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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一一章]Migrant
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ブリーフィング




「集まったわね。―――それじゃあ、ブリーフィングを始めるわよ」


 《ウォースパイト》艦内のブリーフィングルームに集まった面々―――リンクスのパイロットから各部門の責任者達と依頼人とその関係者を見て私は淡々と宣言してHALのセントリーロボットに視線を送る。


 それが合図で、私の後ろのスクリーンが起動して《ダルト・シージス及びシップダウン三連国》の国土全域の地図を表示した。


「……本当は役職的にフィオナか、ノブユキがこういう事をやるのがいいと思うんだけど」


「おれもそう思うんだが、組織の状況と役職的に今は君の方が適任だろう」


 私のぼやきに、恰幅のいい中年の男が答えた。


 軍人らしく刈り上げた髪に、おしゃれの一環かカイゼル髭を蓄えている。


 二重顎になりかけで、かつ顔の面積の割に小さい垂れ目という容姿はどことない愛嬌があった。


 ノブユキ・サキハラ―――無人空中早期警戒機を運用する早期警戒班のリーダーで、作戦行動中は部隊の指揮をフィオナと共に担当する、ポロト皇国空軍から出向してきた人物だ。


 今は傭兵部隊に所属―――もとい出向しているため一佐の階級章は外している。


「―――そう言う事で、ここしばらくは私がブリーフィングを担当させて貰うわ」


 溜息混じりに吐き捨てて、レーザーポインターをスクリーンに当てる。


 赤い点が三連国の北東部―――《サイヨウ》と表記された街を指して、地図が拡大されてその街並みを詳しく表示した。


「出発早々召集したのは事態がよろしくないからよ。予定では、私達は北方三連国の副首都、《サイヨウ》にポロト皇国駐在外交官のキミヒロ・カクマル氏と皇国外交官オサム・ハヤシ氏。我らが姫様のサイカ殿下を連れて行って、そこをしばらくの拠点として三連国の軍事支援を始める予定だったけど―――」


「《サイヨウ》が帝国の攻撃を受けている、と連絡がありまして」


 私が言おうとした言葉を眼鏡を掛けた痩せぎすで気の弱そうな男が割り込んで言った。


「あの街は副首都―――首都が何かあった場合に政治機能を移行させる先の都市です。そこには首都侵攻を生き延びた政治家が避難しているだけでなく、王族の逃走先でもあります。そこまで奪わ―――」


「キミヒロさん。国が心配なのは理解しますが、今は彼女の説明が先ですよ」


 先走って説明する彼を隣のパイプ椅子に座った七三分けの優男が制した。


「……すみません」


 キミヒロ氏と呼ばれた痩せぎすの男は非礼を詫びるように頭を下げる。


「シオンさん。どうぞ説明を」


「いえ、いくらか説明が省けたから助かったわ。補足があるなら今のように説明して下さっても構わないから」


 七三分けの男―――オサム・ハヤシの促しに私はそう返して、説明を再開する。


「今、キミヒロ氏が言った通りよ。《サイヨウ》は今、帝国の攻撃を受けている」


 その説明と黄色のフリップ―――三連国と表記されたものが街の中に。


 赤いフリップ―――帝国軍を示すそれが街の西に三つ表示された。


「現地の政府官僚と防衛部隊からキミヒロ氏を介して得た情報よ。三連国専用の秘匿回線の分、精度は確かと思っていい。傍受されている可能性も捨てれないけどね」


「もちろん、劣勢か」


 スクリーンの最前列に座る、外骨格を身に着けた痩せぎす水色の髪を持つ少年―――デイビットが確認するように尋ねてきた。


 彼の言葉に私は頷く。


「そうだから私達に話が来たのよ。―――サイヨウの防衛部隊は一個中隊規模。加えて制空権は喪失してる。それに対して帝国軍は制空権下の下、一個大隊規模で攻勢に出てるから戦力差から見ても敗走するのは時間の問題。そして、その都市は有事の際は政治中枢の移行先でもあって、三連国王女 《ツバメ》殿下が合流する予定の街でもある。なんとしても食い止める必要があるというわけ」


 そう説明して、ポインターで街の南東方向に円を描く。


 そこに私達にとってはよく見知った―――黒くて耳の長いポメラニアンのような犬の横顔が表示された。


 私達が連れている犬のような生き物―――テルミドールの横顔で、私達独立傭兵部隊のシンボルだ。


 そのアイコンから街へ一直線にポインターを走らせて、やや遅れて矢印が出現する。


 ここまで説明して、自分達を示すアイコンを街へ矢印を向ければ―――それが何を意味するのか分からない人はいないでしょう。


「これより私達はキミヒロ氏、及びサイカ殿下の要請によりサイヨウに急行。現地の防衛部隊と連携を取って帝国軍を撃退するわ」


 その宣言に、ブリーフィングルームの空気に緊張が走った。


 皆の想像以上に早い実戦に、戸惑わない人間がいない訳はないけれど―――突然の事態はいつだって不意にやって来るものだ。


「あと、ポロト皇国軍事研究所とアシザワ重工から敵リンクスの《ヴォルフ》を鹵獲すると特別報酬を出してくれるそうよ」


「正確には胴体が無事な《ヴォルフ》の確保、だな」


 私の補足に詳細を付け足したのはくたびれた白衣を羽織ってサングラスをかけた強面の男―――バレットだった。


「しばらくは北方三連国に提供する機体として鹵獲した《ヴォルフ》を提供しよう、と上は考えているんだが……。前の戦闘で()()だけは数があって、胴体が無い。それ故に胴体が欲しいというわけだ。可能であれば、だけどな」


 その詳細に、リンクスに乗るデイビットとイサークは難しそうな顔を見せる。


 暗に手加減しろと言っているわけで―――簡単な話ではないからだ。


 あくまで可能であれば、と言っているのでそこまで拘らないでいい話なのだけれど。


 必要な話はこれぐらいとして―――私は言うべき事を言うべく再度口を開く。


「我ら傭兵部隊の初陣よ。大盤振る舞いで《エグザイル小隊》は全機出撃。空中警戒機も当然投入よ」


 その一言に「わーお」と声を漏らす人がいたけれど、多くの人はそれを聞いて覚悟したかのようにこちらを見ている。


 何人かは不安げな表情を浮かべていたけど―――それに気を遣う必要は今は無い。


「―――無人空中警戒機 《ストラトスフィア》の発進準備を最優先。私はマイクロミサイルと対空ミサイル。九七ミリ多目的砲二門を積んだ《ホーネット装備》で出るわ。デイビットは基本装備で前衛に。イサークは背部に探索用のレドームとドローン。肩部に多目的武装コンテナユニット《フタヨ》を装備して後方から援護をお願い」


「え、その装備ですか?」


 私なりの決定に、癖の付いたくすんだ赤髪の少年―――イサークが意外そうな声を上げた。


「あなたにとっては初陣だし、新兵同然の人間をいきなり最前線に立たせるほど私は鬼畜じゃないわよ。それに、制空権下での戦闘になるから対空戦闘も視野に入れたいし、私だけじゃカバーしきれない。最悪 《ストラトスフィア》が撃墜―――良くて追い払われる可能性もある。その補佐と保険役をあなたに任せるわ」


 理由をつらつらと述べると不安げな表情のまま彼は頷く。


 皇国内でリンクスに乗って戦闘を経験しても―――まだ一度しか実戦を経験していない新米だ。


 不安に思うのは理解出来ない訳ではないけど、やって貰わなければいけない。


「それじゃあ、コールサインやTACネームを確認するわよ。自分の名前の次にコールサインとある人はTACネームを」


 そんな新米一人の心境を無視して、出撃準備を宣言する前に以前確認した事をもう一度と言って促す。


 短期間で忘れる人達ではないとわかっているけれど―――念には念。


「フィオナ・クレイヴン・ファーゲルホルム。《ティターニア》」


 一番最初にフィオナが名乗って、次から次へと続く。


『HAL。《ジュピターワン》』


「ノワ・ラーチカイネン。通信オペレーター。《シーン》」


「ノブユキ・サキハラ。早期警戒機(AEW)。コールサインは《ファットマン》だ」


「デイビット。《エグザイル2》。TACネームは《プリスキン》」


「イサーク。《エグザイル3》。TACネームは……《レグルス》」


 あとは私だけになった。


「シオン・フィオラヴァンティ。《エグザイル1》。TACネームは《ストレイド》」


 いつかと変わらない―――せいぜい、コールサインが増えただけの名乗り。


 ともかく、これで全員だ。


 お互いに見合い、確認しあって最後には私に視線が集まる。


「それじゃあ、ここからはフィオナに任せるわ」


「……え? ここまでシオンが話したんだから最後までシオンが言うべきじゃない?」


 私の放り投げるようなバトンパスにフィオナが少し間を開けて抗議した。


 確かに彼女の言う通りここまでブリーフィングを仕切り、説明していながら作戦準備への宣言をしないのは仕事を途中で放り投げるに等しいでしょう。


 そうする合理的な理由はちゃんとあるので言わなくては。


「作戦準備にしろ、作戦開始の合図にしろ―――そういうものは部隊の団長で《ウォースパイト》艦長のあなたの仕事よ」


 この傭兵部隊の団長―――及び《ウォースパイト》の艦長は他でもない彼女(フィオナ)だ。


 作戦準備などの合図は彼女が下すのが組織としてあるべき形態だ。


 少なくとも、私の仕事ではない。


「それに―――」


「それに?」


「―――あなたの宣言で仕事に取り掛かりたいなって」


 最後の一つだけは私情だ。


「……シオンは私を煽てるのが好きね」


 私の一言に満更でも無さそうに言うフィオナ。


「嫁の宣言の方が気合が入るの」


「……そう言う戯言は二人きりの時がいいのに、もう……」


 そのやり取りにブリーフィングルームに居るほぼ全員が嫌そうに「はぁー」と溜息を吐き捨てた。


 理由は分かるけど―――そこまで大げさにしなくても。


 まあ気にする必要はないのでそのリアクションにはスルーして。


「それじゃあ、フィオナ。あとはよろしく」


 さっさと仕事に取り掛かるべく―――スクリーンの前から下がってフィオナに場所を譲る。


 彼女は空いたスクリーンの正面に立って、咳払い一つする。


 フィオナがそこに立つと同時に、ブリーフィングを聞いていた人達は一度姿勢を正してフィオナの言葉に耳を傾ける。


「さっきシオンが言ったけど―――この戦闘は私達の初陣。今後の私達の扱いを左右する試金石となるわ。部隊各位、一人一人が最適の仕事を達成するよう心掛けなさい」


 訓示のような一言を言って、彼女はブリーフィングルームで話を聞く面々を一度見て―――最後に私を見た。


 心配しているようで、信じているような表情を見せて―――彼女は正面にいる人達へその視線を向ける。


 そして息を吸って、凛とした声で宣言した。


「―――独立傭兵部隊 《ミグラント》。作戦準備に取り掛かれ!」




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