Reboot②
白く先鋭的なシルエットを有するリンクス―――《アルテミシア》のコクピットは、私の記憶とは違った。
《プライング》のコクピットは全天周型のモニターにシートはバイクのように跨る方式で、シートの前にはタッチパネル式のコンソール。操縦桿もフットペダルもそれに準じた配置だった。
けれど―――《アルテミシア》のコクピットはそうではなかった。
シートはバケットシート―――左右のへりは高めで尻や肩を深く包む、固定機能の高いそれに変更されていた。
メインコンソールはシートの前にあって、タッチパネル式のモニターのようだ。
操縦桿は大きく変更されていて、シートの後ろから伸びるアームの上に自動小銃の機関部からストックまでを切って付けたような操縦桿が組付けられている。
モニターは―――足元、正面、頭上、側面と背後に湾曲したディスプレイと複数のモニターを隙間なく重ね合わせたもの。
反対にシート真下とシート真後ろにはモニターのパネルが張られていない。
360度全天周のモニターは満足のいく物が作れなかったそうで、既存製品でなんとか視界を確保したという、どことなく狭苦しく感じる空間だった。
パイロットスーツ―――身体にフィットするつなぎ状の、黒い衣服を身に纏った私はそのシートに座り、頭に付けた顔を覆う遮光用―――ブルーライトカット目的のバイザー付きのヘッドセット―――《linksシステム》の脳波読み込み装置を顔まで下ろして目の前のコンソールに触れる。
コンソールに光が灯り、《那由多OS》と書かれた文字が浮かび上がった。
コンソールの画面左上には《FK75/Re39+n53》の文字が表示されて、書き換えられるように《XLK39P》という文字の羅列に変わる。
起動シーケンスが始まり、高速で文字が流れていく。
一瞬だけの頭痛と『linksシステム―――パイロット《チハヤユウキ》の脳波パターンと一致。適合率―――計測エラー』の表示とともにモニターに光が灯って外の景色―――《ウォースパイト》のもの寂しい格納庫を映す。
『おはようございます。《FK75》コアユニット。製造番号127番 《ヒビキ》。メインシステム、通常モードを起動しました。―――あなたの帰還を歓迎します』
事務的な口調の、女性の合成音声がコクピットに流れた。
どこか懐かしい声ね。
「《ヒビキ》、よね?」
『はい。お久しぶりです、チハヤユウキ』
記憶頼りな確認の一言に電脳―――《ヒビキ》は肯定する。
『ご無事で何より』
「再会を喜びたいかもしれないけど、あなたの事まだよく思い出せてないし、説明しようにも生憎これから戦闘よ」
『それは嬉しいニュースですね』
「どこが嬉しいニュースよ」
『これから戦闘というニュースにです』
その一言に、彼女が戦闘兵器の一要素である事を強く認識させられる。
そうとも。
彼女は―――兵器として生み出されたのだから。
『こちらHAL。《アルテミシア》の起動を確認しました』
コクピットにHALの合成音声が流れた。
今作戦の最終確認とカタパルトへの誘導する為の通信だろう。
『調子は如何でしょうか?』
「いたって普通―――強いて言うなら狭く感じる」
『あはは……。そこは勘弁かなー、って』
私の不満の声に少女の乾いた笑い声が返ってきた。
カンナだ。
彼女は確か、格納庫で作業しているはずだから……これは艦内限定の回線による通信だろう。
『コクピットの内壁にモニターをいくつも貼ったからねー…。《プライング》の全天周型のスクリーン、不満足なものしか作れなかったからその代用で……。一応、モニター自体の描画性能は以前と同水準だからそこは心配しなくて大丈夫だよ』
「なるほど」
『それじゃ、《フロイライン》の確認をお願い』
その合図に私は《フロイライン》――《アルテミシア》に追加された装備一式のリストを左側面のモニターに表示させる。
両肩部、多目的武装コンテナユニット《フタヨ》、オンライン。
―――正面格納スペースには一二.七ミリ口径近接防御システムユニット。上部格納スペースには燃焼光源の欺瞞兵器―――フレアが格納されている。
背部のブースター兼武装コンテナユニット内臓バインダー―――多目的戦闘システム《ヤタ》、オンライン。
―――ここのコンテナにはマイクロミサイルが片側三〇発ずつ格納されている。被弾したら誘爆するのは間違いない。
テールブーストバインダー、及び脚部追加ブースターユニット―――《ハイウインド》機動戦闘システム、オンライン。
―――空中を高速で飛び回る為だけの追加ブースターだが、今はスタビライザーが展開していて隠れていたソールユニットを露出している。
ここにハンガーユニットが取り付けられていて、両脚に皇国軍の新型アサルトライフル―――銃身下に片刃式のブレードを取り付けたそれが装着されている。
右腕―――その補助腕とエネルギーバンカーによる物理的な接続も用いて逆手で保持するのは《アルテミシア》の全高に近い長さの得物。
両刃の大剣に似たシルエットを有するそれは―――試作の一〇五ミリ磁気火薬複合式超電磁砲。
左腕も同様に補助腕を展開して装備するのは九メートルを超える片刃の実体剣が収まった鞘と小型のシールドと四〇ミリマシンガンを組み合わせた複合兵装―――《試製近距離戦闘システム》。
そして。
この《フロイライン》装備の目玉となる各ユニットに組み込まれた、フェーズ粒子を機体に纏わせて安定還流、空気の流れを意図的に生み出して空気抵抗を減らす空力制御システム―――《プライマル・フェアリング》システム。
これら全てが《アルテミシア》の電撃侵攻攻撃用追加装備群―――《フロイライン》の全てだ。
「……《フロイライン》装備オンライン。システムオールグリーン」
『――《フロイライン》装備オンライン。システムオールグリーン』
私の声と、《ヒビキ》の声が一字一句ズレる事無く揃って、同じ言葉を紡ぐ。
『《オーバードブースター》、最終チェック完了! それじゃカタパルトデッキに移動お願いー!』
『了解しましたカンナ。―――《ウォースパイト》より《アルテミシア・フロイライン》へ。昇降エレベータへの移動をお願いします』
カンナとHALの合図を聞いて、私は操縦桿を前に押して《アルテミシア》を一歩前に進める。
一歩、一歩と歩かせるが―――その歩みはとてもゆっくりだ。
その理由は明白で、現在展開しているソールユニットは歩行機能よりもランディングギアとしての機能しか要求していないことから来る弊害だ。
『聞こえるかね、シオン』
移動の最中に通信を繋いで来たのはヨシキだ。
作戦の指揮の為に今は《ウォースパイト》の艦橋にいるはず。
「良好よ」
『では、作戦の再確認をしよう―――と言っても単純明快だが』
そう言って彼はふっ、と小さく笑う。
『電撃侵攻攻撃装備 《フロイライン》と長距離強襲用追加ブースター《オーバードブースター》を装備した《アルテミシア》で皇国より北西に展開している帝国の超電磁砲搭載型TFを強襲。対象を無力化、あるいは撃破する事だ』
ヨシキの何度かの作戦説明を聞きながら、なんとか《アルテミシア》を昇降用エレベーターまで歩かせてそこで停止。
それと同時にエレベーターが上昇し始める。
『強襲するに当たって、陽動として陸軍が保有している全ての巡航ミサイル、五二発を先行させてくれる。恐らく全て迎撃されるだろう。君と《アルテミシア》はその隙をついて敵TFに接敵、最低でも超電磁砲を無力化して撤退してくれ。―――その後、予定している《天層山脈》内の合流地点で貴機を回収して装備換装を行い、皇国へ帰還。そのまま国土防衛戦に参加してもらう』
「大忙しね」
『それが出来る要因をいくつも合わせたからとはいえ個人に任せ過ぎだと文句を言いたいのはわかるが―――この国は、あなたにやってもらってもなお戦争に勝てるか怪しい程に力はない』
私は茶化しのつもりだったのだけれど、ヨシキは真面目に嘆息する。
『記憶もまだ思い出しきれない。ブランクもある―――そんなあなたが、隣人達を守る為にと言ってこんな無謀な作戦に協力してくれる。―――感謝すべきか、酔狂だと言うべきか。わからないな』
「なんとでも」
そんな嘆息を冷たくあしらう。
フィオナやHALに、デイビット。
この国で出会ったノワや喫茶店の人達に、サイカやホノカやゲンイチロウ。
私がそういう隣人達を守ろうと考えるのと、この国の防衛戦争勝利という目的は、ある意味で利害は一致している。
エレベーターが止まって、私と《アルテミシア》は暗い空間に出た。
リンクス一機が立つには十分で、されど二機は並べそうにない、真っ直ぐな空間だ。
『レールカタパルト、スタンバイ』
HALのアナウンスと共に天井がゆっくりと開いて、夜明け前の青黒い空が頭上を覆い始める。
正面奥も左右に開いて、薄暗い山肌がモニターに映る。
目の前には二本のレールが走っていて、それは二〇〇メートル走った所―――舳先で見事に途切れる。
事前に聞いていた通り、私は《アルテミシア》を前進させてカタパルトのレールの上に立たせる。
足をレールに沿うように合わせると、カタパルトのシャトルがやってきて《アルテミシア》の足先に繋がる。
『《オーバードブースター》の接続を開始します』
その合図で今度は―――背後のエレベーターが上昇する音が聞こえだした。
モニターに別ウインドウで背後の光景が映し出され、ハンガーユニットに収まったそれが床下から現れる。
そこに映し出されたのは―――乱暴に表現してしまえば大小さまざまなミサイルの推進器を金属製のパイプの骨組みで束ね、揚力を得たいだけの板を付けただけの代物。
これが《オーバードブースター》なる代物だと言う。
それがハンガーごと近づいてきて《アルテミシア》の背中へ接続基部が接着し胴体の脇下と肩を固定用アームが自動的に挟んで物理的な合体を完了する。
モニターに、《オーバードブースター》が接続された旨が表示されて、独自にチェッキングプログラムが走査される。
『やっほシオン。《アルテミシア》についてと、各装備の説明を軽くおさらいするよ』
心配なのか、単に説明がしたいだけなのか、また《アルテミシア》の開発主任―――カンナが通信を繋いできた。
『さっきも話した通り、《XLK39P アルテミシア》はHALから提供された《FK75》のデータを反映して建造した、《XFK39/N53 プライング》の後継機―――性能向上機といって差し替えない機体だよ。コクピットのモニターと非装甲部が多い事はさておき、素の機体性能は《プライング》よりちょっと優れてるところが多い性能向上機にしてポロト皇国の次期主力―――高性能万能機の雛型。技術検証機だ』
頼んでもないのに説明が始まった。
さっき聞いたわね、なんて聞き流す事を決めた私の心境に構う事無くカンナは話を続ける。
『《サキモリ》も配備を進めてる次世代機だけど―――この機体はそれとは別ラインで研究、開発してた部署に《プライング》をねじ込んで短期間で完成させた技術検証機。量産前提でこの国の規格品を多用して設計、建造したから製造コストも《プライング》よりは安いよ―――って、これは不必要な話か』
脱線しながらの説明になるほどと呟く。マイクはミュートにしているので向こうには聞こえないだどうけど。
つまりは《アルテミシア》は二つあった開発ラインの内の一つで出来上がった《プライング》の流れを汲む技術検証機と。
『この機体の本領はここから。技術検証機であると同時に《那由多OS》の特性を最大限活用して多様な追加装備で様々な作戦、戦闘に対応可能にしたマルチロール機ってところ』
その説明と共にモニターにいくつかのウインドウが表示される。
私は操作していないし、《ヒビキ》も展開していないので―――カンナがデータを送ってきたのだろう。
そこには―――高速、高機動戦闘を行う基本仕様を中心に、大口径の火器を装備した遠距離砲戦仕様や手足を換装し身軽にした近距離戦闘仕様。
追加装甲と複数のサブアームに盾や火器を保持させた拠点防衛仕様、索敵用のレドームやセンサを追加した電子戦仕様や狙撃仕様などの説明が書かれている。
それだけ計画しているらしい。
こちらは大した反応を示していないのに、まだまだカンナは説明を続ける。
『今回は電撃侵攻攻撃仕様―――呼称コードを《フロイライン》だよ。《プライマル・フェアリング》や超電磁砲を初めとする最新技術を惜しみなく投入した高火力高速空戦機―――それが《アルテミシア・フロイライン》だ』
わかってる。
『《オーバードブースター》はリンクスを規格外の速度で敵部隊の懐に送り込む使い捨てブースターだよ。《フロイライン》の《プライマル・フェアリング》で空気抵抗を減らせばその巡行速度は時速二〇〇〇キロは軽く出せる。……一応テストはしてたし、報告もしてたから存在は認知されてたからこそ、この作戦と投入なんだけどね』
それも聞いた。
そしてその装備が使い捨てだと言うのも、何度も聞いている。
想定外、規格外の速度で敵TFの懐に飛び込み、超電磁砲を無力化。
無茶苦茶で、無理難題。
極端なまでに大雑把な作戦とも言えぬ作戦。
『……本当は、行って、帰ってこれる予定のものだったんだけどね』
「計画はそっちだったのね」
明るかったカンナの声音が暗いものになった事が気になって、つい相槌を入れてしまった。
『まだ試作だよ。一先ず、飛んで行けるものにしないとその先をどうしたらいいのか見えないじゃないか。それに、労働者や兵士に代替可能な能力を持たせる事は可能でも、人間そのものに代わりは利かないよ。そういう存在に片道切符を渡すなんて、ボクは反対さ』
「でも、今回は提供するのね」
『この船で君を迎えに行くからね。それに、《フロイライン》装備だってその巡行速度は一二〇〇キロを超える。これだけ揃えば片道切符じゃないと、自分で無理やり納得したのさ。―――だから』
その続きを言う為にか、カンナは一拍おいて、
『―――無事に帰ってきておくれよ』
「……言われなくても、そのつもりよ」
その願いは―――充分聞いている。
ええ、そうね―――フィオナのその願いで充分。
私の心を満たすには少し足りない願いで、充分なのだから。
『《オーバードブースター》チェック完了。システムオールグリーン』
チェッキングプログラムの操作が終わったようで、《ヒビキ》が報告をしてきた。
「こちら《アルテミシア》。出撃準備完了」
『こちらHAL。了解しました。作戦開始時刻まで待機を』
HALと事務的なやり取りをして、私はシートに背中を預ける。
あとは時が来るのを待つだけ。
コンソールの片隅にデジタル表記で表示された数字を見る。
五時二五分。
―――残り五分で、作戦開始。
加速と移動時間を考えても現地到着は五時五〇分頃。
ホノカの回答という開戦の合図までの時間は一〇分。
これが作戦時間で、タイムリミットだ。
猶予はあるのか―――或いはないのか。
それを判断するには、一〇分という時間はいささか微妙にも思えた。
『―――聞こえますか?』
今度は女性の声―――聞き覚えのあるその声が通信で流れてきた。
「……ホノカ?」
『―――ホノカ・M・センノミヤ陛下ですね』
私の疑問と、HALの断定が同時。
艦内通信の向こうではいきなりの、予想外の人物からの通信に動揺の声が広がっているようで妙に騒がしい。
『えっと、聞こえてますか? ―――通信のチャンネルはこれでいいんですよね? 間違えていませんか? 返事が返ってこないんですけど……』
『聞こえてるわよ』
返事がない事に慌て出し、側近に聞き出したホノカに返事したのはフィオナだ。
彼女が居るのは《ウォースパイト》の艦橋なので通信が出来て当然で、出たのも答える人物が居ないからでしょうね。
「こちらも同じく聞こえてる」
私も応じる。
『ああ、よかった。返事をしてくださいよ。チャンネルが違うかと思いました』
「ホノカ陛下がいきなり通信に入ってきたら、この国の人は驚くんじゃないかしら? 特に、今の状況だと」
『それはすみませんでした。でも、これから帝国へ啖呵を切る演説の前とはいえ、今から戦うあなた達に訓示の一言も無しに行かせるわけにはいきませんよ。特に―――安息の地でも故郷にもならないこの国をついでに守ると、私達と一緒に戦う事を選んだあなた達に何も言わないのは、この国の長にあるまじき行為です』
驚かせてしまった事に申し訳なさそうな空気を醸し出して、一息。
それだけでこの国を率いてきた女皇の声に切り換えてホノカは言う。
『この皇国の未来。この国に生まれ、生きる者達の未来。それらの行く末は、あなた達の働きに掛かっています。そして、シオン様』
唐突に名前を呼ばれて、私は顔を上げる。
どこを見ても、知った顔など映ってはいない。
顔の見えない通信は気楽だと思っていたけれど―――この場合は少し惜しいかしら。
『この国が安息の地にも故郷にも成り得なくとも、隣人を守る為に戦う事を選んだあなたに―――シオン様にその旗手を、重役を任せます。それを心得て、敵TFの無力化を。……どうか、お願いします』
「ええ、引き受けたわ」
『―――まだ、言いたいことはあるのですけど……。一つは言いません』
妙に、はっきりした物言いだった。
彼女が言いたいことなんて、想像出来る。
私がこれからやることなんて、どう見繕うが決死隊だ。
どう考えたって、いくら適した優れた兵器があったとしても。
生還出来るかは怪しいのだから。
『それを言うのは、私の役目ではありませんから。だから、代わりに……これだけ』
そして一人の人間の声に戻して言う。
『落ち着いたら、噂のココアを淹れてくださいね』
その一言に、私は小さくふふっと噴き出す。
「言ってること、言わなかった一言と一緒じゃない?」
『私は、やってきて欲しい未来を言っただけです』
その指摘に頬を膨らましていそうな声音が返ってきた。
『そんな小さな願いが叶う未来を、お願いします』
そう言って、ホノカからの通信が切れる。
……ただ、これが次の通信の引き金になるなんて私は考えもしていなかった。
『シオンはね……。もう少し、人にきつく、冷たく接するべきだと思うの』
入ってきたのは艦内通信。
相手はフィオナ。
『こう、人に好かれるのはいいけど? 友人とはいえ、お茶とはいえ私の嫁が誘われるのはなんか癪に障るのよね……。いっそあなたに首輪に鎖でも付けておけばいいかしら?』
いけしゃあしゃあと、影が濃すぎて最早暗黒になっていそうな声音でそんな事を言う。
「フィオナ。深読みしないの」
制するように言う。
既に鎖―――というかリード数本と足枷をフィオナが購入済みなのは知っているけれど、ここでは言及しない。
「戦場には出るけど―――私はあなたと一緒にいるつもりよ。帰る場所も、あなたの隣。それで我慢しなさいな」
『……わかってるわよ』
私の制止の一言に、フィオナは口を尖らせていそうな台詞を吐く。
『作戦時間まであと三分。レールカタパルト、電圧上昇開始』
HALのアナウンスが割り込む。
残り時間はその通りで、僅か。
『……シオン』
「何かしら」
『必ず、帰ってきて。何度でも、そこから帰ってきて』
私が彼女の隣に居続ける未来を望むように。
彼女と一緒にいる日々がいつまでも続く事を願うように。
そして―――私が聞きたかった、されど無関心で空虚な私の心を満たすにはどこか足りない願いと好意だ。
そんな願いに、私は応える。
「もちろん。―――この先、何度でもね」




