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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第一〇章]Reboot
260/441

Reboot⑧




『だから残念そうに言わない!』


「ふふ、冗談よ。……今日は怪我することなく、フィオナの下に帰れそうね」


 怒るフィオナに、今度こそ安堵に近い回答をするシオン。


 そう小さく笑みを見せるシオンの視線の先で―――一つの光景が目に入った。




 別ウインドウで拡大表示された映像の中。


 砲火に焼かれてコンクリートの柱ばかりになった建造物の横。


 そこでは―――鍔迫り合いになった《サキモリ》と《ヴォルフ》が居て。


 その足元で榴弾砲のものと思える爆発が起きた。




 一瞬だけ―――シオンは思考が止まった事を自覚した。


 あり得ない事だからだ。


 友軍を巻き込むような攻撃など、起きてはいけないし、起こしてはいけないのだから。


 今の砲撃は―――どっちだ?


『おい見たか今の?!』


『味方を巻き込むな馬鹿!!』


『誰だ!? 味方諸共撃つ奴は?!』


『今は突撃支援砲撃だろ?! 撃つ先の設定は市街地の向こうだ!! 味方を巻き込むはずが無い!!』


『装薬不良か?!』


 弾着観測要員が見ていてすぐに報告したからか、通信もその一件で混乱が広がっていく。


 すぐに砲撃中止が呼び掛けられ、自走砲や野砲の轟音が止んだ。


 しかし―――皇国、帝国双方のリンクスが入り乱れ始めた市街外縁を自走砲のものと思われる砲撃が止むことはなかった。


 それが示す事実は一つしかない。


『帝国の野郎ども……! 敵味方お構いなしかよ……!』


 誰かの憤る声が、その光景を見るものの代弁となった。


「《ヒビキ》!」


『システム戦闘モードへ移行。ジェネレーター出力最大』


 シオンの呼びかけに事務的な女性の声―――《アルテミシア》の電脳 《ヒビキ》が応えて機体のシステムを戦闘に適したそれに切り換えていく。


 フットペダルを踏み、《アルテミシア》のメインブースターに灯が点る。


 大電流が流された推進剤は瞬時にプラズマ化して、腰部のブースターユニットのノズルから噴き出す。


 その反動を以って―――白い装甲を纏った尖鋭的なリンクス 《アルテミシア》は空中に浮かんだ。


「こちら《ストレイド》。敵自走砲部隊を叩きに行くわ」


 通話ボタンを押しながら言って、再びペダルと操縦桿を前に押す。


 誰かの応答を聞く前に―――《アルテミシア》はガガタキ市街へ向けて、一瞬で時速一二〇〇キロに到達する。


『警告。進行方向は砲撃地帯の模様』


 《ヒビキ》が警告する《アルテミシア》の進行方向では未だに爆発を繰り返している。


 そこで戦闘する皇国、帝国双方のリンクスは砲撃に巻き込まれまいと戦闘を中断していてその場から後退していた。


『いくら当機 《アルテミシア》が速いと言えど自走砲の砲弾の爆風や直撃は耐えられません。迂回を提案』


 《ヒビキ》は理由を述べてから別の案を提案する。


 一五〇ミリ以上の砲弾を受け止めきれる陸戦兵器などそうそうないが―――当たれば例外なくひとたまりもない口径だ。


 彼女の言い分は最もだが、


「自走砲の連射性能は?」


 シオンは問題は別と言わんばかりに尋ねる。


『参考データとして毎分六発から八発ほど。最速でも十秒以内に二発から三発です』


「飛び抜けるのに十分な発射間隔ね。迂回する時間も惜しいし―――このまま花火に飛び込むわよ」


 そうシオンが楽し気に言った時には―――敵砲弾の着弾地帯もう眼前だった。


 時速一二〇〇キロという速度ならば街まで一五キロの距離など一分足らずで到着する。


 そしてそのまま―――《アルテミシア》は散発的に爆撃されているコンクリート建築のマンションの上を一瞬で通過していった。


「自走砲の弾道は山なりで、近い場所に、それも市街地に落とすなら相応の仰角になる……」


『装薬の量も減らす必要もあります』


 シオンの思考が口から漏れて、《ヒビキ》が補足を入れる。


「そうであるなら、発射地点は外縁部に近いはず」


 市街地上空、建物すれすれを高速で飛びながら呟いて―――それをモニターに捉えた。


 砲火で壊され、全壊や半壊が混じる一週間前までは低い建物が連なっただろう住宅地。


 その道路やかつては住宅がありその建材だっただろう瓦礫が退かされた一帯に、無限軌道を履いた旋回式砲塔、その砲口を空へ向ける戦闘車両が綺麗に並べられていた。


 どうやらここが自走砲の一部隊が展開する場所らしい。


『敵自走砲を確認』


 《ヒビキ》の報告。


 言われなくてもわかる、探していたものの報告だが、


「……どういうこと?」


 モニターに映ったその異様な光景に、シオンが困惑の色を顔に出す。


 そこでは―――防弾チョッキやヘルメットなどの防具を身に着けた兵士がアサルトライフルを片手に、自走砲を遮蔽物にして、南北で別れて射撃戦を展開していた。


 ポロト皇国軍の歩兵かと一瞬頭に過るが、まだ皇国軍は《サキモリ》の部隊がガガタキ市街外縁に着いたばかりで歩兵部隊がここまで展開していないし、そもそも皇国の歩兵は兵士の人命の保護や身体能力の強化、及び平均化を兼ねた人工筋肉搭載の強化装甲服を装備して行動する。


 それを装備していない以上は皇国とは違う国の部隊だと見るべきで、今ここに展開する部隊がどこの国の者かなんて言わずもがなだろう。


 北と南の兵士をウインドウで別々に拡大しながら《ヒビキ》が報告する。


『北、及び南の兵士の腕章は帝国の国旗と判定』


「仲間割れしていると?」


『そうと思われます』


「……どうしてそうなってるのかしら?」


 予想もしていなかった状況にシオンは頭痛を覚えた。


 今現在、ガガタキ市を占領している帝国の部隊は北以外をポロト皇国軍の軍隊に囲まれているという、逃げ道があるとしても絶望的な状況だ。


 身内で争う場合ではないだろうに、何故?


『《ストレイド》。状況報告を』


 HALからの通信が入る。


 《アルテミシア》が突撃し街に到着してからそこそこの時間が経過しているのに戦闘している様子が観測されないからだろう。


「帝国の自走砲部隊を発見したわ。でも、現在進行形で仲間割れしてて、砲兵がアサルトライフル片手に射撃戦をやってる」


 その不思議がる通信にシオンは見たままの事を伝える。


『仲間割れしている? どうして?』


 当然、返って来る言葉はシオンが抱いたものと同じだ。


 それはこっちが聞きたいとシオンは溜息を吐く。


 仲間割れしている理由がわかれば困惑だって解消するのだが。


 そう内心で呻いて、知る術はあるなと思い直す。


「ええ。―――聞き耳立てて、少し待ってなさい」


 そう言って、シオンは操縦桿を押して《アルテミシア》を降下させる。


 自走砲の正面―――北にいる部隊に向けて銃撃している歩兵部隊の最後尾に着地して、片膝を付いて姿勢を低くする。


『うお! リンクス?! まさか皇国軍のか!?』


 突然の物音に驚いて、振り返った先に居る白い影に驚く兵士の声がコクピットに流れた。


 外部スピーカーの通話ボタンを押して、シオンは口を開く。


「こちらポロト皇国軍所属機よ。自走砲部隊を撃滅する為に推参したところ」


『―――嘘だろマジか!』


『待てこのリンクス、リンクス狩りの《白魔女》じゃないか?!』


『ま、待ってくれ! 捨て駒にされた上に皇国軍に囲まれてなぶり殺しなんて嫌だぞ!』


 質問に対して肯定するような所属先に帝国の兵士達はたちまち恐慌の音を上げる。


 その様子と発言にシオンは相応の理由や事態が彼らに降りかかったらしいというのを察した。


 だからといって、どこまでも慈悲を見せる理由はないが。 


「なぶり殺す趣味は無いけど、あなた達の今の状況を察して今は攻撃するのを待っただけよ。―――仲間割れしてる最中なんていい的だから今の内に撃ちたかったけど」


『それは……待ってくれた事に感謝するべきか?』


「あなた達の今日の運に感謝する方がいいかもね。それで―――あなた達の状況を簡潔に説明していただける?」


 本題を単刀直入に尋ねた。


 兵士達は互いに顔を見合わせてからポツポツと答え出す。


『……味方を巻き込んででも砲撃せよという指示が出たんだ』


『俺達は足止め兼捨て駒にされたんだ。それに加えて味方殺しときた』


『お互いを補い合い、助け合うのが軍隊だろうに。仲間を撃てなんて命令が聞けるかよ』


『味方へ攻撃を指示する指揮官の下には居られねえよな』


『そもそも高名なお貴族様達は死ぬのが怖くてさっさと北の山向こうに逃げてったしな。残ったのは貧乏貴族で権力に媚びる将校と士官と、一般家庭出身で大量にいる下士官と訓練所上がりのひよっこのみ』


『残った少将は部下を無駄死にさせるような命令しか出来ない手柄欲しいだけの、技研の傀儡同然の無能だし、味方を巻きもむ命令下したのもアイツだし』


『おいおい、ディットリヒ中佐と《アーベント大隊》のリーゼンフェルト少佐は残って下さったぞ? 同じ帝国の兵を置いて逃げる訳にはいかないといって。……あの方々の部隊に配属されたかったぜ』


 思い思いの事を次々と吐き出す砲兵たち。


 彼らの言葉に、道理で士気が低いし部隊の連携や動きがなってないのねとシオンは一人納得する。


「それで従いきれずに造反したと」


『従いきれず造反というか、命令拒否したら反逆罪を問われて、現場の判断と見せしめで銃殺刑が起きたんだ。―――味方殺しと無駄死にさせられるぐらいならと反乱を選択した、だな』


 ヘルメットで顔立ちが見ずらいが―――壮年に見える男がすぐ近くに倒れる人間を指して言った。


 その人物は仰向けに倒れていてヘルメットを外されていて―――頭から血を流していてピクリとも動かない。


 《ヒビキ》が解析したのか―――その体温は人間のそれと比べて明らかに低い値が表示された。


 想像以上―――というよりも信じられないような、前時代的とも表現できる事態が起きていた。


 そんな事をやってしまえば反乱が発生するのは当然だというのに。


『国家の安寧と繁栄の為、と思って戦ったが―――こんな扱いを受けて無意味に使い捨てられるのは御免だ』


 そう言って壮年の男は吐き捨てる。


 自分達は被害者だ―――というその口ぶりがシオンには気に入らなかった。


 都合が良すぎる。


「一応言っておくけど、この国の人達だってあなた達帝国の人間と戦って死にたくはないわよ。侵略してきたのは、この国の日常を壊したのはあなた達よ。―――あなたがどう考えていようが、望んでいようがいまいが、ね」


『………』


「命令に従ってここまで来たのはあなた達の意思でしょう。―――ここで自分の良心に従って動いたって、その事実と罪は消えない事を肝に銘じておきなさい」


『―――わかってるさ』


 シオンの不快、不機嫌そのものの指摘に痛い所を突かれた、という様子を見せる兵士達。


「あなた達が反乱を起こしているって事は報告しておくから、こちらが帝国軍と反乱部隊が区別出来るように分かるようにしておきなさい。―――うっかり撃たれても文句が言える立場じゃないでしょうけどね」


 シオンはそう言い捨てて、返事を聞く事無くフットペダルを踏む。


 その操作に《アルテミシア》はブースターによる跳躍で応えて―――空中へと躍り出る。


「―――HAL」


『聞いておりました。そして指揮官に報告済みでもあります。投降を呼びかけつつ前進するとのことです』


 報告しようと通信相手に呼び掛けたら、既に行われていた。


 話す内容が省けたとシオンは内心で独り言ちて、その言葉の代わりにこれからの動きを口にする。


「―――ならいいわ。私はこのまま砲撃を継続する自走砲とそれを妨害する敵勢力を叩く」


『了解しました。ですが、状況は混乱を極めていくと予想されます。お気を付けて』


 言われなくても。


 HALの忠告に頷きつつ通信を切って、右に見える発砲炎に向かってブースターを噴かせる。


 大抵の建物より上―――砲撃にあって瓦礫ばかりと言えど、それでも残った建造物という障害物の無い最短ルートを《アルテミシア》はあっという間に飛び抜ける。


 距離にして一キロ。


 反乱が起きている部隊とは隣とも言えるその場所の自走砲部隊は未だに砲撃を継続している。


 味方を巻き込んでいるのを承知で継続しているのかは―――空からではわからないが。


『敵自走砲部隊を視認』


 《ヒビキ》のアナウンスと共に火器管制システム(FCS)が近い位置にいる対空戦闘車を捕捉する。


 それと時を同じくしてコクピットに警告音が鳴り響く。


 照準レーザーの照射を受けたという検出警告。


 迷う事無く《アルテミシア》はメインブースターを一度切って慣性で進みつつ降下。


 ブースターを再度点火に合わせて左へクイックブースト。


 右に少し旋回して前に再度のクイックブーストで照準と飛来し出した火線を振り切る。


「マイクロミサイルポッドを十発」


 シオンの口頭の指示は《ヒビキ》によって速やかに実行される。


 《アルテミシア》の左背に接続されたコンテナのハッチが開いて、小型のミサイルを収納したユニットが迫り出す。


 FCSは対空戦闘車以外にも自走砲をいくつかをロックオンシーカーが捉え―――射撃可能を表示する。


 シオンの左の人差し指が、操縦桿のトリガーを絞った。


 小型のミサイルが一発ずつ、されど連続で垂直に発射されていく。


 マイクロミサイルは僅かに上昇して―――その先端を地面にいる設定された目標へと向かって行く。


 それ一発ではリンクスを撃破するには炸薬量は少ないが、軽装甲や非装甲車両を撃破するには十分で。


 重機関銃弾の直撃や炸裂した榴弾の破片や爆風に耐えれる程度の装甲しか持たない自走砲や装甲車にはやはり十分だ。


 マイクロミサイルは次々と対空戦闘車や自走砲に突き刺さり、爆煙を上げるのを見てシオンは次の標的へ視線を向ける。


 フットペダルを踏んで、急加速。


 《アルテミシア》は空中を滑るように移動しながら両手の片刃の実体剣付きのライフルを連射して次から次へと敵車両を破壊していく。


『方位、2‐8‐0より熱源反応接近中。識別は帝国―――視認しました。リンクスです』


 《ヒビキ》の報告。


「《ヴォルフ》?」


『肯定。数は四』


「さっきの話が本当なら、可哀そうよね。捨て駒に近い扱いでしょうに」


 先ほどの反乱兵の話を思い出しながら、シオンは言われた方角へ《アルテミシア》を振り向かせる。


 そのまま左へクイックブーストして自走砲部隊の只中に着地。


 モニターに映る無骨なシルエットを有するリンクス―――《ヴォルフ》の四機が構えていたライフルを次々に下ろした所だった。


 《アルテミシア》の背後には―――彼女らの射線上に友軍がいる状態だ。


 外れた場合、その砲弾は最悪味方に当たる可能性がある以上、無闇に撃てない。


「そしてこっちはやりたい放題、と」


 シオンはそう言って左手のアサルトライフルを《ヴォルフ》に向けて発砲しつつ、右手のライフルで近くの軍用車両を撃ち抜いていく。


『レーダーに三〇機の反応を探知。どれも帝国のコードです』


 自走砲を十両撃破したと所で《ヒビキ》が警告した。


「《アルテミシア》相手に二個中隊規模、ね。大盤振る舞いかしら?」


『たった一機にここまで暴れられれば相応の対応と思われます。―――接近警報』


 その一言とアラートにシオンは左を見て、戦闘車両を撃っている間に接近してきた、実体剣を手にした《ヴォルフ》の姿を確認しながら操縦桿を引く。


 《アルテミシア》はクイックブーストで九十度左へ旋回。


 同時に左手のアサルトライフル―――その銃剣を振り上げる。


 《ヴォルフ》は上段からその剣を振り下ろす。


 金属同士がぶつかり、拉げる激しい音が鳴り響く。


 後ろへよろけつつ下がったのは《ヴォルフ》だった。


 その右手は半分に断たれていて、薬指から下が斬り捨てられている。


 手にしていた実体剣は弾き飛ばされ、《ヴォルフ》の斜め後ろの地面に突き刺さって止まる。


 ―――距離が近いとシオンは判断する。


 ブレードの距離ではある。


 けれど、ブレードを振るうよりも殴る方が速いと思うほどに近い距離だ。


 《アルテミシア》はすぐさま右肩を前にして―――《ヴォルフ》に向かってクイックブースト。


 また金属同士がぶつかる音がして、タックルを受けた《ヴォルフ》がもんどりうって倒れる。


『接近警報。二時方向です』


 次のアラート―――二機目の《ヴォルフ》だ。


 今度は迷う事無く後ろへクイックブーストして下がって、振るわれたブレードを避ける。


 そこには通信能力を強化する事が目的のブレードアンテナを頭部に装備した《ヴォルフ》がいて、転倒した僚機を守るように前に出た。


 次の斬撃を繰り出すべく剣を下へと構え、ブースターを噴かせる。


 後退していた《アルテミシア》も応えるように前に出て、右手のライフルを横に振るべく持ち上げる。


 すれ違う交叉と一閃。


 斬り抜けた《アルテミシア》は《ヴォルフ》から距離を取るべく離れて振り返る。


 そこには左腕を欠損させた《ヴォルフ》がこちらへと振り返ったところだった。


 相手が咄嗟に身を逸らして、左腕を切断されるだけに留めたからこその結果だ。


 やはり接近戦は苦手ねこの子と思いながら、シオンは操縦桿を握り直す。


 両手が持ち上がり、FCSがその機体(ヴォルフ)を捕捉する。

 

『照準警報。三時方向』


 撃つ直前でアラートが鳴り響く。


 照準警報―――照準レーザーの検知だ。


 《アルテミシア》がいるのは自走砲部隊の只中。


「―――っ!」


 味方が巻き込まれ兼ねない―――味方への誤爆を防ぐ必要のある状況で火器の使用を示すその警告に驚きながらもシオンはフットペダルを踏み込む。


 その操作と思考の擦り合わせはシステムが一瞬で行い、《アルテミシア》は上にクイックブーストして跳躍し―――飛来してきた砲弾を避ける。


 その砲弾は案の定―――自走砲の装甲に当たった。



 シオンにはその砲弾がHEAT砲弾であることは知る由もないが―――それはモンロー/ノイマン効果によって装甲を穿ち、内部の弾薬に火を点けた。



 自走砲は内側から破裂するように、その砲塔を空へ大きく弾き飛ばしながら爆発を上げた。


「―――味方ごと撃つのね」


 その光景を横目に見て呟いて、《ヴォルフ》へと視線を向けるが―――四機の《ヴォルフ》が手に持っているのが実体剣や盾である事に気付く。


 ライフルの射撃は出来ない。


 じゃあ、誰が?


 その疑問に、《ヒビキ》がモニターに拡大映像を表示する事で答えた。


 その別ウインドウには殴られれば折れそうな細さの―――例えるならば針金人形のような機体がずらりと並んでいた。


 誰もが見ても簡潔なと表現するだろう、丸いレンズが剥き出しの単眼式の光学センサを四角い箱に収めただけの頭部に、どこにジェネレーターやコクピットが収まっているのか不思議な程に細い胴体や、細すぎる脚部。


 目立つ推進機関は背中の安定翼付きのブースターのみ。


 もっとも際立つものはその両腕。


 下腕部は人のそれではなく、ライフルの類だろう実体剣付きの火器にそのまま接続した、マニピュレーターさえ省かれた腕だ。


 その機影に名詞という補足が表記される。


 《ヴックヴェルフェン》に類似―――それが針金人形に似た機体の名前だった。





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