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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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解放戦線殲滅作戦④




 立ち上がったそれから偽装として纏わされていた石造りの建造物は自重で落ちて、隠れていた姿が露わになる。


 その三機は確かに人の形はしていた。


 人間のそれと比べて長い腕と短めな脚部は見た人に不自然という違和感を持たせるものの、それでも人の形を成している。


 腕部や脚部はどちらも下腕部と脛部より下が肥大化していて、大して上腕部や大腿部は細く見える。


 それに加え、関節部分を除いて円柱状に整えられた外装で覆われていて、重厚な印象を強く認識させる。


 その四肢の中心にある胴体は鍛え上げられた人のように逆三角形のシルエットを有していて、丸みを帯びた肩部装甲は胴体に見劣りしない大きさを持っていた。


 そして、重厚な胴体に乗っかる前後に長いヘルメットのようにのっぺりとした頭部は、中心の一眼式の光学センサ囲うように八つの光学センサが並んでいるだけとシンプル。


 しかし、そのシンプルさが見る者に怪物のような印象を持たせた。


 そして―――その機体でもっとも特徴的なのは、


「大きいわね……!」


 尖鋭的な装甲を赤く染め上げたリンクス《サザンカ》のコクピットの中でカルメが呟く通り、その巨体だった。


 該当機の付近にある建物やリンクスの全高から考えても―――五〇メートル近くはあるだろう。


 陸戦兵器ではTFを除いて全く見ることのない大きさだ。


 カルメは《ノーシアフォール》対応でやってきた暴走機が相応の大きさのものを見ているが―――それはあくまで異世界で作られたままの存在だ。


 この世界で造られた兵器では見られないサイズだ。


 その例の少ない大きさと見た目の重厚さに固そうな相手だと思っていると、その機体は両腕をゆっくりと持ち上げ始めた。


 腕の先端には人に似た手のようなものは無く、ただ単純にいくつもの穴が空いた端面がそこにあって―――一度瞬く。


 戦場でよく見る火炎の瞬きだ。


「―――散開しなさい!」


 カルメは共通回線にそう叫んで、フットペダルを踏みつける。


 《サザンカ》はブースターからプラズマ化した推進剤を盛大に吐き出して急上昇。


 それにやや遅れて―――足元で爆発がいくつも起きて建物を区画ごと瓦礫へと変えていく。


 そして重い砲音をマイクが拾ってコクピットに流す。


 残りの二機も東と北への攻撃を開始していて、撃ち込んだ先から土煙が上がっていく。


『なんだ今のは?!』


『自走砲からの一斉砲撃か?!』


『違う! 中央にいるあの巨大兵器からの砲撃だ!』


『下がれ下がれ! 隠れて姿を隠せ!』


『それじゃいずれ持ち堪えれなくなるぞ!』


 共通回線に今の砲撃を受けたことによる混乱が流れ始める。


『―――あの巨大兵器からの砲撃か。どれだけの砲門を持っている?』


 デイビットからの通信。


 左を見ると―――そこには《シリエジオ》がホバリングしていて、中央へ頭部の複眼式光学センサを向けていた。


 カルメと同様に空中へ退避していたらしい。


『今撃ってるのは腕からね。砲門数はわからないけど、少なくとも砲音からして一二〇ミリ以上はあるんじゃないかしら』


『あの巨体だと、腕以外にもあると警戒するべきだな。それに、固そうな相手だ』


『同意見。ファットマン。被害は?』


 そう尋ねた視線の先で―――一筋の光が西から飛んで来た。


 それは火炎の橙色だけではない、アーク光の青白い光も混ざった発射炎をいくつも放ちながら近づく。


 脚部に追加のブースターユニットを取り付け、他にも武装ユニットを纏った機体―――《アルテミシア》だ。


 それは乱数機動を織り交ぜながら接近しつつ手持ちのレールガンを撃ち込んでいくも―――巨大人型兵器はびくともしない。


 お返しにと言わんばかりに肩部の装甲がいくつも展開して―――何本もの火線と噴煙がまき散らされる。


 噴煙を帯びて飛んで行くのはミサイルのようで、どれもが近づいて来ていた《アルテミシア》へと殺到していく。


 《アルテミシア》は急制動して降下し、ミサイルの下を潜りながら再加速して―――急上昇する。


 地上からの曳光弾混じりのまばらな火線は―――リンクスからのものだろうか。


 それでも《アルテミシア》はレールガンを巨大兵器へ撃ち込みながら後退して距離を稼ぎ、一気に離脱に入る。

 

『こちらストレイド。超電磁投射砲(カノープス)の一〇五ミリが弾かれたわ。一二〇ミリ以上のHEAT砲弾装填した火器持ってる人いないかしら? ちょっと借りたいのだけれど。あと護衛にリンクスが―――大きいの一機あたり十機いる』

 

 シオンから通信が入って、今の接敵で得た情報を次々と述べていく。


 その情報はもちろん《ストラトスフィア》からのレーダー情報に映っているものの―――それはともかく。


『ストレイド。情報無しに突っ込むのはお止めください。危険すぎます』


 そのシオンのある意味で無謀な行動をHALが窘めた。


 現状、相手は未知の兵器だ。


 どんな火器を装備し、どんな機能を隠しているのかさえ分からない存在である。


 今の接敵である程度は把握できたのは違いないが。


『戦うのに必要な情報が手に入ったからいいじゃない、ジュピターワン』


『よくないわよ』


 HALに続いてフィオナも彼を窘めに掛かる。


『一応、こっちにも映像は回されてるから姿はわかるし、帝国の兵器に関する情報も揃ってるのよ。検索すればすぐにジュピターワンが教えてくれるし、知っていればナイトメアが話してくれる』


『そうですよ。一応、近い機種に目星をつけました』


 どうやらもう調べ終わったようだった。


 ―――HALが近い機種というように、機体(サザンカ)のOSの方はまだ機種不明としか表示していないところから登録情報とは差異が多いのだろう。


『あの兵器は帝国陸軍に何機かが納入されているという大型マリオネッタ、《マウス》と思われます。差異は多いですが』


 その正体をHALが口にした。


 マリオネッタ―――帝国で配備が進んでいる人型機動兵器の一種だ。


 リンクスの数を埋める為の、登録されたモーションを実行するだけのプログラムで戦闘を行う兵器であい、操縦システムに《linksシステム》を使用しない為、男であっても操縦可能になっていると―――カルメは聞いている。


 それを極端なまでに大きくした兵器というのだろう、あの兵器は。


 HALの報告に続いて、


『こちらナイトメア。恐らく、あの《マウス》は三機建造された試験機だ。マニピュレーターがないのがその証だ』


 ナイトメア―――砲戦型重リンクス、オニキスのパイロットであるレアが捕捉を言うべく通信に加わった。


 彼女の言う通り―――《マウス》と呼ばれる大型マリオネッタの腕の先に人の手を模したユニットはない。


「マニピュレーターがないって、人型なのに?」


 リンクスと互換のある、手に持つような武装があるとも思えないが。


 その事を指摘すると、レアはそうだと肯定する。


『リンクスではないし、そもそも開発初期の試験機だ。あれだけ大きいならば無くても兵器として運用できるから無くても問題ないという判断だと資料には書いてあった。―――正式採用機のは自衛用の棍棒を装備する都合や相手への威圧感を与えるべくマニピュレーターを装備しているから、そこで見分けがつく』


 正式採用機という一言にカルメは表情を引きつらせる。


 ただでさえ硬く、武装の多さを垣間見せた兵器が試作機でまだ何機もあるとは。


 これから交戦する機会がある難敵になりそうだ。


『《マウス》の武装や装甲防御力。弱点とかの情報は?』


 カルメが軽くショックを受けている間を埋めるように、シオンが撃破に向けての段取りを立てるためにか質問を続ける。


『四人乗りで操縦一人と火器管制が二人。レーダーが一人の構成。武装は―――片腕に一五五ミリ砲四門と一二〇ミリ速射砲が二門。六〇ミリガトリング砲が二門が内蔵。肩部装甲内に片側だけでミサイルランチャーが五基と二〇ミリガトリング砲が二門に、十連装ロケットランチャーが三セット。脚に七五ミリ機関砲。胴体は正面に一二〇ミリ速射砲二門と三〇ミリガトリング砲が四門。背部に七五ミリ機関砲と六〇ミリガトリング砲が二門ずつとミサイルランチャーが二基。頭部に三〇ミリガトリング砲が四門。あとは二〇ミリクラスの火器は自動功性防御システムと連動していて、各所に近距離迎撃用の四〇ミリ榴弾砲が内蔵されている。近づくのは困難だな』


 多彩だった。


 一兵器に装備させる数ではないと思いながらもカルメは黙って二人の話に耳を傾ける。


『街一つ地上から消せそうね』


『あの機体は防衛線や局地戦を想定しているし、リンクス相手なら離れた所から火力でねじ伏せるとう運用を考えていたようだからな。それだけ必要と思ったのだろう。独自改修されていたらお手上げだが』


『武装はわかったわ。装甲は?』


『拘束セラミックやチタン、ガラス繊維を組み込んだ鋼板換算にして一五〇〇ミリ相当の複合装甲だが、専用品でTFの装甲区画と同程度の防御力だ。徹甲弾じゃ砲弾の方が砕けるし、HEAT砲弾でさえ同じ場所に撃ち込み続ける必要がある』


『正面からは撃破は困難と』


『ああ。―――だが、強奪を想定して弱点は設けられている。関節は当然だが、一番効果があるのは(くるぶし)の装甲の隙間。あの巨体だ。それを支える脚は頑丈だが、同時に繊細でもある。相応の損傷を与えればゆっくりと自壊が始まる』


『時間が掛かりそうね』


『ああ。一番効果があるのは頭部の後ろ、首の付け根だ。その下に制御系の中枢ユニットが収まっている』


 レアの言うことはつまり《マウス》の脚を止めさせて、背後で上から攻撃する必要があるということだ。


 やることは単純だが、実行するには。


『……《マウス》の砲撃や迎撃を掻い潜りつつ直掩を通り抜けて背後と上を取って弱点を攻撃、ですか』


 イサークが会話に加わり、《マウス》を撃破する手順を口にした。


 彼の意見にレアは肯定する。


『その通りだ。それに、弱点とはいえ相応の防御力は持っているからそれなりの貫徹能力も必要だ。ブレードを突き立てるか、大口径砲で撃ち抜くかの二択だな』


『《マウス》の重武装ぶりと直掩の存在からして、飛び込むにしても援護がいるわね』


『そうだ。それと自動近接防御システムがある。多数で挑んでシステムの処理能力を飽和、ないし過負荷状態にして処理能力の鈍化を狙らい、その隙を突いて肉薄しなければならない』


 危ない役目だと、カルメは通信には乗せずに溜息を吐く。


 聞けば、シオンたちはこの危ない役目の類をずっとやっているようだが。


 特にシオン(チハヤ)は―――皇国に渡ってもそれは変わっていないのは何の因果だろうか。


『だが、やるしかない』


 憂鬱な気分に追い打ちをかけるようにノブユキが通信に割り込む。


 必要な情報が出そろったタイミングだからだろう、そのまま指示を出しに掛かる。


『―――ストレイド。西へ侵攻する《マウス》を任せる。ナイトメア。あなたの麾下に彼女の援護を要請しても?』


『勿論だ。東は私たちアステリズム隊とクラック隊に任せてほしい』


『お願いします。レグルス。お前はナイトメアと共に東のを迎撃。―――プリスキン、アップリケ。南の《マウス》を頼んだぞ』


『援護役は?』


 次から次へと指示が飛んで、自分たちに振られてからデイビットがそれを尋ねた。


 シオンとイサークはアーベント大隊と共に行動していたからこそ簡単に決まったが、自分達はそうでもない。


『安心しろ。―――エアリス氏が話をつけてくれた。南の侵攻部隊に援護してもらう』


 既に話は動いていたようだった。


 南から攻略を進める委員会の部隊から援護を得られるならば多少はやりやすくなる。


『手始めに取り巻きを潰せ。《マウス》を相手取るのに妨害されては困る』


「当然! 横槍は勘弁願うわ」


 カルメはそう返して、フットペダルを踏み―――《サザンカ》を建物の影に着地させて、東へ道路を滑走していく。


「補給が必要になりそうだけど、何とかなるか。―――プリスキン。そっちに《マウス》を仕留めれそうな武装はある?」


 残弾を確認を確認して適当な建物の影で膝をつき、同じマウスを相手取る僚機に話を振った。


 《サザンカ》の武装のほとんどは対リンクス戦闘を想定している。


 対戦車用に九七ミリ砲も背部に装備しているが、直径を考えれば《マウス》の弱点を貫けるとは思えない。


 踝という弱点ならばなんとかなるかもしれないが。


『……クサビマルならあるいは、と思うが』


 クサビマル―――長い柄を取り付けたようなチェーンソーのような武装の存在を上げるデイビット。


 単分子カッターと分類される、文字通り削り斬る近接兵装だ。


 確かにそれならばやれそうではある。


「じゃあ、トドメはあなたが。私がアイツの気を引く」


『了解した。―――突撃のタイミングは?』


 デイビットの問いに、カルメはレーダーを見て援護役の委員会の部隊の位置を把握して、


「……後ろが来てから合図するわ」


 一時の()()を即決する。


 後方の友軍は立て直してはいるようだが、まだ動くという様子は見られない。


 彼らの援護があるとはいえ、それは揃ってからの話だ。


 揃っていない状況下で、十機の直掩を同時に相手にしながら二人だけで挑むのは無謀としか言いようがない。


 挑んだ人間はいるが。


『了解だ』


 その返答を聞いて、もう一度武装に視線を通す。


 残りの弾倉が二つとなった七〇ミリ口径のアサルトライフルとアンダーバレルの九七ミリ口径散弾砲。


 左肩には実体剣を乗せるように懸架。

 

 実体剣と八五ミリ口径砲を内蔵した棺型複合防盾《ハヅキ》。


 右背の九七ミリ多目的砲の残弾は十分。


 左背のミサイルランチャーは未使用で全弾残っている。


 エグザイル小隊の面々と比べれば幾分か大人しくとも、リンクスとしては多い積載に頼もしさを覚えつつ、今度は《マウス》を見るべく建物の影から敵機がいる方角を覗き込む。


 護衛の《レオパルド》を伴いながらゆっくりと南へ進んでいるのがモニターに映った。


 まるで攻撃されても問題ないかのような偉容にカルメは独り言ちる。


「今度はこっちの番よ……」



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