選択③
結論から言いましょう。
カルメ・カランカ。
リーア・ラミレス。
フレデリカ・オノラート。
以上の三名は無事―――というにはサイカやオサムには難色を示されましたが私達という爆弾、もとい前例の存在もあって、希望通り《ミグラント》に所属して貰う事となりました。
配属は極力本人の希望ということで後に決まるでしょうが―――一人は確定でした。
作戦終了後の喧騒が一段落して。
救出した《アクィラ》の開発主任と第〇一六航空基地の整備士たちを連れて、委員会の本拠地であるシベリウスに向けて航行する《ウォースパイト》の艦内。
その一室―――ブリーフィングルーム。
カルメの目の前に置かれたタブレット端末の画面には―――辛うじて胸部周りに赤みがかかった白地に赤の差し色が塗られた装甲が張り付けられたばかりでそれ以外は取り付けられていない、フレーム剥き出しの機体が表示されていました。
「これが私たちミグラント―――エグザイル小隊が運用する《XLK39-03》。先行量産型三号機の《サザンカ》です」
その《XLK39》のマニュアルをインストールされたタブレット端末の画面を指差しながらその機体の名称を言います。
《シリエジオ》や《ジラソーレ》の予備機として《ウォースパイト》に積載している一機です。
もう一機、初期試作型の《サキモリ》に《XLK39》の四肢やジェネレータとブースター、OSまでも組み込んだ予備機までありますがバランスが酷いので運用することは最終手段なので選択はしません。
「この部隊、実験や検証的要素が多い上に志願するような物好きなパイロットがいなくて。これは予備機だったんだけど、乗れる人がやってきたからこれを宛がわせてもらうわ」
「……装甲がほとんど張られてませんが……」
カルメの指差す先のリンクスは指摘の通り、装甲がほとんど取り付けられていません。
理由はもちろんあります。
「私はともかく、残り二人のは仕様違いで装甲防御面積がそれぞれ違うの。《シリエジオ》に至ってはL型よりも装甲省いてるところあるし……。誰が乗るかわからない以上、簡単に張り付けるのも手間って整備班から言われてて手つかずだった」
それが今回、乗り手が決まりそうと来ればある程度は進めれるものでもあります。
そもそも《XLK39》の基本形はL型―――《アルテミシア》や《シリエジオ》と同じように防御面積が少ない軽装モデルです。
これに装甲を追加することでM型―――《ジラソーレ》や重装甲型になっていくように設計されているからこそ、ある程度は進められるのです。
今は胴体まわりだけですが明日には一通り組み上がるでしょう。
「ひとまずは《アルテミシア》に近い軽装型に組み上げてもらう予定で動いてます。そのマニュアルを読んで、自身の好きなスタイルをタブレット端末に入力しておけば重装甲型でも整備班が明後日までには仕上げてくれますよ」
細部の調整は後日となりますが。
「……極東のポロト皇国がここまでの機体を作れているとはね……。驚きもいいところよ」
マニュアルを見ながらカルメは言います。
ある程度の隠し事はなしとして―――《ミグラント》の実態は伝えてあります。
大陸の東―――大陸の三分の二を南北に分ける天層山脈の東にある盆地の国、ポロト皇国の走狗。
独立傭兵部隊という建前の国防兵器開発の試験隊にして政治的に利用される、皇国の外交手段。
「色々と連合内も嗅ぎまわっていたからな。参考の為なら《プライング》の設計図だって入手してる」
そう言ったのは―――カッターシャツにスラックスとくたびれた白衣を着た、サングラスをかけた強面の男性でした。
リンクス研究者にして、オルレアン連合技術研究所に産業スパイしていたバレット・ウォーカーその人です。
現在はミグラントに同行して《XLK39》のデータ収集を担当していますが。
顔見知り程度とはいえ同じ部隊にいた、そしてチハヤの事件と全く同じタイミングで姿を消した人物がミグラントと共に行動していたのにはカルメは驚いていましたが、その話はさておき。
タブレット端末に表示された《サザンカ》のカタログデータを見て、
「チハヤさんが乗っていた《プライング》の改良発展機が同じ部隊にいた私に宛がわれるとはね……。ハルの言う通り、縁とは不思議なものね」
どこか感慨深そうに言いました。
聞けば―――《プライング》自体の再生産はほとんどしていないようで、実験用にジェネレータやブースターなどのパーツしか作られていないのだそう。
彼女にとっては死んだ人間の失われた機体の系列でその発展機が遠い国で存在し、自分の目の前にあるのだからそう感じれるのでしょう。
そのままカタログを読み進めていき、
「うわ……。だいたいの性能は重量がちょっと軽いだけで《プライング》とほぼ一緒じゃない」
恐らくは機体重量や装甲防御力。
ジェネレーターやブースターの出力や最高速などの項目を見たのでしょう。
どこか呆れの混じった声を彼女は漏らしました。
開けた場所はともかく、市街地での戦闘や骨格の構造から近接格闘戦が不得手寄りなのは《プライング》から変わらずです。
しかし、電脳である《ヒビキ》を介したものではなく純粋に《linksシステム》で動かせるため近接格闘戦はできるレベルになっているのはデイビットやイサークが証明しています。
「そうだぞ。内装からハードポイント、マニピュレータを皇国の規格に仕立て直してコクピットのシートを変更しただけでだいたいは一緒だ。連合と違うのは皇国規格なら使用可能な装備が多いのと専用設計の追加装備があることぐらいか」
「連合よりも恵まれてるわね」
「《サキモリ》よりは少ないとはいえある程度は量産するつもりだからなぁ……」
「こんな扱いづらそうなやつを? 正気?」
「ブースターの化け物推力は市街地戦じゃ不向きとはいえ、その大推力の連続噴出に耐えれる強靱なフレーム自体は皇国の戦略に合ってんだよ。推力の問題はリミッターやそれそのものの換装で解決するから検討はされてるが、基本はフルスペックで行く予定だな」
「《プライング》一機だけでも相手をするが大変なのに、これが大隊規模とか考えたくないわね」
バレットとあれこれと話して相手が不憫ね、と嘆息します。
―――まあ、憶えている限りの私の戦闘でも相手は散々な結果になっていますし、その想像はおおよそ正解でもあるのですが。
「ブースターが《プライング》と一緒ならリミッター付きの《パッチワーク》と感覚は一緒ぐらいよね……。機種転換訓練はなんとかなるわよ」
マニュアルを読み進めながらカルメはなんでもなく言います。
その発言に―――どうしてか頼もしさを感じました。
《パッチワーク》とはなんなのかがありますが。
『ああ、そういえばあの機体は《プライング》のパーツを組み込んでいましたね』
カルメの発言に、HALが相槌を打ちます。
彼は知っているようです。
「《パッチワーク》って?」
「《マーチャーE2改》―――《プライング》のブースターとかジェネレーターとかを組み込んだ検証機の愛称よ。チハヤさんが名付けた愛称で継ぎ接ぎって意味」
なんでも、設計図などと共に連合に回収されていた事と生産が可能という事と。
その性能に魅力を感じたオルレアン連合技術研究所が手っ取り早く検証すべく製造した機体だとか、なんとか。
実際は規格の異なる部品を強引に取り付けた事でバランスは悪い上に、ブースターの推力にフレームが耐えきれないためリミッターが設けられていたそうな。
いつかの事件で大破、そのまま廃棄となったとのことでもう一機も残っていないそうですが。
しかし、それまでとは異なるブースターの配置と制御システムの構築は生かされたそうで後継機の《マーチャーE3》や次期主力機となる《クレイモア》も同様だとか。
カルメ本人は捕虜になる前はそのデータが反映された《マーチャーE3》に乗っていたというので、慣れてはいるようです。
「頼もしい経歴と発言ですね」
「問題は重量だけどね。《マーチャー》のE系列は軽いからブースト無しの制動の違いに苦戦しそう」
機種転換だから簡単にはいかないと彼女は謙遜します。
そう難しいものでしょうかと思いますが―――デイビットはリンクスに乗せられる為だけに調整されたクローン故に難なく操縦できますし、イサークに至っては他機種に乗ったことは皇国での防衛戦で咄嗟にのった機体だけで、普遍的な機体の操縦に擦れていないからこそ飲み込みが早かった側面があります。
彼女は性質の異なる機体に乗ることになるので二人よりも慣れるのに時間が掛かるでしょう。
ふむふむと読み進めていくカルメを止めるように、
『さて、一通り《XLK39》については話せたので―――そろそろよろしいでしょうか、シオン』
HALがそう切り出して、私に許可を求めました。
HALがサイカとオサムにカルメ達三人をミグラントに迎える話をしているタイミングと並行して、私とフィオナに確認した事です。
止める理由はない―――というより、リンクスのパイロットとして関わっていれば気付かれてしまうことですので、隠すことよりも知っている方が混乱は少ないだろうからと許可していますが。
一応は、最終確認というのでしょう。
そんな唐突で意味深なやりとりを目の前でやれば注目されるというもので、カルメの視線がこちらに向けられていました。
気にするほどでもないですが。
「ええ、いいですよ」
ここは《ウォースパイト》という艦の中で、事情を知る身内しかいないミーティングルームです。
聞き耳を立てる人もいないのだから―――情報が漏れる心配もまたない。
私の最終承認を得て、HALのセントリーロボットがカルメに振り向きます。
『カルメ・カランカ。我々はあなたに謝罪しなければなりません』
「謝る? 何を?」
『あなたの質問に嘘で答えました。あの場で知られては大変な事になるので人目の多く敵地であった収容所でその情報が漏れれば、我々はおろかポロト皇国でさえも危機に陥る状況になりかねなかったからです』
カルメからの質問とは私が本当に死んだかどうかのことで。
その質問に、その場では死んだと告げていますが実際は知っての通りです。
両手を失い、記憶喪失となりながらも生きている。
記憶を失いながらも、リンクスのパイロットとしての能力はそのままに戦場で生きている。
『―――チハヤユウキは生きています。一時重体となりながらも命を繋ぎ止めました』
「……噓でしょ」
HALの突然の告白に、カルメは驚きます。
『嘘ではありません。そうでなければ、我々が外交上の都合とはいえ傭兵稼業をやるこのになりません』
皇国国内には私たちを疎む勢力がいる上にオルレアン連合に難癖をつけられかねない以上、国外にいる方が安全だから―――そのついでに傭兵として皇国の外交の尖兵として戦う。
その一因が私でもあるのが―――証明にもなりますし、
『《XLK39P アルテミシア》の中枢ユニットも大破した《プライング》から回収したものをそのまま載せたものです。つまりは』
「パイロットとチハヤさんに限定される、と」
《プライング》の残骸には、ダミーとしていつか回収した《FK75 バイター》の大破した中枢ユニットを置いて偽装したので調査したストラスールはものの見事に騙されたわけですが。
「じゃあ、本人はどこに?」
カルメの問いに、セントリーロボットの指とバレットの指が私を指しました。
「彼です」
「コイツだ」
これ以上ないほどに軽いカミングアウトでした。
対して、カルメはいやいや、そんなまさかと手を振ります。
まあ、気持ちは理解出来ます。
恐らくですが―――彼女の知る容姿と今の私の容姿とはかけ離れているから別人に見えるのでしょう。
髪は鴉の濡れ羽根色と称される色だった上に肌は色白とはいえ黄色人種のそれでしたが、今の私は《linksシステム》で持たされた脳への過大な負荷の結果でメラニン色素生成の異常を起こし―――どちらも白色へと変色しています。
それに加えて人格の豹変と記憶喪失と記憶障害のトリプルコンボです。
一目見て、話しても容姿が似てるか声が似ているか程度で同一人物とは結びつけるには難しいのでしょう。
しかしHALの様子とバレットの否定しない素振りに怪訝そうに私をまじまじと見ました。
それなりの時間、私の顔を見て、
「……本当にチハヤさん?」
疑問をぶつけました。
問われても記憶喪失と記憶障害に陥っている私にとっては困る内容なのですが。
「そのようですよ?」
口にしておいてなんですがこの台詞は本人が笑顔で言う台詞ではありません。
それも笑顔で。
「………」
対するカルメの反応は―――信じられないものを見る目で見られました。
次の一言は嘘を吐くならもう少し上手にやってと言われそうです。
『捕捉しますと―――カルメ・カランカ。チハヤユウキが《プライング》に乗れているのは脳へ操縦システムを書き込んだことによる後天的なlinksシステムへの適性獲得の結果、というのは覚えておられますね?』
そんな記憶喪失と記憶障害の私に救いの手を差し伸べたのはHALでした。
「え? ええ。他の人にやったら三ヶ月前までの記憶を失ったって―――」
HALの確認にカルメは頷き、誰かから聞いた話を挙げて―――それで何かを察したのか口が止まりました。
『チハヤユウキはその失敗はしませんでしたが―――システム接続の負荷は女性とは違いました。そして皆には知らせず追加のプログラム書き込みとそのリミッターの解除を時折行って戦闘をしていました。連合からの脱走時も行っていたようです』
「―――待って! そんな話―――」
『彼がどういう考えでいたかはわかりませんが、内緒にしていたのは確かです。―――そして、脳への負荷は増していき、ラファール小隊とソルノープル法国軍との戦闘での負傷とリミッター解除は―――流石に耐えれなかったようです』
その結果は―――もうお判りでしょう。
『新陳代謝の異常と内分泌系―――主にメラニン色素生成の不良で肌と髪は白く変色し、脳への負荷はどうも記憶喪失と人格への影響を残しました』
そう言ってHALはミーティングルームのモニターを起動して、そこに二人の姿を表示します。
片方は黒髪の見た目麗しい女性で、片方は白髪の穏やかな目付きの女性です。
―――つまり、どちらも私の顔写真でした。
前者はオルレアン連合脱走前で、後者は最近の写真です。
同じ正面から映した写真でもあるそれは重ねられて―――驚くほどにぴったりと重なります。
整形などしていないので当然といえば当然です。
横顔の画像も表示され、耳だけが拡大表示されます。
耳の形は一人ひとり違うのだそうで、その耳の形も一致します。
それらが―――チハヤと私が同一人物であるという証明です。
『……チハヤユウキ本人は記憶喪失でその自覚が薄いのですが。しかし、リンクスでの戦闘は変わらずです』
「だからいろいろと面倒な立場になるのですよねぇ」
リンクスのパイロットとして強すぎるから―――実戦テストとして利用する。
あるいはその実力を恐れられ、皇国に来た経緯から外交的にも厄介で。
排除派な連中の溜飲を少しでも下げるべく―――戦場という国外派遣になる。
自分達の身の安全を求めて逃げ出したのに、その行きついた場所は戦場です。
一年程度は一般人として平穏に過ごしてはいましたが―――結局、状況や情勢でそれを選ばざるをえなかった。
そんな内容の経緯をHALが話して、
「記憶を失ってもリンクスパイロットとしての実力は健在で、戦場の方がいろいろと都合がいいだなんて、あんまりね」
カルメは表情を曇らせて言いました。
「情勢がそれを許さないとしても、それは酷よ」
『皇国とて、連合と敵対できるほどの国力はありません。―――ホノカ女皇でさえも、隣人に対してこの扱いはやりたくはないとしながらも、各方面を見た上で苦渋の提案です』
「それで帝国国内の穏健派―――あるいは講和派? であるラインハルト委員会に協力することになったと」
そうすれば―――帝国からの侵略戦争の後始末が出来て、かつ帝国は連合との戦闘を終わりに向かわせることができる。
それが皇国としては一番の利益なのだから。
あんまりな利用法だなんて彼女は呟き、私へ視線を向ける。
死んでいるとされた人間が生きていて。
されど記憶喪失で自分の事など憶えていないという人物を見る目は―――不安そのものでした。
「チハヤさ……。シオンさん? どっちで呼べば……」
「シオン、でいいですよ。―――チハヤと呼ばれましても自分じゃないみたいな感覚に襲われますし、誰かに聞かれても困る名前です」
表向きには死んでいないはずの人間の名前なのですから。
私からの指定に「じゃあ、シオンさんで……」と当惑を見せながら決めて、
「フォントノア騎士団のこととか。アルペジオ殿下のこととか……。ヒュリアのこととか、憶えていますか」
どこか聞きにくそうに質問を投げかけてきました。
組織の名前はフィオナやHALから聞いてますが、その記憶は私にはありません。
人物名も同様です。
人間関係としては重要ではあるのですが、フィオナ達もある程度関わりはあったにせよ、あくまで第三者視点のそれです。
重要度は低いのもあって、同じ小隊の同僚で親しかったらしいとしかわかりません。
「……ごめんなさい。この世界に来てからの記憶は、皇国で目覚める前の記憶は思い出せてないの。それ以前は部分部分しか憶えていないし……」
申し訳なさを隠さない、憶えていないの繰り返しにカルメは衝撃を受けたような表情を見せて、黙り込みました。
懐かしい話も出来ないし、その時に関わっていた人物の思い出話もまた出来ない。
でも―――一時とはいえ、彼女は私とは関わりがあったらしい人物です。
「もし、よろしければですけど……」
「……?」
「時間が出来たら、フォントノア騎士団でのお話を伺っても?」
気になる話が、無い訳でもありません。
「フィオナとHALの二人が見た視点からしか当時の話を聞いてないから、それ以外の話を聞きたいなって。何か、思い出せるかもしれないし―――」
連合を脱走経緯はともかくとして、当時の交友関係は二人の視点からしか聞いていません。
二人が知らない話は―――あるのだから。
その姿勢に虚を突かれたのか、カルメはポカンと口を開けて、
「ええ。ココアを淹れてくださるのでしたら」
複雑そうで、どこか嬉しそうな表情で彼女は頷きました。
記憶喪失といえど自分の記憶を、関わりのある人物の話を求められるというのは―――結局は昔話をするようなものです。
私が憶えていなくとも。
私から話を振る事は出来なくとも。
彼女にとっては当時の話を語れるという事でもありますから。
『シオン』
そんな空気に水を差すように、HALの合成音声が割り込みました。
『お話の途中で申し訳ありませんが―――ヴィルヘルムから連絡がありました』
唐突と言えば唐突な委員会の実質的トップの名前にセントリーロボットへ視線を向けます。
「ヴィルヘルムから?」
『はい。対応はフィオナと行いましたが―――彼女から話を聞きましょう。艦橋と繋ぎます』
HALのアナウンスと同時にミーティングルームのモニターに光が入ります。
HALから告げないのは私たちミグラントが組織である以上、命令系統を遵守するという姿勢でしょう。
いくつかの設定画面が走査して―――よく見た《ウォースパイト》の艦橋が映りました。
『―――シオン? 見えてる?』
その中央に鎮座する艦長席にフィオナが座っていて、こちらを見ています。
艦橋のメインモニターを見上げながら話しかけているのでしょう。
「見えてるわ。HALから一言聞いてるけど、ヴィルヘルムから何か指示でも?」
『ええ。シベリウスへ帰還する予定だったけど、その予定が急遽変更になったの』
私の何となくの推測から来る問いに、フィオナは頷いて早速要件を言います。
『詳しくはわからないけど……。指定された駐屯地に向かって、ナツメとレアの部隊と合流してくれって』
その言動に、何か厄介ごとの気配があるのは気のせいではないでしょう。
事実―――そうだったのだから。




