プロローグ ~自分の居場所について~
私の居場所はどこだろう、と考えていた。
私の心を満たすものはなんだろう、と考えていた。
私がこの国―――《ポロト皇国》で目覚めてから七カ月ものの間、隣人や友人。
恋人と共に日々を過ごした。
食事を共にして、仕事―――と言ってもアルバイトの様なものだけど日銭を稼いで。
買い物に出かけたり、近所の催し物を見て、友人達を会話に花を咲かして。
彼女らの表情を思い返せば―――それは確かに、喜色に染まった表情で暗いものなど無いように見えるしそれを指摘されたなら私は「そうね」と頷ける。
―――けれど。
そんな彼女らと共にいるはずの私だけは、自分の心を満たせないような空虚さだけがじりじりと続く感覚を覚えてる。
私の居るべき所はここではないような。
別の場所にいるべきのような。
私はこの生活を続けるべきではないような。
余程の事が無ければ死ぬことがない安全な暮らしを続けてはいけないような。
そういう釈然としない、心を蝕むような感覚を引き摺っている。
私は本当に―――彼女らが知っていて、私に語っているような人物だったの?
その人の記憶を追体験させた、記憶喪失の良く似た誰かではないの?
本当に―――私は、貴女達の友人なの?
彼女が選んだ―――伴侶なの?
―――そう問い掛けたくなっても、今の彼女達の平穏で幸せそうな日々を壊すのはいけないと思って、口に出来ないでいる。
彼女達の―――私を含めた今の生活は間違いなく多くの人から見ても、普遍的にいる人間らしい幸せなものなのだから。
それを今、壊してはいけないでしょうと、口に出さないようにしていた。
―――けど、その必要はもう無くなった。
私が居るべき場所はここにあった。
わざわざ向こうから私を呼んでくれたのだから―――わかった。
私の空虚な心を満たすものはそこにあった。
その時の感触と向けられる感情は―――確かに私の心を満たしたのだから。
―――もう、私が何者なのかを考える必要はない。
私は―――そういう存在なのだから。
「そうね―――。ここは、この場所が―――私の居るべき場所ね」
その景色を見て―――鼻腔をくすぐる匂いを嗅ぎながら私は誰にでも言うのではなく口にした。
その再確認の呟きは―――誰にも聞こえないのだから。




