表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第二章]それを止めない
21/439

過去、今、後悔


 基地へ帰投して。


 戦果の報告をして、滑空砲やらUAVコンテナパージして失ったジョイントパーツの始末書を書かされ、バレットさんやらゴーティエさんから耳にタコが出来そうなほど怒られ、開放された時にはもう夜へとなっていた。



 宿舎の屋上に出て、ノーシアフォールがある北西に向いてベンチへと座る。


 ここから見える南の夜空は、僕が知る星空ではない。まあ、異世界なので見たことのある星は一つもなくて当然なのだけれど。


 ギターを肩から下げて、ゆっくりと弾き出す。


 彼女と学園祭で歌った、あの曲だ。


 もしかしなくても、彼女は僕なんかに思い出の曲を弾いて欲しくはないだろうけど。

 または忘れたい曲か。


 どちらにせよ、彼女からは完全に嫌われただろうと思う。それは間違いない。



 死ぬ間際に好きでしたと言われて死なれるより、恨まれて死なれるほうが、まだ耐えられる。



 でも。



「これはこれで辛いなぁ……」


 恨まれて死なれるのも。知り合いを殺すのも。


「どっちがよかったのやら」


 助かる見込みのない人への介錯。


「恋い焦がれ、好意を告げられて死なれるのと。絶望し、呪怨と後悔を告げられて死なれるのと。どっちがいいと思う? アルペジオ殿下」


 後ろに立ったばかりのアルペジオに、そう問いかける。


「後ろ見ずによくわかったわね」


「何となく、貴女じゃないかと思ってね」


 大して驚いてなさそうな様子で、彼女は僕の隣、僕が向いている方角とは逆の方向―――つまりはノーシアフォールに背を向けて座った。


 アコースティックギターの奏でる音と、遠くで機械が動く音だけしか、僕の耳に入らなかった。


 一曲分―――まあ数分程度の時間がたって、アルペジオのほうから口を開いた。


「今日はお疲れ様、チハヤ」


「そちらこそ、殿下」


「全くよ……。エリザ宥めるの大変だったのよ? お酒の勢いもあって、始終怒り心頭で、信じられないあの野郎って何度連呼してたか……」


 まだ僕が知り合いを躊躇いなく射殺したのを引きずっていたらしい。遠目で見てたけど、僕が目の前にいたら切り伏せられてたんじゃないかと思ってる。


「あの年で酒飲んだのか。次は飲ませるなよ? 肝臓ダメになるから。それはご苦労様」


「ホントね。はあ、年下の面倒見るのは相変わらず疲れるわ」


 やれやれといった様子でアルペジオは言う。


「そう、変わらない年だろ。アルペジオとエリザは」


 アルペジオは確か今、十六歳で、エリザは十五のハズ。そう僕が言ったら、彼女は強調するように、


「先週十七になりました! ケーキ作ってくれたじゃない。もう忘れたの?」


「そう言えばそうでした」


 つまり今、僕と彼女は同い年か。アルペジオって幼児体質で、実年齢より幼く見えるんだよね。これ言うと怒られる。実際に言って怒られてるけど。


「まあ、年下の相手をするのが疲れるってのは同意だね。離れれば離れるほど精神面の差がつらい」


 ユキ姉ー、とか言われてあっちへこっちへ引っ張られる上にその遊びに付き合わされるのは、今思えばなかなかに苦である。あいつがあの性格だったのが唯一の救いだったかもしれない。


「孤児院の出身だったって言ってたわね。年が近い子居なかったの?」


「近くても五、六歳も下だ。趣味も合わなくて苦労の日々だったよ……」


 流石に高校一年で怒れて、とある魔法少女もの(劇場盤)見せて三十分で黙らせたのは我ながら傑作だった。シスターには怒られたけど。


「それは大変だったわね」


「全くだ」


 ここまで話して、話す話題が尽きたのかアルペジオは考えるかのように「あー、うーん……」とか呻きはじめる。


「さしずめ、知り合いを殺して気にしてるだろう僕に対してお節介でも焼きにきたとお見受けする」


「うっ……」


 図星だったようだ。


「そこまでメンタルは豆腐じゃないですよ」


「とおふ、って何?」


「とうふ、だ。大豆から作れる食べ物」


 小麦粉と大豆は偉大だと思う。小麦粉はパンになるしケーキになるし、パスタになるし、うどんになるし、揚げ物の衣になるし。大豆は豆乳から豆腐になるし、味噌醤油、きな粉におからにもなる。こうしてみるとすごいな小麦粉と大豆。

 そんな戯れ言はさておき。


「―――どんな人だったの? あの子」


 あの子、とはセタアイカさんのことだろう。僕が殺した、学校の後輩で、学園祭で一緒に歌い、好きだと告白した、歌手になる一歩手前まで夢を叶えた女の子。


「素敵な人だった。自分の夢にまっすぐで、いつも笑顔で。健気な人」


 初対面や、学園祭でバンドしましょうと誘ったことはよく覚えている。性別知った時の反応は楽しかった。


「チハヤ、その頃から自分の容姿わかってて色々やってるわね……」


「いやぁー。あの頃は諸事情であまりにも女性らしさが滲み出てたらしいからね。知った時の嘘だろ的な表情とか見るととても愉しい気分に」


 あの時は結構な人を騙してたかも、とは思ってる。楽しかったから反省はしないけど。


「歌手を夢見てただけに歌も上手でさ。知り合いの部活に軽音部ってのがあって、ボーカルがいなかったから紹介したのが最初の繋がりかな」


 その時に性別ばらされたのよね。


「僕もまあ、ピアノで助っ人に入って練習して。学園祭当日、ステージで盛り上がってさ。彼女が歌う姿を、たまたま学校に来てた芸能プロダクションのスカウトが見てたらしく―――」


「見事にスカウトが?」


「うん。でも、受けるか受けないか悩んだらしくて、悩んだ末にどうしたと思う?」


 ちょっと問いかけてみる。答えはもう既に言っているのだけれど。


「……貴方に告白した」


「正解。しかも、その答えをわかった上で、だ」


「……断ったのね」


「うん。放っておけない人が他に居たからね。―――彼女からすれば、気持ちの整理、だろうな。彼女自身、受けると決めてたんだ。でも、それを迷ってしまったぐらい、僕の事好きになったんだろうね。スカウトを受ければこれからの生活は忙しくなるし、僕と一緒にいれる時間もずっとずっと少なくなる―――または無くなるか。それならいっそ告白して断られた方が、気持ちが振り切れる」


「…………」


「断った後に、訊いたんだ。『この答え、わかってて告白したの?』。彼女は、はいと答えた。それで良かったの、とさ」



 あの日の事は、よく覚えている。


 好きな人に告白して、断られて。それでもどうしてか嬉しそうに笑顔でいれた理由をその場で訊けて。


『貴女ほど素敵な人なら、自分と釣り合う人を見つけるのが大変でしょうね』


『先輩ほど人を選ぶ人は居ませんよ。でも、先輩の彼女になれた人はきっと幸せ者だと言えますよ。だって―――』



「全く、嫌な人生かな。好きだと言ってくれた知り合いを殺さなきゃならないなんて」


 思い出すのを止め、吐き捨てるように口に出す。


「彼女がこっちに回収されていれば―――いや、僕があっちに回収されていれば良かったか」


 言ったところで、もうどうしようもない。


「推測でしかないけど、あいつは僕がこの世界に来るのを待ってたんじゃないかと思ってる。リンクスに乗って、僕がコーアズィで現れるのを待ってたんじゃないかって」


 どうして彼女がリンクスに乗っていたのか、その理由を僕はそう推測した。


 自分がこうしてこの世界に来たのなら、もしかしたらあの人も、と。

 彼女の性格ならやるだろう。その結果が、あれだ。


「……不幸な事ね」


「そうだね。もう、過ぎたことだ。でも、もしそれが、相手が彼女だとわかっていたら殺したくなかったな。戦いたくなかったか。今まで何があったか、話したかった」


 言うだけ言った、そんな気分だ。


 また適当な曲を弾きだす。余程、自分自身の気持ちがナイーブなんだろう、悲しい曲だった。


「……私ね―――」


 弾き始めてすぐに、アルペジオがポツリと声を漏らす。


「貴方が知り合いを殺したって分かったとき、エリザと同じ気持ちだったの。でも貴方がどんな人か、それなりに知っているから、強く言えない」


「恋い焦がれた人を躊躇いなく殺せる人だぞ、と」


「それはわかってる。生き死にに関しては私は憤慨よりも、恐い、と思うわ」


 恐い?


「うん、私は貴方が恐い。誰でも躊躇いなく殺せる貴方が、恐い。―――――でも、貴方はいい人なのよ。だって――――」


 だって?


「誰よりも人の死に向き合えて、それを受け止めている。料理やお菓子を振る舞って、美味しいとか言われてる時の貴方は何よりも嬉しそう。だから私は貴方にどうこう言う気はさらさらないの」


「そんなに嬉しそうなのか。まあそうだろうな」


「そうよ? これで人を殺すのに容赦ないのがおかしいと言えるぐらい」


 一拍おいて、彼女は言う。


「貴方はこれからどうしていくの? 何を、していくのか。私は気になる」


 いつか、聞かれた事だなと思う。その時の答えと、今出せる答えは、


「とりあえず、ここで生きていく。何が起きようが関係ない。やりたい事は、これから見つかるだろうからそれからでいい」


 少し変わったかな。ちょっと前向きか。

 

「今日はこれぐらいにしてくれ。それにもうちょっと一人でいたい」


 昔話ほど、気分の悪くなる話はないし。


「そう。それじゃ」


 アルペジオはそう言ってベンチから立って、


「お休み、チハヤ」


「お休みなさい、殿下」


 彼女が扉に消えるのを見送って、僕は視線をノーシアフォールへと向ける。


「『だって―――貴方は誰よりも家族思いで、友人隣人に優しい人なのだから』、か」


 先程思い出すのを止めた、その先を呟く。

 あの頃は間違いなくそうだろう。僕の事情以外は普通な生活だった、あの頃は。


「今はどうなのかな。家族はいないも同然、友人隣人ですら殺せてしまう僕は。殺しに来た相手を殺すことしか出来ない僕は」


 この問いには誰にも答えてくれないだろう。


「割り切りたいのに、割り切れないな。こればかりは」


 それをし続けるのは止めないだろうけど。


 一曲弾き終わって、僕はベンチから立ち上がる。


 明日もあるし、何時までもへこんで居られない。


「部屋に戻って寝よう。この後悔はこれで充分だ」


 一眠りすれば気分も少し楽になるだろう。


 そう思って僕は自分の部屋へと歩き出した。

 






ここまで読んでいただきありがとうございます。


第二章終了です。



まじかー的な事を実行する主人公と、不明な点の多い主役機、いかがでしょうか?


こいつの過去も本編で書けたらなぁ、と思います。


《プライング》は本編で判明させる気でいますが。


しばらくは本編書きつつ番外編ちまちま更新することになります。



あ、この言葉信用してはいけませんよ?

私は騙して悪いが、が畑の人ですので。



しばらくは三章の書き溜め&番外編執筆に入るので更新減ります。



それではまたー。



感想お待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ