キリヤ要塞攻略戦⑤
尖鋭的なシルエットを持つ白いリンクス、《アルテミシア》は地面ぎりぎりまで急降下する。
急制動をかけて、右へ転進。
敷設された道路の上を全速力で飛び抜け―――追い掛けてきたミサイルの旋回性能の限界を突いて、振り切る。
シオンは右上のモニターを見上げ、そこに映る一対の巨椀を有するリンクスを見て、
『照準警報』
《ヒビキ》の警告に両手の操縦桿を引いてフットペダルを踏む。
《アルテミシア》は進行方向とは逆方向―――つまりは後進するようにクイックブーストで急制動。
相手に振り向く様に旋回して右へ再度クイックブーストして―――《ディアデム》と呼ばれるリンクスからの射撃を避ける。
「《ヒビキ》。肩のマイクロミサイル、六発」
空中に飛び出しつつのシオンの指示に、《ヒビキ》は了解と言ってその操作を実行する。
《アルテミシア》の両肩―――《フタヨ》と呼ばれる肩部多目的コンテナユニットの装甲カバーが開いて、内部のミサイルポッドを露出させる。
火器管制装置は《ディアデム》にロックオンマーカーを重ねて、電子音が射撃可能を伝えた。
トリガーを絞って―――両肩から六発のミサイルが飛び出し、設定された対象へ飛翔を開始する。
透かさず、右腕の銃剣付きの八五ミリ口径ライフルを持ち上げてセミオートで撃つ。
普遍的なリンクスよりも速い程度のミサイルと音速をゆうに超える砲弾の、速度の異なる二種の攻撃という相手の注意を散漫にさせる時間差攻撃。
しかし、《ディアデム》は動じるような素振りを見せず飛来する徹甲弾をクイックブーストで避け、ミサイルには巨椀ユニットの上腕から放たれた燃焼光源がミサイルを引き付ける。
手堅い、教科書通りで冷静な回避だ。
戦い慣れているわね、なんてシオンは毒づいて、
『照準警報。十時方向です』
次の警告にシオンは《アルテミシア》を後ろへとクイックブーストを行い、正面をいくつもの曳光弾が飛び去っていく。
警報が鳴りやまない中、飛んで来た方角へ視線を向けと、船舶に相応の手足を追加したような大型兵器が宙に浮かんでいて、全身に装備された火砲やランチャーを《アルテミシア》へと向けていた。
《ディアデム》を援護する大型兵器だ。
こちらもヴィルヘルムから提供されたデータの中に類似した機体があったようで《GLkー070 パイヤ》という名称がマーカーと共に表記されている。
その各所から噴煙が噴き出て、数えきれない数の円筒状のものが《アルテミシア》へと向かっていく。
『ミサイルです。フレアの使用を提案』
《ヒビキ》の提案を聞き流して、シオンは《アルテミシア》をミサイルの群れへと向かわせる。
数度のやりとりで《パイヤ》が撃ってきているミサイルは対象に近づいたら爆発する近接信管ではないのはわかっている。
緩やかに上昇しながら接近し、残り一〇〇メートルを切った所で急降下。
ミサイルの多くがその弾頭を《アルテミシア》へ向け直したところで前へクイックブースト。
文字通り飛び込むような機動で旋回を始めたミサイルの内側―――旋回しきれない範囲へと飛び込む。
それと同時に左操縦桿のフレア射出ボタンを押し込み、《アルテミシア》を見失わず追いすがるミサイルを誤誘導させて振り切った。
反撃として、背部から脇へと伸びる二つの武装バインダー《ヤタ》―――その盛り上がった部分が展開し、右は九七ミリ砲を。
左のバインダーからはミサイルの発射口を露出させる。
FCSは《パイヤ》の巨体を捉え、すぐに射撃可能を伝える。
先に左のトリガーを絞って分散ミサイルを二発発射。
そのミサイルが接近、ないし着弾までの間を牽制するべく九七ミリ砲を撃つ。
弾種はHEAT砲弾でもない榴弾だが―――音速をゆうに超える弾速は碌な回避機動を取らない《パイヤ》に当たっては爆炎を上げていく。
平然と受けきった装甲は焦げ付き、塗装が剥がれる以外は無傷だ。
その最中に接近した分散ミサイルは、内部に格納していた子弾六発―――計十二発に分裂し、設定された標的へと向かっていく。
《パイヤ》の機上で何かが瞬くと同時、近接防御兵装らしき機銃が咆哮を上げてその子弾のほとんどを叩き落とす。
辛うじて辿り着いた子弾はその厚い装甲に阻まれ、大した損傷を与えれない。
「あれだけデカいと相応に厚いか」
シオンはモニター越しにその光景を見て呟く。
ミサイルは迎撃されるし、通常の火器ではかの機体の装甲を貫けないときた。
唯一有効打を与えれそうなものは、一つだけ。
「超電磁投射砲なら貫けそうだけど―――」
『照準警報。三時方向です』
「……あなたが邪魔をしてくると」
再度鳴りだした警告に、シオンはその方角を見てから右の操縦桿を引く。
《アルテミシア》は右へと振り向いてクイックブースト。
殺到する砲弾の射線から逃れて、撃ってきた《ディアデム》に両手のライフルを撃ち、分散ミサイル発射する。
《ディアデム》はフレア焚きながらを上下左右への移動と巨椀による防御でその攻撃をいなして、本来の腕部が持つ長銃身のライフルを構える。
『照準警報』
度々の警報に、《アルテミシア》は急上昇して放たれた数発の砲弾を避け、次の短連射を左の急加速で回避。
FCSの予測進路上に照準を合わせられていた射撃はその急機動に追いつかず、砲弾は何もない空間を飛び去っていく。
次の短連射を右へのクイックブーストで回避し、すぐさま前へと最高速度まで加速。
敵機の左側を左手のアサルトライフルを撃ちながら通り過ぎ、反転。
「《ヒビキ》、分散ミサイル―――」
『照準警報。二時方向です』
左背のヤタに積んでいるそれを使おうとして、照準用赤外線レーザーの検知音に邪魔された。
後ろへクイックブーストして―――飛来して来た砲弾の驟雨を躱す。
攻撃してきたのは《パイヤ》で、続けて機体各所の火砲が火を噴いた。
もう一度のクイックブーストで下がった所で、FCSが《ディアデム》にロックオンマーカーを合わせた。
口頭での指示はちゃんと実行されていたようだ。
『分散ミサイル、いつでもどうぞ』
その《ヒビキ》の完了の声に頷くように左のトリガーを絞って、ミサイルを一発発射。
ミサイルが分散するのを見届けることなく反転して加速し、《パイヤ》の射線から大きく逸れる。
『ミサイル、回避されました。《ディアデム》、《パイヤ》の前方へ移動』
放ったそれの結果と相手の動きを表示する別ウインドウの映像にシオンはふむと息をつく。
「《ディアデム》が前衛で私を引き付け、《パイヤ》がその火力を以って仕留めに来る、と。―――まあ、お互いの構成を見ればそう来るか」
二機の様子とその戦い方を声に出して振り返る。
どちらも射撃戦ばかりだが―――船舶と紛う巨体を有する《パイヤ》はその図体故に加速が遅いが、空中でホバリングし続けていられるし、旋回性能は各部の砲塔の旋回や腕部の可動範囲で補っている。
速力自体は平均程度には有しているようで思っているよりかは陣地転換が早い。
そして搭載されている豊富な火器で《ディアデム》と交戦する《アルテミシア》に対して横槍を仕掛けて、弾幕を張り、ミサイルで牽制をしてくる。
平均的なリンクスよりも大型な脚部と背部から伸びる武装内蔵の巨椀ユニットを有しているとはいえ形そのものはリンクスに近い《ディアデム》はシオンが狙いを《パイヤ》に変えれば気を引き付けるべく側面や背後からライフルと巨椀のガトリング砲や大口径砲でこちらを攻撃する。
実に基本的な相互連携だ。
一対複数である以上は適度に射線を切りつつ一機一機確実に潰すのが基本だが。
「《フロイライン》は戦闘中は地上に立てないし、ここは要塞で遮蔽物に使えそうなものは少ない。そもそもこの機体は閉所だと速度も機動力も活かせない」
もっと言うならば、ここは文字通り敵地のど真ん中で敵に囲まれているも同然だ。
故に障害物のない空中で動き回る他ない。
ならばと《パイル》の弾幕をある程度牽制しようとその射線に《ディアデム》が来るように立ち回っても、動き回ている内に射線が通る位置になって撃たれる。
「ジャミングスモッグがあればFCSの捕捉を切りながら戦えただろうし、格闘戦が出来れば《パイル》の弾幕を抑制できたでしょうね」
などとシオンは無いものをねだる。
思えば、以前交戦した《フェンリル》のパイロットの戦法は実に合理的だったと思い返す。
『当機は近接格闘は非推奨です』
「わかってるわ。―――あるもので、今出来ることで戦うだけよ」
その装備があって機会があれば試してみようと頭の中で未定な予定を組んで―――相手の攻撃を躱し応戦しながら思考を戦闘に戻す。
どっちも厄介だが、どちらが最も脅威度が高いかと考えれば。
「《ヒビキ》。《パイヤ》の武装の解析は?」
『確認出来ている範囲だけですが。船体上部にミサイルポッドを八基。側面に四基。右肩に六砲身三連装ガトリング砲。左肩に口径不明の二四砲身砲塔。一五〇ミリクラスの滑腔砲二門とクローユニットの左右腕部です』
返ってきた回答に選り取り見取りねと口を歪ませる。
これだけの大火力―――これらを装備していて脅威度が低いなんてことはないだろう。
一対複数―――否、現状は一対二の戦闘。
手がないわけではない。
「《ヒビキ》。腕部武装を切り換え。カノープスとリゲルを使うわよ」
『―――懸念。カノープスは近距離で使用する火器ではありません』
「まずは《パイヤ》を全力で潰す。手持ちの中で《パイヤ》の装甲を貫ける可能性があるのはカノープスだけよ。そうじゃなくても、離れた位置から相手の武装を壊すにはこれがいい」
《ヒビキ》の心配にシオンは自分の考えを言って、《アルテミシア》の手持ち武装を再びその二つに切り換える。
腕部補助腕が展開し、専用の箇所を保持。
コネクターを接続して給電を開始し、どちらもすぐに使用可能になる。
「隙があったら《ディアデム》を狙うけど、基本は《パイヤ》撃破を優先。―――火中の栗や、虎穴に入らずんば、という奴よ」
そう言って正面に距離を離し始めた《パイヤ》を捉える。
多様で多彩な武装で、その砲門数を活かした弾幕は確かに脅威だが―――その結果肥大化したのだろう巨体と犠牲になった加速力ではそれらを運用するのに他者の前衛役や援護が無ければ成り立たない。
事実―――移動を開始しているもののその速度は遅い。
速度で翻弄し―――各部の兵装や推進器を破壊すれば《ディアデム》との戦闘は後の祭りだ。
「《ヒビキ》。速攻で行くわよ」
『了解です』
応答を聞いて、シオンは操縦桿を押してフットペダルを踏む。
《アルテミシア》は愚直なまでに真っ直ぐ加速し―――左手のブレード付き七〇ミリ機関砲 《リゲル》を《ディアデム》に牽制目的で発砲する。
数発づつの連射を数度と行い―――敵機を回避に専念させる。
「分散ミサイルを《ディアデム》に一発」
口頭での指示に、左背のヤタが稼動して―――FCSが作動して対象を捕捉する。
トリガ。
ミサイルが一発だけ飛び出して、対象に近づいてから内部の子弾を排出して再び追い掛ける。
その結果を見届けることはしないで、そのまま真っ直ぐ《パイヤ》へと向かって飛ぶ。
狙っている《パイヤ》は警告でも受けたのか、その巨体の各所からプラズマ化した推進剤を吐き散らして回頭し―――左肩の多砲身砲塔を近づいて来た白いリンクスへと向ける。
『照準警報』
その声と警報に《アルテミシア》は進行方向を急転換。
右へ振り向いて背中のブースターを瞬かせ、クイックブーストによる瞬間的な加速を敢行する。
それに僅かに遅れて―――二四もの砲口が同時に火を噴いた。
砲身一本一本、放射状に並べられているそれから放たれた砲弾は当然の如く放射状に飛び、《アルテミシア》の背後を通り過ぎて行く。
『被弾無し。お見事です』
「あれだけ並べてれば面制圧で来ると思うわよ。―――今の砲塔をカノープスで撃ち抜く」
《ヒビキ》の世辞にシオンは淡々と答えて、左の操縦桿を引いてフットペダルを踏みつける。
《アルテミシア》は急制動をかけ、左へ振り向いて右へのクイックブースト。
右腕に持つ|磁気炸薬複合式加速投射砲を持ち上げる。
FCSはシオンの口頭の通り《パイヤ》の腕部ユニット―――その左肩にある二四砲身砲塔へレティクルを合わせる。
捕捉を告げるレティクルの変化と電子音と共に引き金を引いた。
アーク光と火炎がその砲口から瞬くと同時に秒速三〇〇〇メートルまで加速した砲弾が飛び出す。
タングステン製の芯を持つ砲弾が飛び、《アルテミシア》と敵機を繋ぐのは一瞬に等しい時間だ。
着弾の衝撃は計り知れなく、左肩の砲塔だけが吹き飛び、《パイヤ》は肩を殴られたかのようにその身を仰け反らせる。
『敵左肩部砲塔、破損を確認』
「次、右肩のガトリング砲」
『照準警報。正面と九時方向です』
二方向からの警告―――つまりは二機によるクロスファイア。
《アルテミシア》は前に機体を倒して高度を落としながら前転。
一度目の掃射と連射を避けて、左前方に加速からの急制動と別方向への急加速。
《アルテミシア》の移動を予測した先に照準を合わせ放たれた砲弾の全てが何もない空間だけを射抜いていく。
近くと飛び去る砲弾には目もくれず、頭部の光学センサは《パイヤ》を真っ直ぐに睨み、カノープスの砲口を次の目標へと向ける。
引き金が絞られて発射された砲弾は狙い通りの砲塔を文字通り吹き飛ばし、また《パイヤ》の巨体がその衝撃で仰け反る。
それを見て―――シオンは接近を図るべく《アルテミシア》を急加速させた。
脚部や腰部に追加されているブースターと後腰部のブースターユニットのノズルから推進剤を吐き出し、ほとんどのリンクスを置き去りにする時速一六〇〇キロメートルまで加速する。
『照準警報』
聞こえてきた警告どおり―――《パイヤ》の船体とも胴体ともいえる上部に並べられた砲塔とミサイルポッドの蓋が持ち上がる光景がモニターに映った。
一拍置いてそれらが瞬き、噴煙を上げるとの合わせてシオンはフットペダルを断続的に踏みつける。
左右前方へのクイックブーストの乱発による乱数機動で自分に向けられ放たれた砲弾を避け、ミサイルはフレアを展開してその追尾を撒く。
瞬く間に《パイヤ》の頭上を取り、左の操縦桿を僅かに倒す。
その思考と動作が読み取られ、《アルテミシア》のリゲルを持つ左腕が持ち上げられた。
照準は適当な砲塔に合わせて、その引き金が引かれる。
《パイヤ》の正面から後方へ移動しながらの無造作とも言える連射でばら撒かれた榴弾や徹甲弾の雨あられは確かに次々と砲塔を焼き、貫いて砕いていく。
すぐに後ろを取り、旋回にもたつくその敵機へカノープスを向けて、
「―――」
『接近警報。二時方向』
シオンがモニターにその影を認めるのと《ヒビキ》の警告が同時だった。
それは《ディアデム》で右の巨椀―――その先のクローを叩きつけるべく振り上げた所だった。
距離は残り五〇。
格闘戦の距離という考える時間もないその間合いで―――シオンは操縦桿を押し、フットペダルを踏む。
《アルテミシア》は相手の右側へと飛び込むようにクイックブーストを敢行し、その斬撃を躱す。
続けての瞬間的な反転機動―――クイックブーストの応用技とも言えるクイックターン機動で反転。
カノープスのレティクルは―――《ディアデム》の胸部と重なった。
距離、六三メートル。
引き金が絞られた。
飛翔体が音速を超える事による破裂音がその場に鳴り響く。
カノープスの砲口から飛び出したタングステン製の徹甲弾の初速は三五〇〇メートル毎秒。
相手に避ける時間など与えはしなかった。
その鋭利な弾頭の徹甲弾は胸部へと当たり、その運動エネルギーに耐えれなかった装甲を大きくひしゃげ、穴を穿つ。
それだけでは飽き足らず、大きく速度を減衰しなかった砲弾はそのまま内部構造をその衝撃波をもって外へと歪ませて、背面の装甲まで貫くと同時に―――多種多様な金属で構成された機械仕掛けの上半身は爆ぜた。
腕部と頭部は放物線を描いて明後日の方角へ飛んで行き、辛うじて形状を残した下半身も着弾の衝撃の残滓か弾かれるようにきりもみ状態で地面へと落着する。
シオンの視線は―――その光景に興味はなく《アルテミシア》から離れつつ旋回し終えた本来の得物へと向けているが。
これで一機撃破。
連携する二機の内の片側を撃破した以上、残り一機との戦闘は幾分か楽になるだろう。
「邪魔者は排除。あとはデカブツが一つと」
そう普段の冷淡さで呟いて機体を振り向けさせた時だった。
視線の先で《パイヤ》は背面のブースターから推進剤を盛大に吐き出して、《アルテミシア》へと突進を繰り出してきていた。
「なっ―――」
その予想だにしない行動にシオンは驚きの声を漏らしつつフットペダルを踏み込み、《アルテミシア》を急上昇させる。
《アルテミシア》の推力と加速力ならば、《パイヤ》の突進など緩慢な動き程度でしかない。
難なく避けて反転し、地面に着地した《パイヤ》へカノープスの先端を向けて―――かの敵機の不可解な行動を目にした
《パイヤ》はつい先ほど撃破された《ディアデム》の下半身を両の巨椀、マニピュレーター代わりのクローで器用に掴み、丁重に抱え上げていた。
わずかな静止の後、その下半身を抱き寄せてその舳先を僅かに上へと向ける。
まるで―――家族や友人、大切な人を目の前で失い、その亡骸を抱き締めて天に慟哭するような姿だ。
シオンはその場違いな光景に―――妙な既視感を覚えた。
それがまるで、自分にもあったような。
何度も経験したような錯覚と―――テレビの砂嵐を見たような感覚を覚えた。
「―――っ。……今は戦闘中よ」
妙な気持ちが込み上がったのを自覚したシオンは一度振り払うように頭を振って、現在やる事を自分に言い聞かせる。
―――そうだとも。
今はただ―――敵を殺すだけだ。
『照準警報』
聞き慣れ、普段と何も変わらない《ヒビキ》の警告にシオンはモニターに映っている巨体を睨む。
《ディアデム》の下半身を丁重に地面へと横たわらせた、前後に長い船体に似た胴体と相応の大きさを有する腕と脚を有する大型兵器―――《パイヤ》の舳先が《アルテミシア》へと振り向く。
そして、その船体の舳先と後方の一部が開いて、内部から一際大きな板がいくつも飛び出した。
一目見ればそれは剣の様だが、その中心線上は丸みを帯びている。
所々には光学センサの爛々とした発光が覗き、空気抵抗の邪魔にならないようにブースターのノズルが各方向へと向けられている。
先端は円筒状のものが一本突き出ており、尾部にはブースターが露出しており、かプラズマ化した推進剤を吐き出している。
その数―――十二基。
それらは次々と《アルテミシア》へと殺到し、包囲するべく散開を始めて、
『類似するデータあり。自律攻撃端末 《パラサイト》です』
データベースと照合したらしい《ヒビキ》が無機質な声で警告を発した。




