キリヤ要塞攻略戦③
《アルテミシア》はその場で反転。
後退を始めて、レーダーに映った新たな機影をモニターに映した。
その姿はまだどこにも姿を現していないようで、見えたのは何もない滑走路と管制塔や格納庫を含む要塞の中央部。
見えないという事は、目視できるところにいないという事で。
「まだ格納庫内ね」
そう結論を下して、背後からの接近警報に応じてクイックブーストによる急上昇を敢行する。
《ザンビ》の背後からのブレードの振り下ろしをそれで避け、リゲルの掃射を喰らわせる。
『《ザンビ》部隊、残存数、七』
「近いのは?」
『四時方向に四機。肩部、《フタヨ》内のマイクロミサイルの使用を提案』
じゃあそれで。
索敵と対応の手を《ヒビキ》と決めて、シオンは右の操縦桿を引く。
《アルテミシア》は時計回りに旋回して、三機の敵機をFCSが捕捉する。
トリガ―――肩部多目的コンテナのフタヨの装甲カバーが開いて、マイクロミサイルが八発、上方向に撃ちだされた。
それらは設定された敵機へと向かい始めて、《ザンビ》は一度下がって大きく移動し出す。
ミサイル回避の対応だが―――それはシオンにとっては誘導でしかない。
加速しミサイルを振り解こうとする一機へカノープスを撃ち、迎撃を始めた別の一機も同様だ。
次の一機はミサイルを引き付け、それに向かって飛び込むように急加速による回避機動を敢行する。
その加速終了を狙って―――カノープスがアーク光と発砲炎で砲口を一瞬だけ彩る。
放たれた砲弾は当たった胴体を上下に別け、各々地面へと激突させる。
そして、どういう訳か近づく一機にはリゲルの掃射を喰らわせ、沈黙させた。
『新手の反応、移動開始』
その《ヒビキ》の報告に、来たと呟いて再度反転させる。
振り返った先で、まずモニターに移ったのは一つの藍色の影だった。
リンクスにしては大きく、一見すると手足が巨大で頭部のない、肩上部にコンテナ状に似たものを装備した非人型に見えるリンクスだが―――詳細はそうではなかった。
その機体の画像を別ウインドウで開き、拡大してその影を鮮明な物にする。
足は遠目で見た通り普遍的なリンクスのそれよりもやや太く、下脚部はスラスターの大きさ故か相応に大きく、長い。
ソールユニットもヒールの形状で、全高を高くしている。
腕かと見えたその巨椀は確かに腕のようではあるものの、それはその機体の背後から伸びているようだった。
肘相当の部位から先は何らかの砲に爪に似た四指とブレードが取り付けられていて、その異形ぶりに拍車をかけている。
肝心の上半身は―――フルプレート鎧に似たスマートさと重厚さを兼ね備えた装甲レイアウトに、王冠に似たブレードアンテナを抱いたツインアイ方式の光学センサを有していていたってシンプル。
端的に言うならば、人に模したシルエットを持っていた。
そのマニピュレーターが持つ火器も砲身は長く、盾も相応に長い。
しかし、大型の脚部と背中のバックパックから伸びる巨椀の存在感もあって上半身と手持ち武装は一際小さく見える。
そして巨椀ユニットの肩上部とも思える部分に取り付けられたユニットの背面からはプラズマ化した推進剤らしき光輝が見えた。
―――専用機の類か。
視線を周囲へと走らせて、未だに周囲を囲う亡霊と呼ばれる部隊のリンクス四機を後退しながら手際よく撃破する。
時間稼ぎ―――亡霊を嗾けただろう何者かにとっては在庫処分になっただろうあっけない全滅になにも抱く事はなく、シオンは新手の左側へ回り込む。
「《ヒビキ》。対象のデータは?」
『類似データですが。上半身が《GLk-066 ディアデム》と類似。強化改修機と推測』
シオンの問い掛けに《ヒビキ》がモニターにその画像とその性能表を表示しながら答えた。
現れた画像は確かに彼女の言う通り、背中から伸びる巨椀ユニットと大型の脚部の覗いて上半身はよく似ていた。
それはつまり。
「亡霊は亡霊でも、地縛霊の類か」
他者の身勝手な意思とはいえ、戦場という場に縛られた亡者にシオンは妙な親近感を覚える。
戦場にしか行く先のない自分と、どこか似ている気がしたのだ。
しかし、この際はどうでもいい話だ。
相手の経緯がなんであれ―――結局は討つ敵でしかないのだから。
FCSが異形の敵機を捕捉し―――《アルテミシア》の左背多目的バインダーの装甲カバーが開いて、分散式ミサイルが発射される。
それは短時間だけ飛翔して、内部に格納されていた子弾六発を解放して設定された目標の追尾を始める。
《ディアデム》と呼称されたそのリンクスは左へ方向転換して、追尾するミサイルを振り切るべく加速する。
その回避機動の隙を―――《アルテミシア》が右に持つカノープスが狙い、FCSが捕捉し複雑な計算を一瞬で終わらせる。
操縦桿のトリガーが絞られ、砲口から火炎とアーク光が迸った。
その瞬間、《ディアデム》は進んでいた方向とは逆の方向へ瞬間的な加速を敢行した。
「―――っ」
シオンにとってはよく知る、FCSの捕捉と予測から僅かに逃れるクイックブースト機動。
それだけの機動で―――秒速三八〇〇メートルで飛翔する砲弾の弾道から逸れる。
作戦前に貰い、先程見せられたデータには無い機構を見せつけられて僅かなれど冷淡な眼差しを見開く。
―――処分扱いの割には失うのを惜しいと思うような実力のある人間が乗っているというのか。
殺される事を望んで、されど生存を望まれる嫌な二律背反―――あるいは搾取か。
どこまでも悪趣味な存在だ。
皇国の自称穏健派の方が可愛いかもしれない。
内心の醜さはどんぐりの背比べか五十歩百歩だが。
モニターに《ディアデム》の一対の巨椀が持ち上がるのが映る。
『照準警報』
《ヒビキ》の警告に、《アルテミシア》は下がりながら左右へクイックブーストを連発して、かの機体の右巨椀から放たれる濃密な弾幕を避ける。
急加速終了の隙を狙うように、左巨椀からのマズルフラッシュにシオンは反応して、上へと逃げる。
「右はガトリングと思える火器に、左は大口径の速射砲か」
繋がった発砲音と重い発砲音にシオンはかの武装を推測する。
続く《ディアデム》の本来の腕部で持つ長銃身の火器が火を噴く。
こちらはライフルのようなもののようで、セミオートの聞き慣れた砲撃音が聞こえた。
気付けば、敵機との距離は六〇〇メートルに近い。
この距離での戦闘はリゲルはともかく、カノープスは取り回しの悪さが目立ち始める距離だ。
《アルテミシア》は手に持つ火器をヤタの裏側にあるハンガーユニットに懸架し、脚部のハンガーユニットに装備していた片刃式のブレードを銃身下に取り付けた八五ミリ口径ライフルと七〇ミリ口径アサルトライフルを手にする。
それを敵機へ向けて、捕捉すると同時に左腕のアサルトライフルを短連射。
相手に回避機動を促してから本命のライフルをセミオートで連発する。
この攻撃は回避困難と見たか、左の巨椀を盾にして砲弾の多くを防ぐ。
数発の砲弾は機体本体に当たるものの―――それほど深い損傷には至らない。
相手の技量はともかく、機体の装甲防御力は普遍的のようだとシオンは推察する。
厄介な類ではある以上は優先で撃破するべきかと思ったその矢先。
『要塞格納庫より敵機出現』
《ヒビキ》の報告と共にその画像が別ウインドウに表示された。
「……なにあれ……?」
映し出されたその藍色の機影にシオンは怪訝そうに眼を細める。
格納庫から出てきた機影は一瞬船舶の類と見間違えるほどに大型だった。
全長は五〇メートル程で幅一五メートルはないだろう胴体上部にはミサイルコンテナらしきものや旋回式の速射砲のようなものなど、幾つもの火器が取り付けられていた。
その巨体を支える為にか、脚部は相応に太くてずんぐりしている。
側面から生える腕部ユニットも同様、胴体に見劣りしない大きさを有していて、右肩には六砲身のガトリング砲を三つ束ねたような旋回式の機銃が取り付けられていて。
左肩には八つ程の砲を束ねたようなユニットが配置されている。
腕にも口径の大きい砲口が左右二門づつ取り付けられていて、先端の指に相当する部分は鋭い爪になっていた。
そしてそれは、各部の光学センサを明滅させて、機体下部や後方に相応のブースターが配置されているのだろう―――プラズマ化した推進剤をまき散らしながら空中へと上がり出す。
そして、《ディアデム》と交戦する《アルテミシア》へとゆっくりと接近して―――
『照準警報』
《ヒビキ》の警報と、その大型兵器がミサイルを放つのが同時だった。
一斉に発射されたその数は《アルテミシア》本機のレーダーの一角を埋め尽くすほどに数えるのは困難だった。
「盛大ね……!」
続いて鳴り出したミサイル警報にシオンはそう呻いて、操縦桿を引いてフットペダルを踏みつける。
《アルテミシア》は反転し、ミサイルを振り切るべく加速する。
それを追い掛けるかのような照準警報が鳴り響いて、《アルテミシア》は右へクイックブーストする。
そのまま進めばいただろう空間を、ライフルの砲弾が通過していく。
《ディアデム》のライフルの砲撃だ。
―――一対二ね。
自ら置かれた状況を端的に称して、シオンは《アルテミシア》を回頭させる。
フレアを散布しつつ、それでも追いすがるミサイルをライフルの弾幕で撃ち落としつつ、通信に繋ぐ。
「こちらストレイド。敵に厄介な大型兵器が出てきた。応援を求む」
『こちらファットマン。申し訳ないがそれは厳しい……!』
シオンの要請にファットマン―――ノブユキは苦し紛れに答えた。
『北と東に亡霊部隊が加わったことに加えて、北には大型兵器。東は装甲列車で挟まれている上に追加の亡霊とヴォル技術試験隊の《フェンリル》が増援で追加されている。とてもストレイドの応援に戦力を割くような余裕はないぞ……!』
――――――――――――――――――
―――時は少し戻る。
キリヤ要塞北部。
要塞の砲塔が沈黙した防壁の内側―――フレシェット砲弾によって耕され、撃破された砲台や戦闘車両の残骸だらけな格納庫区画の戦場で淡いピンクの尖鋭的なリンクス―――《シリエジオ》が地上をブースト機動で滑走する。
「こちらプリスキン。このまま突破口を開く」
そのモニターを隙間なく並べて狭いコクピットの中。
華奢というには細すぎる体に外骨格をつけた水色の髪の少年、デイビットは通信で後ろに続くレア・リーゼンフェルトが指揮するアーベント大隊の《ヴォルフ》に向けて言って、操縦桿を押す。
進む先には四機の《ヴォルフ》が隊列を組んでいて、手にした火器を接近してくる《シリエジオ》に向けて撃つ。
《シリエジオ》は跳躍してすぐに左へクイックブースト。
着地からの急制動という動きにリンクスのFCSの捕捉と予想は追いつけず、ズレた照準はそのまま明後日の方角へ飛んで行く。
右手に持つ七〇ミリ口径のアサルトカービンを距離的に近い《ヴォルフ》へと向けてフルオート射撃を叩き込む。
狙われた《ヴォルフ》は射撃を止めて右へ跳ねて避ける。
デイビットはそのまま別の《ヴォルフ》へ左腕の散弾砲を向けて発砲。
避けきれなかった敵機の腕を捥いで、一時的に弾幕を散発的になったのを合図にその小隊へ突貫する。
右へ左へ。小刻みな跳躍と急制動の繰り返しで幾度の掃射を避け、敵小隊との距離を一〇〇メートルまでに近づく。
もう銃の距離ではないと判断し、手持ちの火器―――右腕の武装を後腰部の懸架ユニット《オサキ》へと仕舞い、片刃式のブレードを抜き取る。
前にクイックブーストして一気に距離を詰め―――切り換え途中だった《ヴォルフ》の胸部へブレードを突き立てる。
そのままブーストと共に押して―――反転しつつ切り払ってブレードを敵機から引き抜き、左手の散弾砲を左から盾を正面に接近してくる《ヴォルフ》へ連射する。
一発目は盾に多くの風穴を開けて、二発目は文字通り弾き飛ばす。
三発目で直撃して左腕を捥がれ、四発目で頭部と胴体に直撃し前のめりに倒れる。
その結果をデイビットは視界の片隅で確認して次の敵機へと短い距離を突撃する。
狙われた《ヴォルフ》は前に出て、両刃の実体剣を引き抜くと同時に斬りかかる。
《シリエジオ》は難なく受け止めて、ブースターの推力とフレームそのものの膂力に物を言わせて弾く。
リンクスとしては重く、されど一瞬で時速一〇〇〇キロメートルまで加速出来るブースターと、通電性伸縮樹脂製の人工筋肉のみならず油圧まで組み込まれた駆動系の膂力に《ヴォルフ》は敵わない。
弾かれ、大きく仰け反るように姿勢を崩した敵機の胴体へ《シリエジオ》はブレードを叩き込む。
装甲を裂き、内部のコクピットまで刃が食い込んだ《ヴォルフ》はそのまま機能を停止した。
―――残りは。
そう考えレーダーに視線を向けた矢先にコクピットに接近警報が鳴り響き出した。
それは左方向からで、《シリエジオ》はブレードから手を放して後ろへと飛び下がる。
たった今立っていた場所に―――肘打ちするように盾を突き出した《ヴォルフ》が突進してきた。
その《ヴォルフ》は最初に被弾し捥がれた機体だったようで右腕が無い。
そのまま《シリエジオ》へと振り向き、左手で保持するマシンガンらしき火器を向けて乱射する。
その弾幕から逃れるように上昇しつつ下がりながら右へ急加速。
すぐに後腰部のブースターを切って落下に入り、左へとクイックブースト。
そのまま相手の右側へと回り込んで突貫し、クイックブーストと共に左膝による蹴りを叩き込む。
金属同士がぶつかり合う轟音をその場に轟かして、《ヴォルフ》を文字通り蹴り倒す。
そのまま相手の右肩を左脚で踏みつけ、胸部へ散弾砲の砲口を押し付け―――発砲。
「……む」
しかし、一発だけでは胸部装甲を剥ぎ取るぐらいしか出来なかったようで、穴が空いた装甲板が弾け飛ぶだけだった。
弾の節約の為に零距離射撃だったのだが―――仕方ないのでもう一発撃って今度こそとどめを刺す。
さて次だ、と敵機に突き刺したままのブレードを引き抜いて―――コクピットにアラートがけたたましく鳴りだす。
左からの照準警報だ。
迷わず前へクイックブーストして、相手を確認するべく距離を取る方向へ下がる。
回頭して、モニターに映し出されたのは《デストリア》の四機一個編隊だ。
その内三機はライフルと盾とブレードと基本的な構成だが、残りの一機はガトリングガンを手にしている。
その金属製のベルトは背中のドラム式弾倉へと繋がっていて―――いわゆるバックパック給弾式と呼ばれる構成だ。
ガトリングガンの発射レートはライフルよりも多くの砲弾を吐き出せることを考えれば。
「接近は厄介だな」
そう呟いて照準警報が鳴ると同時にフットペダルを踏み込み―――《シリエジオ》は編隊の右へと回り込み始める。
回避機動を取り始めた淡いピンクのリンクスをガトリングガンの弾幕が追いかけるが、それはすぐに止まった。
その理由をデイビットは見ていて、ガトリングガンを装備した《ヴォルフ》の頭部がいきなり爆ぜて、次の瞬間には胸部に穴を空けて倒れたからである。
《シリエジオ》の攻撃ではないし、イサークの駆る《ジラソーレ》は東側へ向かっている。
なら、答えは一つだ。
『プリスキン、援護する!』
アーベント大隊所属のリンクスの一機、狙撃砲を装備した《ヴォルフ》の援護だ。
その声が合図かのように次から次へと彩度の低いグレーで塗装され、左肩のブースターのノズルを避けるように盾を背中から伸びるアームで懸架するアーベント大隊仕様とも言える《ヴォルフ》がやってきて攻撃を開始する。
ブーストと制動の繰り返しという乱数機動で相手を翻弄し、ライフルやブレード、僚機との連携で次々と撃破を重ねていく。
これ幸いとデイビットは《シリエジオ》を適当な格納庫の影へと入れてカービンと散弾砲の弾倉を交換する。
「リロード完了。―――追いついてきたか」
『ええ。こちらファイヤ01。北第二格納庫エリアでプリスキンと合流。後続部隊の到着までこの場を維持します』
『ナイトメア了解。ルーペ01と02小隊、及びカット隊、前進。到着次第周囲の制圧を始めてくれ』
「前進はしないのか?」
その指示にデイビットは疑問を挟むがレアはその疑問が来るのをわかっていたかのように答えた。
『あなた達はそうでないかもしれないが、火力支援のない状況下でリンクスだけ進むのは無謀というのが定石なんだ。それに有事の際、味方が後退出来る場が欲しい。すまないが、しばらくはこっちのやり方に付き合ってくれ』
「了解。―――このポイントを起点に遊撃する。問題はないか?」
『それで構わない。必要ならファイヤ隊に援護を要請してもいい』
レアの了承と許可にわかったと返して、デイビットは自機のレーダー情報を見ながら操縦桿を引き、フットペダルを踏む。
その思考を《linksシステム》が読み込み、機体に反映して―――《シリエジオ》はその場で反転し、格納庫よりも高く跳躍した。
敵機の反応は二時方向にいるというレーダーの表示の通り―――地面を全速で走る戦車二両が見えた。
そのまま進めばファイヤ隊の前
「ファイヤ隊。二時の方角から戦車が来ている」
そう警告して、《シリエジオ》はブースターを噴かしつつ左腕の火器を短砲身の一二〇ミリ砲に切り換える。
すぐに戦車の真上を取り―――後方のエンジンブロックを狙って先頭の車両から一二〇ミリ砲で撃ち抜く。
戦車砲やリンクス用のそれと比べて初速に劣るといえど撃つのは高速徹甲弾で戦車の上面装甲は正面や側面と比べても薄い。
放たれた高速徹甲弾は砲塔の上面から貫き―――内部をその衝撃で破壊して止まる。
「戦車二両撃破」
『どうも。……先に撃破するなら言わなくてもいいんじゃない?』
「知らないよりいいだろう」
返ってきた礼と追加の一言を軽く流して、一二〇ミリ砲を再び散弾砲に持ち替えて、次の敵を探しに掛かる。
《シリエジオ》のレーダーでは周囲に反応があることを示しているが、どれも見えない位置にある。
建物の影に隠れているようだ。
一番近いのは―――二時方向、一八〇メートル程先の格納庫の裏。
―――なら、こちらからうって出ようと操縦桿を押してフットペダルを踏む。
クイックブーストで加速し、距離を詰めると正面の格納庫の影から濃淡二色のオリーブグリーンで塗装された《ヴォルフ》が飛び出してライフル射撃を敢行した。
《シリエジオ》は左右へのクイックブーストを繰り返して残り僅かの距離を詰め、至近距離からアサルトカービンと散弾砲の砲撃を食らわせる。
穴だらけになった敵機の後ろにもう一機の《ヴォルフ》を認めて―――クイックブーストを連発し、相手が手に持った火器を向けるよりも早く相手の背後を取る。
散弾砲を持ち上げて首後ろ―――正確には砲口の先を頭部の根本に押し付けて発砲する。
装甲の無い関節部から撃ち込まれた砲弾は機体の内部を破壊して、敵機を文字通り沈黙させた。
次、とレーダーに視線を向けて、
『プリスキン! ファイヤ隊! 方位一-六-五の方角に敵反応出現!』
ファットマン―――ノブユキの叫ぶ声がコクピット内に響いた。
データリンクで表示された《ストラトスフィア》のレーダーマップ―――デイビットが居る場所付近に新しい反応が映る。
その反応は―――格納庫の中からだ。
「何?」
そう声を漏らして指示された方向へ振り向く。
そして、振り返った視線の先でいくつか並んだ格納庫の一つが内側から破裂するのを見た。




