある《アルテミシア》に向ける。


 弾頭に搭載されたシーカーが高速で飛行する白いリンクスを補足し、誘導を開始する。


『迎撃ミサイルを確認』


「さて、ダンスね」


『あなたならば楽勝です』


 煽てない、とシオンは口元を歪めて操縦桿を一度引いて押し込む。


 《アルテミシア》は速度を維持したまま進路を上に、鋭く進路を変更して高度を上げていく。


 その動きに釣られて、ミサイルも方向舵を修正する。


 ミサイル群の先頭が僅かに上昇を始めたのを見て――操縦桿を左へと傾けて右のフットペダルを蹴ったくる。


 《アルテミシア》は左にロールして―――後腰部のバインダーと脚部追加ブースターユニットからフレアを排出する。


 遠心力と合わせてばら撒かれたフレアを置いていくように今度は鋭角に、高度を一気に下げる。


 巡行ミサイルのシーカーを出し抜き、その下を潜る回避機動は―――十分に巡航ミサイルを引き付けた。


 相対速度は時速にして三〇〇〇キロメートルを超える以上その擦れ違いは一瞬で、あっという間に迎撃の第一陣を潜り抜ける。


 地表すれすれまで高度を落として、再度方向転換して再び《リンドヴルム》を追い掛ける。


 残りの距離はだいたい八〇〇〇メートル。


『ミサイル警報』


 次の警報にシオンは《リンドヴルム》の各所から噴煙を上げてミサイルが飛び出しているのをモニター越しに見る。


 数えきれない程の弾数だが、高度差を考えればとそのまま僅かに右に逸れるだけに留めて、直進。


 高速で接近する誘導弾を見つつ左へ急転換。


 リンクス―――そして《アルテミシア》だからこそ出来る急機動に、ミサイルの誘導は間に合わず次々と地面へと突き刺さっていく。


 右、左を繰り返す乱数機動を繰り返し、


『照準警報』


 けたたましい警報。


 続いて、先ほどとは違って《リンドヴルム》の艦上の幾数か所から瞬くのが見えた。


 ―――マズルフラッシュ。


 そう判断してシオンはフットペダルを踏みつける。


 その操作と《ヒビキ》がシステムを介して読み取った思考が擦り合わせられて―――《アルテミシア》は上に跳躍するように急上昇を敢行する。


 一瞬遅れて―――足元が爆ぜた。


『艦砲射撃です。推定口径一二〇クラスと推測』


「《ヒビキ》。《リンドヴルム》の砲塔は何があったかしら?」


『艦上に一二〇ミリ三連装砲が二門。一二〇ミリ速射砲が四門。艦底側には一五五ミリ三連装砲が二門です。あとは各部に対空砲や近接防御システムが点在しています』


 続く砲火を乱数機動で躱しながら、《ヒビキ》がモニターに出した対象のカタログデータを一瞥する。


 委員会が提供してきた、計画上のものと諜報戦で得られたデータで、《ヒビキ》が音声で伝えた以外の情報もそこには記されている。


 どこに何があるかまで書かれている辺りは流石だが。


 《アルテミシア》の右肩のブースターが瞬き―――左へとクイックブースト。


 それにやや遅れて―――空中で爆発が起きた。


 爆発の衝撃波と破片が《アルテミシア》を襲い、コクピットを揺らす。


「―――!」


 被害は、


『―――損傷、軽微。近接信管による爆発と推測』


 幸運にも装甲を焼いたか破片が軽く傷つけた程度のようだった。


「もっと余裕をもって避けろと」


『肯定』


 全く、と呟いてシオンは僅かに失速した《アルテミシア》を加速させる。


 始まるアラートとマズルフラッシュと噴煙を焚き続ける《リンドヴルム》から目を逸らさず、《アルテミシア》はジグザクな機動と上昇下降を繰り返してその距離を更に縮める。


 そうして―――距離は三〇〇〇を切った。


「《ヒビキ》。対艦ミサイルを二発発射。対象は適当な速射砲」


『了解』


 シオンの指示に武装の切り替えが瞬時に行われる。


 それと同時に背部の武装コンテナユニット内臓バインダー《ヤタ》の装甲カバーが展開し、内部のミサイルが外界に露出。


 シーカーがシオンが指示した通りの場所にロックオンマーカーを重ねて―――レティクルが変化して射撃可能を伝える。


 両手の操縦桿の引き金を絞る。


 両背のヤタから一発ずつ、大型の誘導弾が噴煙をまき散らしながら加速して《アルテミシア》よりも前に出て離れていく。


「CIWSの迎撃が来るはずだから―――」


 回避機動を行いつつ《リンドヴルム》へ向かっていくミサイルを見て呟く。


 大型とはいえ、敵艦の大きさに対してはいささか小さなミサイルだがレーダーに映る脅威でしかない。


 そして、すぐにそれは現実のものとなった。


 《リンドヴルム》の後方―――下段側の翼。


 いくつも並んだエンジンを左右に挟む位置から四条の火線が伸びるのを見た。


 曳光弾混じりの驟雨はいとも簡単に対艦ミサイルを貫いて無力化する。


 ミサイルが無力化されるのは想定内だ。


 一番欲しい情報は火線の根本。


 その部分が別ウインドウでクローズアップし、砲弾を吐き出した砲塔を映し出した。


『近接防御火器の場所を複数確認。マーカーに表示』


 《ヒビキ》のアナウンスの通り、探していた砲塔を四角いマーカーが囲う。


 距離はさっきよりも縮まり―――二四〇〇を切った。


 航空艦の外殻に有効かはわからないものの、それと比べて比較的装甲の薄い砲塔が相手ならば。


 この距離でもカノープスは撃ち抜ける。


 まずは四つ、と呟き武装を電磁炸薬複合式投射砲(カノープス)に選択。


 《アルテミシア》は両腕に装備した長剣のようなシルエットを有する火砲を構えて右は右のCIWSを。


 左は左側の砲塔に狙いを合わせる。


 レティクルがマーカーに重なり―――その変化をもって捕捉(ロックオン)を乗り手に伝える。


 右、左と引き金を絞った。


 電気と炸薬の合わさった独特な砲声と共に一〇五ミリの徹甲弾が発射される。


 飛翔は一瞬。


 偏差も入ったその二連射は正確に二つの砲塔を撃ち抜いた。


 破砕からの内部に装填されていた炸薬が誘爆し、爆炎を上げる。


 次の二つも同様だ。


 立て続けに射撃し、無力化して―――照準警報を聞く。


 フットペダルを踏みつけて―――《アルテミシア》は急降下を始める。


 それにやや遅れて、《リンドヴルム》から数多の火線が伸びた。


 右、左への急加速を繰り返して偏差射撃を振り切り、降下を止めて上昇に切り換えつつ―――続く対空砲火を左への切り返しで避ける。


『敵艦、近距離対空戦闘に移行した模様。艦体各部に砲塔の展開を確認。マークしていきます』


 シオンが距離を詰めつつ回避に徹している間に、《ヒビキ》とシステムは次々と対空砲やミサイル発射口をマークしていく。


 気が付けば数えきれない程だ。


「《ヒビキ》、その調子でCIWSとかミサイル発射口が把握出来たらマークをお願いね」


『了解です。―――敵艦の自衛兵装の無力化の優先することを提案します』


「ゆっくりエンジンを狙えないものね」


 《ヒビキ》の提案を受け入れて、シオンは操縦桿を引く。


 《リンドヴルム》まで距離は―――一〇〇〇メートル以内。


 双方の移動速度を考えれば充分に近づいたと言えるだろう。


 左手のカノープスを持ち上げ、照準が合い次第発砲していく。


 続けて右手のカノープスも同様だ。


 次々と一〇五ミリの砲弾が突き刺さっていき、その砲火が一つ、また一つと減っていく。


「翼に撃ち込んでるけど、存外折れないものね」


 カノープス(レールガン)を連射しながら、シオンは思った事を口にする。


 巨大とはいえ―――《リンドヴルム》は航空艦(エアシップ)という航空機だ。


 いくら搭載している浮遊システムの併用有りきとはいえ、空を飛ぶには相応に軽くあるべきであり、例外ではない。


 推力でどうにか出来るとしても限度はあり、離陸する為の総重量もまた然りだ。


 それほどまでに頑丈には出来ない―――というのが航空艦という存在のはずだが。


「まあ、エンジン壊すから気にする必要もない、か」


 考えても仕方ないと当初の目的に立ち返り、《リンドヴルム》の右舷後方へと《アルテミシア》を加速させる。


 対空機銃や砲火を置き去りにし、追い縋るミサイルをフレアで明後日の方角へと向かわせる。


 反転し、急制動。


「フタヨのマイクロミサイル、三二発」


 口頭で武装を選択。


 FCSがすぐさま切り替わり、《リンドヴルム》の各所にロックオンマーカーを重ねていく。


 両肩の前に突き出した多目的武装コンテナユニット―――《フタヨ》の装甲カバーが開いて内部のマイクロミサイルが露出する。


『三二発、ロックオン』


 《ヒビキ》のアナウンスを聞いてトリガーを絞った。


 《アルテミシア》の両肩が噴煙をまき散らし、小型のミサイルが各々に設定された対象へと飛翔を開始する。


 そうして殺到したミサイルに優先順位が移ったようで、そちらの方に対空機銃の掃射が集中し始める。


 次々と迎撃されていくその合間に―――右手のカノープスを旋回途中の速射砲へ向けて発砲。


 その結果は当然の如く命中で、秒速三〇〇〇メートルを超える砲弾の運動エネルギーで被弾した砲塔は大きく拉げて内部で炸薬が引火。


 爆発を起こす。


 続けて、左手のカノープスも構えて、二発目、三発目と撃って対空機銃やミサイル発射口。


 速射砲を潰していく。


「さて、そろそろエンジンと行きましょうか」


 ある程度の砲塔を潰し、いくらか薄くなった対空砲火を見てこれならエンジンに集中できるだろうとシオンは呟く。


 操縦桿を押し、フットペダルを踏み込む。


 《アルテミシア》は先程よりも薄い弾幕を潜り抜けつつ、エンジンへ向かって加速。


 《リンドヴルム》の後方に位置取り、一定の間隔で並ぶエンジンの背後について―――


『新たな熱源反応が出現』


「―――!」


 《ヒビキ》の警告と共に《リンドヴルム》の艦体上部から突如と飛び出した機影にシオンは小さく驚く。


 高速で垂直に上昇していくそれは戦闘機の様だった。


 鋭い尖端の機首に小型の翼を有しており、主翼は前に突き出る前進翼。


 そんな主翼に対して斜めに取り付けられたな尾翼を持つ単発の戦闘機だ。


 その数、六。


 それらは驚くほどに小さな半径で旋回し、その鋭利な機首を《アルテミシア》へと向ける。


 単発のジェットエンジンが瞬いた。


『照準―――接近警報』


「―――っ!」


 特攻とも言える突貫にシオンは驚きつつもフットペダルを踏み込み、《アルテミシア》をクイックブーストで急上昇させる。


 戦闘機の突撃をそれで回避し、続く複数機の突撃を前後左右のクイックブーストで躱し続ける。


 過ぎ去った一機へ照準を合わせてカノープスを発砲するも―――その戦闘機は青白い奔流を吐き出すと同時に横にスライドしてその射撃を回避する。


「な……!」


 戦闘機のそれとは思えない急加速にシオンは思わず声を漏らす。


 航空機である以上は出来ない機動だからだが、青白い奔流がそのトリックを明かしている。


「横方向への急加速機構を持ってる、と……!」


 おおよそそうだろう機構を推測し、右からの警報にシオンは前へとクイックブーストしてその突貫を回避する。


『敵の加速力、及び戦闘機動から無人機と推測』


 短時間のやり取りで分析が終わったのか、《ヒビキ》が那由多OSの分析結果を報告した。


 人間には耐えられない急旋回と急機動を見せられている以上、その分析には納得だ。


「とんだ隠し玉を持ってたわね……」


 簡単にはいかないか、とシオンは呻き、周囲を旋回し始めたその無人戦闘機を睨みつけた。




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