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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一二章]The torch shines on the frontlines
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各々の思惑はそこに②




 廃墟となった旧ヒースレー市の南に位置する飛行場は飛行機も人も来なくなって相応の年月が経過している。


 しかし、窓のガラスの多くがまだ張られている程度には長い年月は経っていない。


 それでも人の手入れがされなくなったが故か、建物の外装はツタが伸び、ヒビ割れた箇所があった。


 本来、飛行機が収まる格納庫はその利用者もなく、開きっぱなしの扉の向こうはがらんどうだ。


「―――砲撃音? 始まったか」


 飛行場として利用され、されど使う事が無くなった管制塔の隣の格納庫の片隅。


 残された資材の影に二人の人間が身を潜めていた。


 一人は大柄な男で年齢は四〇代で男性。


 体格は良く、スキンヘッドと剃刀のような目つきは何にも厳しい厳つさを醸し出している。


 カーゴパンツに編み上げのブーツ。


 上着も動きやすそうなジャケットを着ていた。


 しかし、ベストだけはやや使い古した軍用品でお腹辺りにはアサルトライフルのマガジンが三本刺さっていて、彼の傍らにはやや古ぼけたアサルトライフルが立て掛けられている。


 耳には無線通話の為のインカムが。


 腰には拳銃のホルスターが下がっており、まるで民間人がそのまま武装したかのような出で立ちだった。


 もう一人は女性で―――大柄な男よりも確かに若く見えた。


 三つ編みにした長い朱色の髪と、ほりが深くハッキリした顔立ち。


 吊り気味ながら大きく見える緑色の双眸はどこか柔和な印象を持たせる。


 頑丈そうなレザーのパンツとジャケットを纏っており、その姿だけならバイクの乗り手だ。


 そして隣の男よりも厚いベストを身体に巻き付けている。


『北東の方角で煙が上がってます。音もその方角ですね』


 耳に付けたイヤホンから若い男の声が聞こえて来た。


 管制塔に登って周囲を警戒していた若い男からの無線だ。


「事前の連絡通りなら雇われ部隊と帝国軍がおっぱじめたんだろう。―――周囲は?」


『対人センサの検知はなし。見える範囲の歩兵部隊は戦闘に巻き込まれない為にか後退を始めてます。でも展開していた対空戦闘車部隊はそのままな辺り、航空機による僕たちの救出を想定しているのでしょうね』


「だろうな。そのまま見張りを頼む。こっちが呼び戻さなくてもそっちの判断で降りて来ていいからな」


『りょーかい。雇われ……《ミグラント》との連絡はどうします?』


「迎えの飛行機の着陸予定時刻の前になったら俺が呼び掛ける。こっちの動向は帝国に傍受されるのを防がねばな」


 あまり事務的でない通信を終えて男はふうと息を吐く。


 想定外ではなくとも、気の抜けない芳しくない状況が続くのは精神的にも疲れる。


 そして味方が自分も含めて二人しかいない中で護衛対象を守ることなど尚更だった。


「―――委員会の手の者が来たのね?」


 やり取りを聞いていたらしい朱色の髪の女性が男に向かって状況を言い当てた。


「はい。まずは羽虫駆除の段階ですけれどね。―――敵部隊に航空機などの増援が現れなければ良いのですが」


 彼女の言葉に頷いて、懸念事項を言う。


 自分達の回収、救助はこの飛行場で行われる。


 運が良ければひっそりと行われる予定だったが、どうも相手はこの廃市街と感づいたらしく対空戦闘車やリンクス、マリオネッタを主体にした捜索部隊が来てしまった。


 これでは輸送機は離着陸は出来ないし、できたとしても増援で戦闘機が派遣されるだろうからこその護衛と救出部隊の派遣である。


「希望的観測は裏切られるものよ」


 そんな男の悲観的な予測を諭すように女性は言う。


「その対処に―――ヴィルヘルムが《ミグラント》っていうリンクスを運用する傭兵部隊をこちらに寄越したんでしょう? なら、私達は私達で相応に動きましょう」


「待っているだけですがね」


 男の言葉に女性はそれはそうと笑って言う。


「一応聞くけど、車の燃料は?」


「燃費を考えて……良くて残り一〇〇キロ分ってとこですね」


 彼女の次の問いに男はここまでの足として使った四駆のピックアップトラックの燃料の残りと減り具合から大雑把に換算して答える。


 この状況になったが故に補充が出来なくなったからこその残りだ。


 次の街まで走れない事もないが、その時は追われるのは確実でそこまでたどり着く事すら簡単ではないだろう。


 荒野で回収、という手も悪くはないと思うが。


 これからの状況がどう転がろうとも、自分達には出来る事など何もなく。


 街で戦闘が起きた以上、少なくともこの飛行場に身を潜めるしかないのだけれど。


「結局は待ち、か」


 女性は体を伸ばしながらそう言って、視線を目の前のそれに向ける。


 それは金属で出来た頑丈そうな箱だった。


 もう少し詳しく説明するならば、一二〇センチ四方の真新しい小さなコンテナとも言うべきもので、確かにある工業規格で作られた製品でもあった。


 そのコンテナの内約は、ここに居る人達は知っている。


 彼らが暮らす国でよく使われる郵便物回収システムなのだから。


「―――で、誰がほぼ新品のフルトン回収システムをここに置いたのかな?」


 その質問に答えられる人間は、少なくともここにはいなかった。



 ―――――――――――――――



 FCSが対空機銃や対空ミサイルを装備した五両の対空戦闘車を同時に捕捉した。


 《アルテミシア》の両肩に装備された武装コンテナ《フタヨ》の装甲カバーが開いて、中に格納されていたマイクロミサイルが十発、噴煙を吐き出しならが飛び出した。


 対空機銃が反応して飛来するミサイルを迎撃すべくその砲口を上に向けて連射していく。


 いくつかのミサイルは迎撃するも、その隙をと言わんばかりに八五ミリの砲弾が車体を斜めに貫いて掃射を強引に止める。


 迎撃されなかったミサイルはそのまま設定された目標にぶつかり、爆炎を上げた。


「対空兵器、五基撃破」


 シオンは冷たく淡々と言ってフットペダルを踏んで《アルテミシア》を左へ旋回。


 加速させる。


 これで三個小隊分の対空戦闘部隊の撃破。


 マリオネッタは四小隊―――一個中隊分は排除している。


 あとはリンクスらしき反応と報告だけなら二個中隊規模。


 他の反応も含めれば全体で一個大隊の規模は残っている。


 デイビットとイサークの報告で八機のマリオネッタと二〇基あまりの対空ミサイルと対空機銃は撃破しているとはいえ、まだまだ数はある


 護衛と思ってたけど、殲滅になりそうね―――。


 なんて言葉に出さずに思ったシオンの耳に通信が入った。


『エグザイル小隊! 西から接近する反応を捉えた! 近いぞ!』


 ファットマン―――ノブユキからの報告にすぐさまレーダーマップを見た。


 街の西―――だいたい二〇キロ離れた場所に数にして一二程の光点が現れていた。


 地図にはそこより先もレーダーが映る範囲なので―――実質突然現れたかのような反応と報告だ。


「こちらストレイド。結構接近されたわね」


『たった今映ったばっかりだ! 突然現れたとしかいいようがない!』


 ノブユキもいきなりの事態に驚いているらしい。


 だからといってやる事は変わらないし、そこまで慌てなくてもとシオンは思うのだが。


『こちらナイトメア。ヒースレー市の西は街より低い土地で、なおかつ高低差の酷い岩盤地帯だ。レーダーに映り難くいかもしれない』


 やや取り乱したノブユキを落ち着かせる為にか、そのカラクリをレアが答えた。


 その地域では早期警戒機の位置次第で地形の影に入ってしまい映らないことがままあるのだという。


『西から街に近づくなら、私もその地形を利用するだろうな。―――来た部隊は相応に練度のある部隊になるぞ』


「いい情報ありがとう、少佐。―――エグザイル小隊各機、聞いてたわね。ここから本番と思いなさい」


『……準備運動は充分だしな』


『了解……!』


「増援の対応は私がやるから、あなた達は街の脅威を優先して」


 二人の反応を聞いてから、シオンはフットペダルを再度踏む。


 その操作と思考を読んだ《アルテミシア》は進路を西の増援部隊へと向かう。


 レーダーを見て進路上の敵の数とモニターに映り、捕捉のアイコンを見比べて、


「《ヒビキ》。分散ミサイルを三発。対空戦闘車を狙って」


 適当な武装を選択し、その命令を《ヒビキ》が忠実に実行する。


 《アルテミシア》の左背の《ヤタ》の装甲カバーが開いて内部に格納していたミサイルの発射筒を外界へと迫り出させた。


 FCSがシオンの指示通りの車両を捕捉し、ロックオンカーソルを重ねる。


『ロックオンしました』


 その報告を聞いて、左のトリガーを絞る。


 三発のミサイルが発射された。


 ミサイルは真っ直ぐ飛翔し、その道中で外殻を分離させて内部の子弾を露出させる。


 そしてばらけて、設定された目標へと向かっていき―――着弾。


 爆炎が上がって、その上を《アルテミシア》が飛び抜けていく。


『照準警報。一時方向です』


 アラートと《ヒビキ》の警告。


 フットペダルを踏みつけて―――《アルテミシア》は左へ倒れるようにクイックブーストと共に側転。


 高度をやや落としながら掃射を避けて、再び前へと加速する。


「今のは……《デストリア》からの攻撃か」


 警告が示した方角とその拡大映像に映る影を見て、シオンは呟く。


 相手にする順番ではないが、横やりは厄介だ。


 無視したくないものね、なんて思っていると。


『街の外は任せてくれ。―――ナイトメア、ポイントに到着。支援砲撃を開始する』


 レアから通信が入った。


 それにやや遅れて、二つの砲弾が山なりに飛来してきて―――二機の《デストリア》の前に着弾させる。


 彼女が駆るリンクス―――《オニキス》からの砲撃だ。


 レーダーマップでは《オニキス》を含むリンクスの四機はヒースレー市の西、三〇キロの位置にいる。


 流石のレアでも初弾から当れないのかもしれないが、それでも近い位置に撃ち込めるのは流石だ。


 何者かの砲撃に驚いたのか、その二機は射撃を止めて後退し出す。


「助かるわ」


 その光景を見てシオンは通信越しに礼を言って―――レーダーに映る増援部隊の反応の一つが、隊列から大きく離れたのを見た。


 レーダー更新間隔から見ても大きい移動で、つまりは。


『ストレイド!』


「もう見えてる!」


『警告。敵機接近中。注意を』


 ノブユキの警告を自分と《ヒビキ》の声でかき消して、急速に大きくなる人影にロックオンカーソルが重なる。


 FCSのロックオンしたことを示す電子音と共に両手のトリガーを絞った。


 牽制が狙いの射撃といえど、火器管制の優れた演算による補足は正確だ。


 放たれた砲弾は真っ直ぐ接近して来た敵機へと向かって――その姿が推進剤のプラズマ光を伴って霞み、左へと瞬間的に加速してシオンと《アルテミシア》の視点から消える。


 かき消えたかのような急加速を―――シオンは良く知っている。


「クイックブースト?」


 《アルテミシア》やその系列機にも搭載されている瞬間的加速機構が可能にする機動を見てらしくない驚愕の音を上げる。


 しかし、対応の為の思考と操作は冷静で正確だ。


 プラズマ光の噴出方向を見て咄嗟に左へ急旋回。


 それで―――


『接近警報』


 接近を知らせる警報と、右手で持つ得物を大きく振り上げる白い機体がメインモニターに映っていた。


 《アルテミシア》はクイックブーストで後退し、その得物の振り下ろしを避ける。


 次の返す刀を、左のアサルトライフルの銃身下のブレードで受け止めて―――相手の動きを少しの間だけ止める。


 それで―――シオンは敵機の姿をしっかり見ることが出来た。


 白く塗装された角張った装甲を持っているが、無骨さを感じさせないヒロイックなシルエット。


 頭部は前に突き出るような装甲レイアウトでそのフェイスエクステリアはどことなく人のそれに近いツインアイ方式。


 左側面には後ろへ伸びたブレードアンテナが一本装備されている。


 《アルテミシア》と基本コンセプトが似ているのか全身にブースターが付いており、機動力を考えた機体というのがよくわかる。


 右手には一般的ではないライフルグリップタイプのライフルに銃身よりもやや長い片刃の実体剣をその銃身下に装着している。


 左手には小型ながら少々厳つい盾が装備されている。


 背中にはハンガーユニットの類か、細身の実体剣が懸架されている。


 後腰部には追加の類か、後ろへ伸びるように取り付けられた二つのブースターユニットが。


 目ぼしい武装や特徴はそれぐらいなもので、《フロイライン装備》の重装ぶりに慣れたシオンにはあまりにも軽装に見えた。


 ともかく、シオンにとっては見た事もなければ聞いたこともない、知らない機体だ。


 ブースターの機構からして、専用機の類だろうか。


 とにかく、接近戦は不利だ。


 距離を取って、と考え出したシオンに、


『対象と類似するデータあり』


 《ヒビキ》が驚く事を言った。


『細部が異なりますが《XLu‐35t‐02C フェンリル》の系列機と推定』


 報告と共に左のモニターにウインドウが展開し、該当する機体の画像や情報が表示された。


 そこには目の前にいるリンクスとよく似た、しかし武装や細部がやや異なるリンクスが映し出されている。


 右手に持つ武器は大型のブレードと盾を組み合わせたような武装で、左腕には先端の尖った小型の盾を装備している。


 そして左肩の装甲に描かれた十字架を加えた狼のエンブレム。


 二年前に数度の交戦と三度の共闘という記録付きだ。


『交戦データ上、対象機は当機と同等の機動力を発揮します。接近戦では注意を』


「知らないわよそんな話……!」


 知りもしない、憶えてもいない話を斬り捨ててシオンは左の操縦桿を押す。


 《アルテミシア》は力任せに左腕を振って、《フェンリル》という機種らしい敵機を弾いて再度距離を取るべく後退する。


 両手のライフルを構え、ロックオンカーソルが射撃可能と伝えると同時に小刻みに発砲する。


 そんな断続的な射撃の中を《フェンリル》は再度接近する為にか乱数機動で避けつつ前に出る。


「……よく避ける」


 動く前に撃つのとクイックブースト後に撃つのとを織り交ぜた射撃だが、それも難なくだ。


 やはり、接近戦が主体の相手は相性が悪いとシオンは毒づく。


『ストレイド! 方位二-六-八より飛翔体を検知! 数は七! そっちに向かってるぞ!』


 ノブユキからの報告。


 一瞬だけレーダーマップを見て―――増援部隊から離れ、しかし移動していない一つの反応から放たれたらしいというのと、報告通りの情報がそこに映っていることに表情を険しくする。


 ミサイル警報は無い以上、そのミサイルは《アルテミシア》を狙っている訳では無いのはわかるが、そうだとすると。


 ―――広範囲を爆風と破片で破壊する類の砲弾だろう。


 またしても友軍が戦闘中なのに、巻き込みかねない攻撃か。


 帝国は相変わらず飽きないものだ。


 ならば、とシオンはフットペダルを踏んで―――《アルテミシア》は後ろへと加速して距離を稼ぎに掛かる。


 当然、《フェンリル》への牽制も抜かりない。


「《ヒビキ》。マイクロミサイル六発。ロックオンし次第発射」


『了解』


 両肩のマイクロミサイルまでも用いた時間稼ぎ。


 小さく破壊力が少ないとはいえ誘導兵器だ。


 ライフル射撃と併用すればその驚異は計りしれない。


 その状況下でも《フェンリル》は一度大きく動いてミサイルとの距離を稼ぐと同時に《アルテミシア》からの射撃も回避する。 


 そして。


 《フェンリル》の周囲と《アルテミシア》との間にミサイルが到着して次々と炸裂し―――白煙だけをまき散らした。


 不発? と考えたシオンの目の前で《フェンリル》は後退し、その煙の中へと姿を消した。


 そして、対象を見失ったミサイルは誘導を止めて直進して煙の中を突っ切っていく。


 当然、《アルテミシア》のFCSも《フェンリル》を見失ったのかロックオンを解除してしまった。


 リンクスの照準システムは光学的なものもあれば赤外線レーザーで対象を捉えるようになっている。


 それが解除されるという事は。


「ジャミングスモッグ?」


 その答えをシオンは声に出した。


 リンクスの姿を一時でも隠すのに使える可視光もレーザーも遮断する煙幕。


 それがまばらに炸裂しているので完全に全周の視界が遮られたというほどでもないが―――こんなことをする意図は。


『敵機再捕捉しました』


 煙幕の中から飛び出た《フェンリル》をFCSが再び捉えた。


 すぐにライフルの照準が向けられるも、すぐに煙幕へと隠れて振り切られてしまう。


 これで、シオンは煙幕の意図が分かった。


 ―――つまるところ、遮蔽物の代わりだ。


 単純に速度が上がれば移動距離も比例して伸びる。


 時速一〇〇〇キロを超えれば短時間と言えどその移動距離は自機の横幅数機分にも匹敵するだろう。


 そんな移動距離で遮蔽物だらけの市街地戦なんてとてもとても出来るものではない。


 ならば障害物を無視できる低空を飛行してその速度を生かすほうが賢明と言えるが、この場合は常に身を晒す事と同義で遮蔽物に身を隠すのが厳しくなるし、パイロットは一息をつけることすら難しくなる。


 その対策、或いは代替手段がジャミングスモッグで、後方のはその支援役という事だ。


 なるほど、そうなればパイロットの負担は軽減できる、と。


 敵の戦法に感心していると、煙幕の中から何かが飛び出した。


「―――!」


 照準警報のないその影は遅いものの、不意を突かれたシオンは回避が遅れる。


 後ろへ跳ぶように急加速する《アルテミシア》の左脚に()()が捕まった。


『左脚、損傷無し。ワイヤークローに類する捕縛武装と推定』


 《ヒビキ》の分析と共にその映像と《フェンリル》の左腕に装備されていた小型盾が表示された。


 どうもそれがワイヤークローの正体らしい。


「厄介な……!」


 シオンは悪態を吐き捨て、もう一度下がるようにクイックブースト。


 《フェンリル》を煙幕の中から引き摺り出して、拘束を振り解くべく左腕のアサルトライフルを振り上げる。


 相手を捕縛、拘束する類の武装は接近するに都合が良い以上、そうするしかあるまい。


 なら、接近される前にワイヤーを切断しようというところで、 


『―――接触回線オープン! あなた達は委員会に雇われたという傭兵部隊ですね?』


 ややひび割れた、聞き覚えの無い少女の声がコクピットに流れた。


『接触回線です』


 《ヒビキ》と通信相手が言う通りの接触回線による通信だ。


 つまり、通信の主は《フェンリル》と呼ばれる高速型のリンクスのパイロットだろう。


 だから何? とシオンは言いかけて、委員会に雇われたという彼女の言葉に気付いた。


 この戦闘が帝国内初の戦闘なのに、どこでその情報を得たのかしら。


 その疑問は―――シオンを小さく驚かせる程度に、彼女が答えた。


『私達はエルネスティーネ少将麾下、ヴォル技術試験隊です! ―――ナツメ大尉からの言伝でもありますが、エアリスさんの脱出を支援するので戦っているフリをしてください!』






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