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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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解放戦線殲滅作戦③



 その部屋には所狭しと通信機やレーダー機材、地図を張ったボートや机などが乱雑に並べられられていた。


 ボロボロの野戦服やツナギを着た男たちが通信機に向かって怒鳴り、なにかを報告して地図に円や線を描き、石に似たものを目印代わりに机の地図の上に置いては動かしてを繰り返す。


 ここは―――旧ウラス王都中央にあるクオン解放戦線の指揮所だった。


 そこでは全ての方角から戦闘の音が聞こえていた。


 ミサイルや砲弾の飛翔音や、ヘリのローター音。


 砲火器の発砲音から、リンクスのブースターの轟音に至るまで。


 それらの騒音に負けないように、怒声の応酬が繰り返されているその喧騒の最中。


「何故ここがバレた!? 道など無い、マクス荒野のど真ん中だぞ!」


「わかりません!」


 その指揮所の片隅に用意されたデスクの前で、状況の確認をする男たちがいた。


 デスクを囲む男たちの年齢層は幅広く、若い男から初老の男までと揃っている。


 そして、デスクに座るのは厳つい顔をした禿頭の男で、ローブに似た衣服を纏っている。


 禿頭の男は不機嫌そのものの表情を浮かべて、目の前にいる男たちへ怒鳴り散らす。


「わからんとはなんだわからんとは! 予測さえ立てれないか!?」


「偽装も完璧でしたし、内通者はいないはずです! 補給部隊への尾行や探知された形跡もありません!」


「そうでないならば今の状況はなんだ?! 偶然見つかったにしては戦力が本格的すぎるぞ!」


 入ってきている敵部隊の情報―――航空輸送艦が四隻にリンクスを含む一個師団という規模を指摘して怒鳴りつける。


 これだけでも充分に、解放戦線とは違って相応の戦力を有している組織であるのは確か―――以前の問題で、正規軍しか運用していない兵器なのだから軍なのは間違いないが。


「 ―――ではどこの部隊かわかるか!? 少なくとも航空艦で来ているのだからだぞ!?」


 次の質問に、答えられる人間はいなかった。


 三隻は航空輸送艦といえど見た目は主翼と尾翼に水平尾翼を揃えた飛行機のそれに準拠しているはずなのに―――一隻は左右に小さな船体を備えた文字通りの艦であった。


 この一隻の存在が帝国正規軍ではない事を物語っているのは確かで、どこの勢力なのかと特定できないでいる。


「誰も答えられないか?!」


「まだ情報がこちらに―――」


「ルステム様! 敵部隊はラインハルト自治推進委員会です!」


 誰にも答えることができない状況の中、通信でどこかの部隊とやり取りをしていた男が襲撃部隊の所属元を答えた。


「委員会だと?! あの半端組織が……!」


 帝国からの独立の為にまずは対話をと説き、近年はおろか最近になっても勢力を拡大し続ける組織―――帝国の滅亡を望む解放戦線とは相容れない後発組織の名前に、ルステムと呼ばれた男は忌々しそうに歯ぎしりをする。


 解放戦線から見れば―――委員会の掲げる目標は腑抜けたもののそれだ。


 何が共存だ。


 帝国に何もかも奪われ壊されたたのだから―――それをやり返し、自分らの先祖が受けた仕打ちを奴らに味合わせなければ復讐にすらならないというのに。


 そんな気に入らない組織はどうもこちらを邪魔には思っていたという事だろう。


 最近では賛同する街や地域―――果てには帝国本土や正規軍から合流する勢力も増えてきたともいう。


 解放戦線とは違い、志を同じくし利害の一致もあっての協力関係や勢力を拡大していくかの組織を、ルステムは妬んだ。


 ―――奴らと自分達の何が違うのだと。


 最後は力で屈服させるしかないのに。


 血を流すしかないのに。


 現に―――彼らは実力行使を以って解放戦線に攻撃してきているではないか。


「ここを攻撃するならば、相応の戦力を投入してきたか……。返り討ちにして帝国との戦争の主導権を我々に譲って貰おうか……!」


 本人でさえも自覚できない、身勝手な欲望を吐き出しながら命令を出す。


「出せる部隊に使えるものは全部出せ! ここが我らの分水嶺ぞ!」


「了解です!」


 最高指導者からの命令を聞いて、デスクを囲んでいた男たちが自身の持ち場へ戻り始める。


 これでまず、と彼は一息を吐いたが―――


「報告です。この街は既に包囲されています……!」


 すぐに指揮所に通信士の道間声が状況の変化を伝えた。


「なんだと!?」


「東西南北、全ての方角から敵部隊が進行中! 空を飛ぶリンクスを主軸に被害が広がっています!」


「対空兵器が全部やられました! 敵戦闘ヘリへの対応が出来ません!」


「北部第一防衛線が破られました! 敵の侵攻を止められません!」


 その報告を合図に、次から次へと同志の敗走という状況の報告が上がってくる。


 敗走したのは一応はと待機させていた緊急事態用の兵だ。


 主力はまだ出撃を指示したばかりで―――交戦さえしていない。


 被害の多さと、この侵攻の速さは―――解放戦線の壊滅を狙っているようにさえ思えた。


 その報告を聞きながら、ルステムは脂汗を滲ませながらもこの事態をどう切り抜けるかを思案して―――一つの案を彼は思いつく。


 最近、協力者から提供された兵器があるではないかと。


 三機しかいない、操縦訓練が始まったばかりだが―――それでも強力な兵器だ。


 今使うしかないと腹を括り、ルステムはその名前を口にした。


「―――《マウス》を全機出せ! それで奴らばを駆逐せよ!」


「《マウス》を?! あれはまだ―――」


「ここで使わんでいつ使う!? 奴らは我ら解放戦線を壊滅させるつもりだぞ。その戦力も選別された精鋭ならば、この苦境は好機にもなりうる」


 部下の制止にルステムは皺の多い顔を醜く歪めて言う。


「せっかくの力だ。―――我々は容易く倒せるものではない、貴様らより長く戦ってきたのだと教えてやらねばな」




 ―――――――――




 委員会の作戦は順調そのものだった。


 シオンの《アルテミシア》―――《フロイライン装備》と呼ばれる電撃侵攻攻撃仕様による強襲と、ミグラント所属リンクス部隊の強襲を初めとする対空兵器の無力化やリンクスの起動前の撃破などの今作戦の第一段階が想定通りに進んだのが功を奏したからである。


 旧王都東部の荒野では空挺降下が開始され、歩兵部隊と機甲部隊は集合し市街に突入済み。


 リンクスも同様で、既に都市東部の制圧に移っている。


 北と南の航空輸送艦は既に着陸し、そこから展開したリンクスが既に到着済みで戦闘を有利に進めている。


 装甲車を初めとする機甲部隊の到着はまだだが、それも時間は掛からない。


 西部―――《ウォースパイト》から出撃するレア率いるアステリズム隊やクラック隊以外のアーベント大隊ももちろん到着済みで、解放戦線の退路を断つべく戦闘を始めている。




 そんな各地で戦闘音が鳴り響く旧ウラス王都―――その南部区画。




 市街地の低空―――建物にぶつからない程度の高度を、尖鋭的な装甲の多くを淡い桜色に染め上げた、いくつもの光学センサを組み込んだバイザーを頭部に装着するリンクス《シリエジオ》が高速で飛び抜けていく。


 その進む先には三機の《レオパルド》が建物を盾にライフルを構えていて―――射撃を開始する。


 始まった砲弾の驟雨を《シリエジオ》は上下左右への小刻みな乱数機動で掻い潜り、自機から見て右端の《レオパルド》の隣へ着地する。


 左手に持った九七ミリ散弾砲を向けて至近距離で発砲。


 リンクス用の散弾がライフルを再び《ジラソーレ》に向けた敵機の胸部装甲にいくつもの穴を空けると同時にその衝撃で後ろへ弾き飛ばす。


 同時に右手の銃身の短いアサルトカービンを後腰部に並んだ九つの武装懸架ユニット《オサキ》に懸架し、片刃式の実体剣を引き抜く。 


 次の敵機に向かってクイックブースト。


 一瞬の接近に武器を切り換えている最中だった《レオパルド》の胸部にブレードを突き立てて、そのまま切り捨てる。


 次の敵機は―――《シリエジオ》に近づき、ブレードを振りかぶっている所だった。


 《シリエジオ》はそれを見てバックステップでその斬撃を躱し、前にクイックブーストを敢行。


 その勢いのまま膝蹴りを叩き込んで―――仰向けに転倒した《レオパルド》へ散弾砲を撃ち込む。


「こちらプリスキン。敵リンクス三機を撃破」


 《シリエジオ》の狭いコクピットの中―――操縦服の上から身体能力を補助する外骨格とフルフェイスのヘルメットを身に着けたデイビットは通信で報告する。


 レーダーにはいくつもの反応はあるものの―――今彼が居る南区画は南北で敵と友軍とで綺麗に分かれている。


 その境目で《シリエジオ》と《サザンカ》はリンクスを主体に戦闘を繰り広げているのが今の状況だ。


 そして、解放戦線のリンクスはそう多くは無いようで自身の近くにリンクスらしき影はない。


 《サザンカ》の近くではいるようだが、それも《サザンカ》の移動と共に反応が次から次へと消えていく。


 機体の性能もあるだろうが、それと同時に乗り手であるカルメの実力もあっての現象だ。


『こちらアップリケ。敵リンクスを排除したわ』


 通信にカルメの報告が上がってくる。


 その通信の通り―――レーダーに映る近辺の反応の動きは静止しているか鈍いものばかりだ。


 一先ず、初動のリンクスは撃滅したと見ていいだろう。


 北はシオンの《アルテミシア》があらかた蹂躙したし、西区はレアや一部の構成員がいないとはいえアーベント大隊の敵ではないようで侵攻速度はどこよりも速い。


 イサークとレアが担当する東区も順調でここだけは最初の奇襲もあってほとんどの対空兵器が沈黙している。


『作戦は順調のようだな。戦闘車両はいるにはいるが、それよりもリンクスの出現が止まっている。打ち止めにしては早すぎる』


 レーダーの情報を見てか、ノブユキはそう言い放つ。


 現状、解放戦線側にリンクスがいない訳ではないが、その反応は戦闘開始からの初動よりもずっと少ない。


 そしてノブユキの言う通り、追加で起動するリンクスがいない。


 適時通信に上がってくるリンクスの情報と事前に掴めていたリンクスの数は同数になっていないからこその疑惑だ。


 第二陣が来るかもしれないと推測を述べつつ、


『もう少し出てくると身構えていたが、先にサンドイッチが無くなりそうだ。補充しなければならん』


 彼は通信で聴いているだろうミグラント各員の緊張を解すつもりなのだろうか、妙に気の抜けた事を言い放った。


 デイビットを含む、ミグラントの構成員は彼の食い意地はよく知っているので特にツッコミは入れないが、


『こっちが必死に戦ってる中でよく軽食を口に出来るわね……』


 正式な作戦でのノブユキの素行を初めて知るカルメは呆れたように通信に聞こえるように呟いた。


 褒められた姿勢でないのは確かだ。


 デイビットを含むミグラントの所属員はすっかり慣れてしまったので何とも言わないが。


『小腹が空くと頭が回らないからな』


『とんだ食い意地ね。そんなだからお腹出てるのよ』


『ありがとう。最高の褒め言葉だ。―――それとコーヒーの追加を頼む。空になった』


『褒めてないし真面目に仕事して!』


『勿論真面目に仕事しているとも。レーダーじゃ敵機のおかわりは今のところは無いが、歩兵の対戦車ミサイルや対空ミサイルにも警戒しておけ。それに、敵戦力の情報は古い。秘密裏に補充された情報に無い兵器が投入される可能性は捨てきれない』


『~~~~!』


 マイペースを崩さないノブユキの態度にカルメは抗議の音を言いたそうに唸る。


 ノブユキなりに場を和ませようという言動なのだが、元軍人で硬いやり取りが多かった彼女の目には真面目と映らないようだ。


 なら真面目にやり取りするべきか、とデイビットは助け舟を出すように通信に割り込む。


「それでファットマン。次はどうする?」


『二人はそのまま南部の侵攻部隊を援護だ。その地区はまだ対空兵器は残っているし、装甲車の機関砲は歩兵には脅威だからな。先に掃除してやれ』


「了解した」


『アップリケ了解』


 真面目な指示に二人は応じて、先に《サザンカ》の反応が動いた。


 デイビットはその方角―――右へ振り向くと空中へ飛び出した赤い機体が滞空しながら地面へ向けてライフルを発砲しているのを見つける。


 それにやや遅れて、撃った先にあるだろう撃破されら兵器から出る黒煙がその結果を証明する。


 ―――こちらも仕事に戻るとしよう。


 そうデイビットは《ストラトスフィア》からのレーダーを見て、付近の敵反応を探してからフットペダルを踏み込む。


 《シリエジオ》は右手の武器をブレードからアサルトカービンに持ち替え、ブースターを焚くと同時に真上に跳躍。


 付近の建物よりも高く飛んで、左へ旋回。


 道路を走行する敵車両に向けてアサルトカービンを発砲して撃破する。


 そのまま西へ向かって飛行して、目につく対空兵器を両手の火器を使って撃破を重ねていく。


 ただそれはまるで的当てをやっているような気分にされる、簡潔な戦闘だ。


 抵抗がない訳では無い。


 反撃としてか狙っていない対空砲や戦闘車両からの攻撃はあるものの―――散発的だ。


『こちらアップリケ。敵の抵抗が薄すぎる気がする』


 その戦闘に違和感を覚えたのか、カルメが通信で敵の抵抗の無さを尋ねてきた。


「こちらプリスキン。そう思うか」


『ええ。なんか自棄を起こしてるような―――あ、逃げてる』


 その見つけたという一言にデイビットはレーダーを見ると北へ移動する反応があることに気付いた。


 少ないが、いるにはいる反応。


 敵の統率が崩れていることの現われとは思えるが。


『ファットマン。どう思う?』


『話を振られてもな。―――所詮は武装が正規軍っぽいだけの犯罪組織だ。正規軍とは統率力は見劣りするだろう』


『それだけで、私の気にし過ぎならいいけど。状況が上手く進んでるのも嫌な感じがするのよね』


『こちらナイトメア。アップリケの意見に同意する』


 不安を口にするカルメの意見に、リアが通信に割り込んで同意する。


『ざっと見てはいるし起動前のリンクスを撃破しているのも知っているが―――それにしも事前の情報より少ないのが気になる。誘いこまれてるのかもしれん』


『ナイトメア。今の状況は敵の罠だと?』


『その可能性があると思う。―――今一度、索敵を願えないか?』


『レーダーではなんとも。―――ストレイド。目視で怪しいものは見えないか?』


 レアの要請に、ノブユキはシオンに呼び掛ける。


 シオンに尋ねるのはこの戦場で一番都市を飛び回ってるからだろう。


『こちらストレイド。空から見えるのは戦争廃墟同然な旧都の街並みとそこを右往左往する部隊だけだけど』


 しかし、帰ってくる返事はなんて事の無い返答だ。


 彼の言う通り、気になるものなどない。


『怪しいものなんて何も見えないし、偽装されてたら空からじゃ―――』


 見つけにくいわ、というシオンの報告を否定するように《ストラトスフィア》のレーダーマップにいくつもの光点が出現した。


 数は数えれなくもないが―――数えるのは億劫になる程度に集合しており、かつ多い。


 いきなりの出現に、ノブユキは驚きを隠すことなく通信に叫んだ。


『―――こちらファットマン! 中央区に敵反応多数出現!』


 出現したのは中央区―――王宮があったとされる廃墟の周囲。


 そこでいくつもの反応が表示されており、その数を増やしていく。


 どうやらファットマンが注意喚起しカルメやリアが状況かた警戒心を抱いた通り、戦力を温存していたらしい。


 あるいは、戦力が纏まるまで起動することなく待機していたか。


 ここからが本番かとデイビットは残弾を確認して、


『なにあれ……』


 カルメの驚愕の一言を耳にした。


 明らかに見た事のないものを見たと言わんばかりの台詞だ。


 その言葉に吊られて、デイビットは視線を北へと向ける。


 そこには、


「―――住、居?」


 デイビットが呟くように、石造りの建造物が人の形を成して立ち上がっている光景が映っていた。


 遠目に見てもリンクスの三倍はありそうな巨体―――横に並ぶ《レオパルド》が人形に見える程の巨体が三つ。


 その身をゆっくりと起している最中だった。





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