観光と買い物、それとお茶
蛇足、というか、そんなもの。
シスターの墓参りも無事に終わり、やっと本来の目的である首都観光、及び買い物をすることになり(アリア殿下同伴。この世界における病弱の定義ってなんですか?)、それなりに満喫した。
――――うん。だいたいのダイジェストでいくつか語るとしよう。
たまたま縁日らしき事やってたから寄ってみたら、屋台の一つがたい焼き屋で。しかもその屋台の店主が当然の如く日本人で。
「こんな所で同郷の奴に会えるたぁ……! 人生捨てたもんじゃねぇな! おら、持ってけ!」
たい焼き四つ、お金払ってケンさん含む四人で食べたり。
またまた立ち寄った楽器屋でピアノがあったから弾いたりしたり。
「何かリクエストある? 他の炊事係からストラスール内の有名曲あたり―――例えば人気上昇中のアイドル、『シルヴィア』のデビュー曲とか聴いてたりするから弾けるけど」
「ではそれをお願いしても?」
「私もそれで!」
ピアノアレンジで弾いたら弾いたらで、まさかの本人登場とか。
ビックリだよ、歌声が聞こえた時とかホント。偶然って怖い。
「ねえ、貴方。よかったら私が所属する事務所に……」
「お断りします」
シルヴィア本人にスカウトされかけたり。
強盗に人質にとられて、首筋に刃物を突きつけられたものの、逆に叩き伏せたり。
「……刃物向けたからには、その分の覚悟はあるよね」
「チハヤ君。君、ボディーガードにならないか?」
「ケンさんケンさん! それどころじゃありません! チハヤ様! それ以上は止めてください! 肘が変な方向に曲がってます!」
「可愛い可愛い私の妹様? もう彼の腕は折れてますよ?」
街中なので、ある程度容赦はするけど。
強盗は警察に突き付けて、観光再開。
以前から私服が欲しかったから服屋行ったら、男物はどういう訳かデザイン的に合わなくて、女物着る羽目になったり。
いわゆるゴスロリ服とか。
「やだ……! お似合い……!」
「お姉様? あの人の性別わかっていて?」
「フランが着せかえ人形になるって言ってた理由が分かるわ……!」
「ケンさん……堪えるようならいっそのこと笑ってくれ……」
「…………すまん……」
なんで似合うんですか。それ以前になんで女性物着てるんですか僕。
そんなこんなで、おやつ時。
アリア殿下の提案で、僕らは国立図書館―――正確には併設されたカフェに来ていた。
もうおやつ時なのだが、人はまばらで少ない。二人の身元がバレる危険性は少ないだろう。
テーブルには湯気を上げる紅茶。ドライフルーツやチョコチップが入ったクッキー。
わいわい世間話でも話していれば護衛付きの、貴族のお嬢様方の、只のお茶会にでも見えるだろう。
実際は王女二人と、女の子に見える男性(異世界人)一人なのだが。
「ここの紅茶は美味しいですね。入れ方が上手な人がやってるのかな?」
二口ほど飲んで、感想を述べる。香りもよく、茶葉もいいのだろう。
「噂で聞いてましたけど、これほどとは……。今度から国立図書館に来たら寄る事にしましょうかしら」
アルフィーネ殿下も気に入ったらしい。
「ここの紅茶はお気に入りなのですよ。王宮の皆様には内緒でフランと一緒に来てました」
カップを起きながら、思い出を語るアリア殿下。シスターとここに来たことがあるらしかった。
「帰ってくると、二人仲良く執事やメイド長、はてにはお父様からも怒られましたね」
「お姉様、いろいろと迷惑かけすぎでは……」
アルフィーネ殿下も流石に突っ込んだ。
「少しは自由にやらせて貰わなければ、楽しくやっていけませんよアルフィーネ。でも、一番の好物はフランが淹れたコーヒーですね。あの味は忘れられない」
「奇遇ですね。僕もシスターのコーヒー好きなんですよ」
「やっぱり。フランのコーヒー、美味しかったですよね?」
「ええ。もちろん」
「昔、淹れ方を教えてもらったのですが、なかなか上手く淹れれないのですよね……」
「コーヒー淹れるんですか……」
王女様がコーヒー淹れるのか……。メイドとか執事が阻止に入りそうだけど。
「皆には内緒でね? 堂々とやるとみんな私達がやりますって言ってやらせてくれないの。コーヒーぐらい自分で淹れたいわ」
「僕は……シスターの味には近づけれるんですが、なかなかあの味には……」
「私もです。コーヒー豆の量とカルダモンの量がなかなか……」
少し残念そうに言うアリア殿下。余程、シスターが淹れたコーヒーが好きなのだろう。僕も同じである。
「なかなか出来ないですよね、分量調節」
「分量通りにやればそのうち美味しいコーヒーを淹れれるようになれると言っていましたが、そう上手くできませんね」
「そうですね。たどり着く自信が無くなりそうだ」
そう言ってカップを口に近づけ、紅茶を喉に流しこむ。
こうもコーヒー談義出来る人がいるとは。特にシスター特製コーヒーの。
異世界へ転移するのも悪くないかもしれない。
そう、思っていたら。
カフェの入り口で、男性二人と女性一人の三人組が入って来たのが見えた。
そして、内二人は見覚えがある。
誰が来たのか、を語るよりもまずは位置取りを説明した方が良さそうだと判断し、説明しよう。
まず、アリア殿下とアルフィーネ殿下は入り口に対して背を向けて座っており、その後ろにはケンさんが立って背後を固めている。
その対面には僕が座っており―――つまりは。入り口から見て僕は真正面に見える位置なのだ。
では誰が入って来たのかを語るとしよう。
女性は、というより女の子はアリア殿下の腹違いの妹であり、アルフィーネの姉であるアルペジオ。男性二人の内、一人は本日の護衛ヒュースさんである。
もう一人は初めて見る人でフレームレスの眼鏡をかけた背の高くて鼻も高い、爽やかな優男だ。年齢は僕より少し上かもしれない。髪は茶色で、僕から見てもなかなかの美男子だ。たぶん年頃の女の子そう受けだろう。
アルペジオはこちらを見て、少なくとも女の子がしては行けないような驚きの表情で固まる。
何故ここにいるのか、みたいな表情である。
「……よっす」
片手上げて短く挨拶。
その姿を見て、アルフィーネが振り返って、固まった。
多分、ここにいる理由とか、アリア殿下が何故ここにいる理由とか考えているに違いない。
固まってしまった妹が気になったのかアリア殿下も振り返って、
「あら、帰ってきてるなら連絡ぐらいすればいいのに。アル―――」
「姉様! それ以上言ってはいけません!」
すんでの所で口を塞ぎにかかる妹君、アルフィーネ。
「……知り合いかい?」
男が、隣にいるアルペジオに訊ねた。目の前にいるお嬢様方が誰かわかってないからか、かなり気軽である。知らないって幸せ。いや、アルペジオの知り合いならば女性二人が誰かはわかっているだろう。あえて聞いたに違いない。
訪ねられたアルペジオを目頭をつまみ、
「見ての通り、二人は異母姉と妹。そしてもう一人は異世界人で騎士団の同僚よ。―――いろいろ訊きたい事だらけよ、ええ。ねぇ、チ ハ ヤ ?」
その言葉に、アルフィーネは胸を撫で下ろす。怒られると思っていたのだから、当然の反応だ。
「かくかくしかじかってやつです」
顔を背けつつ、紅茶を飲み続ける。
「説明になってないわ。どうやって大お姉様と会ったのか、どうして共に行動してるのか。根掘り葉掘り聞かせなさい」
長くなりそうだ。
とりあえず僕は、アルフィーネが怒られないよう、嘘のない適当な理由を考える事にした。




