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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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キリヤ要塞攻略戦⑨




「―――《パイヤ》を撃破」


 《アルテミシア》を着地させ、長く息を吐きながら通信に繋いで報告しつつ機体の状況を確認する。


 機体そのものは無事。


 しかしミサイル類は全弾消費していて、カノープスは先ほどの砲口押し付けとリミッター解除で砲身が破損。


 使える武装がライフル二丁とリゲルと右背のヤタ内部の九七ミリ砲だけだ。 


 まだ戦えないではないが。


「かなり消耗してるけど、まだ戦えるわ。次の指示を―――」


 ノブユキか、フィオナからの返答を待たずにシオンは指示を仰ぐ。


 そう口にして―――戦闘に夢中で状況を把握していないことに気付く。


 まずは状況を確認するべきだったかしらと思い直すが、


『ストレイド! すぐに要塞の外に退避して! レーダー探知範囲外からの砲撃が来る!』


 返ってきた通信はフィオナからのものであり―――シオンの懸念が可愛いと思えるような、切羽詰まったものだった。


 すぐに視界の片隅にある《ストラトスフィア》のレーダー情報を見て、西から飛んで来る反応を見つけた。


 もちろん、その光点はレーダー更新で大きく動いて要塞へと近づいていく。


 その向かう先―――キリヤ要塞の内部には委員会と北部方面軍と帝国軍の反応が入り乱れている。


 せめてもの違いは、友軍側は後退し始めたことぐらいか。


 着弾予想地点もも表示されていて―――《アルテミシア》がいる場所ではなく、要塞東側に展開している委員会と北部方面軍の連合部隊が戦闘している場所だ。


 これを初弾として効力射が始まるのだろうと思いつつ、シオンはフィオナに促されるままに北へ移動を始める。


 その頭上を一筋の光が轟音と共に走った。


 それは東へと落ちていき―――一つの爆炎を上げた。


 衝撃と爆風が大気と大地を揺るがし、《アルテミシア》を襲う。 


「本気で敵味方諸共やったのね、お相手は」


 揺れるコクピットの中でレーダーの情報を見ながらシオンは呆れたように呟く。


 味方の反応はさておき―――砲撃の着弾地点付近の敵の反応が文字通り消えていた。


 皇国での防衛戦の話といい、三連国での防衛戦での出来事といい。


 なりふり構わずもいいところだ。


『状況は―――』


『聞こえているか?! こちら北部方面軍、ハンス・グナイゼナウ少佐だ! 今の砲撃、警告はなかったろう!? 今から無差別に撃たれるぞ! ―――全軍戦闘中止して要塞から脱出しろ!』


 フィオナの説明を遮るように、ハンスの通信が差し込まれた。


『……今、国際チャンネルで呼びかけたわね。相手が言う事聞いてくれるとは限らないけど……。ストレイドはアーベント大隊と合流。一緒に退避して』


 余程自分で伝えたかったようで、不機嫌さを隠さないで彼女は指示を出す。


「りょーかい」


 フィオナの指示に応じて、シオンは《アルテミシア》を跳躍させた。






 ―――――――――――――――





 防壁を堀と角度の浅い斜堤が囲う要塞の内側は―――各所で火の手を上げていた。


 それは戦闘の余波による火災もなくもはないが、多くはそれ以外の理由によるものだ。


『砲撃は終了の模様。巡航ミサイルも打ち止めだな』


 ファットマン―――ノブユキの発言が示す通り、レーダー範囲外からの砲撃と多数の巡航ミサイルによる爆撃が要塞の防壁の内側を破壊し、焼いていた。


 敷地の広さから見ればその一つ一つの爆発は小さくとも、与える損害は人間から見れば大きい。


 地面にクレーターを作り、格納庫の屋根に穴を空け、建物を崩していく。


 その連続が、ただひたすらに続く。


 それも、ノブユキの言う通り終わりのようでデータリンクで表示されている《ストラトスフィア》からのレーダーには西から飛来する巡航ミサイルの反応はぷつりと途切れていた。


「……まるで、はじめから委員会に使わせないつもりだったみたいね」


 視覚野に直接投影された、火の海と化した先ほどまで戦闘していた場所を見てを抱いた印象をシオンは呟く。


 奪われるなら、いっそのこと。


 そのまま利用させるなら、最大限の妨害を。


 実にわかりやすい焦土作戦だ。


『―――ティターニアよりエグザイル小隊各位』


 フィオナからの通信が入る。


 ノブユキからではないのはミグラントの団長という立場上、抱えるリンクス部隊の全体の指揮は彼女の役割だからだろう。


『クリームヒルトから連絡があったわ。キリヤ要塞の現場指揮官と話が付いたみたいでこれ以上の戦闘はしないことで一先ず一致したみたい。《ウォースパイト》は予定通り、そっちに向かって要塞北側に停泊するわ。もう少し待機してて頂戴』


「……了解。気長に待ってるわ」


 事務的なやり取りを終えて、要塞へと視線を向ける。


 視線の片隅に、真っ直ぐ飛行しながら何かを落とす巡航ミサイルがあることに気付く。


『クラスター爆弾の使用を確認』


 同じものを見つけたのか、レアが溜息混じりに呟く。


『不発弾の問題があるというのに。―――後処理が大変になるな、これは』


 クラスター爆弾でばら撒かれる子弾は、その全てが爆発する訳では無い。


 少なくない数が不発弾として残る。


 それが今後の障害となるのは明白だ。


 妨害という観点では有効でもあるが。


『……レグルス、合流します』


 通信にイサークの声が入ると同時に、《アルテミシア》の隣へ《ジラソーレ》がブースターの逆噴射と共に着地した。


 彼は要塞の東側―――渡河部隊の援護に向かい、そちらで戦闘をしていたのだが、実質戦闘終了の状況で再度合流してきたのだった。


『だいぶやられたな』


 プリスキン―――デイビットの言う通り、《ジラソーレ》は出撃前と比べて失っている装備が多かった。


 元々装備を使っていけば破損や投棄などで失うが、この場合はそうではないものも含まれている。


 一番目立つのは、左背のアームが無いことだろう。


 そういうデイビットの《シリエジオ》も今回持ち込んだ武装の多くを投棄してきたようだが。


『手練れの、ようでしたから』


 デイビットの言葉に答えるイサークの声は、どこか心ここに在らずだ。


 《ジラソーレ》の頭部―――その光学センサはキリヤ要塞へと向けられている。


 ―――そういえば、そうだった。


「ここが、あなたの生まれ故郷だったわね」


 作戦前に聞いた話を思い出す。


 シオンを始めとして、ミグラント職員や委員会の上層部しか知らない話だが、イサークはキリヤ要塞―――アルスキー王国、その王都キリヤの生まれだ。


 もう少し付け足すならば、彼はその王族でもあるのだが。


 その言葉に彼は「ええ」と短く肯定する。 


『―――ここが、わたしの生まれ故郷のはずなのに……。かつての面影はなく、懐かしさも、感じられない……』


 そう答える彼の言葉は確かに辛そうだった。


 内心、故郷を見れるかもしれない、と考えていたのかしらとシオンは通信に乗せる事無く呟く。


 ラインハルト自治推進委員会に雇われてランツフート帝国国内と戦うというミグラントの状況に、彼は個人的な思惑で参加を継続を決めたのかもしれない。


 その思惑は確かに叶ってはいるが、その想定や予想は甘かったのだろう。


 目の前で破壊されるなどと、誰が考えようか。


 そんな様子の彼に、シオンは沈黙を選択する。


 イサークは橋と東門付近でしか戦闘を行っていない。


 ―――要塞内を走る道路にその面影はあったかもしれないが、要塞内部に街のようなものなどないのだから。


 視線を向ける先―――防壁の向こうは、とうとう着弾する巡航ミサイルはなくなったようで爆発は収まっていた。


 その代わりに、各所で火災が発生し黒煙が空を覆い尽くさんばかりに立ち上っているが。

 

 次にやや離れた場所にいる帝国軍の部隊を見やる。


 連絡なしに背後―――正確には西からの無座別砲撃を受けて戦闘を放り出してアーベント大隊の援護の下、要塞の外へと逃げれれた部隊だ。


 聞けば、砲撃が始まる前に総合指揮所からの通信が途絶えたという。


 命令する人物がいなくなったなら自己判断するしかなく、砲撃の只中を抜けるなら敷地外に近い方向に進むししかなく。


 その結果、アーベント大隊と共に要塞を脱出する形になり―――今に至る。


 話では―――連絡もなく味方に背後から撃たれるという事態に直面した彼らの多くは軍上層部に不信を抱いたらしい。


 今後、どうするかは―――彼ら自身が決めることになるのだろう。


 その判断が委員会と共に行動する形になれば大助かりなのだが。


「―――まあ、そこはどうでもいい話よね」


 少し考えた思考をそこで打ち止め、シオンはやってきた眠気と共にシートの背もたれに身を預ける。


 一つ作戦が終わったのなら―――あとは《ウォースパイト》を待って、帰艦して。


 操縦服から着替えて、報告書をしたためてと、帰ってやる事を脳内でリストアップしていく。


 そう考えて―――まだ帝国内で二度の戦闘しかしていないが今回の戦闘でかなり装備や弾薬を消費してしまったなと気付く。


 在庫はどうだろうとか、補給に一度皇国まで戻るかと考えて―――


「……眠い……」


 瞼が重くなってきたことを何気なく呟いて―――気付く。


 ―――眠気?


 どうして眠いのだろう?


 《linksシステム》はパイロットの思考を読み込む関係上、脳に刺激を与える結果として操縦中は眠気とは無縁になるのだが。


 色々と特殊な《アルテミシア》といえどそれは例外ではないし、なんならシオンの義手の作用もある。


 その眠気はあり得ない症状だ。


 このままだと眠ってしまいそうだ。


『スト――ド。もう――で《ウォー―――ト》が―――』


 誰かの声まで遠く聞こえだした。


 伝えたくとも、答えようにも


「―――」


 眠気がそれを阻害してなにも伝えられない。


『ス――イド?』


 応答がないことに不審を抱いたのか、すっかり輪郭のぼやけた視界の中で淡いピンクの機体がこちらへ振り向くのが見えた。


 なんとか伝えようと、左の操縦桿の通話ボタンを押して、


「―――眠い」


 それが辛うじてシオンの口から出た言葉だった。


 意識を手放して―――視界は暗転した。


 パイロットの意識が失われると同時に、《linksシステム》で繋がった《アルテミシア》も安全装置が作動する。


 ジェネレーターの駆動も停止し、その駆動音を緩やかに小さくしていき、光学センサが暗転する。


 膝から崩れ落ちて、うなだれるように動きを止めるも―――その衝撃はシオンを起す事は無かった。




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