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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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解放戦線殲滅作戦⑤




『―――まずは敵リンクスを叩く』


 尖鋭的な装甲を淡い黄色で染め上げたリンクス《ジラソーレ》のコクピットの中に、レアの落ち着いた声が流れ始めた。


『アステリズム隊は私の効力射の炸裂を合図に砲撃を開始。迎撃されるかもしれないが、数で押す。対抗砲撃は間違いなく《マウス》だ。陣地転換を忘れるな。クラック隊とレグルスは敵リンクスの撃破を確認次第距離を詰めて攻撃してくれ。足を止めるな。《マウス》の迎撃に喰われる』 


 大型マリオネッタ《マウス》の撃破の為に、即興で組み上げられた作戦が通信で共有される。


 《マウス》との戦闘に専念する為に、まずは護衛の《レオパルド》をアステリズム隊の砲撃で排除。


 功性防御システムの迎撃はあるだろうが取り巻きの撃破、ないし損傷を負わせてクラック隊とイサークで残った護衛を排除し、《マウス》との戦闘に専念する―――。


 端的にはそれが一先ずの目標だ。


 そして、肝心の《マウス》撃破―――弱点である頭部の後ろ、首の付け根を貫く手段を積んだ輸送コンテナが《ジラソーレ》の前に着地する。


『レグルス。補給は?』


「今、来ました」


 着地してすぐに外装を展開し内部に格納していたそれが外界に露出する。


 先端が鋭利な杭が中央に納められたユニット―――リニアパイルドライバ。


 リンクス用の先端が尖った杭を電磁力で撃ち出す杭打ち機だ。


 杭を撃ち出す速度は超電磁投射砲(カノープス)と同等。


 それならば《マウス》の弱点である首の根元の装甲を貫くには普遍的な実体剣でも可能だろうとは思われるものの、確実を取っての選択だ。


 右背の九七ミリ砲を外し、それをたった今空けた懸架部に保持させる。


 あとは消費した分のマガジンを補充して、


「レグルス、補給完了」


 準備が出来た事を伝えて、事前に伝えられた通りのポイントへ《ジラソーレ》を向かわせる。


 《マウス》とその取り巻きの進行方向のから見て左寄りの、まだ建物が残っている区画だ。

 

 《ジラソーレ》の速度ならばすぐに到着する距離であり、敵部隊からみても建物の影に入るそこに膝をついて停止。


 レーダーに視線を向けて―――《マウス》とその取り巻きの配置と、進行方向上に壁になるように並ぶ友軍の反応を見る。


 敵は《マウス》を中心に各々の距離を空けて一網打尽にされないように散開しているし、味方も同様だ。


 これで準備は整った。


「レグルス。配置に付きました」


『クラック隊各機も同じく!』


『ナイトメア了解。―――これより、《マウス》撃破を敢行する。砲撃を開始する』


 イサークやクラック隊隊長の報告を聞いて、レアはそう宣言した。


 その宣言にやや遅れて―――《ジラソーレ》の頭上を二つの砲弾が飛び越え、《マウス》の巨体へと向かっていく。


 二つの砲弾は緩やかな曲線を描いていき―――《マウス》の両肩が瞬いた。


 一拍遅れて―――空中で二つの砲弾が爆発する。


 しかし、取り巻きの《レオパルド》には何も起こらない。


『第一射が防がれました!』


 アステリズム02―――レアの副官でもあるアデーレの報告が起きた出来事を端的に評していた。


 《オニキス》が放った初弾は《マウス》の自動迎撃システムの砲弾によって破壊されたということだ。


 その結果にレアは予想していたのか驚いた様子もなく応じる。


『カタログ値よりも遠い距離で迎撃されたか。―――大丈夫。予想の範囲内だ。修正する』


 続けての第二射は―――迎撃されたタイミングよりも早く炸裂した。


 内部に充填されていたダーツ状の子弾が爆発の勢いのまま撒き散らされて―――範囲にいる数機の《レオパルド》へと降り注ぐ。


 一つ一つは小さいとしてもその先端は鋭く、音速を超えて降り注いだそれは小さいながら確かな損傷を与えていく。


 装甲に突き刺さり、関節に食い込み。


 脚部側面のブースターユニットを損傷させるものもあれば、手持ちのライフルを破壊さえしているものの―――それが全機という訳でもない。


 《マウス》を中心に散っているのだから、なおさらだ。


 第三射も同様だが―――一度目の砲撃を見たからか、盾を上に掲げて降り注ぐフレッシェット砲弾を防ぐ。


『アステリズム隊、少佐に続け!』


 アデーレの合図と共に砲撃が開始された。


 砲戦装備の《ヴォルフ》が持つ一二〇ミリ砲や後方に待機する自走砲の一五五ミリ砲が一斉に火を噴き、まずは《マウス》やその随伴機の手前に着弾する。


 その次は背後に着弾して―――修正を受けた効力射が始まる。


 降り注ぐ砲弾の多くは《マウス》の功性防御システムに連動した火砲が迎撃するも、同時に対応できる数は限られる。


 一つ、また一つと随伴機の付近に着弾し、爆炎と衝撃波が装甲を焼いては歪め、破片が傷をつけていく。


『着弾を確認! されど撃破は確認されず!』


『迎撃される数が多い! もっと数を撃て! 迎撃システムのキャパシティを食わせろ!』


『前衛! 対地ミサイルも使用する! レーザー誘導を要請する!』


『了解!』


 通信に砲撃の結果と対応が轟音でかき消えないように怒声でやり取りされ、後方からの攻撃が増加していく。


 リンクスの大口径砲や自走砲の連射速度が増すに加えて地対地ミサイルまで殺到する。


 少なくとも、リンクス十機程度の戦力に向けて放つ火力ではないものの、それでも《マウス》の迎撃システムはその多くを捉え、無効化していく。


 《マウス》は前進しつつ各部からマズルフラッシュを焚きながら、手のない巨椀を持ち上げてその端面から覗く大小様々な砲口を砲弾が飛来してくる方角へと向けた。


「《マウス》、両腕を上げました! 回避を!」


 モニター越しにそれを見たイサークは通信に呼び掛ける。


 その砲口は接近戦を仕掛ける予定の自分達ではなく、後方へ向けられているからこその呼び掛けだ。


『回避ーーー!』


 それを聞けば相手が次に何をするのなど説明を受けずともわかる。


 通信に誰かの叫ぶ声が聞こえて、レーダーに映る味方の反応が散るように移動を開始する。


 それと同時に―――《マウス》の腕が火を噴いた。


 やや遅れて轟音が響き渡って、自分達の後ろで着弾の爆発が上がる。


 振り返って場所を見て―――そこがレア達アステリズム隊が展開していた場所だというのに気付く。


 レーダーの反応的には無事そうではあるのだが、それはあくまで識別信号だ。


 機体の損傷具合まではわからない。


『―――こちらナイトメア。砲撃続行する。―――被害報告』


 そんなイサークの心配を余所に、レアの声が通信で部下の安否を確認する。


『アステリズム02、損傷軽微!』


『アステリズム03、センサ系に損傷。砲撃は可能です!』


『こちら04! 一五五ミリ砲に損傷。予備と入れ替えます』


『05、膝にクラスCの損傷。歩行に影響が出ますが、砲撃は続行出来ます』


『こちらアステリズム07! 私は無事ですが06が通信系をやられました! 後退してミサイルの発射に専念するとのこと!』


『08、戦闘可能です!』


 その返答は一人一人違うものの、どの機体も損傷の程度は軽いことと戦闘を続行する旨の返答だった。


 犠牲者がいないことにほっと息を吐きつつ、イサークは建物の影から《マウス》を見る。


 対抗砲撃を続けていて、レアの部隊よりも近くにいる《ジラソーレ》やクラック隊の《ヴォルフ》に対しては無防備だ。


 そんな状況下でも、アステリズム隊の砲撃は数は減れども止まらない。


『各機、これから《マウス》の反撃が激化する。移動しながらでもいいから気を引くんだ』


『了解! 各機、砲撃を継続! なんとしてでも数を撃つのよ!』


 一つ、また一つと迎撃の網をすり抜けて《レオパルド》に確かな損傷を与えていく。


 損傷が重なっていけば、いずれは動けなくなるのも出てくるし、運悪く直撃を受けて破壊されるものも出る。


『こちらクラック03! 《レオパルド》五機目の沈黙を確認!』


 クラック隊の一人からの報告。


 誰もが待っていた状況だ。


『よし。予定通りに頼む。こちらの砲撃に巻き込まれるなよ』


 レアのその一言を合図に、イサークはフットペダルを踏み込む。


 《ジラソーレ》は物陰から飛び出して、《マウス》の初手の砲撃とアステリズム隊の砲撃で更地になりかけている市街地へと躍り出る。


 建築物という障害物の少なくなったそこは、リンクスにとって隠れることの出来ない戦場だ。


 しかし―――大推力で急加速を繰り返す《XLK39》にとってはこの上なく自身の高速性を活かせる戦場でもあった。


 真っ先に飛び出した《ジラソーレ》を見つけたのか、一機の《レオパルド》がまだ手に持っていたライフルを持ち上げる。


 その砲口を《ジラソーレ》に向けて、


『クラック05よりレグルスへ。支援を開始します』


 ―――次の瞬間にはライフルの側面に穴が開いて火花が散る。


 クラック隊の狙撃機からの援護射撃だ。


「助かります!」


 その事に礼を述べつつ、他の敵機からの射撃を乱数機動で回避し、反撃としてライフルの連射を叩き込む。


 狙われた敵機は盾で防ぐものもいれば、対応が遅れて胸部に被弾して倒れるものも出る。


 取り巻きは残り三機となった時だった。


『照準警報。十一時の方向です』


 警報と《カシマ》からの警告。


 言われた方角へ視線を向けて―――《マウス》の両肩の砲塔がこちらに向けられているのを見た。


 左腕の盾を正面に向けて右へクイックブースト。


 発砲炎が瞬いて、《ジラソーレ》がいた場所をいくつもの砲弾が飛び去っていく。


 続いて背部のユニットが持ち上がって、その砲口が露出する。


 六つの砲身が回転を始めて、火と砲弾が吐き出され始めた。


 あまりに速い連射は発砲音を一繋ぎに聞こえる。


 ガトリング砲の特有の連射音だ。


 イサークはフットペダルを小刻みに踏んで機体に乱数機動を取らせて、その濃密な弾幕を潜り抜けつつ距離を詰めていく。


 しかし。


「弾幕が濃いし、隙が無い……!」


 イサークが言うように、《マウス》はどれかのガトリング砲を短時間連射して、止めたと思えばまた別の火器を発砲するという攻撃を繰り返している。


 砲身が過熱しすぎないようにするのと、弾の節約を考えての複数の砲火器を切り換えての短連射だ。


 警報が鳴り止まないほどなのだが、《マウス》本体は以前レア達への対抗砲撃を継続したままだ。


 火器管制が二人も乗っているからだろう出来る芸当かもしれない。


 飛来してきた四〇ミリ榴弾を盾で防ぎ、反撃としてライフルを撃つも効いた様子はなく迎撃の砲撃が返ってくるだけだ。


「弾幕が濃い! 接近が厳しい! 援護を!」


 後退させつつ援護を要請すると、すぐに応じる声が通信に入った。


『クラックリーダーより狙撃班へ! 《マウス》の各部の砲塔を狙えるか?』


『……やってみます!』


 その応答の後に、《マウス》の各部で火花が散り始めた。


 一〇五ミリ口径の狙撃砲による遠距離射撃だ。


 一射一射は確実に非装甲ないし軽装甲の武装に突き刺さり、その機能を停止させていく。


 両肩の二〇ミリガトリング砲は容易く沈黙し、脚の機関砲も機関部を大きくひしゃげさせてその動作を止める。


「援護ありがとうございます!」


 まだいろいろな武装があるとしても、その数が減るだけでも充分助かる。


 その意味も込めて通信で援護したクラック隊に礼を言い、《ジラソーレ》を前に出させる。


『レグルスへ。取り巻きのリンクスはやった。あとはデカブツだけだ』


「了解―――っ!」


 他に気にするべきものも減ったことを知って―――モニター越しに《マウス》の肩が展開したのを見た。


『ミサイル警告』


 《カシマ》の警告通り―――展開したそこからいくつものミサイルが噴煙を吐き出しながら垂直に飛び出し、《ジラソーレ》へと殺到し出す。


 ブースターを切って降下を開始し、着地。


 ミサイルの下を潜るようにブースト移動して追い縋るミサイルを地面にぶつけさせて、それでも追ってくるものは反転してライフルの連射とクイックブーストで回避する。


 続く第二波は、


『こちらナイトメア。援護する。―――まだ飛ばないでくれ』


 レアの通信に遅れて―――どれもが空中で爆発した。


 一五五ミリのフレッシェット砲弾による一掃だ。


『今なら大丈夫だ』


「ありがとうございます」


 礼を言って、振り返って《マウス》を一瞥。


 距離は残り五〇〇メートル近く。


 もう間近だ。


 いよいよ距離を詰めてきた敵機を無視出来なくなってきたのか、《マウス》は巨大な両腕を《ジラソーレ》へと向ける。


『照準警報』


 警報と同時にフットペダルを踏み込み―――クイックブーストと共に跳躍。


 それにやや遅れて《マウス》の両腕が火を噴いて、放たれた砲弾のどれもが地面に着弾し炸裂していく。


 続く攻撃は―――両肩のロケットランチャーだった。


 無造作に放たれる無誘導ロケットを距離を詰めつつも上下左右へのクイックブーストで次々と避けて、


「―――!」


 避けきれないロケット弾が迫ってきたのを見てイサークは咄嗟に左腕のミナヅキを構える。


 その防御は間に合ってロケット弾は盾に着弾し―――爆発する。


 衝撃に揺らされながらもイサークはシステムが出す被害報告を見て―――ミナヅキが使用不可になった以外に被害はないことを確認して、再度《マウス》へ向かって加速する。


 破損したミナヅキを捨てて、右肩の長剣が差し込まれた盾であるサミダレを左手に装備して構える。


 《マウス》はもう一度と言わんばかりにその巨大な右腕を持ち上げた。


 耳に入る照準警報と


『そのまま突っ切れ!』


 レアの通信。


 その意味を考える暇もなく―――その理由が文字通り叩きつけられた。


 《マウス》が持ち上げた右腕の下腕部が上から()()()()()何かに被弾して、その砲口が強引に地面へと向けられたのだから。


 強引に照準を捻じ曲げられてから放たれた砲弾は、どの機体にも当たる事はない。


 まだ手はあると言わんばかりに背部のガトリング砲が向けられるも、側面からの狙撃がその意図を遮る。


 外装を貫いただろう一〇五ミリの徹甲弾は内部の機構を破壊し、その機能を奪う。


 続く抵抗は―――頭部の三〇ミリガトリング砲だった。


 それを《ジラソーレ》は前に掲げたサミダレと自前の装甲で防ぎ、クイックブーストでその驟雨を躱す。


 残り一〇〇メートル。


 《マウス》が距離を離すべく一歩下がるも、すでに遅い。


 《ジラソーレ》は左、前へとクイックブーストを連発。


 背後を取って、振り返って右手に持ったライフルを脇下のサブアームで保持させる。


 背部の懸架ユニットに持たせていたリニアパイルドライバを手にして、クイックブースト。


 頭部後ろに飛び乗って、パイルドライバを首の付け根に向けて叩きつける。


 鋭利な杭の先端が装甲に触れると同時にトリガーを絞った。


 パイルドライバ内の大容量コンデンサに蓄電された大電力がレールを杭に流れて、圧倒的なローレンツ力を持って杭を加速させる。


 その運動エネルギーは―――その部位は受け止めきれることはなかった。


 杭はいとも簡単に装甲を穿ち、内部にあったフレームや回路を破壊していく。

 

 それが致命傷だった。


 機体制御の重要部を破壊された《マウス》は各部の光学センサを暗転させて力なく膝をついて―――前のめりに倒れ始める。


「……っと」


 イサークはパイルドライバを無理に引き抜くことはせず、手放して後ろへブースターだけで跳躍して《マウス》から離れる。


 轟音と共に巨体が倒れるのと着地するのが同時だった。


 《マウス》のジェネレーターの駆動音が収まり、敵機の反応がレーダーから消失する。


 それが意味するのは一つだった。


『《マウス》を撃破。皆、よくやった』


 レアの労いの言葉がその結果を意味していた。


 イサークは大きく息を吐いてシートにもたれるように脱力する。


 最後の攻防は一瞬でも気の抜けない応酬だったのだから、緊張の糸が途切れて当然でもある。


 しかし、そんな戦場での僅かな休息はすぐに終わりを告げる。


『だが、まだ作戦中だ。気を抜くなよ』


 レアの忠告という切り替えが作戦はまだ終わっていないと確かに告げていた。


 確かに彼女の言う通りだ。


 うんざりするようなレアの麾下たちの了解の声に混じるように、


「……了解……!」


 イサークはたった今覚えた疲労を食いしばりながら応じて、操縦桿を引いた。



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