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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第四章]恐ろしいもの、作り上げたのは
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ごきげんよう、私は



 光学センサが、上空の景色を捉えた。



 ―――この認識を修正、上空の景色を視認した。



 まだまだ私は、”人間“らしくない表現をしてしまう、と判断する。


 むう、自我の認識及び定義を『私』としてから75064日と18時間経過しているというのにこの体たらくはなんだろうか、と緩慢な思考を出力し、再度外の景色と当艦の状況を確認する。



 ……はて、どうして中世から近代ヨーロッパを思わせる石やレンガ主体の建築物が多数を占める街並みが、天井と思われる表面から突き出ているのか。


 実に不思議である―――と思ったが、よくよく見れば当艦が天地逆さまになっているだけである。


 艦内各所にある私の遠隔操縦用ロボットが乱雑に転がっていて――!


 ――なんということだ。


 私のお気に入りに傷が入っている。しかも凹んだ。24箇所目です。



 それよりも重要事項だが、現在落下中である。


 逆さまで。



 当艦、フレームウェポン運用強襲揚陸艦、兼改造工作艦、兼戦闘艦 《ヴィンディクティヴ》―――改め《ウォースパイト》は天地無用。

 すぐに姿勢を正常にしなければ。




 重力操作デバイスとスラスターを作動させ反転、及び落下に制動をかける。



 これでよし、と判断し、自らが置かれた状況の確認を急ぐ。


 視界が暗転する前は、大西洋を西へ航行していたはずで、そう。黒い球体のような、得体のしれない物に呑まれたのだ。

 それで、どうしてこのヨーロッパの街へと移動しているのか。


 この疑問を解決するために、そして現在位置の特定のために、GPSにアクセス。



 ――どういうことでしょうか。



 GPS衛星にアクセス出来ない。


 GPSの特性上、全機が地平線の影に入る訳がないのだから、この現象はおかしいのである。


 他の衛星のも接続を試みるが、何一つ応答なし。


 空に一基も人工衛星がないのでしょうか。



 あり得もしない仮定だが、その可能性を視野に入れつつ次の手段を実行する。


 付近の地上の通信施設にもアクセスを試みる。


 これには一定の結果が得られた。

 電波を発する通信基地や、いくつかの軍事施設がある。


 インターネットに似た通信システムもあるようで、これなら何か分かるかもしれない。




 ――が。




 使われている文字はアルファベットだが、その羅列は自分のデータベース―――修正、自分の知識外の羅列が並べられている。


 検索しているが、傾向的に西ゲルマン語群のようだ。しかし、そのどれもに当てはまらない、未知の言語である。

 解析すれば、私も喋れるようになるだろうが。



 ここまで走査して、周辺に熱源反応があることをレーダーが捉えた。


 三次元レーダーでは、どうやら一機に対して7機が交戦していた。

 ただ、その7機はどうやら下がりつつ応戦しているようで、動きからして苦戦しているようにも思える。


 なぜ一機相手に苦戦するのでしょうかと、思いつつ艦体下部にある光学センサの映像を見る。



 まず映ったのは、全長30メートル、全幅50メートル、全高15メートルの、恐竜でいうとプテラノドンのような翼竜を思わせるシルエットをしている。五角形のユニットを中心にハチドリのような嘴を思わせる頭部に、翼を楕円状の卵に置き換えて前足に蟹の爪と後ろ脚に鳥の足を追加したような機体。


 ――あれは、あのユニットは《FK075》、《バイター》?


 あの中央ユニットからして1号機だ。


 何故、あの機体がここに?


 かつて、破壊されたはず。



 他には、人型機動兵器フレームウェポンの姿を確認する。


 6機のほとんどは、スマートで甲冑を着た騎士のようなシルエットをしていた。

 ツインアイ方式で立体視認を重視しているように思える。



 さらに光学センサが、もっと信じられないものを映した。


 全体的に尖鋭的な外装を持つ、四つ目の光学センサを爛々と輝かせる《フレームウェポン》。

 前後左右、上下にも機敏にブースターを噴かして回避機動を取り続けている。


 ……あれは《XFK039》。ペットネームは《カレンデュラ》。

 しかもあの機体の仕様は、10機も生産されていない《N53》仕様である。


 何故、その機体が。



 無線が飛んでいるようで、傍受を試みる。


 幸いにもプロテクトや暗号化は粗末なもので、いとも簡単に傍受出来た。


『××××ラファール××××××! ××××××××××××××! ××××××××!』


 そう言う少女の声がまず聞こえた。


 言語は分からないものの、その声に私はどこかで聞いた事のある声である、と判断した。


 データベースにアクセス―――該当する 彼 の 音声データを呼び出し、声紋解析を実施する。


 結果、99.98%一致。つまりはほぼ同一人物と見て間違いない


 けれど、どうして?



 彼は、愛機の《XFK039》と共に運命を共にしたはず。


 この艦の光学センサでそれを見たのです。


 なら、目の前にいるそれはなにか。




 今、私が置かれた状況をまとめて、目の前の光景を見て、一つの解を出力する。


 ここは、私がいた世界とは平行世界、もしくは異世界であると推測。恐らくは後者だが。


 ここにいるだろう 彼 は、恐らくパラレルワールドの存在。私の知る彼とはイコールではないが、同一人物であると推測。


 信じられないが、どうやら私は、創作でよく見られた異世界転移という状況に置かれたようだ。


 史実は小説よりも奇なり、とは言うが、これほどとは。

 本を貸してくれた友人達へ感謝しなければならない。


 そして、私と同じように《バイター》一機がこの世界に来て、暴れ出したのだろう。

 彼らは、それに対して止めようと交戦している。



 なら、私がする事は一つ。



『《XFK039》へ通達。援護します。退避を』


 当艦のミサイルハッチを開き、彼らへと日本語で、無線で呼びかけた。


『えっ? 誰ですか今の!』


 彼―――チハヤユウキの声が日本語で聞こえてきた。


 やはり、《カレンデュラ》に乗っているのですね。


『チハヤユウキ。当艦 《ウォースパイト》は貴方を援護します』


 彼ではないだろうが、また共に戦えるとは。


 異世界転移とは、面白い状況のようだ。



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