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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第四章]恐ろしいもの、作り上げたのは
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三ヶ月間の一部




「はぁ……! はぁ……! ―――っ!」


 食料が入って重たくなったリュックを揺らしながら、僕は走っていた。


 右手には護身用としてシャベルを持っているが、これを背負う暇はない。



 他の生存者に、狙われているからだ。



 《黒い球体》の被害の影響で、治安も秩序も無に帰した瓦礫の世界で、救助を待ち、自分と施設の子供達を守り食料を探す日々。


 30人近い数の子供に食べさせるためには、僕一人では回収出来る数はどうやっても足りない。リュックに詰めるだけ詰めても、限界がある。


 そして、そこまで膨れてしまえば、他の生存者―――主に身勝手な奴の襲撃を受ける事は間違いないだろう。


 いや、僕も身勝手な奴の一人だろう。

 他の人も飢えているのは同じなのに、子供達の食料を集める為に遥かに多くの食料を一人じめにしているようなものなのだから。



「不意打ちを避けれてよかった……けど」


 そう言って、左腕を見る。


 長く切りつけられていて、服が血で染まり、地面へと垂れていた。

 切り傷自体は浅いが、出血は止まる様子はない。


「これじゃ、血痕でずっと追いかけられる」


 角を曲がったところで、後ろをボウガンの矢が飛んでいった。

 向こうは一人だが、飛び道具を持っているようだ。


「……どうする?」


 そう自分に問いかけて、思慮を巡らせる。


 まずは自分の状況。


 ここ一週間と少し、まともに食事をとっていない―――正確にはビタミン剤とビスケット数枚程度は口にしているが、それだけで一週間休まず活動しているのだ。それを支えているのは食事によるカロリーの摂取よりも、単純に気力だけ。

 それでいて、一食あたり十五人分の食料とシャベルを持って走っているのだから、軍隊ですら顔負けの状況下ではないだろうか。


 このまま逃げる続けるのは体力がもたない。

 また襲ってくる事を考えると、ここで仕留めたほうがいいだろう。


 次、どう殺るか。


 相手はナイフとボウガンを所持。

 こちらはシャベル一つ。


 自分の体力から考えれば、側面や後方からの奇襲が一番手っ取り早いか。


 地面はアスファルトで、足跡はついていないが血痕は残っている。

 相手は、これを辿ってくるだろう。


「……なら」


 路地を横切りかけたところで左腕を振って、何メートル先かまで血を振りまく。

 そして血が垂れないよう気を付けつつ、路地に入り込みある程度歩いてから血を地面に落としていく。


 少し走ってまた右へ曲がる前に、前へと腕を振って血を前に撒く。


 そして適当な物陰に身を潜める。


 これで相手は途切れた血痕を探して路地に入り、目の前を横切って、またこっちにくる……はず。



 しばらくして。


「くそっ! あのガキ舐めやがって……!」


 男が一人、通りすぎていった。


 僕の張った罠にまんまと嵌まったらしく、血痕を辿って路地に入って来てくれたようだ。


 物音を立てないよう静かに立ちあがり、男の後ろを追う。


「また途切れたか。くそ、また同じて―――」


 その頭に、シャベルを横殴りに叩きつけた。


 左へもんどりうって倒れる男の左腕を叩いてナイフを弾き飛ばす。ボウガンを持った右腕を左足で踏んづけ、胸を右足で押さえつける。



 シャベルの切っ先を、その男の首にめがけてつき下ろした。



「―――ふう……。疲れた……」


 シャベルを引き抜いて、地面に座りこむ。


 ともあれ、怪我の応急手当だ。幸いにも浅いので、消毒液とガーゼ、包帯で充分だろう。縫う必要はない。


 巻き終わって、一息。


 疲れたし、お腹も空いた。

 何か、食べたいな。


 リュックサックの中の食料は施設の子供達やあいつの分だし、ここで消費するわけにはいかない。


 目の前の そ れ にするかと思い、後腰につけたナイフを引き抜き――――――――――――――――――――――――

















「――――――っ!」


 文字通り、飛び起きた。


「きゃっ……!」 


 誰かが驚いて仰け反ったが、僕は気にせずに周りを鋭く見渡す。


 瓦礫の世界ではなく、よく知ったレドニカにあるオルレアン連合側の、フォントノア騎士団が駐留する基地のリンクス格納庫―――のパイロット待機室だった。


 その部屋で僕は五人は座れるベンチを占領して寝そべっていたようだ。そういえば、あまりに眠くて仮眠するとか言って寝そべったのを思い出した。どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。


 そして、かなり嫌な夢を見た。

 あの11ヶ月間―――しかもシスターが亡くなってからの3ヶ月間の記憶なんて、悪夢でしかないのに。

 最近は見ることはあまりなかったが、それでもたびたび見てしまうのは、それだけ強烈な記憶だってことだろう。

 冷や汗で肌着がべっとりしていて、気持ち悪い。


「いきなり起きないで下さい! びっくりするでしょう!」


 抗議を上げたのは、フォントノア騎士団に配属されて、リンクスに摩れてないという理由で新しく配備された8機の試験機 《マーチャーE2改》のパイロットになった、なってしまった可哀想な新人だった。


 年齢は僕と同じ十八歳。褐色肌でエメラルドグリーンの双眸を持った少女だ。出るところは出ていて、締まっている所は締まっている体つき。髪は白っぽく、ショートカット。容姿の偏差値が高いこの騎士団で、美人を見慣れてしまった僕ですら美人さんだなぁ、と思うぐらいエキゾチックな美貌の持ち主である。


「………………うん」


 彼女―――ヒュリア・バラミールの抗議に頷いて、背中からベンチに再度倒れる。


「……あの……大丈夫ですか?」


「……嫌な夢を見た。悪夢ってぐらいの」


 最悪の気分だ、と呟く。


「……すごい、目付きですもんね……」


 ヒュリアさんのその言葉に僕は彼女を見て、


「そんなに?」


「……はい。可愛い子がしてはいけない顔、と……言いますか……」


 目をそらして言い淀むあたり、かなり酷いらしい。

 手鏡を借りて自分の顔を見るが、確かに、目が据わっていて酷い表情だ。


「……うん。先に上がろう。そうしよう」


 そろそろ交代になるし、と言って待機室から男性更衣室の方へおぼつかない足取りで向かった。



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