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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
360/440

収容所にて、相対するは②




 銀―――否、研磨されたが故の金属の煌めきが線となって走る。


 尖鋭的な装甲を淡い黄色で染め上げたリンクス《ジラソーレ》はその斬撃を左腕の補助腕とマニピュレーターで持った、先端が鋭利で中央が膨らんだ中型盾《ミナヅキ》を外側へ振り払うように弾く。


 油圧込みの膂力は―――普遍的な人工筋肉のみのリンクスよりも()だ。


 そんな《ジラソーレ》の出力が上乗せされたシールドバッシュはいとも容易く連合機の姿勢を大きく仰け反らせる。


 大きな隙をイサークは逃しはしなかった。


 踏み込むと同時に右手に握る両刃の実体剣を振り下ろして、敵機の左腕から左脚へと走らせて叩き切る。


 転倒した敵機への追撃は―――ミナヅキの先端で右腕を貫いてこれ以上の戦闘行為を封じるだけに止める。


『敵機接近。三時方向です』


 無機質な女性の合成音声―――試験運用として組み込まれているAI《カシマ》の警告にイサークは乗機をその方向へ振り向かせて、右へとブーストする。


 建物に囲まれて視界がいいと言えない状況でも、接近してくる連合機を捉えていて、その数が二機である事はすぐに分かった。


 数は不利だが―――戦闘を有利に進める条件は揃っている。


 冷静に一機ずつ、とイサークは考えながら視線を機体自身のレーダーに向ける。


 残りの連合機―――二機はどうやら《アクィラ》と交戦しているようで、レーダーに映る双方の反応の出現の乱雑さがそれを物語っている。


 次の一機はシオンの《アルテミシア》と交戦しているようだった。


 そこだけ見て、イサークは違和感を抱く。


 連合機の反応は収容所に到着した時点で八機だった。


 シオンが二機撃破して、クラウスが一機撃墜したと通信と。


 先程イサークが一機撃破したのでこれで一個小隊分撃破していて、残りは四機―――のはずである。


 ―――にも関わらず、砂嵐の酷いレーダーは五機の反応を表示している。


 つまりは一機増えていることになる。


「建物の影に隠れていたのか……?」


 電波妨害により《ストラトスフィア》とのデータリンクが切れている今、辛うじて機能するレーダーは機体に搭載したそれだけだ。


 地上からのレーダー走査では障害物に阻まれる事が多いのだから抜けがあっても当然だが―――まだいるとなるととイサークは思い直して、


『照準警報』


「―――!」


 《カシマ》の警告にやや遅れて、《ジラソーレ》は後ろへと跳躍して連合機からの射撃を回避する。


「捕虜だっているだろうに、無遠慮な……」


 付近に人がいるとは思えないものの、最悪自陣営の捕虜がいるだろう敷地内での無造作な射撃は―――誰がどう見ても無造作に程があった。


 とにかく、接近を図らねばと操縦桿を前に押して《ジラソーレ》は前へと加速する。


 建物に挟まれて狭いその場を跳躍して建物よりも高く飛び、右、前、左と小刻みなクイックブーストを繰り出して僅かながら距離を詰めに掛かる。


 しかし、二機の連携による断続的な射撃による弾幕は隙がない。


「《カシマ》! 防御姿勢!」


 警報が鳴る中、スイッチを押し込みながら《カシマ》に指示を出す。


 ミナヅキを前に掲げて、背部アームが保持する盾と大型実体剣を組み合わせた《サミダレ》を盾として正面に向ける。


 防御面積を増やして接近戦の距離になるまでの損傷を抑える姿勢だ。


 その姿勢のまま―――《ジラソーレ》は敵機へ向かって一直線に飛翔する。


 推力任せの回避を考えない加速に連合機は射撃を継続するも、その砲弾のほとんどは構えられた盾に受け止められる。


 いくつかの砲弾は《ジラソーレ》の装甲に突き刺さるも、


『損傷、軽微』


 一瞬で音速に届くブースターの推力に耐えるフレームと《アルテミシア》や《シリエジオ》よりも防御力を重視した装甲面積の広さが功を奏する。


 そしてそのまま《ジラソーレ》は並んだ二機の内、後ろにいる一機へ進路を変更して―――ミナヅキからぶつかった。


 普遍的なリンクスよりも重い質量が時速八〇〇キロ以上で体当たりしてきたとなれば―――大抵のリンクスは持ち堪えれない。


 その例に漏れず連合機は弾き飛ばされて背中からもんどりうって倒れる。


 《ジラソーレ》はサミダレを背中に回しつつ急制動をかけて、右手の実体剣を逆手で持ち直して敵機を跨るように着地。


 左手のミナヅキの鋭利な先端と共に敵機の両肩に突き立てる。


 引き抜いて、


『接近警報。後方です』


 背後からの接近警報。


 接近、ということはとイサークは予想して操縦桿を前に押し、フットペダルを踏み込む。


 その思考の通り、《ジラソーレ》は前へとブーストと共に跳躍する。


 その直後―――たった今《ジラソーレ》がいた空間をブレードが斬り裂いた。


 残り一機となった連合機の斬撃だ。


 空中で振り返りつつブレードを握り直して、着地と同時にブースターを焚いて制動をかける。


 火器管制装置が連合機を認識して―――所属はともかく、機種は不明と追加の表記をする。


 記録にない未知の機体(リンクス)だが基本的な性能は普遍的なものようだと、イサークは今のやり取りで把握した。


 時折戦ったエース機や上級機のような高性能機というものでもないが―――手を抜く理由にはならない。


 気を引き締めて、敵機がブレードを構えるのを見た時だった。


『レグルス! 援護する!』


 敵機の右からいくつもの火線が襲い掛かった。


 曳光弾混じりの徹甲弾―――その短連射の繰り返しは確かに連合機の側面に突き刺さって、複合装甲の薄い部分を食い破って、内部を食い荒らしていく。


 動く上で必要な機能へのダメージを与えられた連合機は右腕を捥ぎ取られ、膝関節を砕かれて転倒する。


 追撃で左腕まで捥がれてしまえば―――戦闘能力を奪われたも同然だ。


 イサークは砲火が飛んで来た左方向へ視線を向けて、隊列を組んだ《デストリア》の一個小隊―――バリスタ小隊が手持ちのライフルの砲口を下ろした所だった。


 《ヴォルフ》は―――クラウスの《アクィラ》の援護に向かったらしいようでかの機体の反応の方へと向かう反応がレーダーに映っている。


「援護、感謝します」


『横取りしたみたいで悪いな、レグルス』


 ジャミングの影響下でも―――短距離ならば通じる。


 通信を繋いでイサークは礼を述べると、二十代後半の男の声が応じた。


 彼らの隊長だ。


「いえ、助かりましたが……。遠慮なく撃っても大丈夫なんですか?」


 流れ弾が捕虜等に当たるのを防ぐべく近接格闘を選んだのだが、彼らは遠慮なしに銃撃した。


 その質問に、《デストリア》の隊長はなんでもなく答える。


『ここの守備隊曰く、この辺りは退避出来てるそうだ。だから気兼ねなく、な』


「ここの守備隊? 教えてくれたんですか?」


『ああ。アンタの隊長さんの話はちゃんと西の隅まで話してたらしい』


 通称|《白魔女》―――《アルテミシア》との交戦は回避せよ、という指示は帝国軍全軍に通達されている。


 交戦した所で対抗できる機体もパイロットも少ない以上、交戦した所で被害しか出ないからこそ、《アルテミシア》による損害を最小限にする命令。


 ちゃんとその指示を守る辺りは冷静だと言えるだろう。


『それに、連合軍の捕虜を殺してまわっているという。―――どうしてかわからないが、捕虜や非戦闘員の保護を優先したいという申し出があるから、一時的に共闘するぞ』


「……了解」


 彼からの報告と意向に頷いて、視線を機体のレーダーに向ける。


 ジャミングでノイズが入っているものの、それでも近くの識別信号は捕らえている。


 敵の反応は残り二つで。


 その内の一つ―――《アクィラ》と交戦していたらしいそれの反応がたった今、消える。


『こちらリプス。敵リンクスを撃破!』


 通信にクラウスの報告が入る。


 どうやら《ヴォルフ》の小隊が援護に入る前に終わってしまったようだった。


『出番がなくなっちまったな、レグルス』


 十代後半の若い、イサークには聞き覚えのある声が《ジラソーレ》のコクピットに響いた。


 その声の主は―――イサークは誰かを知っている。


 知ってはいるが、今は作戦中だ。


「まだやる事はありますよ、バリスタ04」


 自分と同じキリヤ出身者にして何かと絡みの増えた人物のコールサインを呼んで、機体を旋回させる。


 その振り向いた先は―――上空で戦闘を繰り広げる《アルテミシア》と灰色のリンクスの二機の姿。


 急加速と急制動。


 上昇と下降を繰り返しでブースターからまき散らされるプラズマと。


 発砲による発射炎の瞬きが断続的に続いている。


 シオンにしてはらしくない、時間の掛かる戦闘をしているように見えた。


 流れ弾による地上への被害を考えた上での戦闘だからこそだが、それだけではない。


「―――あの機体、速いな」


 イサークが呟く通り、《アルテミシア》と交戦する敵リンクスの動き―――特に、回避機動らしい急加速の鋭さは《アルテミシア》とそう変わらない。


 自分たちがよく知るクイックブースト機構のような急加速だ。


 そうであるならば機体の性能差は大して変わらなくなってくる―――どころか。


「あの人にとっては少し苦手な相手になりますか」


 《アルテミシア》は通常のリンクスとは違って電脳である《ヒビキ》を介して動く関係上、反応速度はリンクスよりも劣る。


 機体性能が同格ならばその差で不利になりがちなのが《アルテミシア》とシオンだ。


 それで簡単に負けるような人物ではないのはイサークのよく知るところではあるが。


「私はストレイドの援護に行きます」


 だからといって見ているだけではいけないと判断し、通信でバリスタ小隊に告げる。


「収容所の制圧は―――」


『ああ、ヒルシュ隊と共同で進めていくが―――。バリスタ02と04! レグルスと共にストレイドの援護に行け!』


 足手まといになるなよというバリスタ隊隊長の釘刺しに「了解」と応じる声が通信に混じる。


 たった一機に四機も当てるのは過剰としか言えないが、シオンを相手に長時間戦っているという事実だけでもその実力は指折りと判断しても過言ではない。


 ならば、その割り当ては一周回って妥当かとイサークは考えるが、モニターに映し出されている映像を見て果たしてとは思う。


 なにせ時速一〇〇〇キロメートルという瞬間的加速とそれを相殺する急制動を繰り返す二機の戦闘機動は距離が離れれば離れるほどに火器管制システム(FCS)の偏差射撃は定まらなくなるどころか捕捉し続けることさえも困難になってくる。


 いくら精度のいいFCSであっても高速戦闘対応機が相手では厳しいものがある。


 最悪、誤射さえ起きかねない。


 じゃあ近づけばと思えるが二人の乗機は《デストリア》。


 操作に応じて登録されたモーションを実行するだけの《マリオネッタ》。


 リンクス相手では射撃能力は対等でも、反応速度で劣る機種だ。


 手が足りなくて今回の編成に組み込まれているのだとしても、無闇やたらに混成していいようなものではない。


「……二人は私より後ろで、離れた所から援護をお願いします」


『当然です。リンクスには敵いませんからね』


『わかってるよ。リプスが駆る《アクィラ》じゃないんだ。そこは弁えるさ』


「お願いします。―――レグルスよりストレイドへ。援護します」


 自機の有利不利をよく知った応答にイサークはそう答えて、通信の相手を切り換えてフットペダルを踏み込む。


 《ジラソーレ》のブースターからプラズマ化した推進剤が噴き出して、かの機体を空中へと飛び上がらせた。









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