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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
359/441

収容所にて、相対するは①




 冬の淡い青空の下。


 そこには枯れ草の絨毯が広がっていた。


 人の手が入っていないからか、無秩序に伸び切っていて季節の移ろいと共にその成長を止め、枯れて朽ちるのを待っている。


 そんな枯れ草の上を、いくつもの人型機動兵器と戦闘機がブースターから吐き出されるプラズマとその推力で薙ぎ倒し、吹き飛ばしていく。


 その人型兵器―――リンクスと呼ばれるものとマリオネッタと呼ばれるものを合わせて十二機が、西へと向かって低空を飛んでいた。


 傾斜で平面の多い装甲レイアウトで少しマッシブなシルエットの四機は《ヴォルフ》と呼ばれる、ランツフート帝国の量産型リンクス―――その北部方面軍仕様。


 逆三角形に見える厳つい胴体が特徴的な重厚な四機は《デストリア》と呼ばれる、《ヴォルフ》と同じ北部方面軍仕様の量産型マリオネッタだ。


 その後方に続く戦闘機は先細りする鳥の嘴のような機首とその後ろに付いた小さなカナード翼と。


 後方に二つ並ぶエンジンユニットと前進翼に斜めに取り付けられた尾翼という構成の戦闘機だった。


 《アクィラ》と呼ばれる、帝国空軍の可変戦闘機型マリオネッタだ。


 残りの二機は人の形をしていながらもそれからやや外れたシルエットを有しているものの、細部で大きく異なっている。


 共通なのは戦闘機の機首ように前に突き出た胸部に前後に長い肩部装甲。


 大腿部は空気抵抗を考慮したのか鋭角な形状をしている以外に特長は無いものの、腰部の正面には股関節を保護するスカート状の装甲はなく大腿部の付け根は剥き出し


 対して側面―――後進用のブースターユニットが大腿部に直接取り付けられている。


 あとは背中か後腰部と違いはあるものの―――鶏卵を縦に割ったような形状のブースターユニットの存在。


 一機はその尖鋭的な装甲を淡い黄色で染めていて、背部ブースターユニットには四本のアームが。


 左右に伸びるアームが盾に長剣を納めたようなそれを懸架していて、残った二本のアームは左に機関砲。


 右に大口径砲が取り付けられている。


 左腕には先端が鋭利で中央が膨らんだ中型の盾を腕に装着していて、右手にはアサルトライフルを持っている。


 もう一機は―――その装甲形状ことほとんど淡い黄色の機体と同一ではあるものの、その色は白を基調に、差し色程度に青紫色が所々に入っている。


 両手には銃身下に片刃式の実体剣を装備したライフルを一丁ずつ持ち、背中には大口径砲とミサイルポッドを装備していた。


 その白いリンクス―――《アルテミシア》のいくつも並べたモニターで狭いコクピットの中。


「こちらストレイド。ポイントBを通過」


 長い白髪を纏めてバイザーをつけた人物―――シオンはモニターの片隅に映し出された地図に表示された現在地を自身の指揮官でもある相手へと報告した。


 彼らが進む先にはハイゼンベルグ収容所と呼ばれる施設がある。


 そしてそこには、オルレアン連合の捕虜やラインハルト自治推進委員会の構成員、そして主目標である《アクィラ》の開発主任を含む第〇一六航空基地所属整備班と基地司令が収容されている。


 シオン達の目的は彼らの端的に言えば解放だ。


 ただ、そのまま強襲してしまえばいいという訳でもない。


 情報に依れば―――収容所に接近する敵機へ対処するためにか、荒野の各所にはレーダーサイトと各種対空兵器が配置されている。


 低空を飛べばそれらに捕捉されずに済むが、後続に収容所を制圧する為の歩兵部隊を乗せたヘリがいる以上、なにも対処せずにいるにはいかない。


 進路上の障害を排除すれば相手はすぐに強襲を察知すると踏まえ、速やかに収容所へ向かう―――それが今回の作戦の第一段階だ。


 そして収容所に到着次第、配備されているリンクスや対空兵器を無力化し、ヘリボーン部隊のランディング地点を確保する手筈だ。


 それはあくまでも作戦計画の想定の基本ではあるのだが。


 ポイントB―――対空レーダーなどの施設が点在するその地域の入口であるそこを通過したという報告を聞いて、指揮官であるティターニアことフィオナが応じた。


『こちらティターニア。了解したわ。一先ずよ―――りに―――』


 確認がてらの次の指示は途中で途切れ途切れになりだした。


「ティターニア?」


『―――? き―――て―――?』


 聞こえてくる音声も雑音(ノイズ)が酷くとても聞けたものではなくなった。


 さらには、追い打ちをかけるように無人早期警戒機《ストラトスフィア》とのデータリンクも切断されたようで『SIGNALLOST』とモニターに表記される。


 その表記は何が起きているのかをシオンに暗に示し、《アルテミシア》に搭載されている電脳である《ヒビキ》が報告した。


『電波妨害を検知』


「……ストレイドより各機へ。この通信は聞こえてる?」


『こちらレグルス。ノイズが混じってますが、何とか』


『こちらリプス。聞こえている』


 シオンの問い掛けに、《ジラソーレ》のイサークや《アクィラ・カスタム》に乗るクラウスを始めとする混成部隊がノイズ混じりの通信で答えた。


 近距離ならば電波妨害下でも聞こえるらしい。


 そして、《ウォースパイト》と連絡がつかなくなったにも関わらずその混乱は少ない。


 動揺はしているようだが。


 作戦前のブリーフィングでオルレアン連合の反応がハイゼンベルグ収容所で確認されていたことと、彼らが介入してくる可能性があることを周知したからで。


 その介入に―――電波妨害などのサボタージュが行われることも想定するようにと注意喚起したのが功を奏したようだった。


「ジャミングで《ウォースパイト》と通信が繋がらなくなったわ。想定通り、プランBで行くわよ」


 プランB―――オルレアン連合が既にハイゼンベルグ収容所で戦闘している事が前提の作戦プラン。


 ここからの行動は端的だ。


 カイの《アクィラ》を転身させて《ウォースパイト》への報告を任せ、《アルテミシア》と《ジラソーレ》、及びクラウスの《アクィラ・カスタム》は収容所へ急行。


 既に戦闘状態だろうそこへ介入し、臨機応変に制圧する。


 連合と共闘するかは―――その時の状況次第だ。


 ヘリボーン部隊の進路上の障害排除と護衛は遅れて来る形になる《ヴォルフ》と《デストリア》が引き続き対応しつつ収容所へ向かう―――という作戦変更プランだ。


「レグルス。リプス。先行するわよ」


 シオンはそう言って、フットペダルを踏み込む。


 《アルテミシア》は時速五〇〇キロの巡航飛行から一気に時速一二〇〇キロの高速飛行へと移り、部隊を文字通り置き去りにする。


 それに続くように《ジラソーレ》も加速し、《アクィラ・カスタム》は機首を上に向けてブースターを噴かして急上昇を始める。


 すぐに、モニターに収容所の影が映った。


 それは拡大されて詳細を映し出すも―――戦闘の影響か黒煙が立ち上っているのが見えた。


『こちらリプス! 収容―――戦闘が起―――る!』


 シオンが視認するのと時を同じくして、クラウスから通信が入る。


 少しだけ離れただけでノイズが悪化しているが、内容が聞き取れないほどでもない。


「でしょうね。―――他には?」


『防衛―――迎―――してい―――だが、襲撃―――部隊は無差―――建も―――攻撃を加えている!』


「聞こえたわね? 帝国軍以外にも他勢力がいて戦闘してるようよ。しかもその部隊、無差別に建物も撃ってるっぽい」


『捕まった味方もいるはずなのに、どうして……?』


「ティターニアやジュピターワンの予想の由来かもね。―――とりあえず、喧嘩両成敗の精神で双方叩くわよ」


 二人がそこまで予想しての作戦プラン構築だったなら、余程の事だったのでしょうとシオンは考える。


 無実の罪と適当な理由をでっち上げてまかり通そうとして起きた事件と、その顛末と―――その行く末(現在)



 シオン(チハヤ)にとっては今や曖昧な記憶だが。



 とにかくやることはもう単純だ。


「まずは予定通りに進めるわよ」


 そう通信に告げて、すっかり大きくなり戦闘下にある収容所を見てシオンは《アルテミシア》を上昇させる。


 ジャミングの影響下で効果があるとは思えないものの―――あえて地上のレーダーに映る機動。


 交戦が続くハイゼンベルグ収容所を一望できる程度の高度からの状況の把握はレーダーには関係ないが故の動きだ。


 各所から火の手を上げる収容所を見下ろしつつ、前もって渡された上空からの空撮写真と見比べて、


『ハイゼンベルグ収容所、対空兵器と各種レーダーと通信施設の破壊を確認』


 すぐに分析した《ヒビキ》が報告する。


 作戦で必要な手間が省けたことに僥倖と思いつつ、次の排除対象であるリンクスの数を数える。


 資料では二個小隊が配属されているとあったが、何者かに襲撃されている現状ではその数はあてにはならない。


「リンクスの数は―――」


『帝国の識別が四。オルレアン連合、ソルノープル法国軍の識別が八です』


 どうやら、ジャミング下でも辛うじて識別信号は拾えたらしい。


 続けての報告に、やはり連合軍が強襲してきたのねとシオンは納得する。


 ジャミングで通信を遮断、ないし無効化して増援を呼ばれないようにした辺り、よく練った上での作戦だったようだ。


 間違いなく想定外なのは、時を同じくして収容所にやってきた部隊がいた事だが。


 まず最初にやるべきは、と考えて―――収容所のある一か所に目が留まった。


 そこは収容された人の運動用にか広場が整備されていて、そこに兵員輸送用のヘリが四機ほど着陸していた。


 収容所を制圧し、捕虜を救出する為だろうかと思ったものの、それは次に見えた光景で否定された。


「………」


 その付近に転がる人間の死体。


 赤く染まった衣服は拘束着のそれだ。


 そしてリンクスが攻撃を加えるそこは宿舎のようで、大きく壊れた壁からは寝具等が見えた。


 はたから見ても―――友軍であるはずの捕虜を殺して回っているようにしか見えない。


「こちらストレイド。―――私が許可するわ。連合機も撃滅対象よ」


 フィオナとHALの懸念が現実となった今、共闘を申し出るなど意味が無いとしての指示を出して、《アルテミシア》は降下に映る。


 降下する先は、ヘリが待機している広場。


 当然、それを守るリンクスが二機、近くでライフルを構えて警戒していて―――近づく白いリンクスに気付いた。


 濃淡二色の都市迷彩を施していてその輪郭は分かりづらいものの曲面の多い装甲を使っているように見えた。


 それでいて均整の取れたシルエットを有しているものの―――シオンにとって見覚えのある機種ではない。


 《アルテミシア》のデータベースにも機種の登録はないようで、所属は識別できても外見からの判別は《UNKNOWN》としか表記していない。


 連合の新型かしらと思う先で―――交戦記録として似た機体の画像が表示されたことにシオンは少しだけ瞼を持ち上げる。


 機体に記録されたその機体と今、目の前で攻撃してきている機体はどちらも迷彩でその輪郭は朧げながらどことなく似ている。


 戦った事のある相手だと指摘されて、一体いつにと疑問を覚えて、


『照準警報』


 再びの《ヒビキ》の警告で現実に引き戻される。


 記憶にない過去を考えるのはあとだと―――今はと思考を戦闘に向ける。


 とっさにクイックブーストで後ろへ下がって飛来する砲弾を回避。


 両腕のライフルを下へと向けて小刻みに連射していく。


 敵機は盾を構えて砲弾を受け止めるか、右へステップして回避する。


 シオンはそのまま射撃を継続して―――その火線を輸送ヘリへと向けていく。


 動かないヘリなど―――的同然でしかなく、あっさりと四機は撃ち抜かれて爆炎を上げていく。


 歩兵の帰りの足は奪った。


 これで後の制圧は投降を含めてやりやすくなっただろうと思いつつ、左の操縦桿のボタンを操作して使用する武装を左背のミサイルポッド切り換える。


 シオンの思考を《linksシステム》が読み込み、火器管制システム(FCS)がミサイルのロックオンマーカーが走査する。


 すぐに敵リンクス捉えて、電子音が捕捉(ロックオン)完了をシオンに教えた。


 左の操縦桿のトリガーを絞る。


 《アルテミシア》の左背に接続されたミサイルポッドから一発のミサイルが噴煙と共に撃ちだされた。


 それはすぐに外装が外れて―――内部に収まっていた小型のミサイル六発が散らばって設定された目標へと殺到する。


 小型故に撃破には至らないものの、確かに損壊させる威力は有するそれを敵機は左右へ散開し、各々の方法で対処する。


 ステップで避けた一機へ、その動きを読んで放たれた七〇ミリと八五ミリの砲弾が上から降り注いだ。


 いくつもの砲弾を浴びて―――敵リンクスは被弾の衝撃で小刻みに震えてから前のめりに転倒する。


 「まず一つ」


 シオンはそう呟いて、もう一機に向かって降下速度を速める。


 迎撃の攻撃を左右へのクイックブーストで避け、もう一押しと急加速。


 落下の速度も加えた蹴りを叩き込んで敵機を転倒させて―――すかさず胴体へ向けて右手の八五ミリ口径ライフルを発砲。


 五発分の重い連射音と五つの薬莢が宙を舞う。


『敵機、反応消失。―――五時方向より敵機接近』


 《ヒビキ》の報告を聞いてシオンは《アルテミシア》をその場で急旋回させて、接近してきた次の目標を視界に納める。


 相手は―――先ほどと同じ名称不明の連合機だ。


 ブースト機動で接近しながら―――両手で構えたライフルの砲口が《アルテミシア》に向けられた。


『照準警報』


 警告音と共にシオンはフットペダルを蹴ったくって機体を急上昇させてその攻撃を回避する。


 次の射撃を左へ避けて応射しようとして―――左から低空で突貫してきた戦闘機の影を見た。


 クラウスの《アクィラ・カスタム》だ。


 《アクィラ》はその速度のまま形を崩して―――やや歪なシルエットを有する人型へと変形する。


 機首を構成していたランスユニットを装備したライフルを左腕に持ち、突貫の勢いのまま鋭い突きを繰り出した。


 都市迷彩のリンクスは文字通りの横槍を横っ腹に食らって、その姿勢を大きく()の字に曲げる。


 一撃目の衝撃で怯んだその敵機へ、《アクィラ》は脚、胴体と三段突きを素早く叩き込んで離脱する。


 驚くほどに手際のいい一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェイ)だ。


「お見事」


『称賛には(およば)ないさ。このまま畳み掛ける』


 シオンの称賛にクラウスは謙虚に言って、次の敵機へ向かって飛翔する。


 少し離れた所では―――イサークの《ジラソーレ》が一機の連合機と実体剣と盾で剣戟を繰り広げていた。


 リンクスが動き回れるとしても、収容所の敷地内は思いのほか狭い。


 大推力高速戦闘機である《XLK39》にとってはブースターを噴かしにくい環境だ。


 それにどこに捕虜がいるのかわからない状況。


 考え無しに銃火器が使えば無用な犠牲者が出ると思えばブレードによる近接格闘は合理的と言えるだろう。


 その剣戟を繰り広げる二機へ、連合機の二機が接近していくのをシオンはモニター越しに見る。


 どうみても援護だ。


 そしてイサークが数的不利となる。


 ならば、とシオンは動こうとして。


『十一時方向、距離二〇〇。熱源反応出現』


 《ヒビキ》がいきなり出現した反応の存在を通告した。


 距離二〇〇はかなり近い。


「出現?」


 その表現にシオンは疑問を口にするのと同時に―――それは《アルテミシア》の目の前で色を帯びて姿を現した。


 それは当然のように人の形を模していた。


 灰色を基調にオレンジ色を差し色程度に入れた曲面が多用された装甲。


 ずんぐりむっくりとした、どこか人間の骨格とはかけ離れたシルエットを有する機体だった。


 胴体も肩部装甲も前後に長く、左脚には曲面の盾だろうものが装着されている。


 そのシルエットはどことなく《XLK39(アルテミシア)》に近い。


 右手にはライフルらしい火器と、左手には大口径の火器を手にしている。


 右背にはミサイルコンテナらしきユニットを装備していて、左背には滑腔砲らしきものを積んでいた。


 武装の違いはあれど今の《アルテミシア》の武装構成とどことなく似ていた。


『赤外線も欺瞞する光学迷彩と推測』


 今の今まで検知できなかった理由を《ヒビキ》が推測する。


 いくらかの事例―――これも《アルテミシア》のデータベースに記録されている交戦記録からだが、シオンにとってはそれを気にする時間はない。


 モニターに映るその敵機は立ち止まったまま右手のライフルを持ち上げて、


『照準警報』


 警告と共にマズルフラッシュが瞬いた。


 《アルテミシア》は右へクイックブーストして飛来する砲弾を回避。


 そんな敵機の堂々とした振る舞いにシオンは怪訝そうに見やる。


 光学迷彩で隠れていたなら―――そのまま攻撃して不意打ちでもすればいいでしょうに、と。


 相手の不可解な合理的ではない行動の理由は―――考えなくてもいいかとその思考を止める。


 敵が一機増えたとしても―――撃破する以外の選択肢はないのだから。


「撃破するわよ」


 シオンはそう言って操縦桿を押して、フットペダルを踏み込んだ。




 

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