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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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作戦開始




 今回の作戦―――クオン解放戦線壊滅を狙った作戦は本拠地たるマクス荒野中央にあるウラス王都跡に対する襲撃であり、こちらの動きを悟られてはいけません。


 垂直離着陸が可能な航空輸送艦でウラス王都から見えない距離に着陸し部隊を展開していては相手に気付かれ、逃げられる可能性が出てしまいます。


 《ウォースパイト》と輸送艦の艦内ではリンクスを初めとする陸戦兵器が出撃待機しているとはいえ、出口は限られます。


 合計四隻に詰め込まれた分の戦力が全て出払うには、どうしても時間が掛かってしまう。


 そこで。


 先発として《ウォースパイト》に積んでいるリンクス部隊―――シオンを含むエグザイル小隊とレア・リーゼンフェルトが率いるアーベント大隊のリンクス隊が敵地へ強襲し、対空兵器を全て破壊。


 その後に王都の東側で輸送艦の二隻からリンクスと歩兵の空挺降下を皮切りに、《ウォースパイト》と残った輸送艦が王都の南と西側に着陸し、部隊を展開。


 そこからリンクスを主軸に旧ウラス王都の占領を目指す―――というのが今回の作戦のおおまかな内容でした。




 《ウォースパイト》、カタパルトデッキ。


 未だに天井が覆われたままのそこで。


『―――最後に注意事項として、解放戦線はスポンサーから武器、兵器の供給を受けてるのは知っての通りよ。旧式とはいえ廃棄されたはずのリンクスや他の兵器も横流しされて所有してる以上、情報に無い未知の兵器まで所有している事が考えられるわ。正規軍じゃないからって油断しないように』


 白く尖鋭的なシルエットを有し、各部に追加の装備を纏ったリンクス―――《アルテミシア》の狭いコクピットに、フィオナの凛とした声が響きました。


 当然ですが、出撃前の確認です。


 シベリウス出発前のブリーフィングと昨日と聞かされていますが、やりすぎたとしても不足はありません。


『―――以上で作戦の確認を終了するわ。作戦開始時刻まで所定の位置で待機』


「了解」


 私の応答に続いて、エグザイル小隊のパイロット達が次々と応答していく。


 マイクを切って、


「《ヒビキ》。武装の確認をするわ」


『了解しました。武装リストを表示します』


 《アルテミシア》の電脳である《ヒビキ》が応じて、私の視界の片隅に今回の武装のリストを表示しました。


 右腕、一〇五ミリ磁気炸薬複合式超電磁投射砲《カノープス》。


 左腕、銃身下にブレードを有する七〇ミリ口径マシンガン《リゲル》。


 両肩部、多目的武装コンテナユニット《フタヨ》内には三二連装マイクロミサイルポッド。


 《ヤタ》のバインダー内部の格納スペースには右に榴弾装填の九七ミリ多目的砲。


 左には子弾数六発の分散ミサイルを積載。


 左右の脚部追加ブースターのハンガーユニットへ銃身下にブレードを装着したライフルを懸架。


 あとはミサイル対策としての燃焼欺瞞式のフレア。


 何度見てもリンクスとしては重武装だと思わされる武装構成だ。


 そして―――相変わらずの、単独で多数の敵と戦う事を想定した武装の豊富さだとも。


「―――あとは時間が来るのを待つだけね」


 各武装の総弾数の確認も終えて、それらのアイコンが左右に分かれていくのと正面で発艦待ちの無人早期警戒機《ストラトスフィア》を眺めつつシートに身を預けます。


 作戦開始は夜明け前の午前六時半。


 それまでは、私と《アルテミシア》と―――デイビットの《シエリジオ》はカタパルトデッキで待機です。


『毎度の如く、危険な切り込み役を担ってもらって申し訳ない』


 艦内通信に一人の女性の声が割り込みました。


 《オニキス》―――一五五ミリ砲を二門装備した砲戦型リンクスを駆り、アーベント大隊の隊長でもあるリアからでした。


 既にリンクスに搭乗済みなので、酷い人見知りと臆病ぶりは鳴りを潜めています。


 耳にタコでも出来そうなぐらいに聞いた謝罪に溜息を一つ吐いてからマイクを起動します。


「いつもの露払いと比べれば幾分か良いでしょう。―――今回は正規軍ではなくて装備が揃ってるだけのテロ組織なのですから」


『それでも調査しきれていない部分はある。彼らが運用する装甲車や戦車の中には新型機のコンペティションで不採用になった試作兵器が横流しされている事例もある。リンクスやマリオネッタといえど例外ではない』


 旧式とはいえリンクスや対空兵器はあるので油断は禁物ですが―――彼女の言う通り、調査不十分な面もあります。


 調査と言っても、解放戦線を裏から支援している軍需企業らの流通網とその物品の把握です。


 ブリーフィングで共有された分では退役済みであるはずの旧型リンクス《レオパルド》を初めとし旧型兵器のリスト程度です。


 それだけならばいいのですが、プラム曰く書類無しに渡されたという《ラフフォイヤ》や《ラヴィーネ》―――廃棄予定だった機体に独自装備を組み込んだ改造機が存在しているので、他にもあると推測せざるを得ません。


 ―――故の切り込み役でもあるのですが。


『仕方ないとはいえ、危険な役をあなた達に負わせすぎる』


 この作戦計画を決めただろう人物への苦言をレアは呟きました。


「……憐れんでます?」


『そうではない。そうではないが―――かつてのアーベント大隊の扱いを見せられてるようで、気が気じゃないだけだ』


「かつてのアーベント大隊?」


 気になった文字の羅列をオウム返しすると、アーベント大隊は元々、亡きディットリヒ中佐を初めとする出自に訳ありの人を中心に集められた部隊だと言います。


 帝国本土の大貴族―――その妾の子や家が望まない婚姻に走って生まれた子や、貴族階級でも血縁のない養子など立場上関係者から疎まれる人物。


 平民出身ながら貴族階級よりも優れた能力を見せて疎まれた者。


 そもそもスラム生まれが祟ってその適性すら評価されない者に加えて、解放戦線が行う民族浄化の被害者や―――《クオンの落胤》と呼ばれる当人など。


 そういう人達を集めて部隊を編制したが故に―――疎まれ、最前線に送られるようになるのは時間の問題だった。


 最初期は文字通りの切り込み役で、その戦闘には他部隊の支援も無し。


 それも東部戦線の最前線が東へ移ろう間に戦力差から主戦派貴族で構成された、戦果を欲する部隊にとって変われ、有事の際の盾役として連れられていたのだとか。


 だからこそ、ポロト皇国での殿や北方三連国での最前線―――《白魔女(わたし)》を消耗させる為の戦力()として引っ張り出される訳なのですが。


 そういう扱いを受けてきたからこそ―――同じ立ち位置になりがちな余所者な私たちを重ねてしまうのでしょう。


 ―――だから、今回の切り込み役にアーベント大隊の一部隊も含ませたのだとレアは言います。


 協働出来る練度の部隊だからという理由だけでなく、《ミグラント》だけが厳しくなると予想される作戦の先鋒役ではないと。


 《ミグラント》は雇われという距離感のある余所者扱いばかりでも―――今しばらくは共に戦う味方なのだと内外に認識してもらう為に。


『―――まあ、傍目に見れば私たちの我儘でしかないが』


「それでも、私たちと切り込み役を担ってくれるのだから助かるわ。性能で勝ってても数は補えないもの。いつかの防衛線の様に一都市内で忙しく奔走することは減るでしょうし」


 私のその一言に、レアは三連国での戦闘を思い出したようで、どこか不憫な目に遭っているのを見たような吐息を吐きました。


『あの時の三連国の兵は士気が高く、帝国軍の練度差と、兵器の性能の差と物量によく持ち堪えた方だと評価しているが―――私たちは高頻度に呼ばないことを約束するよ』


「それを期待するわ」


 そう言ってコンソールに表示されている時計に視線を向けて―――


『作戦開始五分前よ。《ストラトスフィア》、発艦を許可します。ティターニアよりエグザイル小隊各機、及びアーベント大隊クラック隊各機へ。所定の位置へ移動を開始して』


 午前六時二五分に切り替わるのとほぼ同時にフィオナからの通達が入りました。


 それと同時にカタパルトデッキを覆う天井が左右に分かれて、夜明け前の朱色を映す空を露わにしました。


『レールカタパルト、全システムオールグリーン。進路クリア。《ストラトスフィア》、発艦どうぞ』


『《ストラトスフィア》発進!』


 フレデリカからのアナウンスに応じるように《ストラトスフィア》の操縦担当であるジョージが宣言する。


 ブレンデッドウイングボディと言われる翼と胴体を一体にした構成でどことなく戦闘機に似たシルエットを有しているものの、背負った薄い円盤と機体を繋ぐ支柱がその姿の美しさを崩させた単発ジェット機がアフターバナーを焚きながら加速していき―――甲板の縁、その先へ飛び出して高度を上げていく。


 それを見届けて、


『ラプアよりストレイドとプリスキンへ。一番、二番レールカタパルトへの移動と接続をお願いします』


 フレデリカの指示と甲板作業員の旗信号に従って操縦桿を押して―――《アルテミシア》をレールカタパルトへ進ませます。


 シャトルと爪先の接続は速やかに完了し、その旨がモニターの片隅に表示されました。


『一番レールカタパルト、電圧上昇―――規定値に到達。二番も同じく』


 続くフレデリカのアナウンスと通りに、データリンクで共有されたカタパルトの状況がモニターに表示されていきます。


 どの項目も問題なし。


「《ヒビキ》。プライマル・フェアリングを起動」


『了解。プライマル・フェアリング展開します』


 その応答と共にモニターに紫電が走るのが映り込みました。


 フェーズ粒子を機体各所の整流器の磁界で纏い、安定還流させて空気抵抗を大幅に軽減する整流機構の作動の証明です。


 作戦開始までは―――と視線をコンソールに向けると、もう残り十秒を切った所でした。


『作戦開始まで五、四、三、二、一―――』


 ファットマン―――《ストラトスフィア》のレーダーを見ているノブユキがカウントダウンをはじめます。


 そして時刻は六時三十分を表示しました。


『―――時間だ。 これよりクオン解放戦線本拠地、旧ウラス王都への侵攻作戦を開始!』


 艦内回線ではない、今作戦で設定された共通回線にノブユキの声が駆け巡りました。


 それと同時に《ストラトスフィア》が収集したレーダー情報がデータリンクを通じてモニターの片隅に表示されます。


 レーダーで敵表示を示す赤い点は未だ少ないのは―――解放戦線がまだこちらの動きを察知していないからでしょう。


 まさにねらい目だ。


『レールカタパルト、全システムオールグリーン! 進路クリア!』


 ノブユキの宣言からすぐにフレデリカからカタパルトの状況が口頭で教えられて、モニターにもその情報が反映された。


 彼女の言う通り、全て問題無し。


『ティターニアよりエグザイル小隊へ! 全機発進!』


 そしてフィオナから発艦命令が下った。


『《アルテミシア》、発進どうぞ』


「ストレイド、《アルテミシア・フロイライン》。出ます」


 発進許可を得てすぐに宣言して―――フットペダルを踏みます。


 後腰部ブースターポッドのメインブースターと、ハイウインド機動戦闘システムの腰部バインダー側のブースターがプラズマ化した推進剤を大量に吐き出すのと、カタパルトが加速するのが同時。


 静止状態からの加速にシートに押し付けられながらモニターに映る、後ろへと流れていくカタパルトデッキの側壁と近づいてくるカタパルトの末端を見て―――フットペダルを限界まで踏む。


 小さく跳躍するように《アルテミシア》は上昇し、歩く事を想定していない爪先がカタパルトのシャトルから離れる。


 ソールユニットを仕舞うように脚部追加ブースターのスタビライザーが正位置へ稼動して、足裏にあるブースターも推進剤を吐き出して、重力を振り切る。


 機能を優先して飾りっ気のない無機質な《ウォースパイト》のカタパルトから外界へと飛び出します。


 鮮やかな朝焼けの中にある、寒々しい荒野がモニターに映し出されました。


 ―――綺麗な朝焼けね。


 モニターとバイザー越し見る、高速で後ろへと流れていくその風景を見ながら、これから行う殺伐な戦闘とは似つかわしくない感想を抱きます。


 何もなければただ眺めるだけの風景。


 しかし、見惚れる訳にはいきません。


 これから戦闘行為を行うのですから。


 そう自分に言い聞かせて操縦桿を押します。


 《アルテミシア》を巡行姿勢―――両腕を前に突き出し、両脚を後ろへと向けるだけの簡素な姿勢変更を行い、フットペダルを再び踏みます。


 身体に染みついた急加速によって発生するG―――シートへ押し付けられるその感覚に身を預けて、正面を見据えます。


 旧ウラス王都までは、《フロイライン装備》での速度ならば五分と掛からない距離です。


 到着したならばすぐにミサイル斉射して―――と初手の動きを思い返しながら、《ヒビキ》へ言います。


「システムを戦闘モードに。フタヨのマイクロミサイル準備」


『メインシステム、戦闘モードに切り替え。火器管制システム(FCS)起動。武装切り換え』


 私の指示通りに《ヒビキ》がシステムを次々と切り換えていき、肩部のフタヨ内部のミサイルが操縦桿のトリガーと連動します。


 それに加えて両手の火器にも電力の供給が始まり、カノープスとリゲルが使用可能になります。


 これで旧王都に到着次第、すぐに攻撃が可能になりました。


 視界に表示されたそれらの情報を見て―――メインモニターに地平線から一つの都市がせり上がってくるのが映し出されました。


 あれが旧ウラス王都―――現クオン解放戦線の本拠地です。


 解放戦線によって軍事拠点化されているようですが―――私の動きに気付いていないのか、動きは見られません。


 《ストラトスフィア》のレーダー情報も同様です。


 完全に奇襲に成功しているといっても過言ではないでしょう。


 だからと言って油断する訳にもいかないのですが。


 レーダー情報を見つつ警戒しながら、


「―――さて、おはようの挨拶と参りましょうか」


 マイクを切ったコクピットの中で、私は口元が綻ぶのを自覚しながら独り言ちて。


 フットペダルを踏んで―――《アルテミシア》を上昇させに掛かりました。



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